VIPO

インタビュー

2024.12.25


脈々と「作品を作り続ける」東映がマルチユースというビジネスモデルにたどり着いた背景とこれからのビジョン

>>〈前編〉経営者講演

>>〈後編〉吉村社長に聞く!(受講者からの質問コーナー

 

2033年に向けて、中長期ビジョンを発表した東映グループ。このビジョンでは世界を魅了する「ものがたり」を日本から世界へ届けるための海外展開施策や未来へ持続的に続く成長のためのチャレンジを掲げています。新しいことに常にチャレンジしてきた東映のビジネスモデルと未来へ向けた経営施策を東映株式会社代表取締役社長 吉村文雄氏に語っていただきました。
(本記事は2024年8月30日にVIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」にて行われた経営者講演をまとめたものです)

 

〈前編〉経営者講演

「ものがたり」を作り続けるということ

「千夜一夜物語」-入社式での社長あいさつから-
 
みなさん、「アラビアンナイト 千夜一夜物語」はご存じだと思いますが、この物語は、古代ペルシャの王様が王妃の裏切りを知ったことで女性不信に陥り、それ以来毎晩町から女性を呼んでは首をはねて殺していたというエピソードから始まります。この蛮行を止めるために立ち上がったのが大臣の娘のシェラザードでした。彼女もまた王様と夜を過ごすのですが、そのとき、ある物語を聞かせたんです。彼女は話が巧みでおもしろく、物語が佳境に入ったとき「続きはまた明日ね」と話をやめてしまった。王様は続きが聞きたくてたまらないので、シェラザードを殺さず翌日も呼んだ。翌日もまた、物語の面白いところで「続きは明日」と言われてしまう。そんなことを毎日繰り返しているうちに千日が経ち、王様の心にはシェラザードに対する情が芽生え、二人は幸せに暮らしたというのです。
 
私は今年の入社式でこの「千夜一夜物語」の話をしました。
「ものがたり」にはとてつもない力があるということを、新入社員のみなさんに伝えたかったのです。「千夜一夜物語」が生まれたのは3世紀ですが、21世紀となった今にいたるまで、時代や世の中の仕組みが変わっても、人々は面白い物語、エンターテインメントを求め続けてきました。そして、そのことはこれからも変わらないと思います。
 
東映はこれまで膨大な「ものがたり」、作品を作ってきた歴史があります。テレビドラマを含めると今もかなりの数の作品を作っています。私たちの存在意義は「ものがたりを作り続ける会社である」ことだと思っています。そのうえで、具体的にどのようなビジネスモデルを有しているのか、どのようなビジョンをもって進んでいくのかについて、お話していきたいと思います。
 

吉村社長と東映との出会いから時代の先を行くビジネス基盤を築くまで

映像が身近にあった幼少時代と東映入社
 
私は、鹿児島で生まれ、映画好きの母とローカルテレビ局に勤める父のもとで育ちました。
母が買いそろえた映画雑誌「スクリーン」が家に山積みにされていた影響もあり、同年代の子どもよりは映画好きだったと思います。幼少期は『東映まんがまつり』、中学生になると『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』など、東映作品も数多く観ていました。他にも、角川映画で松田優作さんが主演した『人間の証明』や『蘇える金狼』は今でもマイフェバリットムービーです。この作品は当時東映セントラルフィルムが制作を担当していたので、冠は角川映画ですが、中身は東映調の作品になっていました。
 
そして京都の大学へ進学後、ドキュメンタリー映像を作る仕事がしたいと思い、民放局への就職活動をしていましたが、叶わなかった。せめて同じ映像関係の仕事を、という思いで入社したのが東映でした。
 
「空中つかみ取り」精神のもとで培われた経験
 
入社後は関西の営業支社でイベント業務を長く担当していました。入社2年目だった1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」ではストリートパフォーマンスの企画に携わり、インド人の芸人さんの現地オーディションや日本滞在時の彼らのお世話、デイリーパレードの先導車のデザインと制作、パレード全体の運営など様々な仕事を担当し、会期中の半年間は朝から晩まで会場に詰めていました。大変でしたが、ここでいろいろな経験を積ませてもらったことが今役立っていますね。特に「これをしてはダメ」という制約がなかったので、「空中つかみ取り」すなわち「無から有を生み出せ」という当時の上司の教えを身を持って体現できたこと、やりたいように自由にやらせてもらったことはありがたく思っています。
 
はじめての映画プロデュース作品は渡瀬恒彦主演の『Nile ナイル』
 
30歳で本社へ異動し、事業推進部という部署で展覧会事業に携わりました。1996年「黄金伝説 エル・ドラ―ドの秘宝展」ではインカ帝国時代の宝飾品や土器をコロンビアから、1999年「悠久の大インカ展 哀しみの美少女フワニータ」では氷漬けの少女のミイラをペルーからそれぞれ持ってきて、日本全国を巡回する展覧会をしました。そんな中、東映がエジプト展を手掛けていた経緯もあり、エジプト政府からエジプトを舞台にした映画を作ってほしいとオファーが来まして、私が初めてプロデューサーとして携わった映画が『Nile ナイル』です。早稲田大学教授でエジプト学研究者の吉村作治先生が原作を手がけた渡瀬恒彦さん主演の映画で、低予算ながら現地ロケも敢行するなど試行錯誤しつつ作りましたが、大変な中でも何かを生み出すというイベント事業での経験が活かされたのではないかと思っています。
 


『Nile ナイル』(c)東映

 
 

新しいジャンル・新しいメディアを走り続ける東映の歴史

創立7年で赤字から黒字の会社へ
 
東映は1951年に東映映画配給、東横映画、太泉映画の3社が合併し、負債11億円を抱えて発足しています。当時の11億円は今でいうとざっと4,000億円弱ですが、初代社長の大川 博は、鉄道省の事務官や東急電鉄の経理部長を務めた経理・財務のプロだったため、その手腕を見込まれて赤字会社を立て直すために送り込まれたのです。
 
当時は、良い作品や面白い作品を作るためなら、いくらでもお金をかけていました。予算管理のシステムが無く、制作費に見合う興行収入を得られずに赤字が増えるというサイクルでした。そこで、大川社長は、どんなジャンルであっても1本あたり1,100万円(現在の3~4億円ほど)以内で制作するように指示を出しました。当初は現場からの反発もありましたが、継続していくうちに個々の作品できちんと収益を上げられるようになり、結果的に7年後に東映は黒字に転換。社員の給料も増えることとなり、反感を持っていた現場の社員たちからも「社長は素晴らしい」と言われるようになったという逸話も残っています。
 
昭和30年代、日本映画の全盛期を時代劇で支えた東映映画
 
1956年(昭和31年)度の邦画配収ベスト10のうち、5本が東映製作の映画で、うち3本は時代劇でした。時代劇が隆盛を誇っていた当時、東映では市川歌右衛門さん、片岡千恵蔵さん、大川橋蔵さん、中村錦之介(萬屋錦之助)さん、一時期は東映の専属女優だった美空ひばりさんなどの主演級の俳優に合わせて企画を立てる「スターシステム」による作品作りが行われていました。
 

『仁義なき戦い』(c)東映

時代劇の次は任侠路線が花開き、東映は第二の黄金期を迎えます。鶴田浩二さん、高倉健さん、藤純子さんといったスターが主演の作品群の中でも特に『昭和残侠伝』は全共闘世代とシンクロしたため、多くの学生からも人気を博した大ヒットとなりました。
 
そして次は実録路線にシフト。
代表作は『仁義なき戦い』です。任侠の世界をよりリアルに描くスタイルを作り出した作品群でした。
 
テレビ放送局を立ち上げ、ヒット作のシリーズを生み続ける
 
東映は早くからテレビドラマの制作も行っていました。
1959年、今のテレビ朝日にあたる「日本教育テレビ」、
略称「NET」という放送局を旺文社さんや日本経済新聞さんと一緒に立ち上げ、東映はここで放送するための時代劇シリーズを、東西の撮影所で数多く制作しました。
 
『柳生武芸帳』や栗塚 旭さんの『新選組血風録』、松平 健さんの『暴れん坊将軍』をはじめ、多くの長寿シリーズがあります。最近ではフジテレビで久しぶりに放送された『大奥』の新シリーズ『大奥2024』を、小芝風花さん主演で制作しました。他にもテレビ朝日の深夜枠では『君とゆきて咲く~新選組青春録~』を制作。新選組をテーマにしていますが、イケメン俳優を揃え、ブロマンスの要素も取り入れた新しいタイプの時代劇作品でした。これは、時代劇離れが進んでいると言われている今、若い人にも時代劇を見てもらいたいという趣旨で作られた作品です。
 
【特撮シリーズ】

『ナショナルキッド』(c)東映
東映の特撮シリーズは、現在「スーパー戦隊」と「仮面ライダー」が2枚看板となっていますが、これまでいろいろな「変身モノ」を手掛けてきました。1963年の『ナショナルキッド』は松下電器さんとのタイアップで作られた作品です。このビジネスモデルは今でも受け継がれていて、仮面ライダーもスーパー戦隊シリーズもバンダイさんでマーチャンダイジングしてもらうことをベースに展開しています。
 
【事件捜査モノ】

『あぶない刑事』(c)セントラル・アーツ
警察・刑事ドラマも東映の得意とするジャンルです。各局で長寿シリーズが多く、最近では『あぶない刑事』が今年久しぶりに劇場版を公開し、興行収入16.4億円のヒットになりました。最初の放送は1986年なので、40年近く続いている作品です。シリーズものは世代を超えて人を惹きつける力があるんだと再認識した作品です。同様に今でも続いている長寿シリーズ『相棒』はこの秋からシーズン23がスタート、『科捜研の女』はシーズン24を迎え、それぞれが四半世紀くらいの歴史を持つ作品です。
 
Vシネマとアニメーションの飛躍
 
【Vシネマ】

『湘南爆走族』(c)東映
1990年前後はレンタルビデオが大変普及していました。ゲオやTSUTAYAのようなチェーン店より個人レンタルビデオ店が多く、最盛期は日本全国で3万5千店以上ありました。そこで、レンタルビデオ店のみに提供する映画を製作しようと始まった企画が「Vシネマ」です。「Vシネマ」という呼称は東映のグループ会社、東映ビデオ株式会社が持っている登録商標なのですが、登録商標が一般名詞のように使われているいい例だと思っています。毎月2本の新作を作ってレンタルビデオ店に供給していましたが、1本1万円台で全国3万店以上に卸していたので、非常に多くの利益をあげることができました。制作費も当初は1本あたり1億円程度かけていたので、作品のレベルは高かったと思います。
 
江口洋介さん・織田裕二さんが出演した『湘南爆走族』や、世良公則さんの俳優デビュー作となった『クライムハンター』、のちに「Vシネマの帝王」と呼ばれる哀川 翔さんの初主演作『ネオチンピラ 鉄砲玉ぴゅー』などはすべて当時のVシネマです。Vシネマが得意とするアクションものの他にも、アニメやホラー、エロスなどのジャンルのものもオリジナルで作っていました。
 
清水 崇監督の『呪怨』は、東映ビデオの「Vシネマ」がオリジナルです。のちに清水監督の手でハリウッドで3本ほどリメイクされてJホラーブームの一翼を担いましたが、オリジナルが一番怖くて良い作品です。日本の作品が海外にうまく展開されたいい事例なので、東映はこのビジネスモデルを参考にしていきたいと思っています。
 
【アニメーション映画】

『白蛇伝』(c)東映
1956年に設立された東映動画は、当時大川社長がアメリカのディズニースタジオを視察した際に非常に感銘を受け、「日本にもアニメーション映画を作る独立スタジオを」という意向で作った会社です。そのため、「東洋のディズニー」というスローガンを掲げてスタートしました。
 
1958年公開『白蛇伝』は、日本初長編カラーの劇場版映画でした。1968年公開『太陽の王子 ホルスの大冒険』は監督・高畑 勲さん、原画担当・宮崎 駿さん、作画監督が『ルパン三世』などを手掛けた大塚康生さんという、今の日本アニメ界を創り上げてきた方々がスタッフとして加わっている作品です。それ以外にも松本零士先生の作品や永井 豪先生の作品、東映まんがまつりというブランドもあったので、テレビシリーズから映画までたくさんのアニメーションを作ってきました。
 
最近では2022年に興行収入200億円を超えた『ONE PIECE FILM RED』や、同年公開の『THE FIRST SLAM DUNK』とヒットが続いています。現在の東映グループ全体では、アニメーションが生み出す収益が経営基盤になっている部分があります。
 
膨大なライブラリ作品が支える東映のビジネスモデル
 
いろいろな作品を作り続けてきた東映のビジネスモデルの特長は、
 

1. 自ら作品を企画製作
2. マルチユース展開
3. 作品をフランチャイズ化して収益をさらに拡大する
4. 収益を再投資して、新たな作品を生み出す

 
この繰り返しです。
そしてこれを支えているのが劇場映画で4,400作品以上、テレビ映画では39,000話以上、配信映画600話以上の膨大なライブラリ作品となっています。
 

【映画】
劇場公開後に配信、テレビ放送、パッケージ化。
 
【アニメや特撮】
配信、放送、パッケージに加えてマーチャンダイズ、商品化、ゲーム化、イベント展開ができるので映像作品から発生する収益も含め、収益を最大化できることが最大の特長

 
東映グループの強みは、制作からポストプロダクションまでをワンストップで行う体制を持っていることです。現在でも東京の大泉と京都の太秦2か所の撮影所で作品を作り続けています。さらに大泉には「ツークン研究所」という部署があり、ここでは映像技術の研究を行っており、モーションキャプチャーの技術をいち早く映像制作に取り入れていました。
 
『THE FIRST SLAM DUNK』のなめらかに動く選手たちの動きは、この技術の一番の成果です。
また、最近開発に力を入れているデジタルヒューマン技術は、歌番組やテレビCMなどで数多く採用されています。それ以外にも顔の表情を取り込むフェイシャルキャプチャーをはじめ、いろいろな映像技術を研究し、制作に寄与する体制が整っています。アニメ制作においても大泉に東映アニメーションスタジオがあり、年間4クールの番組を途切れずに制作することのできる、国内最大のスタジオとなっています。
 
以上に挙げた盤石な制作基盤が東映の強みです。この基盤を使って作品を作り続け、マルチユース展開を行い収益の最大化を目指すことが東映のビジネスモデルです。
 

 
 

「ものがたり」にフォーカスした東映グループ 中長期VISION

スローガンと4つの骨子
 
東映グループの中長期ビジョンでは、「ものがたり」を作り続けることで世界と未来に貢献したい、というスローガンを掲げています。
 

To the World, To the Future
~「ものがたり」で世界と未来を彩る社会へ~

 
「世界と未来」と謳っていますが、面白い「ものがたり」であれば日本国内に限らず世界中で受け入れられると信じて海外展開を進めていきたい、というのがこのビジョンの骨子です。
具体的には、4つの重点施策を据えています。
 
【重点施策1】 映像事業収益の最大化
■戦略的映画編成ラインナップの策定
2~3年先を見据え、どのようなジャンルの作品をどの時期に公開するかというラインナップを組み、それに基づいて企画を募集・選定していきます。そのための専門部署「映画編成部」を作りました。
 
■マーケティングデータの活用
映画製作においては、プロデューサーの「勘」に基づいて物事を決めることが多かったので、そこに客観的な指標を加えて作品のヒット確度を高めるべく、マーケティングデータを活用する部署を立ち上げました。
 
■若手クリエイターの育成および囲い込み
若手クリエイターに小規模ながら映画作品を任せて経験を積んでもらう場を作ろうという「チャレンジプロジェクト」を発足させ、すでにいくつかの企画が進行中です。この取り組みを定常化させることで、将来の映画界を担う人材を育成するとともに、彼らの成長と共に永続的に東映で作品作りを行ってもらいたいと思っています。
 
■キャラクタービジネス戦略の強化
東映の主要事業であるキャラクタービジネスを強化するための専門部署を立ち上げました。
これまではそれぞれの部署が個別に事業を展開していたため、キャラクターIPをトータルプロデュースするという意識がありませんでした。今後海外展開を目指すにあたり、強固な戦略に基づいて施策を進める必要があり、キャラクタービジネス全体を俯瞰して統括する部署「キャラクター戦略部」を新設しました。
 
【重点施策2】 コンテンツのグローバル展開へのチャレンジ
■担当部門の強化と国際共同製作への取り組み
現行の海外ビジネスの担当部署である国際営業部を、既存の作品を海外に売るだけではなく、「海外で売れるものを作る」組織に変革したいと考えました。映画のプロデューサーを配して企画開発の段階から携わることを可能にし、作品への出資や共同製作の費用負担ができる機能を持たせました。
 
■キャラクターIPの海外展開強化
「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」シリーズなどキャラクターIPの海外展開を強化していきます。現在「ウルトラマン」が中国で大ヒット中ですが、「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」シリーズもそれと同等、いや、それ以上に展開していくためにはどうしたら良いかを組織的に考え始めています。
 
■東映作品の海外リメイク・ローカライズ
東映の持つ豊富な作品アーカイブには色々な可能性があると思っています。リメイクやローカライズに積極的に取り組むことで、国際共同製作につなげていきたいと思っています。
 
事例をいくつか挙げると、1970年代後半に東映が制作したロボットアニメ『超電磁マシーン ボルテスV』は、当時からフィリピンで人気が高い作品でした。フィリピン国民のほとんどが知っていると言われており、日本語で主題歌を歌える方も数多くいます。その「ボルテスV」が2023年にフィリピンで実写ドラマとしてリメイクされ、再ブームが起きています。今年の10月18日からは日本での凱旋上映を予定しています。
 
さらに、2014年に公開された安藤サクラさん主演の映画『百円の恋』を中国でリメイクした『ルーラーグンタン』が2024年の春節に公開されました。リメイク権を買った監督自らが主演のボクサー役を演じ、5年がかりで作品にした結果、日本円で740億円の興行収入を記録する大ヒットとなりました。これは中国でリメイクされた邦画作品としては歴代一位の興行成績とのことです。
 
【重点施策3】 映像事業強化のための人的投資の拡大
■海外展開に向けた人材育成
海外展開については多くのチャレンジを行っていることもあり、人材育成は急務だと思っています。今年、VIPOさんに協力していただいて東映向けにアレンジした「海外ピッチトレーニング」を行い、プロデューサー5名を参加させました。そのひとりである高橋直也プロデューサーがプチョン国際ファンタスティック映画祭に併設するマーケットでピッチを行い、自身の企画『BAIT』で台湾の独立行政法人TAICCAが提供する「TAICCA AWARD」を受賞しました。英語で企画書を作りプレゼンをすることに苦労していたようですが、成果を出せる人材が育ってきたことをうれしく思います。
 


「プチョン国際ファンタスティック映画祭」にてTAICCA AWARD受賞

 
■キャリア採用の積極化
今まであまり行ってこなかったキャリア採用にも積極的に取り組み始めました。これまでは社風も相まって中途採用をすることがあまりありませんでしたが、現在は年間を通じて経験値のある人材の採用活動を各部署で行っています。
 
■働きやすい環境の整備および制度拡充
東映においては特に映画宣伝部の労働環境が厳しかったため、改善の取り組みを始めましたが、その成果が出てきています。一時期は年間30本弱の映画を公開していたため、業務量も多く、人員が追いついていない状況でした。そこで、今の人員でどの程度の公開本数なら適正な労働時間内で業務を行えるのかを逆算したところ、年間12本~14本程度である、と。この基準に沿って、業務と人員の配置を進めた結果、残業時間を大幅に減少することができました。
 
撮影現場も日本映画制作適正化機構(以下 映適 )の基準に沿うようになりました。規定に従い撮影日数や時間に制限を付けて労働時間を短縮しています。スタッフからも仕事が終わる時間が見えるようになって良かったという声が上がっています。
 
今の映像業界の一番の問題点は、長時間労働・深夜労働・働きづらさが顕在化しているため、若い人材が集まりにくく、定着しづらいことだと思います。これらの点を改善して、若い世代が仕事を続けられる環境を作ることが私たちの責務だと思っています。
 
【重点施策4】 持続的なチャレンジと成長を支える経営基盤強化
■東映会館の再開発
竣工から64年経った東映会館を取り壊し、ホテルをメインテナントとした商業施設として再開発を行い、収益基盤の一つとします。これに伴い、来年、銀座にある本社を京橋に移転します。
 
東映太泰映画村のリニューアル
京都のインバウンド需要の取り込みを主な目的とした、「収益性を上げるためのリニューアル工事」です。「ナイトタイムエコノミー」にも対応するため、リニューアル後は夜間営業も行う予定です。「江戸」の雰囲気の中で飲食ができるエリアや、「日本らしさ」を売りにしたイベント施設を作り、海外のお客様にフォーカスした体験型の施設を目指します。
また、リニューアルの目玉として温浴泉施設を併設する計画です。東映が作る温浴施設なので、内装や外観には京都撮影所のスタッフの技術をふんだんに盛り込むつもりです。
2028年を目処に完全リニューアルを行い、ここから得る収益を新たな作品づくりの原資にする予定です。
 

海外に通用する「ものがたり=エンターテイメント」を作るために 2033年までに海外売上高比率50%を目指す
 
東映は大きな変革・チャレンジの時期を迎えています。社長に就任してから、課題がたくさんあることが分かりました。
 
国内市場は今後シュリンクしていくと想定されるため、海外でいかに収益を確保するかを考え、グループ全体での海外売上高比率を2033年には50%にすることを目標としています。
 
現時点では、東映アニメーション単体は60%以上が海外売上なので、目標を達成しています。それがグループ全体になると30%程度に下がります。この差は東映が単体ではまだ充分に海外展開を行えていないことの証明になっています。この先、東映が得意な実写映画やドラマをいかに海外に展開していけるかどうかが、「海外売上高比率50%」達成の鍵だと思っています。
 
東映は創業70年を超えた古い会社にはなりましたが、ベンチャー気質は失っていません。 突拍子もないことでもビジネスにできる環境や新しいものを受け入れる風土はまだまだあります。
 
1950年代、映画が衰退してテレビ放送が広がる風潮をいち早く読み取り、現在のテレビ朝日にあたる放送局を開局しました。さらにビデオレンタルが始まるかなり前からビデオパッケージ事業を展開、また2000年前後には、ビジネスとして成り立つか分からない状況の中で映像配信を始めたことも、東映の「新しいもの好き」な社風ゆえだと思っています。
 
メディアや時代の流れにいち早く、どん欲に飛びついてビジネスにしてきた歴史を東映のDNAとして受け継いでいきたいと思っています。
 

〈後編〉吉村社長に聞く!(受講者からの質問コーナー)

業界に関すること
 
市井  ここからは吉村社長への質問を事前に募っておりましたので、質問コーナーとさせていただきます。
 
Q1.日本のコンテンツ業界全体のために何が必要だと思いますか?
 
海外展開と受け入れ側の体制を整える
吉村  内閣官房が官民共同の戦略会議を作ることになったのが今年一番大きなトピックです。転換期に来たと思いました。コンテンツ産業が半導体や鉄鋼に次ぐ産業として評価されたということについては、感慨深いものがあります。この好機をうまく活かすことが必要だと思います。
 
エンターテインメントはコロナ禍のような非常時になると、必要不可欠なものではないと言われ真っ先に排除されます。昭和天皇崩御の時や、戦時中などもエンターテインメントを控える雰囲気でした。生きていくうえで優先順位が低いとされていたものを、国を支える産業として政府が位置付けたことに、時代の転換を感じます。
 
ただ、それを支える体制や制度などはまだ整っていません。是枝裕和監督を含め、いろいろな方が提言していますが、韓国・フランス・イギリスなどでは国が制度や予算を作り、文化を支えることにお金を投じています。
 
日本にも助成金はありますが、国が全体の方針を決めて文化に投資するというのは今までなかったことです。この議論が今後どう進むのか、非常に期待しています。国を支える産業として発展していくためにも、海外に「出て行く」ことと、海外から企画や人や資金を「引っ張ってくる」ことを同時に行わなければなりません。そのためには、受け入れ側の体制づくりも必要となります。
 
今、東映は京都府や京都市と共に「太秦メディアパーク構想」を推進し、京都を映像産業の受け皿にする取り組みを進めています。
 
例えば海外から撮影に来る方々に対して税制優遇を行い「映像特区」にするという案もあります。また、現在は海外ファンドへの投資を行おうとすると、金融商品取引法による制限が出てしまいますが、そういった制約を伴わない自由なコンテンツへの投資ができる制度を作っていかなければならないと思います。東映だけでなく各社が政府に対してさまざまな提言を行うべきと考えています。海外と同じような条件でモノづくりができる環境が必要だと思います。
 
市井  岸田総理が明確にコンテンツ官民連携評議会と映画戦略企画委員会を開催すると宣言しましたよね。コンテンツ業界がこの機会を生かしていくことが重要ですし、諸外国に負けない体制づくりや資金提供も大切だと、国に対して働きかけるべきだということですね。
 
会社に関すること
Q2.中長期ビジョンを発表して1年くらいだと思いますが、今の状況はいかがでしょうか?
 
吉村  海外展開はまだ具体的なところまでいっていません。
ビジネスユニットごとにそれぞれの業務の中でどのような海外展開ができるのかを考えてほしいとお題を出しているところですが、今までドメスティックな事業で回ってきたので、海外展開を視野に入れた発想にまで至らない部分があるんです。それを今、ことあるごとに「海外」と言い、何かしらのリアクションを出してもらいながらキャッチボールをしています。
 
この中長期ビジョンは、経営戦略的な発想で「10年後の海外売上比率を50%にする」ことを目標に掲げているのですが、発表当時は「現実的ではない」という声や「実情に合っていない目標だ」という声もありました。それでも1年経った今は、「海外海外」と言い続けてきたことが浸透してきて、従業員の思考に変化が表れてきていると思います。
 
Q3.「年間の製作本数を30本から半分の15本くらいに減らしたい」とおっしゃっていましたが、企画や製作をしている人たちからの反発は起きませんでしたか?
 
吉村  製作本数は絞りましたが、年間の国内興行収入のシェア目標は10%を掲げています。
年間の国内興行収入は市場全体で2,000億円を超えるくらいなので、だいたい200億円強を東映の年間興行収入の目標にしました。そこに対して年間最大14本の製作本数だとすると、全部の作品が14~15億円と2桁の興行収入がないと達成できない計算になります。これまでの東映の成績だと、ハードルは高く、実際厳しい目標です。
 
ここ2年、『ONE PIECE FILM RED』や『THE FIRST SLAM DUNK』などのアニメーション映画のメガヒットで興行収入は良かったのですが、去年だけを見ても実写映画の興行収入は軒並み予算割れをしています。メガヒットまではいかずとも、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』や『プリキュア』シリーズのまずまずのヒットがあって、アニメに支えられているのが現状です。それを考えると実写をメインに企画を組んで、十数本で年間興行収入200億円を達成することのハードルは高く、製作本数そのものよりも、興行収入に対するハードルの高さへの疑念が出ていたことは確かです。
 
ただ、必ず10億円以上稼げる企画でないと採用されないというわけではなく、考え方をフレキシブルにしてほしいと話しています。全ての作品で10数億円ずつ稼ぐのではなく、ある作品は30~40億円を狙い、それ以外は5~7億円でリクープできる作品を作るなど、強弱をつけて年間編成を考えてほしいとお願いしています。また、「この時期はこのジャンルの作品を公開する」という年間ラインナップを定め、ジャンルごとに企画を集中的に募り、ふるいにかけることで、企画の精度を上げようとしています。たとえば、毎年最低1本は京都で時代劇を製作し、年明け第一弾の映画としては今後必ず時代劇を公開するつもりです。来年1月には『室町無頼』を公開し、再来年以降も年明け第一弾の映画として、時代劇の企画が進行中です。こうした施策が観客のみなさんにも浸透し、「正月の東映は時代劇」と定着していくことも期待しています。
 


『室町無頼』2025年1月17日公開
(c)2025『室町無頼』製作委員会

 
年間30本以上配給していた時は、他社が企画製作した作品も数多く含まれていましたが、現在は、社内の企画をベースに数年先の作品編成を考えられるようになりました。また、企画承認の際に、東西どちらかの撮影所で制作することを条件にしているので、現場の活性化に繋がっていると考えています。
 
市井  一つのルールを作って、現場もそれを理解することでスムーズに製作が流れていくという感じでしょうか。

 
吉村  そうですね。そうありたいと思って進めています。
 
Q4.競合と比べて東映の強みをどのように分析されているか教えてください。課題と感じている点もあれば、合わせてお聞かせください。
 
吉村  ライブラリ作品が豊富にあり、早い段階からマルチユース展開をしてきたこと、そしてそれを支える製作基盤が整っていることが強みです。
 
弱みや課題は、社内の「横」のつながり、シナジーがなかったことです。昔から強固な「縦割り」スタイルの事業部制だったので、社内ですら部署が違えばライバルのような関係でした。そのため会社全体の利益よりも部署の利益を優先する風潮が強くありました。
 
それでは良くないですし、特にキャラクタービジネスを展開していくためには、俯瞰して全体の利益を優先する観点が必要です。それぞれが部署の利益を優先して抱え込み、あちこちでハレーションを起こして全体がスタックしてしまうことがよくありました。私が入社した頃からすると風通しは良くなってきていますが、本質的な部分で何かを変えようとすると必ず抵抗が起こるので、ここが改善すべき課題だと思っています。
 
市井  具体的にはどのように変えていこうとしていますか?
 
吉村  今は従業員への意識付けを行っています。
自部署の利益に固執する思考から抜けきれないところがあるので、個別の利益よりも全体の利益を優先するようにと常に言っています。
各部署の責任者の年代に染みついている縦割り意識を改革していく必要があると思っていますし、若い世代にはそういった考え方を引き継がないでほしい。今の私たちの世代が卒業していけばだいぶ変わるのではないかと思っています。
 
市井  部の利益より全社利益を優先することで評価されるような評価システムになっていますか?
 
吉村  人事評価制度は2年のトライアルを経て、昨年変更しました。
数年前までの東映の評価制度は、上司が一方的に評価するという仕組みでした。フィードバックもないですし、評価は上司の主観で決まっていました。それでは良くないということで、今回対話型の評価制度に改めました。評価の軸としては、結果よりプロセスを重視する形に変えました。どこまでプロセス重視にするかは課題ですが、社員からすると結果だけが問われるのではなく過程も評価してもらえることはプラスに働いていると思います。
 
定期的に面談をしてコミュニケーションを取り、上司の評価に対しても異議申し立てができるようになったので、下の世代には「話ができる場ができた」と好意的に捉えてもらえています。今は端境期なので、これから上司・部下ともにもっと意識が変わってくると思っています。
 
市井  次は技術投資を積極的に行っていることに関して質問です。
 
Q5.バーチャルプロダクションの現在の手応えを教えていただきたいです。
 
吉村  想定スケジュールよりは遅れていますが、徐々に成果が出てきています。東京撮影所の中にバーチャルプロダクション専用のスタジオを組み、専門の事業部を設けて管理運営を行っています。最近は新作映画の『推しの子』(https://oshinoko-lapj.com/)で使用しただけではなく、他社作品でも使っていただき、高い評価をいただいています。
 


映画『【推しの子】-The Final Act-』2024 年12月20日(金)公開
(c)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

 
撮影時間やコストの短縮が当初の目的のひとつでした。
また、セットの代替にもなるので、セットを建て込んで解体する費用や産業廃棄物の削減にもなり、環境保護にも繋がればと思っています。
 
バーチャルプロダクションを使うと、背景がリアルタイムでLEDウォールに出力されるので、俳優も演じやすいシステムとなっています。
 
『スターウォーズ』の『マンダロリアン』シリーズがこのシステムをフルに使っていたのですが、「うちでもやれないか」という声があがり、いち早く作って売りにしようと決めたのが導入のきっかけです。前例もなく、世界的に半導体が品薄の時期に発注をしたので設営するまでに時間がかかり、導入後も技術的な調整を続けていましたが、ようやく実稼働ができる体制にまで持ち込めています。
先日も映画監督協会所属監督の方々を招待し、デモを見ていただいたのですが、好評でした。
もう少し準備が整ったところで、外部向けに広くデモンストレーションを行い、営業をかけられるようになる予定です。
 

人材育成について
 
Q6.具体的な育成制度や計画はありますか?
 
吉村  プロデューサーの育成制度はありません。
「看板プロデューサーをどのように育てているか?」という質問もありましたが、当人の資質に依るところが大きいのではないかと思っています。
 
会社としてできることは、プロデューサーの層を厚くして、機会を与えること。彼らが成長する後押しももちろんしますし、他部署からプロデューサー職に抜擢する事例も増やしていきたいです。
 
これまでは、映画のプロデューサー職に就くと、そのまま変わらずにプロデューサー職を全うできるという慣例がありました。しかし、企画を提案しそれを具現化するという職務を果たし続けられない人材には、プロデューサー職から外れて違う仕事についてもらうことも考えています。社内の代謝を良くすることで、東映を背負って立つような新たな人材が育つことを期待したいです。
 
市井  若手育成のための小規模作品製作の試み(チャレンジプロジェクト)にとても関心があるという質問者もいますが、このプロジェクトの対象には若手プロデューサーも含まれていますか?
 
吉村  プロデューサーというよりも、監督、シナリオライター、役者など外部の方を育成することが狙いですね。たとえばどんなに才能のある監督でも、興収10億円規模を狙う作品をお任せするには、ある程度の実績が必要になるという現実があります。そこで才能のある若手にまずは小規模ながらでも作品を任せる場を提供して実績を積んでいただき、成長と共に弊社との関係性を密接に築いて、将来的には大きな作品でも組ませていただくというようなことを想定しています。
 
Q7.会社内での部下の育成やコミュニケーションについて伺いたいです。部下の信頼を得るため、あるいはチームワークをよくするために意識してきたことがあれば教えてください。
 
吉村  社長になってから部下の育成に関する質問をよくされるようになりましたが、これまで特に考えたことはありませんでした。自分は面倒見が良いタイプではないですし、「俺についてこい」と先頭に立ってグイグイ人を引っ張るタイプでもないのですが、何事に対してもバイアスをかけずにフラットに向き合うことを意識しています。そうは言っていても感情に流されることもありますが、自分に対して投げかけられたものはきちんと受け止めて、レスポンスを返すようにしています。
 
部下から何か言われたときに頭ごなしに否定したり、二つ返事で承認するのではなく、まずは当人の言葉で「何がしたいのか」を話させた上で、自分で考えて結論を導き出すように意識しています。私も現場にいましたから、自分が手を出したほうが早いと思うこともありますが、それは控えています。
 
東映には優秀なプレイングマネージャーが多いので、上長の立場となってもまだ現場で以前と同じような動き方をする人が多くいます。そうなると、部下としては任せてもらえる範囲が狭くなるので、なかなか成長しませんし、モチベーションも顕著に下がってしまう。上に立つようになったら、部下にある程度任せるようにと伝えています。
 
市井  優秀なプレイングマネージャーがマネジメントに特化するための研修などはしていますか?
 
吉村  レイヤーごとに管理職研修を定期的に行って、外部コンサルからアドバイスをもらっています。
 
弊社は「自分が何とかしなくては」と思う方が非常に多く、人に任せることが苦手で何事も抱え込んでしまう傾向があります。これは長年培われてきた東映の体質とも言えるものなので、外部の力も借りて意識改革に努めています。

 

 

マーケティングデータでの活用と海外展開への取り組み
 
Q8.マーケティングデータをどのような分野で活用されているか、具体的に教えてください。
 
吉村  企画の精度をあげるためにマーケティングデータを活用しています。
マーケティング室を立ち上げた当初は、「データだけで企画を判断されてしまう」とプロデューサー陣からの強い反発がありました。でもたとえば企画のターゲットに関して、プロデューサーが考える客層と、実際にその作品の需要がある客層がズレている場合も結構あるんです。そこで、原作がリーチしている層と想定しているキャスティングがターゲットにマッチしているかなどを客観的に判断する材料として、マーケティングデータを活用したりしていますね。
 
今は映画の企画で活用することが多いですが、今後はイベント事業など他の部署でもマーケティングデータを活用していきたいと思っています。
 
宣伝に関しては、松竹さんと共に株式会社フラッグへ出資をし、デジタルデータを宣伝プロモーションに活かすための取り組みを行っています。東映の興行チェーンであるティ・ジョイのデータとSMT(松竹マルチプレックスシアターズ)さんのデータをベースに、3社共同でマーケティング戦略を遂行するプロジェクトをスタートさせました。
 
Q9. 海外展開や国際共同制作への取り組みで重点的に狙っている国や実施していることはありますか?
 
吉村  アジア圏でキャラクタービジネスを展開していきたいです。その先にはそのアジア圏で受け入れられるオリジナル作品を作ることを視野に入れています。
 
『SHOGUN』がアメリカで大ヒットしたことで海外からも様々な問い合わせが数多く入るようになりました。このチャンスに乗じて海外で受け入れられるようなコンテンツの開発を目的に、京都撮影所にもプロジェクトチームを作りました。まずはアジア圏での成功事例を増やして、北米やヨーロッパに拡げていきたい。国際共同製作に繋げられるような結果を残したいと思っています。
 
2023年には東映アニメーションが『聖闘士星矢 The Beginning』を本国のソニーとスタジオ契約をして全世界配給しましたが、うまくは行きませんでした。ただ、取り組み自体は間違っていなかったと思っています。クリエイティブを直接アメリカへ提案して企画を通し、世界へ発信するやり方があると分かりました。海外のクリエイターに投資をして作品を作る提案もいただいておりますし、参画したいものがあれば積極的に取り組んでいこうと思っています。
 

企画力で勝負。「ものがたり」世界と未来を彩る会社へ

2023年世界市場を意識したオリジナル映像企画開発会社「FLARE CREATORS」を設立
 
Q10. 近年の興行収入ランキングはアニメが強く、邦画実写もコミック原作がほとんどだと思います。 今後邦画実写をどのように盛り上げていく予定ですか?
 
吉村  アニメが強いのは事実ですし、実写もコミック原作が多いのは確かですね。
とはいえ、ここ最近は、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や『変な家』のように、コミック原作や大ベストセラー原作ではない作品でヒットが生まれることがあります。
東映の昔の作品はオリジナルが圧倒的に多く、その中からヒット作やシリーズが生まれてきていますから、昔のようにオリジナル作品に回帰することを意識していきたいです。
そのためにはプロデューサーの人数や企画の数という点においても、オリジナル企画を開発することに特化した体制づくりが大切かと思っています。
 
昨年(2023年)東映アニメーションと50%ずつ出資して立ち上げた会社「FLARE CREATORS(フレアクリエイターズ)」は、企画を開発することに特化した会社です。海外では企画自体に対価が支払われることが当たり前ですが、日本は企画が成立し作品が出来なければ、企画をまとめるためにかけた労力も時間もコストも無駄になるという状況です。そうするとオリジナルでは企画が成立しづらいので、ベストセラー原作を映像化したほうが成立しやすいという話になってしまいます。
 
特にオリジナル作品にはある程度の投資をしないと良い企画も成立しないので、FLARE CREATORSは企画に対してコストをかけることを前提としています。コストをかけて開発した企画のセールスを行い、企画が売れても売れなくても関わった人たちには必ずフィーを支払うことを原則としています。企画が売れなければコストが嵩むだけなので、会社としては売れる企画を開発し続けなければなりません。
 
また、立案する企画は、アニメか実写か、ドラマか映画かを問わず、まずは映像化を実現することを目的としています。東映と東映アニメーションの合弁会社ですが、他社へ企画をセールスすることに制約はつけておりません。
 
設立してから1年が経過し、課題も見えてはいますので、FLARE CREATORSの活動は今後も続けていきます。
 
◆VIPOアカデミー校長 市井より
吉村社長は、自分自身のキャリアや東映の歴史を、丁寧に、わかりやすく説明してくれましたので、それらを土台にして作成された今後のVisionを、我々はクリアーに理解することが出来ました。お忙しい中、準備に時間をかけて頂いたこと、また、Visionを実際の活動に落とし込んでいく過程で、苦労されていることを正直に語ってくれたことが大変印象深く、非常に誠実で、信頼できる方であることを再認識致しました。会社を変えて行くことは大変であると思いますが、2033年の目標に向かって、確実に前進されることを期待するとともに、楽しみにしています。
 


 

 
 


 
『室町無頼』2025年1月17日公開!

 

■監督・脚本:入江悠
■原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)
■出演:
大泉 洋
長尾謙杜 松本若菜
遠藤雄弥 前野朋哉 阿見 201 般若 武田梨奈
水澤紳吾 岩永丞威 吉本実憂 ドンペイ 川床明日香 稲荷卓央 芹澤興人
中村 蒼 矢島健一 三宅弘城
柄本 明 北村一輝
堤 真一
■配給:東映
(c)2025『室町無頼』製作委員会
https://www.youtube.com/watch?v=NbEGwPwQfCk

 

吉村文雄 Fumio YOSHIMURA
東映株式会社 代表取締役社長
  • プロフィール
    1965年2月 鹿児島市に生まれる
    1983年3月 鹿児島中央高校卒業
    1988年3月 立命館大学文学部卒業
    1988年4月 東映株式会社入社
           関西支社 関西映像事業部配属 イベント事業に携わる
    1997年4月 本社事業推進部へ異動 文化催事・国際展事業に携わる
    2001年6月 映像版権営業部デジタルネット営業室を立ち上げ
    2016年6月 コンテンツ事業部長
    2020年6月 取締役就任
    2021年6月 常務取締役就任
    2023年4月 代表取締役社長就任(現任)


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