ホーム
インタビュー一覧
イタリア企画マーケットに参加した若手プロデューサー小山内照太郎、鈴木徳至、後藤美波、3人に聞く! 国際共同製作の魅力と今世界はどうなってる……?〈後編〉
イタリア企画マーケットに参加した若手プロデューサー小山内照太郎、鈴木徳至、後藤美波、3人に聞く! 国際共同製作の魅力と今世界はどうなってる……?〈後編〉
〈後編〉「世界中に友だちがいたほうが作りたい映画が作りやすい」
VIPOでは、世界で活躍できる若手映画製作者を育成することを目的に「VIPO Film Lab」を2021年度より運営しています。その中の1コースである「脚本コース@ウディネ」*1では、ヨーロッパの団体EAVE(European Audiovisual Entrepreneurs)が主催するラボ「Ties That Bind(TTB)」*4、およびイタリア・ウディネにて開催される「ファーイースト映画祭」インダストリー部門(企画マーケット)「FOCUS ASIA」*5との共催事業として、EAVE所属の講師による脚本個別指導を実施しています。また今年度は、「FOCUS ASIA」企画マーケット「ALL GENRES PROJECT MARKET」*2、およびワーク・イン・プログレス部門「FAR EAST IN PROGRESS」*3への参加者も募集し、2023年4月26日から28日の3日間、イタリアにて「FOCUS ASIA」に参加しました。今回は同企画マーケットに同行した映像事業部・伊藤壮哉がインタビュアーを担当。〈前編〉〈後編〉に分けてお届けいたします。
(以下、敬称略)
「世界中に友だちがいたほうが作りたい映画が作りやすい」〈後編〉
一緒にやりたいと思う出会いでは、目と目で通じ合う?
◆ 世界の助成金事情
伊藤 みなさん違う分野で参加していましたが、どのような話ができたかなどを、言える範囲で具体的に教えていただきたいです。
鈴木さん(向かって左)チームが 企画をピッチ中鈴木 一番大きかったのは、助成金が毎年変わるということが知れたことです。各国に助成金制度、国際共同製作のルールがあると思いますが、「最近ここの国がたくさん出している」「最近この助成金ができた」とか。今は台湾が力をいれていて、アワードで賞金を出していることを知れただけでも、ひとつ目指すべきところが達成できました。その助成金を獲るためにはどうしたら良いのか、そのためのスケジュールの進め方も見えました。
助成金は行政から出るので、そこにアクセスするためにはその地域のプロデューサーと知り合わなければならないです。
僕の場合は、今回一緒に行ったプロデューサーの知り合いがウディネにいた強みがありました。去年も参加していたので、知り合いを繋ぐ作戦で臨んだことで、その辺はスムーズでした。短い時間の中でネットワーキングができて、会うべき方たちとは一通り会えました。あとはどう組み合わせるか、反応を見ながら考えようと言う状況です。
伊藤 どのような方とネットワーキングしましたか?
鈴木 フランスの制作会社や、地元ウディネの制作会社の女性プロデューサー、カナダの方は制作ラインプロデュース業務が多くて企画が弱いから、企画を一緒にやれる人を探しに来ていると話していました。
あとは参加している10組が同世代で同じような作品をつくりたいと思っている監督、プロデューサーだったので、そこと交流できたこともよかったです。しかも助成金にアクセスできる各国のプロデューサーがいるので、仲良くなることが重要だとも思いました。
逆に海外の参加者が日本で映画を撮りたいときは知り合いのいる制作プロダクションにオファーすると思うので、営業の場としてもとてもいいと思いました。「日本で撮りたいものがあるならすぐに連絡してよ」と伝えられる場所でした。
伊藤 補助金や助成金がキーになっていたようですね。
鈴木 「基本的に助成金でしか映画作る気がないんだ」という印象を受けました。日本では身銭を切ってリスクを負って作ることを繰り返してきたので、それがあたり前ですし「それが映画人だ!」というような世界で生きてきたので、「いろんな国からお金を引っ張って作る!」のが世界では当たり前であることがわかりました。
しかもここ数年、特にヨーロッパの方々が、アジアで撮ったりアジアのフィルムメーカーと組んだりすることにとても興味を持ち始めていると感じました。毎年行っていれば、何かいろいろありそうな感じがする場所でした。
伊藤 小山内さんはフランスに住んでいて、ヨーロッパの助成金の情報は私たちよりも敏感にキャッチしていると思いますが助成金はやはりメイントピックでしたか? それとももっと違う話をしていたのでしょうか?
小山内 世間話が多かったですね(笑)。
鈴木さんもおっしゃったように、どこかの国や地方で、助成金がテスト期間のような形でポっと始まっていたりします。ウディネには、僕ら日本人とは違って、企画が選ばれていなくても参加するヨーロッパのプロデューサーたちがいて、彼らが各地の助成金の動向に詳しかったりします。彼らとはカンヌでも再会できますし、そういうネットワークを広められたのは収穫でした。
でも、そうやって知った助成金について細かく調べると「やっぱり日本映画には使えない」というものばかりです。もらった助成金の50%を現地で落とすというルールなら有難いですけど、150%使わなきゃいけないとなると、なかなか使いづらいですよね。やはり、日本語で映画を作ろうとする限り、選択肢は限られますね。
作品が完成するまで彼らと連絡を取り合って、どの助成金にアプライできて、どう使えるのか、確認し続けることになると思います。
ウディネにはプロデューサーはたくさん集まっていましたが、セールスや映画祭の方々が多くなかったのは少し残念でした。「フォーカスアジア」 のプログラムと、本体の映画祭の方向性が大きく違うためだと思います。
伊藤 後藤さんは、助成金関係で気になることはありましたか?
後藤 そうですね。他国のプロデューサーの方たちと「もし一緒に組めたら、こういう助成金が使えるかもよ」という話は結構しました。ただ、それぞれの助成金で定められているタイムラインが結構ありますよね。「この期間に用意して、ここまでに完成、こっちはこの映画祭までには出したいから…」と、映画自体で考えているタイムラインもあるので、そこで合うものがなかなかありませんでした。パッと聞いた感じは良さそうだと思っても、応募要項をよく読んでダメだと判断したものもたくさんありました。
伊藤 日本も期間の制限などありますが、他の国も期間的なタイミングなどの厳しさがあるのが実情なんですね。
後藤 日本の映画関係者が「日本は年度内に終わらせないといけないので助成金が使いづらい」と言っているのをよく聞いていましたが、海外もタイムラインの縛りがあるんだなと改めて思いました。当たり前のことかもしれませんが。
小山内 本当、そうですよね。それに、助成金は毎年変わりますし、おいしい情報がどこかに埋もれているときにすぐにキャッチできるネットワーク を持っておいた方がいいなとも思いました。
後藤 そうですね、知るという意味でも映画祭に行くのは有用ですよね。例えば、ウディネ、今年はTAICCA(Taiwan Creative Content Agency:タイカ) への皆の視線が熱かったですね*。それがすごくて去年とはTAICCAの存在感のレベルが全然違いました。
*TAICCAは、台湾・文化部(日本の文部科学省に相当)の下、2019 年に創設された台湾文化コンテンツの産業化、国際化を促進する独立行政法人。台湾との国際共同製作などへのファンディングを含め、映画を含めた様々なコンテンツに対して積極的に支援、資金提供等を行っている。「ファーイースト映画祭」では、「FOCUS ASIA」初日のディナースポンサーとなり、さらに「FOCUS ASIA」の「ALL GENRES PROJECT MARKET」(企画マーケット)に選出された企画から1作品に対し、TAICCA AWARDを授与。カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭、企画マーケットで積極的にPR活動を行っている。
鈴木 カンヌでもPRしていましたね。
◆ 国際共同製作のハードルをいかに越えるか?
伊藤 日本で製作をしている側から見ると、国際共同製作は非常にハードルが高く感じると思います。国際共同製作を勧めるとしたら、どのようなアドバイスができますか?
鈴木 僕は自主映画出身なので、作家の知り合いがとても多くいます。海外映画祭で短編が評価されているのに次が撮れない、デビューできない方がかなりいるんです。それは日本特有です。海外では、名のある映画祭で評価されている方が、長編を撮れないということはなかなかないことです。
『ゆ』(c)MLD FILMS それは日本の映画界が“産業”として成り立っていて、“文化”という観点で保護する文脈が育っていないからだと思います。映画祭で評価されている人を育てても、国内マーケットでは利益にならないと判断されて、長編の製作で資金が集まらない作家を何人も見てきました。
やりたくもない仕事をしながらずっと本を書いて数十年もたってしまうのであれば、才能があるのならば、やりたいことをやるために3年英語を勉強して海外に出て行ったほうが圧倒的にいい と思います。小山内さんのようにベースを海外において、向こうのプロデューサーと知り合ってやったほうがいいですよね。
今回のカンヌで、フランスをベースにしている平井敦士監督 (短編作品『ゆ』で「カンヌ監督週間2023」に選出された)に会いましたが、彼も若くしてフランスに行ってフランスの助成金で短編を撮って評価されています。そのように、やる人はやっています。言葉の壁だけで足踏みしているはもったいないです。
伊藤 小山内さんは、いかがですか?
小山内 年間約600本も作っている国は他にはあまりないわけで、日本映画にはそれくらいお金があるのに、と思いますね……。
伊藤 フランスに居続けている理由は、そこのポテンシャルでしょうか?
小山内 おっしゃる通り、フランスの映画に対する助成の厚さを利用して、日本だけではファイナンスしにくい企画を成功させることが、これまでも続けてきて、今後も目標としていることです。一方で、たまたま僕が好きな映画に対してフランス人が関心を持ってくれることが多い、ということも大きな理由です。
後藤さんがおっしゃったことが本当にその通りで、一緒にやりたいと思う出会いがあった場合はお互い言葉が通じなくても、目と目で通じ合う感覚 があります。最近は、外国語が不得手でもDeepL翻訳を使うと会話も続きますし、個人レベルで可能性は広がっていると気がします。
単に「国際共同製作」といっても、各国でマーケットは違いますから、そのあり方は千差万別です。例えば、日本から見ると、規模も大きく発信力も強いカンヌがヨーロッパの映画の基準となってると思われがちですし、それは決して間違ってはいませんが、例えば東欧に行けば、全く違う価値観があることに気づかされます。
世界の思わぬところで出会いがあって、何かが生まれるということがあります。去年完成した『やまぶき』という作品は、オール日本ロケですが、「カルタゴ映画祭」で出会ったチュニジアの映画監督の友人からアドバイスをもらい、技術的にも助けてもらいました。
国際共同製作をする両国で共通する「面白さ」を一緒に考えられるパートナーと出会えるといいと思います。言語と文化の違いがあるので本当に大変ですが、思ってもないものに出会える、それが醍醐味だと思います。
VIPO伊藤(向かって右から2番目)
国際マーケットへ出ていくには
◆ ひとつひとつの出会いが繋がりファイナンスにも結びつく
伊藤 今後、ウディネ、あるいは国際マーケットへの参加を考えている方に、参加のタイミングなどを含めてアドバイスをいただけますか?
鈴木 僕の一番の反省点は資料をたくさん持って行ったことです。重くて(笑)20分ずつしか話せないので、資料よりも話術を磨いたほうが良いと思いました。
どこの映画祭でも、そのくらいの時間のことが多いので、自分の企画について20~30分でいかにおもしろく話すかが第一段階だと思います。
ウディネで一番話が早かったのが、国内で何%の資金が集まっているかを話すことでした。僕は、外で集めてから国内で、と逆の発想だったのですが……。とはいえ、企画が実現しやすいものに人は乗ってくるので、国内の助成金が決まってなくても、例えば「国内の国際共同製作助成金で20%、自社で10%、合計で30%は決まっています」と、ハッタリでもよいので言わないと乗ってこないと感じました。
伊藤 ハッタリですか……。メンタルのタフさが必要そうですね。
鈴木 嘘にならない程度の企画の建付けは必要ですね(笑)。
あとはキャストもイメージでもいいので「このような人にあたる」とか、とにかく心を掴んでいかないと、具体的な話にならずにただ仲良くなって終わってしまってもったいないと、釜山とウディネを通じて感じました。
実際に人との繋がりで企画が立ち上がっていくことが理想的で、崩れづらいと思うので「この人とやりたい!」と思われて進んでいくのがいいと思います。金銭的な利害だけだと居なくなったりすることもあると思うので。
水野さんからお聞きしたのですが、ウディネで最初に見つけた製作パートナーとなったフィリピンの方は、早川監督が「タレンツ・トーキョー 」に参加したときの同期の監督だったそうです。ひとつひとつの出会いが繋がってファイナンスにも結び付いていくと思いました。
ですから、なるべくそのような場に参加して、そこで知り合った方とは定期的に連絡を取り合ったほうが良いと思います。世界中に友だちがいたほうが作りたい映画が作りやすいと思います。
◆ 理想イメージを持って出資を募る
伊藤 鈴木さんの企画のステータスはどのフェーズでしたか?
鈴木 自社が10%出すのも本当かな? というところで、企画サイドの覚悟として言う感じでした。ある程度成立してから会社を説得するようなイメージです(笑)。
1億円以上の国際共同製作には文化庁から20%出ることにはなっているので、それも含めて合計30%と言ったほうがいいと思います。仮に、台湾から30%、フランスから20%を集められたら、あとは例えば日本の配給会社で20%の出資元を見つけられれば成立するのではないかと。
理想プランを、ウディネと釜山、この2つのマーケットに参加してビジョンとして持てました。実際に動くといろいろな障壁がありますが、理想の形が持てただけでも大きいですよね。
「今だったらそういうことができるかもしれない」と目指しています。まだアメリカとかは全く掘れていないので、さらにそこでも興味を持ってくれる方に出会えるといいですよね。
小山内 後藤さんはニューヨークにコネクションがあるので、羨ましいですね。
伊藤 脚本講座はいかがでしたか? 2稿、3稿目くらいのタイミングでクレアさんとの講義に臨まれたと思いますが、タイミング的にはどうでしたか?
小山内 今回は奇跡的にちょうど良いタイミングでした。これから皆さんに「出資してください」とご相談し始めるタイミングでした。
伊藤 もし選択肢があるとしたら、より良いタイミングはありましたか?
小山内 僕の場合は、秋にフランスの助成金を申請して、来年の撮影を目指すという具体的なスケジュールがありました。ですから、その3~4カ月前に英訳してヨーロッパの方の意見を聞けたのは、改稿をするために本当に絶好のタイミングでした。
◆ 相手に観てほしい部分を事前に伝えておく
伊藤 後藤さんは、ポストプロダクション段階にある長編映画が選出されましたが、準備の面などでアドバイスはありますか?
後藤 これは自分の反省点なのですが、今回上映された10作品くらいの中で、私たちの作品が一番完成から遠かったので、上映前の説明のときに「これはラフカットなので編集のフィードバックもいただきたい」と言っておけば良かったなと。その一言があれば、皆さんもフィードバックやコメントが言いやすかったのかなと思いました。フィードバック的なことを言いたがる方は少なく、こちらから聞いてようやく言ってもらえる感じだったので。言い方やワーディングなどもう少し考えればよかったと思います。
伊藤 他の方たちの完成度が高かったのですか?
後藤 そうですね。そのシーンだけクオリティを上げてきたのかもしれませんが、音楽がついていたり、わりと見やすいものが多かったです。私の作品はオフライン編集中だったので、音も割れているなど少し見づらい部分があったので、その状態は仕方ないとしても、この機会からより多くを得るために、前置きやコミュニケーションのところをもう少し工夫できたなと。
5年後を見据えてより普遍性のある古びない企画を
◆ 日本、アジア、女性に絶好の波が来ている
伊藤 せっかくの機会です。お互いに質問はありますか?
小山内 実際においしい話や資金集めができそうな話はありましたか?
鈴木 これからなのでまだ分かりませんが、今回一緒に行ったプロデューサーは、一昨年の釜山のマーケットに参加して、その企画が国際共同製作として実際に動いていると聞いています。仲のいい人たちが今までにない日本映画の形をひとつひとつ生んでいくのを目の当たりにしているので、できることを信じて、できることを前提でコミュニケーションをとっていくしかない と思っています。
伊藤 信じる力は大事ですよね。
(c)2022『PLAN 75』製作委員会/ Urban Factory/Fusse鈴木 『PLAN 75 』は、カンヌで受賞して国内でも興行的に成功しているので、それが一つの成功例になっていると思います。日本の映画会社も「儲かるんだ!」と思いますよね。この1年2年の間は『PLAN 75』を例に出すとやりやすいはずなので、そこを目指して走りたいです。
そういう意味では日本国内でも絶好の波が来ている と思います。
あとは今映画祭も、アジア・極東の作品や女性監督にすごく注目していますよね。今までチャンスが少なかった分、一気に波が来ているのでラッキーだと思って乗っていけばいいと思います。
小山内 今スペインの助成金は、女性スタッフが多いととりやすいと聞きました。
鈴木 そのくらいして変えていかないといけないくらい偏っていたんですね。国際的にも。そういう意味では女性監督の後藤さんはどうですか?
後藤 波に乗れるといいと思います。
鈴木 カンヌでも、アジア女性の新しい才能をすごく探していると思いました。
伊藤 後藤さん、今回の企画に対してのリアクションはいかがでしたか?
後藤 MeTooのようなテーマを含んでいるので、男性からの感想の中には「もう聞き飽きた」というものもありました。ですからこれから映画祭に応募していく中で、どのように伝えていくかが課題だと感じています。ただ、日本に限らず、この問題は過去のものではありませんし、むしろこれからも問題提起と不断の検証が必要な、大事で難しいテーマだと思っています。
伊藤 日本ではファーストケースですか?
後藤 どうでしょう。長編ではそうかもしれませんね。
鈴木 ハリウッドでは真正面からやってましたよね。(※『SHE SAID/シー・セッドその名を暴け 』のこと)日本は去年顕在化し始めた感じですが、アメリカで話題になったときと比べると時差があると思われたのかもしれないですね。
後藤 そうですね。とはいえ、映画のテーマとしては女性たちの連帯・友情ということで監督ともずっと話していて。MeTooという言葉が一人歩きしないようにしたいなとも。
鈴木 映画を作る上では「今」も大事ですが、国際共同製作でやる以上は5年後でも通用することを考えなければならないのかなと。先に行き過ぎていると、それはそれで受け入れてもらえないので塩梅が微妙で難しいですよね。より普遍性や古びないもので企画 を考えないといけないと思います。
◆ 海外の若手に学ぶ国際共同製作での動き
後藤 小山内さんはトークイベントやパネルとかにも行きましたか? 私はあまり行けなかったので面白かったものがあれば教えてください。
小山内 席は温めていました(笑)。
フィリピンのBianca BalbuenaとマレーシアのBladley Liewのプロデューサー夫婦が自作の国際共同製作のケーススタディを紹介していました。彼らは、自国で資金集めをすることが不可能だという事情があるからだと思いますが、国際共同製作ですべて進める前提でタイムラインを作っている。そのプレゼンの仕方に迷いがなく、スマートだったことが印象的でした。
鈴木 東南アジアは、その感覚が進んでいますよね。
あるシンガポールのプロデューサーが今回の「FAR EAST IN PROGRESS」(ワーク・イン・プログレス:ポストプロダクション段階)に、日本で撮影した作品を持ってきたのですが、そのプロダクションをウチ(コギトワークス)がやっているんです。日本での撮影は一緒にやっていたので、その企画で釜山のAPM(Asian Project Market) でポスプロの賞を獲って賞金をもらっているところや、別の企画もワーク・イン・プログレスに持ってきていることを見てきました。
「僕よりも若い世代がこのような動きをする時代になってきているんだ!」とビビットに感じます。そのような動きをしている方はまだ日本にはあまりいないので、やったほうがいいと思いました。
後藤 あ、そのシンガポールのプロデューサー、分かります。彼らが率いているチーム、すごい勢いでしたよね。3人ぐらいのメンバーで来ていましたが、全員が同じ熱量でピッチをしているので「すごい!こんなチームがいたらすごく心強いだろうな」と…。輝いて見えました。
鈴木 シンガポール自体が小さく、もともと外と組まないとやっていけないのでその能力が発達していくのかもしれませんね。
日本は長く国内マーケットだけで成立してきましたけれど、これからは彼らのようなやり方を学ぶべきだと思います。
僕は制作プロダクションに所属しているので、実制作の部分でサポートしてコネクションを作れることも面白いと思いました。そこで知り合った方たちと別の企画を今後一緒にできるかもしれません。コラボレーションの形が広がったのは釜山、ウディネに参加してより具体的になって、今後10年いろいろなことができると楽しみになりました。
◆ プロデューサーとして脚本・脚本家とどう向き合うか?
伊藤 ちょっとトピックを変えます。今回の研修は、VIPOが昨年から始めた「VIPO Film Lab」脚本コース、これは“脚本家向け”ではなく、プロデューサー向けの脚本コースですが、それに連動して企画しました。
プロデューサーの方にはいろいろなスキルと能力が求められると思います。VIPOのプロデューサー養成講座 では、講師の安藤紘平先生(映画監督・早稲田大学名誉教授)が「プロデューサーは脚本を書けることが理想」と説いてらっしゃいます。プロデューサーとして、脚本や脚本家の方にどのように向き合っているのでしょうか?
鈴木 僕は書いていないので、ひたすら監督にいろいろ言い続けます。
小山内 僕も書きません。製作のために集まってくるたくさんの人が同じ方向を向くための「こういうものを作ります」という情報が全て詰まっているもの、それぞれのパートの方が自由に創造性を発揮するためのもの、それが脚本なんだと思っています。
日活の助監督から始められて、相米慎二監督作品などをつくった伊地智 啓さん(映画プロデューサー。1936年〜2020年)が「プロデューサーの仕事はホン(脚本)を作ること」だとおっしゃっていたのを聞いて、きっとそうなんだろうなと信じてやっています。
伊藤 プロデューサーとしてやるとのモードは違いますか?
後藤 読んでいるときに自分の頭の中で映像化して、観客になったつもりで観たときに違和感を持ったところは、本打ち(脚本の打ち合わせ)のときにコメントをしています。
ただ、まだ、脚本を読めているという状態が何かを自分の中でしっかり掴めていない部分があります。脚本を読んでもらったときに、様々な観点から適切にフィードバックして他の方が気づかなかったことを指摘できる方がいると、「本が読めているとはこういうことだな」と思います。
自分がその段階にいくために、もう少しその勉強をしなければならないと思っています。それは脚本をたくさん読むことだったり、脚本のセオリーを学び続けたりすることだと思っています。
伊藤 それならぜひ、安藤先生の「プロデューサー養成講座」を受けてみてください(笑)。
鈴木 僕は、早稲田で安藤先生の授業を受けていました(笑)。
脚本家を志していたことがあるので、自分が書けないし自分が書いたものが面白いと思えないところから入っています。ある種、挫折と絶望から映画に入ったので、僕にはいい脚本は何かというロジックはありません。自分が書いたものを面白いと思えなくても、自分が面白いと思える脚本は存在するのでそれを信じています。
あとは内容を良くしていくためにどうするかを話すのは得意です。
と言っても、スクリプトドクターのような論理的なアドバイスは自分にはできないと思っています。書くのは僕ではないので、あえて良くないアイディアを出して「これはダサいですよね」と言っていると、書き手が何かを思ってくれますよね。本打ちは、その「何か」を引き出す場だと思っているので、作家自身から新しい発想が生まれるよう意識しています。
プロデューサーのアイディアをそのまま書いても作家はモヤっとすると思いますし、こちらも自分の想像の範疇に収まる作品は嫌だと思っています。その人の想像力を信じて一緒にやっているので、自分が思ったようにしたいと思ったことは一度もありません。無駄話をしている中で、1週間後にその人の中に何かが芽生えればいいなと脚本を作っているときは思っています。
あとは自分が企画だけでなく実制作をする能力があるので、予算コントロールについては身の程を知る立場で話すことができます。
1本目で、予算も集まっていないのに、飛行機を墜落させようとしたりとする方が時々いるんです。面白ければ何書いてもいいわけではないので、脚本自体をプロデュースすることも必要だったりします。実現できる内容を書くようにと伝えることは、面白い内容を書くこととは別で言えることです。
実現性が高くないと損をするのは作家自身です。1年も2年も費やして何にもならないことを防ぐために、今の実力と評価から集まる可能性のある予算を伝えれば、やれることの範囲を早めに伝えることができます。低予算でたくさん作ってきたので何ができて何ができないかはよくわかります。
◆ 今後の展望とVIPOに期待すること
伊藤 みなさん、「TTB(Ties That Bind) 」のワークショップを次のステップとして考えているようですが、そこに対してはどのような期待がありますか? あとVIPOに今後期待することも教えてください。
小山内 VIPOに期待することは交通費に決まっているじゃないですか(笑)。
一同 (笑)
伊藤 さすが、資金調達にアグレッシブですね(笑)。
鈴木 プロデュースした作品が、国がお金を出すに値する作品で、利益を出すと証明できれば、3人分くらいは出してもらえるんですかね。台湾チームなどはみんな助成を受けて来ているようで羨ましかったです。
伊藤 「TTB」に関しては何かコメントありますか?
小山内 行きたいな〜と思いました。ネットワーキングが重要だと、今回改めて思いましたので。
鈴木 「TTB」や「トリノ映画祭 」のラボなどいろいろなものがあることを知れたので、まず僕の場合は語学です。ひとりでコミュニケーションをとれるレベルに達することが目標です。ひとりで参加することが1つ具体的な目標になりました。
VIPOに期待することは、企画プロデューサーと実制作のプロデューサー間のコミュニケーションがあまり取れていないと感じているので、国際共同製作の企画を立てているプロデューサーと、日本の町場のプロダクションや合作のできるプロダクションなど制作サイドとのマッチングや交流イベントなどを主催してもらえたら嬉しいです。
企画者がプロダクションを探しているときに、選択肢や情報が少なかったりする部分を解消できると、国際共同製作の企画自体が成立する可能性が高くなると思いました。何を作るかと、どう作るかの話がスムーズにできるといいなと。
伊藤 それは海外も国内もですか?
鈴木 はい。海外作品が日本でロケをする場合、実績のあるプロダクションの候補をVIPOのような組織が窓口になっていくつか紹介してくれると分かっていれば、向こうも話がしやすくていいと思います。斡旋にならない仕組みの工夫は必要になってくるかもしれませんが。
後藤 「TTB」は脚本をインテンシブに読むコースだと聞いています。脚本を読むことで知れることも多いと思うので、いろいろな国の社会や映画のことを学んだり、自分自身のクリエイティブのレベルを上げたりすることができたらいいなと思っています。
VIPOのおかげでいろいろなワークショップに参加できているので、これからも引き続き参加することが一番の目標です。
伊藤 我々VIPOは、皆さんからの期待にどのように応えていけるか考えないといけないですね。みなさんの今後のご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
「ひらめきやエネルギーは国際映画祭やマーケットに参加すると生まれる!」〈前編〉はこちら
記事のポイント! 「国際共同製作を成立させるために準備しておきたいこと」
◎ 自分が作りたい映画はどのような映画なのか、なぜ国際共同製作を目指すのか、よく考える
◎ 数年先を見据えて、古びない普遍性のあるテーマを考え、企画を立てる(国際共同製作は時間がかかる)
◎ 脚本を「書く」「読む」力をつける
◎ 作りたい映画の内容を明解に、魅力的に、簡潔に伝える力をつける
◎ 英語(特にスピーキング)を本気で勉強する
◎ 国際映画祭、併設マーケット等に積極的に参加し、海外の映画人とのネットワークを構築する
◎ 国内外の企画マーケットやラボなどに積極的に参加し、企画・作品への評価・フィードバックを受ける(反応を見る)
◎ 各国の助成金に関する情報を常にアップデートする(助成金制度は毎年変わるものが多い)
◎ 製作費をコントロールする力をつける
◎ 何ごとにも前向きに、果敢に、ときには柔軟に、だが決してブレずに取り組める心身のタフさを身につける(国際共同製作は長期間に及び、停滞したり、中止になることがよくある)
小山内照太郎 Terutaro OSANAI
Survivance 映画プロデューサー/翻訳家
1978年、弘前市生まれ。京都大学総合人間学部卒業。2003年に渡仏以後、プログラマー・コーディネーター・翻訳・通訳として、青山真治、黒沢清、北野武、山中貞雄、日活、相米慎二などのフランスでの特集上映に関わる。ナント三大陸映画祭の日本映画コンサルタント(2009年?2016年)を務めながら、井口奈己、富田克也、濱口竜介、深田晃司、真利子哲也、佐藤零郎などの新世代のインディペンデント映画作家をフランスで初めて紹介する。2014年のカンヌ国際映画祭では、それらの映画作家とプロデューサーが参加した国際共同製作ワークショップGateway for Directors Japanを主催。以降、フランス・ヨーロッパとの国際共同製作を前提とした映画製作を開始し、富田克也監督『バンコクナイツ』(2016)、『典座ーTENZOー』(2019)をそれぞれロカルノ映画祭とカンヌ国際映画祭批評家週間で発表。2021年にフランスの映画製作・配給会社Survivance (シュルヴィヴァンス)に参加。最新作『やまぶき』(山﨑樹一郎監督)は、日本映画史上初めてカンヌ国際映画際ACID部門に招待され、4カ国の国際映画祭で受賞。第4回大島渚賞受賞。また、ライフワークとして、フランスの制度をモデルにしながら、日本の地方での映画鑑賞教育の普及を行なっている。字幕翻訳は150作品以上を担当。2020年、フランス最大のドキュメンタリー映画祭Cinema du Reel の長編コンペティション部門に審査員として招待された。 Survivance公式サイト https://www.survivance.net/ja
※Survivanceが修復を行った相米慎二監督『お引越し』(1993)4Kデジタルリマスター版が「第80回ヴェネチア国際映画祭」最優秀修復賞を受賞しました。
鈴木徳至 Tokushi SUZUKI
株式会社コギトワークス 映画プロデューサー
1986年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、株式会社ディレクションズにて主にNHKの番組制作を担当。2011年に独立後、初プロデュース作である短編映画『隕石とインポテンツ』がカンヌ国際映画祭・短編コンペティション部門に出品され、次作である中編映画『ほったまるびより』は文化庁メディア芸術祭にて新人賞を受賞。長編作品としては、『枝葉のこと』がロカルノ国際映画祭・新鋭監督部門、『あの日々の話』が東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門、『王国(あるいはその家について)』がロッテルダム国際映画祭に正式出品後、BFI(英国映画協会)の2019年日本映画ベストに選出されるなど、国内外の映画祭や批評家から高い評価を受ける作品を数多く手掛けてきた。2019年、株式会社コギトワークスに入社。近年は『街の上で』『うみべの女の子』『ムーンライト・シャドウ』などの話題作でラインプロデューサーを務めるほか、プロデューサーとしても『僕の好きな女の子』『餓鬼が笑う』『逃げきれた夢』(2023年のカンヌ国際映画際ACID部門出品)など、精力的に作品を発表し続けている。
コギトワークス公式サイト http://cogitoworks.com/crew/10/
後藤美波 Minami GOTO
映画プロデューサー/監督
静岡県出身。東京大学で美術史学を学んだのち、渡米して映画制作を学ぶ。コロンビア大学大学院フィルムスクール修了。日米で数々の短編映画を執筆・監督・プロデュースした経験を持ち、作品はシンガポール国際映画祭やロングビーチ国際映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル等、各国の映画祭で上映されている。プチョン国際ファンタスティック映画祭ワークショップ、Rotterdam Lab、京都フィルムメーカーズラボ等にも参加。現在は東京・静岡・京都をベースに活動。
関連インタビュー
新着のインタビュー記事はメールニュースでご案内しています。
よろしければ、こちらよりご登録ください。