VIPO

インタビュー

2021.09.21


ndjc2017出身監督 池田 暁監督が語る、若手映画作家育成プロジェクトがつないでくれた縁『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が生まれるまで。
 VIPOが2006年度より運営している「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」*では、これまでたくさんの監督を世に出してきました。今回は2017年度の本プロジェクトで短編を製作し、2018年度の「90分程度の映画脚本開発」**の最終選考者に選ばれ、2019年度に行われた「長編映画の実地研修」***において、初の商業映画を製作された池田 暁監督に、監督として大切にしていること、これからの映画作家育成についてなど語っていただきました。

 

*「ndjc(New Directions in Japanese Cinema):若手映画作家育成プロジェクト」
2006年度にスタートした、次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目指す文化庁の人材育成事業(初年度よりVIPOが受託)。若手映画作家を対象として、ワークショップや製作実地研修をとおして作家性を磨くために必要な知識や本格的な映像製作技術を継承することに加え、上映活動等の作品発表の場を設けることで、今後の活動の助力となるよう支援している。製作実地研修では短編映画(約30分)を製作。脚本開発、撮影、編集等のすべての過程にプロの監督・脚本家やスタッフが携わる。
**「90分程度の映画脚本開発」
ndjc参加者を対象に脚本を募集し一次選考通過者5名による企画プレゼンテーションを開催、その中から最終選考者1名を選出の上、映像化に向けた脚本開発を実施するプロジェクト。2018年度~2020年度実施。
***「長編映画の実地研修」
「90分程度の映画脚本開発」により完成した脚本をもとに長編映画の製作(撮影・編集等)を行い、当該監督のさらなる育成を目指すプロジェクト。

 

映画を作るきっかけ

池田監督が誕生するまで

VIPO映像事業部 チーフプロデューサー本間英行(以下、本間)  では、まず自己紹介からお願いいたします。
 
池田監督池田 暁監督(以下、池田監督)僕は完全に自主映画からやってきた人間です。自主映画で賞に入ったのはPFF(ぴあフィルムフェスティバル 以下、PFF)で2007年が最初になります。

本間    自主映画はいつ頃から手掛けていたのですか?

池田監督  日活の芸術学院で美術をずっと学んでいましたが、その時にはすでに遊びで作っていました。もともと映画が大好きで映画を作りたいと思っていました。本当に始めたというと十代の頃だと思います。ちゃんと映画を撮ったというのは2007年のPFFに入選した時の『青い猿』という作品です。その後に撮ったのが『山守クリップ工場の辺り』という映画で長編作品です。それが2013年です。

本間    最初から長編だったんですね。

池田監督  そうですね。どちらかというと僕は短編より長編の方が製作しやすいです。

本間    短編の脚本を書こうと思うことはないのですか?

池田監督  やりたいことを書いていくと、長編になります。実は短編を撮ったことはあまりないです。

本間    自主映画を撮っていた時に脚本で、コンクールに出していましたか?

池田監督  出していません。今は、色んな映画祭があり、チャンスがあると思いますが、2007年当時は、ほとんどありませんでした。

本間    コンクールがなかったんですね。

池田監督  そうですね。その頃に若手映画作家育成プロジェクト(以下、ndjc)も始まったかと思います。

本間    2006年にスタートしています。

 

ndjc若手映画作家育成プロジェクトとの出会い

短編を作るまで

池田監督  2007年にndjcに参加して短編を撮っている方がいまして、こんな映画を撮って上映するので観てと言われて、その時にndjcの育成プロジェクトのことを知りました。とはいえそういう事業があることは知っていても、実際に応募したのは、だいぶ後になってしまいました。

本間    では、2007年の『青い猿』を最初に撮って、その次が『山守クリップ工場の辺り』(以下、山守)ですか?
 

 
池田監督  そうです。6年ぐらい間が空いてしまいました。

本間    その間は何もしていなかったのですか?

池田監督  映画というよりは 演劇の映像を撮ったり、ちょっと寄り道をしていました。

本間    それは撮影や編集ですか?

池田監督  そういうこともやりましたが、例えば劇中の中で出てくる映像などです。

本間    それで『山守』で映画祭にいくんですよね。

池田監督  はい。PFFが海外の映画祭に持っていってくれまして、バンクーバー、ロッテルダムの映画祭で賞をいただきました。それをきっかけに映画を撮り続けようかなと思いました。

本間    それは2013年ですか?

池田監督  はい。そのあとはじめてndjcに参加したのが2016年です。

本間    ndjcでは短編を撮ってみようと思ったのですか?

池田監督  そうですね。自主映画で映画祭の賞をいただいても、「よし、商業映画を撮ろう」とはなりませんでした。まだ何か探らなければいけない、学ばなけれいけないことがいっぱいあると思ってndjcに応募しました。初めて参加した時はワークショップまで行きましたが、最終5本には残れず悔しくて2017年に、もう1度応募して最後の5本に残り、撮らせていただきました。
 
※ndjc若手映画作家育成プロジェクトの参加工程はこちら
 
本間氏本間    この時期、ndjc以外に企画コンペはありましたか?

池田監督  TSUTAYAクリエイターズプログラム(TCP)があったと思います。

本間    その後、商業映画を撮る手がかりになるという思いはありましたか?

池田監督  正直応募する前は商業への道がよく解かりませんでした。何か作品を撮れるということだけでまずは応募しました。撮ってみてからですね。商業映画への道が解るようになったのは。

 

作品に対するこだわり、池田監督の世界観とは

着想はどこから?影響を受けた監督

本間    2017年のndjcで見事5本に選ばれたのが『化け物と女』ですね。池田監督の世界観は独特ですが、こだわりはありますか?

池田監督  自分のオリジナル脚本でやりたいという思いがあります。人とは違う普通ではないものを作りたいというこだわりはあります。

本間    最初の作品も演出的には同じトーンですか?

池田監督  違いますね。手持ちで撮ったりしていました。当時はこだわりがあったというよりはよく解ってなかったと思います。自分の脚本において、どういう演技でどういう撮り方が良いのか突き詰めて考えた作品が『山守』でした。最初の映画は自分の中でまだ固まってない状況で撮った感じでした。

本間    自分の中で作品トーンが固まっていない映画が、PFFで入賞しているんですね。

 

 
池田監督  そうですね、PFFで観客賞をいたいだのですが、そこで静かに終わってしまいました。

本間    最初に『山守』を見た時に鈴木清順監督のツィゴイネルワイゼンや陽炎座などの演出スタイルを感じました。アート系の世界観に影響を受けましたか?

池田監督  特定の監督はいないです。鈴木清順さんも好きです。よく作風が似ているといっていただく方、例えばアキ・カウリスマキ監督やデビッド・リンチ監督は好きなので、少し影響は受けていると思います。映画だけではなく水木しげるさんの漫画も僕の中で影響を受けている部分はあると思います。

本間    脚本を作る上でのアイディアや着想はどこから得ていますか?

池田監督  自分の日常からが多いです。『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(以下、きまぼん)も僕の家の窓から川が見えて、川の向こうを想像する所から始まりました。他の監督から影響を受けているとすれば、演出方法が強いですね。内容について映画や監督から着想を得ることはあまりないです。

本間    『化け物と女』はどこから発想をえましたか?

池田監督  バンクーバー映画祭に行く時に飛行機で10時間くらいかかるので移動中用に妖怪の雑誌を買いました。その雑誌を買った帰り道で三味線を弾いている人がいたんです。それを聞いていたら、妖怪と三味線がなんとなくくっつき、面白そうだなと思ったところからです。

本間    池田ワールドと言われることについてどう思いますか?

池田監督  自分でワールドを作っているとは意識していません。僕の世界観は僕が住んでみたい・行ってみたいと思うものなんです。

本間    作家性ですね。他の人に合わせるよりは自分の道を作りたいですか?

池田監督  他の方が見て思う程、頑なにこだわっているわけではないです。『きまぼん』も俳優さんやスタッフの方のアイディアを取り入れています。みんなで作っている製作物として、僕は撮っている感じです。映画の中のルールは僕が決めますが、その範囲を越えなければ提案していただいたアイディアを活かしています。

 


 

本間    今後メジャー作品を撮ってもらいたいと思うのですが、自分の作家性を望まれるものであれば撮りたいですか?それとも、マンガ原作など撮ってみたいと思いますか?

池田監督  マンガ原作も自分の作風が活かせるような作品ならば撮ってみたいと思います。
メジャー作品に関しては僕よりも優秀な方が沢山いるので気後れするところはあります。

 

 

『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』を生み出した「長編映画の実地研修」プロジェクトとは

 

本間    ndjcの長編企画で、『きまぼん』を撮ろうということになりましたが、長編映画の実地研修のプロジェクトについては、どう思いましたか?

池田監督  ndjcのプロジェクトで短編を撮ったその先に、長編を撮らせてらえるかもしれないという可能性があることがとても大きいと思います。PFFの応募理由もそうです。その後にあるスカラシップで長編を撮ることに大きな意味があります。短編を撮ったその先があるということは、ndjcに応募する人も増えると思います。

本間    短編映画製作プロジェクトのステップアップとして、脚本開発からしっかりやりましょうということでこのプロジェクトが始まって、過去のndjcプロジェクト修了者60数名を対象に「90分程度の脚本開発」という企画になりました。その1本に池田監督の作品が選ばれたんですよね。当時の脚本時のタイトルは『太良和町の砲台』でしたよね?設定や時代背景を決めたのはどんなところからですか?
 


 

池田監督  時代背景はとくに定めてなくて、架空の戦争の架空の街という基本的には全て架空の設定です。人間の歴史を辿ると、戦争自体はずっと起きていることなので、普遍性を持たせる意味で 架空の街にしました。とはいっても建物はある時代のものに統一させるため、昭和30年代にしました。古い建物自体がなくなってきているので、ロケ地を探すのも大変でした。
懐かしい風景ですが、実は僕等の周りにほぼないという…それが架空となりうる部分かなという気はしています。

本間    加藤正人さんに脚本指導してもらいましたが、指導を受けて思ったことはありましたか?

池田監督  加藤さんは凄い脚本家さんだと思います。今回の自分の作品はこれまであまり接しない脚本だったと思うので大変だったと思います。脚本の構造や基本的な部分から見て、構成や内容を変えようという感じではなくて、見る人が感情移入できるかどうか?という視点で、細かい仕組みの部分を教えていただきました。それはとても勉強になりました。作品に沿った提案やお話をさせてもらったので、新鮮な部分もありました。
僕は結局自主映画でしかやってこなかったので、だれかの意見を聞いたり、取り入れたりするような先輩がいなかったので、そういうことも含め今までにない経験で良かったです。

本間    『化け物と女』もすでに、世界観が決まっていたので、ほとんど直すこともなく、初稿が決定塙になるような感じでしたね。

池田監督  いえいえ(笑)『化け物』は5回ぐらい書き直しましたが、やはり最初がいいねとなり、初稿に戻りました。この脚本の可能性を探る部分でいうと遠回りする部分があって良かったと思います。どういう方向性で撮るかを固める過程でした。最初の発案を大切に映画が作れた気がします。

本間    脚本開発は、監督の作家性や個性をいかに伸ばすかの指導だと思います。準備稿が上がって『きまぼん』の製作にいよいよ入るわけですが、今回も『化け物と女』のときと同じ、東映の角田さんがすぐ手を挙げてくださって、東映さんと一緒にやることになりましたね。スタッフィングについてはどうでしたか?

池田監督  スタッフィングに関しては『化け物と女』を撮ったスタッフさんともう一度撮りたいというお話はさせていただきました。スケジュールの問題で難しい方もいましたが、7割ぐらいの方は来ていただきました。前回はCGがなかったので、CG制作のスタッフさんは改めて角田さんにお願いしました。
 

配役が決まるまで~キャスティングの妙

役者のアプローチと演出方法

 

本間    重要なキャスティングは東映のキャスティングプロデューサーの福岡さんが関わりましたがどうでしたか?  

池田監督  主演の前原 滉さんは、福岡さんより提案をいただきました。
 


 

本間    前原くんはオーディションではないのですね。  

池田監督  はい。実は前原さんのことを僕は知りませんでしたが、後で聞いて『あゝ、荒野』の方だとわかりました。見た目も雰囲気もとても個性的な方なので、僕も気に入って主演をお願いしました。
東映の常連の石橋蓮司さんも出演していただきました。嶋田久作さんや橋本マナミさんも東映からの提案でしたが、配役については僕の提案と福岡さんからの提案は半々ぐらいでした。

本間    『化け物』の時のきたろうさんが出演されていますが、『化け物』の時に一緒に仕事をしてどうでしたか? 

池田監督  『化け物』を撮る前から、僕はとにかくきたろうさんが好きでして、シティボーイズをよく見ていました。それで『化け物』の時にお願いして出演していただいて、とてもよかったので『きまぼん』でも出演をお願いしました。
他にも自主映画の時から出演していただいている俳優さんもいらっしゃいます。きたろうさんも含めてこれまで何度か出演していただいている方も新しい方もいらっしゃいますね。旧知の出演者と新しい方を融合させるというのが、僕の理想的なキャスティングです。

本間    きたろうさんが『化け物』の時程、オフビートの感じではなかったですね。 

 


 

池田監督  『きまぼん』の撮影している時に僕の考えている枠から飛び出たなと思った時には僕が抑えていましたが、『化け物』の時よりは表現の幅をもたせていたので、きたろうさんにも、その枠を飛び越えなければ、あまりクチは出さないようにしていました。
それでも、僕ときたろうさんで演技に対するせめぎ合いもあって、そこも楽しみながらやりました。

本間    片桐はいりさんも舞台挨拶のときに『化け物』の時のきたろうさんと全然違うと言っていましたね。 

池田監督  そうですね。ずるいと言っていました(笑)。
映画が公開されると、片桐はいりさんがよかったと言われることが凄く多いです。映画の中で劇的なストーリーがある役という事もあると思いますが、片桐さんの役に感情移入する方が多くてびっくりしました。

本間    片桐さんは舞台出身ということもあって、役を作りこんでくる方ですよね。  

池田監督  そうですね。『きまぼん』のキャスティング時には、みなさんにはあらかじめ以前の作品『化け物』をこんな感じです、と見てもらって、オッケーをいただいていたので、現場にいらっしゃる時点で僕の演出を受け入れてもらえていると思っていました。
ただ、矢部太郎さんだけ僕の過去作品は見せてもらえなかったみたいです(笑)

本間    矢部さんびっくりしていませんでしたか?  

池田監督  最初のリハーサルでびっくりしていました(笑)なので、そこでいろいろお話させてもらいました。

本間    嶋田久作さんは監督に合わせるような形で自分をどうしたらいいかを話しながら作っていく方でしたね。オフビートな感じでもなく、個性的な芝居のトーンでもなく、もっと抑えたほうがいいよね?と確認していましたね。 

池田監督  はい。俳優さんそれぞれ違いますが、嶋田さんについては、煮物の渡すタイミングなんかは細かく全部決めて演ってもらいました。
俳優さんにとって、演技のやりやすさがそれぞれ違うことは撮っていく中で知りました。その人のやりやすさから自然に出るものを大切にした方がいいと思って、ああしましょう、こうしてくださいと最初はがっちり固定せずに、柔軟に撮っていきました。

 


 

 

完成した作品を見てみて

 

本間    なるほど。撮ってみて、自分の思い通りの作品になりましたか?

池田監督  完成した時に、意図した脚本のままできたとは思いました。脚本開発のときに、想定していた以外で、大きく変わるようなことはなかったです。
俳優さんやスタッフさんが僕のやり方に寄り添ってくれたということは大きいと思います。

本間    本は一応90分程度ってことで脚本開発していたから、僕は本の段階からもっと切れ、切れといっていたでしょう?だから編集であがってきたものが100分を超えていたらどうしようかなと思っていたんだけど、監督は自信とこだわりをもってやっていて。それでできあがった尺は105分でした。これは100分には収めたいと思って編集していたのかな?

 
池田監督池田監督  そうですね。最初は全部つなげた段階で115分ぐらいありました。でもテンポを含めてあまりよくなかったので、なるべく100分に近づけた方がいいと思って、10分ぐらい切りました。エンドロールをいれなければ100分くらいだったと思います。
もうこれ以上はどうしても切れなくて、100分はこえてしまいました。でも作品の尺として目指しているところは90~100分くらいです。

本間    コロナ禍で興行がスムーズにいかなかったところもあったけど、公開されたら評判になってよかった。

池田監督  はい。公開は2021年3月26日だったんですけど、映画祭の開催がなくなっちゃったりとか。結局、2020年の東京フィルメックスに出品したのが最初になりました。
(※『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は2019年に製作され、第21回東京フィルメックス(2020)で審査員特別賞を受賞しました)

本間    そうでしたね。ndjcの作家育成プロジェクトについて何か思うことはありますか?といっても、こちら(VIPO)が支援しているものだから、なかなか本当のことはいいにくいかもしれないけど…(笑)

池田監督  僕たちのように映画を撮りたいと思っていても、どうしたらいいかわからないという人は多いと思うんです。監督がまず1本目を撮ることが、1番のハードルだと思うので、撮る機会を与えてくれるだけで、僕はありがたいと思っています。
その1本目の作品は名刺にもなると考えています。短編とでは見る人の数も違いますし『きまぼん』で自分の作品が世に出たという実感はすごくあります。

本間    実際に自分の映画が劇場で公開されてお客さんのリアクションが見ることができたと思いますが、興行後では考え方は変わりましたか?

池田監督  僕の映画はちょっと変わった作品なので、好き嫌いは分かれるだろうと思っていました。それは想定内でしたが、実際は自分が思うよりこの作品を受け入れて見てくれる人が多いと凄く感じました。
どうしたらもっとたくさんの人に見てもらえるか?また製作の段階から含めてもう一工夫したいと欲が出てきましたね。次の作品で探りたいなと思います。

本間    どんなところを工夫したいと?

池田監督  今の日本映画は俳優さんでお客を入れるところがあるので、それはそれで大切なことですが、人気のある俳優さんで人を呼ぶこと以外の何かがないかなと思いました。

本間    NETFLIXなんかのオリジナル作品のクオリティの高いものが話題になったりして、お客さんがそういうものを望んでいることも、興行側もわかってきているので、これから個性的な作品がどんどん出てきそうですね。

池田監督  はい。自分のこの作品がこれからの入口になってくれたらいいなと思います。
 

 

監督として大切にしていること

 

本間    今後、撮り続けるために監督として大切にしたいことはありますか?

池田監督  僕は自分らしさを大切にしたいと思っています。僕みたいなちょっと変わった作風を撮る人は自分の軸をもってブレずにやる事がいいと思います。
それは頑固になるというわけではなく、まわりの人の色々な意見をピックアップする事も大切だと思います。

本間    映画は監督1人では作れないので、自分の作風を理解してくれるプロデューサーも大事ですね。自分に合うプロデューサーは何人か味方にしていると今後いいですよね。

 
池田監督池田監督  はい。そうですね。自主映画は撮る方が簡単で、それを人に見てもらう方がよっぽど大変だと思っていました。でも、今回は商業を意識して、製作段階から見てもらうことをちゃんと考える必要があると『きまぼん』を撮って学びました。

本間    今は動画配信やツイッターのSNSで情報がすぐ伝わるし、昔に比べて面白いとなれば、クチコミの拡がりは大きいしすぐ話題になるので、作品として個性を世に出す以上、信念はちゃんと持っていたほうがいいと思いますね。また、有名人が自分の作品について話してくれたらその発信力も大きいですしね。
『きまぼん』はライムスター宇多丸さんはラジオで話てくれたし、ヒコロヒーさんはTwitterでつぶやいてくれましたね。

池田監督  自分の作品を好きじゃないという人がいつつも、熱心に作品を好きだと言ってくれる人がいるのは次に作る上でもすごく自信になります。世の中に作品がどう見られてどう思われるかが分からない未知の部分でしたが、公開後の反応の中で見えてくるものはたくさんありました。
 

 

映画作家育成について池田監督が思うこと

 

本間    ほんとにそうだね。将来監督を目指す人に向けた話をしたいと思うんだけど、大学や専門学校の映画作家の人材育成について思うことはありますか?

池田監督  僕は日活芸術学院の美術コース出身なので監督業に直接繋がる人材育成の話はあまりできませんが、技術系コース出身の人で今も活躍されている方はいても、僕の同期で監督コース出身の人が今も映画を撮って活躍している話を僕はほぼ聞いたことがないです。やはり監督の育成は助監督から入るもんなんでしょうか。

本間    ndjcも現役の助監督からの応募者は多いです。

池田監督  そこから実際監督になられる方も多いですか?

本間    自主映画出身の方のほうが監督になるのは早いですね。

池田監督  僕は18、9歳で現場に行きましたが「助監督をやっていても監督にはなれない」と言われました。
現場に行くと助監督さんの仕事はとても大変で、あんなに大変な仕事をしているのに監督になれないなら僕は絶対助監督をやりたくないと思いました。過酷な仕事をしているのに監督になれないと言われたら助監督さんは続かないですし、やりたいと思う人もいないですよね。助監督さんも人材不足だと思います。

本間    職業助監督ですね。監督になる道への前段としてとらえるには難しいかと思います。池田監督が言うように、苦労しても監督になれないとなったら、今の若い子はわざわざ助監督をやろうとは思わないですよね。

池田監督  助監督の人材不足という問題と監督になるための道筋を今後は考えていかないといけないですね。

本間    コンスタントに映画を撮り続けるにしても、監督業だけでは難しいですしね。

池田監督  監督業だけで食べていくのは難しいですね。大学の先生をやってる人もいるし、僕も違う仕事もしています。監督になったとしても、現実を知ってしまうと夢も希望もないというか・・監督を目指す人が減ってしまうのではと考えてしまいますね。

本間    監督の育成については、映画会社にも責任はありますね。

池田監督  監督になる道は自主映画からが多いですが、自主映画はある意味自分でなんとかしなきゃいけなくて保証が全くない世界です。そこから監督になれる人がいても、それは個人任せなところはあると思いますね。
育成という意味では、監督になるためという道が一つ明確にあったらいいかなと思います。それをどこでどのようにやるのかは、僕もわからないのですが。

本間    東映ビデオが出資して企画コンペをしていますね。脚本募集・審査、キャスティングのための俳優のワークショップ、オーディションからクラウドファンディングまで全部行い一連の作業で監督を育てています。

池田監督  松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画プロジェクトに近い感じですね。

本間    やはり映画会社側も危機感は持ち始めていますね。2019年のアカデミー賞は『パラサイト』で韓国映画が受賞しましたし。

 
海外展開するために支援事業の活用を
 
池田監督  韓国映画は最近特に面白いと僕も思います。日本映画と見ている視点が違いますね。韓国は人口が少ないので国外での興行を含めて考えて作っていますが、日本映画は国内だけでも、どうかすると興行収入が300億いってしまうので、はじめから海外を見据えて作るという先は見ていないのかなという気はします。
今後は海外を含めた映画製作をした方がいいと思います。海外での上映となると今程俳優さん頼みではない部分も出てくると思いますね。

本間    海外展開はVIPOでも文化庁*や経産省*からの助成金で研修や事業支援を行っているので、それらを活用していただいて、若手の監督には撮り続けてほしいですね。
*文化庁事業:日本映画海外展開強化事業
*経産省事業:J-LODコンテンツ海外展開事業

池田監督  助成金は僕も今後、考えつつ映画を作りたいですね。

本間    ぜひ、活用していただきたいんですが、支援事業を行っていることをあまり知られていないんですよね。

池田監督  僕も知らなかったですね。ndjcの育成事業もPFFから教えてもらわなかったら知らないままでした。こういう情報はもっと拡がってほしいですね。

本間    そうですね。我々VIPOも努力します。ndjcでは短編を作り、合評上映会のほかに東宝では試写室で上映しました。今年から東宝のほかに映連4社の東映、松竹、KADOKAWAでプロデューサー向けの上映会をします。そうするとプロデューサーと名刺交換して次に繋げられる機会になるので、積極的に拡げていこうと思います。人との出会い、つながりは大きな財産ですから。

池田監督  そうですね。映連4社に限らず、独立系も含めて認知されたらいいと思います。
 

 

コロナ以前と以後の映画業界の変化

 

本間    現況下での話になりますが、コロナ以前 コロナ以後で興行形態がガラリと変わりましたよね。サブスクに関わることで劇場公開ではないけれど、世界の目に触れる機会が得られてよかったと感じますか?それとも、映画は(劇場)で見るべきなど、監督のこだわりがあるか思いますが、お考えを聞かせてもらえますか。

池田監督  基本的には映画館で観て欲しいと思いますが、僕が全ての映画を映画館で観ているかと言うとそうではないので、観てもらえるなら配信でもいいと思います。
ただ映画館で映画を観るという行為は廃れてほしくないです。映画館で観る感覚や思い出はほかでは得られないものなので、そういう体験は大切にしてもらいたいと思います。
興行の話ではないですが、去年は映画祭がオンラインで実施して、映画祭がそれで成り立ってしまった実績があるので、今後映画祭はオンラインでもいいのではとなるのが怖いですね。僕は実際に映画祭に行って現地やいろんな人達と会う事がとても大切な事でしたが、オンラインでも成立してしまったことが、コロナ後にどうなるのかという不安はとてもあります。 
 

 

本間    映画祭で公開される、実際に行く。というモチベーションは大事ですね。

池田監督  はい。別にカンヌでもなくてよいという話になりますから。映画祭の形態はもとのままがよいです。『きまぼん』は、ロッテルダムで上映されましたが、舞台挨拶がオンラインでした。それが常態化してしまうのは、すごく寂しいですね。

本間    オンライン上でも観客の雰囲気や空気感は伝わりますか?

池田監督  伝わらないです。モニターを見ているだけですから。映画祭は舞台挨拶をして劇場を出てからもお客さんと話しをしたりするのですが、そういう事もできないですし、映画祭で作品をみてもらっているという感覚はありませんでした。

本間    では逆にコロナ禍で撮影すること良い点はありますか?

池田監督  コロナ禍で製作をしなかったので分からないこともありますが、ミーティングをオンラインでできるという話は聞きますね。そうなるとスタッフや役者さんがどこに住んでいてもかまわないですし、集まる場所を設定しなくてもよいことになりますね。撮影となるとプラスになる部分はないかもしれないです。あ、ロケ先での部屋が一人部屋になったりとかですかね(笑)

本間    製作予算はかわらないのに、部屋代でもっていかれたら、ほかにしわ寄せがきますよ(笑)でも、打ち合わせが遠距離でできる事はメリットですね。
VIPOがやっている俳優のワークショップでもオンラインで行っていて、この前はフランスから参加者がいました。時差はありますがリアルタイムで生の声は伝わります。海外の作品は俳優のオーディションもオンラインが多いですし、海外や遠方からでも参加できることは俳優さんにとっても機会が増えることですから、メリットですね。

池田監督  情報を知る上でも、時間と場所に関係なくアクセスしやすくなったことはいいことです。

本間    最近話題になった「ファスト映画」について、どう思いますか?

池田監督  そうですね。ニュースなっていたので、僕もそこで初めてファスト映画というものを知りました。実際には観たことはありません。著作権など様々な問題があるとは思うのですが、むしろそれで映画を観たつもりになって満足してしまう人がいることに衝撃を受けました。作り手の思いを込めた本来の映画が持つものがファスト映画では伝わらないだろうなと思います。
一方で映画だけに限らず情報過多な時代に、より短い時間でより多くのものを消費しようとする人が多くいることも現実として受け止めなくてはならないのかもと思いました。
 

ndjcプロジェクトに参加してみて~製作会社がつないでくれた縁~

本間    では最後に、ndjcのプロジェクトに参加してよかったこと、一番学びになった事を教えてもらえますか?

池田監督  映画を撮る機会を与えてくれたことが何より大きいです。ndjcで最初に短編を作って、そのときのスタッフさんとのつながりができたのもよかったですし、また長編で一緒に作品を作れたこともよかったですし、ndjcでできた人脈も参加してよかったことのひとつです。

本間    製作会社についてはどうでしたか?

池田監督  東映と聞くとヤクザ映画というイメージなので製作の人たちも怖いのかな、僕の映画大丈夫かな・・って思いましたが、全然そんな事はなく、とてもうまくやれました。

本間    架空の話ですが『きまぼん』は戦時中の話ってことで、東映の『二百三高地』のときの銃などを使わせていただけたのも大きいですよね。それも、東映だからこそのメリット。

池田監督  そうですね。セットでの撮影を一部やらせてもらえたのも東映以外だったら難しかったと思います。東映が持ってらっしゃる基本的な力をお借りできたことは大きいと思います。

本間    東映から提案された役者さんとの縁もそうですね。自主映画からおつきあいのある俳優さんはこれを機に世にでるといいですよね。

池田監督  はい。自主映画出身の監督はたくさんいますが、俳優さんはあまりいなくて、それで終わってしまう人は多いです。自主映画に出てくれる俳優さんはとても大切な存在なので、自主映画だけで終わってしまうと、次につながる希望も持てないというか、出演してもらえなくなってしまいます。商業映画につなげていくことはやっていきたいと思っています。

本間    監督が有名になることで作品が注目されて、自主映画に出ている俳優さんも一緒に有名になれたらいいですね。

池田監督  はい。僕の作品に出演してくれた俳優さんが、ほかの作品でも見られたらいいなと思っています。

本間    今日はありがとうございました。
 

 

 

映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=7HaOCNPLZ44&t=5s

 

池田 暁 AKIRA Ikeda
映画監督

  • 2007年、長編映画『青い猿』がぴあフィルムフェスティバルで観客賞を受賞。2013 年の長編映画『山守クリップ工場の辺り』でロッテルダム国際映画祭とバンクーバー国際映画祭にてグランプリ、ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞を受賞。各国の映画祭にて上映される。

    2017 年、三作目の長編映画『うろんなところ』が東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、台北映画祭、エルサレム国際映画祭などで上映される。

    2018年、ndic2017 にて短編映画『化け物と女』を35mm フィルム撮影にて製作。

    2019年、ndjcの「長編映画の実地研修」にて『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』を製作。2021年3月劇場公開された。第21回東京フィルメックス審査員特別賞受賞、第50回ロッテルダム国際映画祭ハーバー部門正式出品。

 
 

 


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