光州情報・文化産業振興院 院長 李相吉氏インタビュー
光州情報・文化産業振興院(Gwangju Information and Culture Industry Promotion agency:GITCT)李相吉院長(Sang-Gil LEE President&CEO)
光州情報・文化産業振興院:IT産業を基盤とした文化産業のインフラ整備、情報通信産業の発展と特化、人材育成をミッションに掲げ、関連する光州地域の独自のプロジェクト、アジアのネットワーク構築、マーケティング、ファンドの形成などを実施している。
INTERVIEW
光州ならではの文化的取り組みについて教えて下さい。
文化芸術では、ありすぎるくらいあります。マルチコンテンツが一同に会す「ACE FAIR」、当機構の担当ではないですが世界的な美術の祭典である「光州ビエンナーレ」が開催され、未来に向けた文化クリエイティブ都市としての礎を築いています。
「ACE FAIR」も「光州ビエンナーレ」も年々の認知度は高まっていますし、海外からの訪問者も増えています。
光州のまわりの都市を含めて湖南地域といいますが歴史的に 湖南文学という韓国を代表する文学の発信地であったり、数多くの学者、文人、芸術家を輩出し、アーティストが一番多く輩出されているともいわれています。文化芸術の分野で、一番韓国的なところを体現している地域で、伝統的なものを守りつつ、新しいものを生み出す拠点です。
詩、書、画を愛する「韓国の芸術の故郷」として広く知られる光州を、文化での生産都市として発展させるために、私たちもサポートしています。
光州を国際文化都市として活性化させる施策、取り組みとは?
韓国政府が推進する「文化中心都市造成事業」は、海外市場を開拓する際の大きな吸引力になると思います。プロジェクトの中心となる、アジア文化殿堂や、CGIセンターも近々完成し、形になったところで、GITCTも含め、少しずつ準備を進めてきたプロジェクトが本格的に指導する弾みとなるはずです。
2004年から開始され、2010年は、政府からプロジェクトの詳細をリリースするところにあり、建物ができるので、コンテンツを開発していこうというところです。釜山市は「釜山国際映画祭」でも有名なように映像文化中心都市、慶州は慶尚道の伝統文化都市、全州は全羅道の伝統文化都市、大邱はファッション デザイン都市、光州はアジア文化中心都市に指定されています。
プロジェクトの中心としてフランスのポンピドゥーセンターの1.5倍ある「アジア文化殿堂」という映像、他コンテンツを開発促進する施設を作ります。光州内でのコンテンツ、コンテンツ企業だけでは、充実を図るのが難しい部分もあるので、韓国内、アジア、欧米等のものも入れて充実させます。アジア文化中心都市という称号にふさわしいグローバルなエリア化するためです。光州を拠点とするクリエーターやプロデューサーに国際競争の中で切磋琢磨していただく上で、私たちは光州のクリエーター、プロデューサーたちが、円滑に制作に取り組め、国際共同製作に参加できるように支援することをミッションの1つとしています。
国際共同製作についての具体的な施策はありますか?
国際共同製作のパートナー地域を作り、良好な関係を構築していくことも重要だと考えています。光州はいってみれば地方都市ですが、だからこその強みやいい点もあります。世界中のどの国にも光州のような文化的側面をもつ都市が数えきれないあるはずです。光州にとって、文化コンテンツ面でお互いを育てていけるパートナーを、GITCTの事業の中でも積極的に見つけていこうとしています。
また、どの国にも起こりうることですが、日本なら東京、韓国ならソウル、大きな都市だけがさらに大きくなり、世界的知名度もあがっていくということがあります。しかし、国全体が発展していく上で一極集中を回避していくべきだと思います。地方を成長させるのは難しいのですが、文化で都市と都市でつながることを目標にマーケティングを重ね、光州をアジアの文化のハブとして成長させていければと考えています。
他に市場開拓の試みとして何かありますか?
日本でも市場開拓のためにJAPAN国際コンテンツフェスティバル(コ・フェスタ)を実施しているように、GITCTがサポートしているAsia Content&Entertainment Industry Fair(ACE FAIR)も市場開拓のための努力の1つで、2010年度で5回目です。本会にてGITCTもコンテンツショーケースにて注目クリエーターの作品を展示・紹介していますが、5回目のACE FAIRの手ごたえとしては、ローカルコンテンツのお披露目の場として定着しつつあること、海外からの出展・来場者も増えていることがあります。
また、海外バイヤーの認識の変化を感じます。始めた当初はまったくビジネスの場としての認識をしてもらえませんでしたが、どういう要素が足りないかを1年ごとに確認、分析し、不足点を強化してきました。
ただし、まだまだビジネスミーティング数が足りないので、「ACE FAIR」の会を重ね、参加者からの信頼、実績をあげ、商談数を増やしていきたいです。
パートナーイベントでもある、東京国際アニメフェアと比べると、まだまだですが、光州の文化発信力を強化すべく、努力している最中です。
GITCTの人材育成について
光州地域のクリエイティブ産業に従事する中小企業にて、希望する人材の方向性をヒアリングし、人材育成プログラムを作り、実施します。例えば、アニメーション、キャラクターを創作する人が必要ですといわれれば、それを育成するセミナーを3カ月から6カ月ぐらいの期間で、キャラクターデザイン、3D制作などのプログラムを企画し、実施しています。
李院長ご自身はコンテンツ業界に従事していらっしゃいましたか?
私はソウル近郊で生まれ、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)で働いていました。約7年間、アニメーションチームにて、文化産業の責任者を務めました。
KOCCAに入ったきっかけはコンテンツが好きというのもありましたが、産業としての魅力を感じたからです。その前は放送局MBC(株式会社文化放送)で働いていまして、韓国の放送プログラムに限界を感じつつありました。
どういうところに限界を感じましたか?
韓国の放送番組は見て、それでおしまいですが、海外、特にアメリカでは見てからお金になるという、放送外の収益を意識したコンテンツのウインドウ戦略が整備されていました。
当時はコンテンツという言葉はありませんでしたし、当時の放送関係者にもそういう考えはありませんでした。
それで、放送で付加価値を得るには何があるかと考え、私は”アニメーション”だと思ったのです。政府が文化を発展させる政策を発表し、2001年、コンテンツ産業育成の目的で韓国政府が韓国文化コンテンツ振興院を設立しました。そこで、私がコンテンツ関連の団体で働けば、放送業界での経験や、ウィンドウ戦略についての知識などを活かし、韓国アニメーションに何か付加価値を付けられるのではないかと思いました。80年代、90年代のソフトウェア、情報通信産業の発達でインフラ整備がされてきていましたので、21世紀は文化産業が台頭していくとも考えていました。
経済危機が起こった数年後の2000年前後で韓国の経済をよくしたいという強い思いもありました。
他のアジア各国に比べ、韓国の強みは何だと思いますか?
日本や中国というのは経済大国で豊かな国です。韓国は経済的には日本と中国に及びませんが、自信をもっていえるのは韓国には「人」という一番重要な力があります。2003年度には韓国の次世代成長産業10選として文化コンテンツ産業も選定され、当時の大統領もKOCCAを訪問し、文化コンテンツ産業の重要性を述べていたり、現在も政府から政策支援をするというのもありますが、国民が国に愛情をもって働いており、国の経済を盛り立てるためにすべきことをしなければならないという意識、危機感が、文化コンテンツ産業が成長した大きな要因の1つではないかと思います。
日本のコンテンツ市場・企業についての印象について教えて下さい。
韓国と日本の市場は大きさは格段に違いますが、共同での製作、文化的背景を考えればプロジェクトはしやすいと思っています。ただ、こちらからラブコールしてもなかなか日本の企業は応じてくれないところがあります。日本はすでに経済的に豊かで、自国だけでもやっていけるという考えだからかもしれません。一方中国からは韓国のコンテンツ企業とぜひ一緒に働きましょう、というところが多いです。中国企業は貪欲な感じがします。
今後の目標とは?
日本でアニメーションが発生したときの勢いが、今の韓国のアニメーションにあると思います。この勢いが継続するよう、光州での事業支援、人材育成支援をより充実させていきたいです。文化中心都市造成事業やACE FAIRなどの事業に地域、延いては国の未来が懸っているという認識で、GITCT、関係者一同頑張っていきたいと思います。
日本の文化コンテンツ団体との親交もACE FAIR、文化中心都市造成事業などにもより、活性化していくことを期待します。
文化産業というのは、お金になりにくい側面も多々あり、文化産業を育てていくのにも長い時間がかかります。文化産業に従事したいという人はいっぱいいて、それぞれがやりがい、好きだから頑張れるという情熱をもって取り組んでいるのではないでしょうか。今の光州、韓国にはそういった人がたくさんいて、文化産業を育てる原動力になっているのではないかと思います。
光州情報・文化産業振興院(Gwangju Information and Culture Industry Promotion agency:GITCT)
(取材・文 広報室 小林真名実)