韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長 金泳徳氏インタビュー(前篇)

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー

韓国コンテンツ振興院(KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA)
金泳徳所長

韓国コンテンツ振興院(KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA)
韓国コンテンツ産業の振興のために2009年5月に設立された政府系の総括振興機関。コンテンツ創作・企画の段階から、製作、流通、制作インフラや人材育成などまで多岐に渡り振興事業等を行っている。
対象とするセクターは、放送、ゲーム、音楽、アニメ・キャラクタ・漫画、ファッション、デジタルコンテンツ、Culture&Content Technologyなどエンタテインメント系コンテンツが中心。韓国コンテンツ振興院の母体となったのは、韓国文化コンテンツ振興院、韓国放送映像産業振興院、韓国ゲーム産業振興院、韓国ソフトウェア振興院デジタルコンテンツ事業団などの組織でそれぞれが個別に産業振興を行ってきたが、デジタルコンバージェンス時代を迎えて効率よく機能的にコンテンツ産業を振興するために、文化産業振興基本法第31条に基づき韓国コンテンツ振興院に統合された。
http://www.kocca.kr/
http://www.kocca.kr/jpn/index.html

履歴

現職

韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長(2010.7~)、現社団法人韓日未来フォーラム理事、現東アジア日本学会理事、現日本歴史文化学会理事

―20010.7~現在 韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長
―2009.5~2010.6 韓国コンテンツ振興院 首席研究員
―2000~2009.4 韓国放送映像産業振興院 研究員
―1993~1995 上智大学 文学研究科 新聞学専攻 修士学位取得
―1995~2000  上智大学 文学研究科 新聞学専攻 博士課程修了
―日本における韓流や韓国における日流、ドラマ制作システムや産業などを主な研究テーマに研究報告書多数あり。

好きなドラマ

日本のドラマ「東京ラブストーリー」「ロングバケーション」「王様のレストラン」「花より男子」「白い巨塔」等
韓国のドラマ「シークレットガーデン」、「アイリス」、「花より男子」

好きな歌

「乾杯」(長淵剛)、「愛は勝つ」(KAN)「プライド」(今井美樹)「雪の花」 中島美嘉 「15の夜」尾崎豊

好きな映画

「踊る大捜査線」『おくりびと』「ブラザーフッド」
趣味:卓球、バスケットボール ビリヤード、読書、映画・テレビ番組鑑賞等

INTERVIEW

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー韓国コンテンツ振興院(KOCCA)日本事務所の業務についてお聞かせ下さい。

韓国コンテンツ振興院は、放送映像、K-POP、アニメーション、キャラクター、漫画、ゲーム、3D、CGなどのデジタルコンテンツ、電子出版、ファッションなどにおいて、コンテンツの普及とビジネスの活性化について様々なサポートをしています。
その中でKOCCA日本事務所は多方面で主に韓国と日本のコンテンツ関連企業やクリエーターなどのかけ橋的な仕事をしております。コンテンツビジネスをやろうとしている方同士をマッチングしたり、日本進出を考えている方にコンサルティングしたり、いろんな関連情報を提供したりという後方支援を行っています。そのため、日ごろの日本のコンテンツ産業への理解を深めるための研究活動やコンテンツ業界に携わっている方とのネットワーキングなどはとても大事な仕事だと思っております。
特に韓国コンテンツ企業の日本進出においてビジネスマッチングやコンサルティングは近年ニーズの高い業務の1つとなっています。ビジネスマッチングやコンサルティングにおいては、韓国コンテンツ企業が日本市場のシステムだけではなく文化的なところまで試行錯誤を最小限にしながらソフトランディングできるように心がけております。
具体的な事業といえば、まず映像産業振興機構(VIPO)から多大な協力をいただいてコンテンツ関連の日韓コンテンツビジネスフォーラムを開いておりますが、日韓のコンテンツ関係者同士がお互いの市場や技術についての理解を深める場でもあり、とてもよいネットワーキングの機会だと思っております。 また、韓国コンテンツのプロモーション活動として、日本で開かれる東京国際アニメフェア(TAF)、デジタルコンテンツEXPO(DCEXPO)、TIFFCOMなどの見本市、展示会などに出展し、韓国コンテンツや関連技術などを紹介したり、今後の活躍が期待される韓国アーティストを日本に紹介するK-POPショーケースなども開催しております。
今後は地方やニューメディアビジネスで韓流コンテンツにたくさん触れていただく機会をつくっていきたいと思います。
韓国のコンテンツ産業で働いている方が直接日本に来て日本の産業システムや先進技術を学ぶ研修も行っております。それによって日本市場への理解とともに韓国のコンテンツの制作力アップにも大きく繋がっていると思います。 また、日韓が手を結び、それぞれのよさを活かして世界最大のアメリカ市場に進出できればと思っております。そのためのグローバル企画も試ています。日韓お互いの力を合わせれば、アメリカなどでも通用するもっといいものが作れるはずです。

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー

※数値は2011年3月4日付けの最終統計となります。四捨五入により合計額が若干異なる場合がございます

KOCCA日本事務所の活動について2010年度の活動において例年と特に違うと感じた点はありますか?

昨年はK-POPブームとデジタルコンテンツに力を入れたといえましょう。
まず、2010年10月にK-POPのショーケースライブ「K-POP Night in Japan 2010」(文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院が共同主催)を5,000人規模で無料で開催したんですが、熱い反響と賛辞を頂きました。東京の真ん中で大勢の日本の音楽関係者の前で、K-POPのパワーを披露した意味は非常に大きいと思います。
韓国で大ブレークした3D映画「アバター」は、政府のコンテンツ振興政策にも大きな影響を及ぼしました。それをきっかけに3D産業にいろんな梃入れ策が行われる中、日本ではデジタルコンテンツのプロモーションと3D専門家研修にウェイトをおきました。
デジタルコンテンツにおいては、DCEXPO、TBSDigiCon6などのイベントで韓国の3D、CG、ARベースのデジタルコンテンツやテクノロジーを積極的に紹介いたしました。韓国製の優秀なデジタルコンテンツ等をうまく印象付けたのではないかなと思っております。
また、韓国の3D専門家を対象にした研修も初めて行われましたが、いままで疑問として思っていたことが日本での研修を通じて一気に解けたという反応が結構ありました。このような研修により学んだことで韓国の3D制作の競争力アップに貢献したと思っております。
デジタルコンテンツ等の新しい分野では日韓同士が協力し合いそこでいろんなビジネスが生まれればいいな、と思っております。

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー韓国のコンテンツ企業や関係者らが研修の際に日本において興味深い、感心するのはどういった点でしょうか?

まず、日本のビジネスシステムに驚きますね。特にマルチ展開ができる2次ビジネスの多様さ、メディア横断的なメディアミックスなど、様々なバリューチェイン(value-chain)がしっかり確立されている点はうらやましいというか、とても魅力的ですね。長いスパンで事業戦略というのが大きく求められる市場だと思います。
二つ目は、著作権保護が文化としてきちんと整っていることですね。みんなお金を払って著作物を利用するんだ、という認識が習慣として定着しています。つまり海賊版ではなく正規品市場として、権利別にセグメンテーションされて機能しているのはとても素晴らしいことだと思います。
三つ目は、ディテールに強いことですね。繊細な表現、詳細で豊富な説明力、細かな気配りなどがコンテンツの企画・制作・中身・流通など隅々まで行き通っていて結果的にハイエンドな作品を作り上げている大きな要素になっていると思います。
昨年の3D研修でも研修者から3D制作はほぼ同レベルですが、やはりディテールでは日本の方がいいものを持っているとの声が多かったですね。
あとは、文化論に近いんですけど、時間がきちんと守られている、言い換えれば、システムが機能しているというか、物事がある程度予測可能な形になっているということですね。制作現場やビジネスシーンでも時間を統制することによって可能な限り日程管理をされていますし、それにより信頼を高めることにつながりますし、制作費のコントロールなどもできるのでとてもいいことだと思います。

日本での韓国文化コンテンツの浸透についてお聞かせ下さい。

まず、韓流の起源やプロセスなどに対してはいろんなアプローチがありますが、やはり直接的な引き金は間違いなく2003年の「冬のソナタ」(ぺ・ヨンジュン主演)でしょうね。それ以降も韓流ドラマの人気が続き韓流ブームになったし、それが東方神紀の人気も大きく手伝って今のK-POPフィーバーへと形を変えて広がったといえると思います。
韓流ブームにおいてドラマは放送メディアの力が大きかったんですが、K-POPはネットメディアが大きく関わっていることが特徴ですね。放送メディアはどうしても言語の障害とか時差が発生するんですが、音楽は短いし、言葉の壁もほとんど要らないし、ネットで簡単にアクセスできるということで、ドラマに比べタイムラグなく、ほぼリアルタイムで楽しめる身近で伝えやすくて親しみやすいコンテンツなんですね。やはりそのような特性を持っているK-POPが時間と空間の制約のないネット世界で大量に流通され、日本の皆様がその魅力に触れられ日本で広がったのではないかな、と思っております。ネットでは日韓同士が予想以上に結ばれているかな、という感じはします。それがネット時代に生きる人々の文化交流のあり方を物語っているかもしれませんね。

韓国文化コンテンツの日本での安定供給にはどういった要因が大きいと思いますか?

その過程において一番の大きな役割を果たしているのは、韓国の作り手だと思いますね。コンテンツの作り手がとてもいい作品を作り続け、それを適切に日本の市場に供給し、それを視て日本のたくさんの方々が大きい感動を覚えたり、面白く楽しく視て頂いたりしたお陰で、こんな形にまで広がったと思っています。韓国のコンテンツを愛している方々には大変感謝申し上げます。
また、放送メディアやネットの役割も非常に大きいと思います。供給とニーズの真ん中に立って積極的に韓流ドラマなどを取り上げてくれた様々なメディアの存在は大きいです。「冬ソナ」や「チャングムの誓い」などではNHK、最近では「イケメンですね」、「僕の名前はキムサンスン」、「華麗なる遺産」などを放送したフジテレビ等……そこでいろんな方に視て頂いて、そこからもっと視たいという人は有料メディアに加入するんですね。
その意味では、有料チャンネル事業も大きく貢献していると思いますね。韓国コンテンツを定期的且つ大量に流してくれる流通チャンネルにも非常に助けられていると思います。そこにアクセスすれば、必ず韓流ドラマやK-POPなどがたくさん見られるわけですから、加入者ベースの専門チャンネルが韓流コンテンツの安定的な供給先になっていると思いますね。特に、K-POPは定期編成の放送番組という形だけでなくネットや携帯などのプラットフォームで安定的に日本の皆様に消費されています。
しかし、今の韓流ブームで日本の方によく誤解されるのが、韓国政府が支援したからとか政府の政策によるものだ、という点です。今の韓流ブームは国が音頭をとって引き起こしたことではなく、民間主導で日本に売り出し、日本の皆様にも受け入れて頂いて、日本の市場をブレイクスルーしたわけですね。国や振興院は、市場に直接関わるのはなく、折角のブームをより拡大、持続、強化できるよう振興財源や資源を投入し、あくまでも後方でサポートしているんですね。
これからも一瞬の流行りじゃなくていい作品を作り続けて、引き続き日本の方々にたくさん観て頂くことが一番大切だと思います。そのために韓国政府や韓国コンテンツ振興院はいろんな形で後方支援していきたいと思っています。

(取材・文 広報室 小林真名実)


金泳徳所長インタビュー(中篇)

※インタビューは2010年12月に実施