佐藤大氏と鵜之澤伸氏の対談

佐藤大氏と鵜之澤伸氏の対談

(株)バンダイナムコゲームス代表取締役副社長 鵜之澤伸氏 x 作家・脚本 佐藤大氏

大好評のうちに、1年間の放送を終えたテレビアニメ『交響詩篇エウレカセブン』。この『交響詩篇エウレカセブン』の誕生は、もともとはゲームの企画が発端。それがゲーム、アニメ、マンガ、小説、音楽、プラモデル、ファッション、グッズ、インターネットなどが同時に展開される「Project EUREKA」につながっていった。今回は「Project EUREKA」の中心人物である(株)バンダイナムコゲームスの鵜之澤伸代表取締役副社長と、ゲームとアニメのシリーズ構成を担当した佐藤大さんの対談をお送りする。

鵜之澤 伸 氏 プロフィール

(株)バンダイナムコゲームス代表取締役副社長。昭和56年4月(株)バンダイ入社。平成4年10月バンダイビジュアル(株)取締役。平成7年4月開発本部PIPPINプロジェクト部長。平成8年1月(株)バンダイ・デジタル・エンタテインメント取締役。平成10年1月(株)バンダイ デジタルエンジンプロジェクト部長。平成13年4月執行役員ビデオゲーム事業部ゼネラルマネージャー。平成14年6月取締役ビデオゲーム事業部ゼネラルマネージャー。平成 16年6月常務取締役 ビデオゲームカンパニー プレジデント。平成18年4月より現職

佐藤 大 氏 プロフィール

作家・脚本。19歳の頃、秋元康氏主宰の《ソールドアウト》と契約し、主に放送構成・作詞の分野でキャリアをスタートさせる。その後ゲーム業界へと興味が変化し、23歳の頃、『ボケットモンスター』を世に送り込んだゲームデザイナー・田尻智氏との出会いをきっかけに《ゲームフリーク》に移籍。翌年フリーとなり文筆業を継続する。同時期にクラブ文化の延長からテクノ&クラブミュージックへ傾倒し、渡辺健吾氏と共にテクノレーベル《フロッグマンレコーズ》を設立。後に、現在の活動母体である企画会社《フロッグネーション》へと発展させる。脚本代表作として、テレビアニメーション『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、『ウルフズレイン』、『絢爛舞踏会 ザ・マーズ・デイブレイク』、『サムライチャンプルー』、『エルゴプラクシー』、映画『CASHEERN』など。『交響詩篇エウレカセブン』では、アニメとゲームのシリーズ構成・脚本とコミックの原作を務めている。

アニメとゲームの関係を変えた『.hack』

佐藤大氏と鵜之澤伸氏の対談『エウレカ』は、最初はゲームの企画だったんですね。

鵜之澤 3年前に『.hack』というゲームシリーズをつくったんです。最初はゲームだけつくるつもりでしたが、つくっている途中にどうやって売ろうかを考えたんです。バンダイはオリジナル作品に弱いし、普通に売ってもダメだろうと思ってね。そのときプレイステーション2というハードの特性を考えて、ゲームにアニメをつけるのがいいんじゃないかという話になったんです。

佐藤 PS2対応のソフトでいちばん売れたのが『マトリクス』のDVDだと言われたぐらいですからね。

鵜之澤 結局、ゲームにOVAを4巻つけて、ゲーム発売の前にテレビシリーズを26回やって、その最終話がゲームにつながるようにしたんです。あと、テレビアニメやマンガ、ラジオ番組なども合わせたメディアミックスのプロジェクトを展開したんですけど、結構成功しましてね。日本だけでなく、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも好評で、今年の4月からは新シリーズもスタートしています(現在はPS2専用ソフト『.hack//G.U.』全3巻を中心に「Project .hack」の新シリーズが展開中)。

佐藤 でも、それとは違うものをやろうという話でしたね。

鵜之澤 バンダイと言えばガンダムだけど、ガンダムとは違うものがあってもいいんじゃないのとは思っていたんです。それで社内で「なんかやれ」って言ったら、オリジナルのロボットゲームの企画が出てきたんです。

佐藤大氏と鵜之澤伸氏の対談佐藤 だから、僕は最初、そのゲームのシナリオライターとして参加していたんです。だけど、河森正治さん(スタジオぬえ所属。日本のメカデザインの第一人者)とか、京田知己さん(『交響詩篇エウレカセブン』ではアニメの監督とゲームの監修を務めた)とか、稲垣浩文さん(株式会社バンダイナムコゲームス コンテンツ制作本部Bプロダクション チーフプロデューサー。当時はバンダイのビデオゲーム事業部で、「Project EUREKA」の出発点となるロボット・ゲームの企画を立ち上げた)たちと「なにか自分たちなりのものをつくりたいね」と話し合っていて、そこから「ロボットがサーフィンをする」というアイデアが出てきたんです。これならスポーツゲームとロボットゲームを足したようなヤツができるんじゃないかという話から、アニメとしても見たことのないものがつくれるという話になっていったんです。僕はなりゆきでアニメの方の物語づくりにも参加することになったんですけど、ゲームとアニメの制作が同時進行するスケジュールだから、すごく大変でした。

アニメとゲームは似ているようで、作り方が全然ちがう

鵜之澤 スケジュールで言えば、ゲームスタッフはアニメの絵を見ないうちはイメージが掴めなかったから、やきもきしていました。アニメの第一話のラッシュを見て、「えっ、こんなアニメだったのか」と驚いていた。あれで大幅にスケジュールを追加したもの(笑)。今までガンダムとか、十分に知っている世界でゲームをつくっていたけど、絵になっていない世界でゲームをつくるのも面白かったみたいですね。作業は大変でしたが(笑)。スケジュールの問題だけじゃなくて、アニメとゲームは似ているようで、作り方が全然ちがうからね。作業も工程もちがうし、アニメのクリエーターとゲームのクリエーターの発想や習慣もちがう。だけど、脚本家である大さんが両方に関わっていたので、うまくいったんじゃないかな。

アニメとゲームでは物語の時代設定もちがうんですね。

佐藤 ゲームは合計で三本つくったのですが(PS2専用ソフト二本とPSP専用ソフトが一本)、PS2一本目の『エウレカセブンTR1:NEW WAVE』は、アニメの10年ぐらい前の話にしています。PS2二本目の『エウレカセブン NEW VISION』では、ゲームの終わりがテレビの第一話につながってアニメと同時進行します。

鵜之澤 アニメの敵側のキャラクターがゲームの主人公や登場人物になっているのも面白いね。アニメとゲームを両方体験して、より『エウレカ』の世界が分かるようになっている。

佐藤 『エウレカセブンNEW VISION』は、『エウレカセブンTR1:NEW WAVE』よりもっとストーリーをつくりこむことができました。一本目は、とにかく世界観を教えることが必要で、「トラパーってなんだ」というところから入らなきゃいけなかった。ガンダムなら分かってるからいいんですけどね。ミノスキー粒子は説明しなくてもいい。そのへん、徳島雅彦さん(株式会社ベック開発本部開発室。PS2専用ソフト二本のチーフゲームデザイナー)とさんざん苦労しましたね。

映像表現を高めるだけではゲームは面白くならない

アニメとそれぞれのゲームの時代設定を変えたのは、どんな意味があるんですか。

佐藤 個人的にはネタバレしないという意味合いを強く感じています。アニメとゲームの中身が同じだったら、ゲームを最後までやれば、アニメの結末もなんとなく分かるみたいなことが起こりますから。そうなるとみる人は興ざめです。僕自身、ユーザーとしてそんな経験をいっぱいしてきましたから、自分がやる時はね。

鵜之澤 だけど、同時進行で別の時代設定ということは、前を書くしかないんじゃないのかな。後の時代を描くというのはやりにくいだろう。いくら大さんでも、混乱するんじゃないの。

佐藤 1本目のゲームなのに、後の話にしようかと言ったらみんなに反対されましたね(笑)。前の話にしても本当は1万年前を考えていたんだけど、みんなで話し合って直前にしたんです。

鵜之澤 今回ゲームをつくっていて実感したのは、これからハイビジョンが主流になってくると、ソフトをつくるのは大変だなってことだね。映像の情報量が多いから、今までは「どうせ見えないんだから」とごまかせていた部分があるけど、ぜんぶつくらなければならなくなる。

佐藤 だけど、ぜんぶつくると、いわゆる行間がなくなるんですよ。

鵜之澤 よくないよね。メリハリのない世界になる。

佐藤  Xbox360の発表で目を引いたのは、実はさくらももこさんのソフトだったんです。似たようなCGが溢れてる中であれがポンと出ると、すごく印象に残る。あれはこれからの売り方を示していると思いますね。グラフィックにばかりCPUを使うのはどうかな。映像表現を高めることだけが、ゲームを面白くするとは思えないんです。だってテトリスなんて、今でも十分に面白い。ゲームの本質と映像を体感することは違うような気はしますね。

鵜之澤  ファミコンが生まれて、つまり家庭用ゲーム機が生まれて、まだ25年しかたっていない。ゲームはそれぐらいの歴史しかないんだよね。そういう意味では、これからの世代がどんな作品をつくるか注目しているし、大さんみたいなクリエーターをもっともっと育てていきたいね。もう年齢的に僕ができることは、スタッフに自由につくってもらって、自分が責任を取ることぐらい。だから、若い人には思いきってやってほしいね。

鵜之澤さん、佐藤さんも登場する『メディア業界ナビ アニメ・ゲーム76の仕事』は、理論社から5月22日に発売されます。


取材:映画専門大学院大学
取材協力:『映画・アニメ・CMの全仕事』編集部

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