VIPO

インタビュー

2019.10.16


「日本のアニメの未来〜“デジタル化”と“国際化”〜」――日本が名誉国となったアヌシー国際アニメーション映画祭2019を終えて
日本のアニメ―ション業界が世界で戦っていくためには、良い人材の確保と意識改革が必要とされています。今、世界では多くの若手クリエイターを育て、実際に有能な若手クリエイターがどんどん出てきています。今回は、「アヌシー国際アニメーション映画祭」へ毎年通い、2019年Annecy2019総合ディレクターであり、東京藝術大学 副学長を務める岡本先生に、アヌシーでの成果、日本と世界の若手アニメーションクリエイターの今と未来について伺いました。

(以下、敬称略)

 
 

「アヌシー国際アニメーションフェスティバル 2019」における
日本のアニメーション特集

「NEW MOTION」「Creator’s File 100」の企画意図とは?

 
VIPO統括部長兼グローバル事業推進部部長 森下美香(以下、森下)  岡本先生とは、2018年初めてアヌシーで東京に焦点を当てた「TOKYO SCRAMBLE」という東京にまつわる作品や作家さんの企画展をキュレーションしていただいたのがスタートでした。
 
そして今年、日本が“名誉国”になるにあたって「多くのクリエイターを世界に出していきたい!」という岡本先生の熱い思いを「NEW MOTION -THE NEXT OF JAPANESE ANIMATION-」いう企画にまとめていただきました。
 
どうしてこの企画をやるべきだと思ったのですか?
 
東京芸術大学 副学長 岡本美津子(以下、岡本)  俯瞰的に言うと、今、日本のアニメーションは将来に向かってたくさんの課題を抱えていて、次のステップや次のモーションを考えて行くべき時期にあると思います。
 
ひとつはメディア環境の変化、“デジタル化”の部分が大きく、課題のひとつは“国際化”だと思います。文化庁の事業として、たくさんの方が事業に携わるので、一過性の“お祭り”ではなく、その2つに資する何かをやるべきだということが根幹にありました。
 
“国際化”について言うと、もともと日本のアニメーションは海外からも影響を受けて発展していますが、その後の展開がある意味で“幸せな状態”でした。これだけ世の中がグローバル化していく中、“国際化”を改めて考え直すべきだと思いました。その時に、一番課題になるのが、(1)国際的な人的交流と、(2)意識の啓蒙だと思います。
 
アヌシーは80カ国が集まる、インターナショナルな映画祭ですから、そこに日本のアニメの次世代を担う方たちを派遣し、国際的な意識の啓蒙と交流が行われることを目指し、そのために、第一線で活躍している若手の方に行っていただくことから始めたほうがいいと思いました。
 
そこで思いついたのが「100人のクリエイターを連れて行こう!」という「Creator’s File 100」です。100はあくまで目標値ですが、それだけたくさんの方を連れて行きたいという思いでした。
 
森下  それが今回の「NEW MOTION Creator’s 2019」ですね。
 
岡本  そうです。また逆に、それがアウトバウンドだとするとインバウンドの国際交流もやるべきだと思っています。日本のアニメに興味を持ち、敬意を払ってくれる若者たちをいかに日本アニメに引き込むか。そういう意味では海外の若者に向けても啓蒙やアピールをしたいという、インバウンドとアウトバウンドの両方をアヌシーというプラットフォームを使ってやるべきではないかと考えました。
 
映画祭は単に上映だけではなく、もっとダイナミックなものだと思っています。今回のアヌシーで、イベントやワークショップ、レクチャーなど多方向からのキュレーションができたことは大きかったと思います。
 
岡本  「NEW MOTION」、「Creator’s File」について言えば、今回は26名を連れて行きましたから、次はNo.27からにして、さらに色々な制作者たちをフィーチャーしたほうがいいと思っています。今回行けなかった方にもぜひ機会を与えるようにしていければと思っています。1人ひとりがとても素晴らしいんですよ。
 
森下  拝見しましたが、作品が全然違いますよね。
 
岡本  作品と実力と、これだけの人材がいるということをどんどん知らしめていきたいですよね。これが日本の場合、商業アニメにも短編アニメにもいます。特に商業系は隠れた人材を掘り起こしてスポットを当ててあげることをすべきです。
 
森下  「Creator’s File」は来年以降も、「100」を目指して続けていくことが大事ですね。
 
日本の若手クリエイターの多様性

 

森下  今回、日本の若手作家をまとめて連れて行かれましたが、1番の日本の強みは何でしたか?
 
岡本  多くの人材がいるということが分かったことです。“多様性と数”ですね。
 
アニメーションの仕事に携わる方が日本は多いと思うんです。世界で知られているのはジブリや、最近では新海 誠さんなどですが、名前は表にあまり出ていませんが、日本のアニメーションを支えている方たちまで含めて、多くの素晴らしいアニメーションの才能が集っている国だということが少しでもわかってもらいたいと思いました。
 
日本はテレビシリーズやOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)、劇場など全て合わせるとアニメーションの制作タイトル数が世界一の国です。つまり、若手が作るチャンスが多い、まさには世界一のアニメーション大国だと言えます。若手に活躍の場がこれだけあって、人材の宝庫でもあり、裾野が広い国だということがとても良くわかってもらえたと思います。
 
森下  そうですね。確かに人材の宝庫ですよね。
 
岡本  日本のアニメーション文化を支えているのは、現場のプロフェッショナルたちです。今回、そのような方たちをフィーチャーしましたが、このような方たちこそ、日本のアニメーションを支えているということをわかってもらいたいんです。実際、彼らは現場で新しい表現を自ら切り開いています。
 
森下  今回「NEW MOTION」のメインビジュアルの近藤綾乃さんは岡本先生の強いご推薦で選ばせていただきました。アンテナを張り巡らせている先生だからこそ、彼女をご存知だったのだと思います。近藤さんに関して先生はどのように知って、どうしてメインビジュアルに起用しようと思ったのでしょうか?
 
岡本  近藤さんを知ったのは20数年前くらいです。私がやっていたクリエイターを評価する番組『デジタル・スタジアム』に、彼女が多摩美術大学の卒業制作を応募してきてくれて、グランプリをとったんです。それを見たとたん、「この子はすごい!尋常じゃない才能だ!」と思いました。
 
彼女のすごいところは、アニメーションも作るし、漫画もエッセイも書くというマルチタイプということ。しかもアメリカで自然体で暮らしています。全てを軽々と飛び越える人で、ある意味1カ所にとどまらない人なんです。彼女のようなスタンスが非常にコスモポリタンと言うか、グローバリスト、新しい世代だと思うんですよね。
 
森下  近藤さん以外の方は、ほとんど日本から出たことが無い方たちでした。近藤さんみたいな方がたくさん出てくると、日本と世界の垣根を越えて出ていけるということが具現化していくのだと思います。
 
岡本  日本に住んでいるとか日本国籍ということは全く関係なく、今後は、日本が世界のクリエイターを束ねてネットワークを広く持っているということが重要だと思っています。
 
アヌシーで日本のアニメクリエイターは?
 
森下  アヌシーに行かれたクリエイターの方とお話しして、印象に残ったコメントや刺激を受けたと感じた瞬間はありましたか?
 
岡本  特に商業アニメの方たちは、普段忙しくて海外に行くチャンスが無かったらしく、戸惑いもあったようですが、その中でも監督の内海紘子さんは、今回のアヌシーの光景や体験は、今後の自作に大きく役に立ちそうだとおっしゃっていました。
 
小林寛さんは自分の作品の細かいところまで見てくれているオーディエンスが世界にいる。アニメーションは、テレビや映画に限らず、作品を作れば世界に通じることを肌身で感じられたとおっしゃっていました。
 
森下  今回、坂本サクさんが、アヌシーでブレイクしましたね。取材とかすごかったです。
 
岡本  坂本サクさんも短編アニメからの方だったので、そこはサクセスストーリーとして応援したいですよね。作品のクオリティも非常に良かったですし、頑張ってほしいです。
 
森下  「ザグレブ国際アニメーション映画祭」に直前呼ばれて、アヌシーに入ったんですよね。ザグレブでもお声がかかったそうです。
 
ところで岡本先生はアヌシーへ何年くらい行かれていますか?
 
岡本  初めて行ったのは13年前なので、歴史は浅いほうです。もちろん名前は聞いていたし、行きたいと思っていましたが。(※「アヌシー国際アニメーション映画祭」は、1960年「カンヌ国際映画祭」からアニメーション部門を独立させる形で創設)
 
森下  13年前に初めて行かれたとき、岡本先生ご自身はどう思われました?
 
岡本  すごく素直に「戦う場はこっちだ!」と思いました。
 
森下  当時のアヌシーでは、短編のアート系が強かったと思いますが、そこでも日本人は、どんどん出ていけると思われましたか?
 
岡本  そうですね。手塚治虫先生も以前からアヌシーに入選していて非常に高い評価を得ていたので、これまであまりにも一般の日本人が行かなさ過ぎていたのかもしれませんね。
 
森下  今回、学生さんも連れて行かれましたよね。いかがでしたか?
 
岡本  すごく影響を受けていました。目の色が変わったと思います。自分たちがいかにぬるま湯にいるかがわかったと思います。学生同士もだいぶ交流しましたし、作品を通じて会話が成り立って喜んでいました。若手のクリエイターだけではなく、学生や私たちのような熟年者にとっても刺激と学びがあるので、アヌシーに限らず映画祭にはパワーがあると思います。
 
世界の学生が日本のアニメーターから学ぶ―フランスで有名な押山清高氏
 
森下  今回は、才能からいうと、押山清高さんがアヌシーで“スター”になっていると思いました。200名以上の学生さんに「MIFAキャンパス」という作画教室をやりました。教え方もとても丁寧でしたね。「MIFAキャンパス」は10分で完売。日本人で押山清高さんの名前を知っている方はあまりいないのに、フランスの学生があれだけ知っているということがすごいですよね。
 
岡本  押山さんは日本の誇るべきアニメーターですよね。何でこんなにきれいな線が描けるのかと思いますが、彼はそれをきちんと言葉でロジカルに表現できるのが素晴らしいですね。
 
日本の宝として、押山さんクラスの方は何十人もいらっしゃいますが、押山さんはそのトップの1人です。そういう方をどんどんフィーチャーしていきたいですね。
 
押山さんは垣根が無い方です。現に彼がWeb上で行なっている添削教室も世界中から応募を受け付けていますし、ご本人はアニメーターであり、監督でもある。色々な意味で、とてもグローバルな方ですね。
 
森下  そうですね。私も垣根を越えていくのを感じました。スタジオドリアンさんが押山さんの自信作を海外の出資を募りながら作って行く動きもあります。こういう方がアヌシーをステップにどんどん外に出て行ってほしいですね。
 
岡本  日本のグローバル化として、海外の才能のある若者たちに学生の頃から日本を意識してもらうという点では、「MIFAキャンパス」は成功したイベントの一つですね。
 
森下  あとは、「アニメーション・ブートキャンプ」ですね。
 
岡本  「アニメーション・ブートキャンプ」は、毎年日本で行われている少人数の学生に日本のトップクラスのアニメーターが徹底的に作画を教える贅沢なワークショップです。今回はフランスでアニメーションを学ぶ学生25人が参加しましたが、全員がアンケートで「大変良かった」に〇をつけていました。
 
今回は、押山清高さん、板津匡観さん、りょーちもさんの3人のトップアニメーターが講師となり、手取り足とりアニメーションの奥義を教えていました。「ブートキャンプ」の精神はテクニックを教えるのではなく、アニメーションに向かう「姿勢」「考え方」「コンセプト」を教えることをモットーとしています。
 
AIとアニメーションなど最先端技術を取り入れる
 
森下  ヴィヴァルディの『四季』のAIコンサートが素晴らしかったですね。岡本先生はずっと新しいアニメーションの形をコンセプトにしてきましたが、特にこの『四季』の企画についてご説明ください。
 
岡本  これはアニメーションの新しい楽しみ方の提案です。料理で言うとフルコースや懐石料理など、一番贅沢な部分の鑑賞の仕方だと思うんです。
 
アニメーションは映画としての伝統があるので、スクリーンで見るのが一般的ですが、生のオーケストラとともに楽しむ一期一会のような鑑賞の仕方、200名だけでその場を占有するような贅沢な楽しみ方をしてもいいと思います。
 
ライヴの贅沢さってそこですよね。ゴージャスな体験とはこういうことだと思います。アニメーションがそこに寄与できる余地はすごくあると言いたいですね。
 
森下  今回の『四季』は、AIの生演奏技術に合わせて映像が変わったのですか?
 
岡本  双方がベストパフォーマンスで上映するために、そのタイミングやボリュームをAIでマッチさせていけるように、テクニカルチームが開発しました。
 
森下  新しいゲームの形として「PROJECT A to G -アニメーションからゲームを作るプロジェクト-」についてもお話していただきたいです。
 
岡本  アニメーションってスクリーンにとどまらないものだと思いますし、関わる方の能力は驚くほど高いので、ゲームにもアニメーションのディレクターの才能が投下できれば、ゲームの世界をもっと豊かにできると思います。アニメーションの制作者が関われば、もっと豊かなビジュアルや物語性を持つゲームができるということを今、信念として持っています。
 

 
今回紹介したのが3作品(小光さん、谷耀介さん、薄羽涼彌さん)+和田淳さんで4つのゲームでしたが、もっと紹介したかったです。
 
岡本  今後もこの「PROJECT A to G」は、私たちの学校でもゲームコースを中心に作っていこうと思っています。将来、アニメーションかゲームか、VRかMRかとかもわからなくなると思うんです。そういうところにアニメーションの裾野の広がりがあってトータルでアニメーションと言えると思っています。垣根はないと。
 
森下  皆さんブースで触っていましたね。実際に体験できるので、やってみると難しかったですが、面白かったです。
 
岡本  アニメーションのディレクターやアーティストの方たちの才能は本当に素晴らしいです。「このクリエイティブティをもっと使わないともったいないよね。」というところが根底にあるんです。
 

フランスのアニメーションと近年のトレンド

フランスのアニメ教育・人材のレベルの高さ
 
森下  今回のジャパンブースの中でMIFAリクルーティングというカウンターを設けたところ、4日間で200名以上の日本で働きたいという学生の希望がありました。アニメスタジオの職種では2Dアニメーションで働きたい方がトップでした。様々なスタジオを、フランスの学生さんたちは知っていたことにとてもびっくりしました。
 
これからフランスの学生が日本のアニメスタジオで働いたり、オンラインで働くような環境についてどう思われますか?
 
岡本  公的助成も含めてどんどんやるべきだと思います。才能ある方は世界中にいらっしゃって、その方たちと組まない手はない。
 
森下  フランスの方のレベルは高いですか?
 
岡本  ものすごく高いです。日本人もフランス人も、実力のレベルはさまざまですが、“アニメーション教育”という意味ではフランスのほうがずっと早くから行われています。
 
パリ滞在中に、GOBELINS(ゴブラン)というフランスでトップクラスのアニメーションの学校に行ってきたのですが、世界中から学生が集まっています。学生の熱意がすごいですし。日本から「藝大が来た!」って(笑)。上映会をやったのですが、すごく喜んでくれました。フランスは意識が高いですね。
 
アニメーションのバックグラウンドとなる映像教育や美術教育の歴史は古いので、逆に私たちが学ぶべきスキルのある若手クリエイターはたくさんいて、その方たちが世界中でアニメーションの職を求めている状態です。日本はそういう方たちを雇用すると、もっとクオリティと生産性が上がると思います。
 

若い監督が多く出てきていることに注目
 
森下  長編部門でグランプリをとった『I Lost My Body』、これは御覧になりましたか? 今年のトレンドとかはわかりましたか?
 
岡本  『I Lost My Body』も人間や人生を考えさせられる、いろいろな哲学が入っていて、いわゆる商業作品のようなわかりやすい作品ではない、より“本質的な表現”の作品だと思いました。
 
その他に「楽しい」「かわいい」作品も多くみられましたが、非常にメッセージをもった社会派の作品が多かったように感じました。
 
森下  昨年も、そういった作品が賞を取っていますよね。アヌシーの傾向は表現の新しさが評価されているのですか? それとも内容ですか?
 
岡本  これはその年の審査員によっても違いますが、ここ数年はしっかり内容を評価する審査員が増えています。日本のアニメだから評価されるようなことは全くなく、テーマやコンセプト、そして“いかに人間やその世界を深く描いているか”がすごく重要視されていますね。
 
森下  他にはいかがですか?
 
岡本  ここ数年の特徴と言うと、監督世代の若返り化です。特に短編。『I Lost My Body』のジェレミー・クラパン監督もそうですが、いわゆる大御所から世代交代した気がします。監督やスタッフがすごく若返ってきていて、若手スターが出てきていると思います。10年ごとに次々と新しい才能が出てきていて、その方たちが、新しいものを開発している感じがします。
 

アートとコマーシャルの垣根を取り払った先に
 
森下  アヌシーでは、コマーシャルとアート系のアニメーションが混在していると思うのですが、アート系でデビューした作家はそのままアート作品を発表していくのですか?
 
岡本  インターナショナルにはアートとコマーシャルという分け方はあまりありません。アヌシーでも短編・長編くらいの区分けしかないですが、短編の方がよりアーティスティックな表現が多いかもしれません。日本では、新海誠さんが典型的な例ですが、短編の個人製作から始まって、長編監督になる例も多くみられます。
 
『I Lost My Body』のジェレミー・クラパン監督も、短編でアヌシーに入選して、今回、長編グランプリを受賞しました。このようなキャリアパスはどんどん出てきてほしいです。
 
日本のマーケットでは、あまりアート系の長編は作られないので、『I Lost My Body』のような企画は難しいと思います。でも、世界ではこういう企画にお金が集まるマーケットがあるので、日本の短編作家たちにも国際共同制作のチャンスが出てきて欲しいです。
 
森下  コマーシャルは売れることを意識して作らざるを得ないと思いますが、アート系の作品は比較的と自分の想いを込められるのではと思います。クリエイターとして発想を変えれば、両面を持ち続けられるのでしょうか?
 
岡本  作るものの目的や表現が違っているだけで、作り手はそこの区別はしていないと思います。
 
例えば片淵須直さんの『この世界の片隅に』も、アートと言えばアートだし、商業作品と言えば商業作品ですよね。原作もそうですが。最終的にはビックヒットしたので商業作品と言えるのかもしれませんが、あの作品には非常に深い思索とメッセージそれにビジュアル的な革新性が込められています。垣根がないほうが面白いものができるのではないかと思います。
 

日本のアニメーションのゆくえ

もっとアニメーション教育に力を入れていくべき
 
岡本  日本はこれだけアニメ大国なのに、アニメーションの教育カリキュラムがいまだに少ないです。
 
森下  押山さんの「MIFA CAMPUS」での質問シートを見ると、細かいところまで聞きたがっている方がこんなにいるんだと思いました。
 
日本でも、そういうイベントをやるのは、いかがでしょうか?
 
岡本  たまたま先日、文化庁事業として毎年日本で行なっている「アニメーション・ブートキャンプ2019」のワンデーという1日カリキュラムを行なったのですが、45席がすぐ埋まりました。もちろん日本人ですが、これを海外に公開したら、日本のアニメに学ぼうという熱意が高い学生がたくさん集まるかもしれません。
 
森下  海外の方が来たときに、わざわざ学ぶんですよね。レアな機会なので、その時しか学べないとモチベーションが上がりますよね。とはいえ、日本のアニメーションの優位性を維持していくためにも、今後、日本の教育をどうしていくかは大変な課題ですよね。
 
岡本  大変です。日本のアニメーションの生き残りをかけて、 “グローバル”は取り組まないといけないと思います。人材確保も含めて。むしろ、優秀な方が来てくれるなら法律も改正してもいいくらいだと思います。
 
森下  サイエンスSARUさん等では、外国の方を採用していらっしゃいますが、そういうスタジオはすごく少なくて、多くのスタジオが「英語ができないからダメだ」とおっしゃっていました。言葉の問題についてどう思われますか?
 
岡本  アニメーションだから言語が流暢に話せることはそこまで必要ないですよね。現在は心理的な壁のほうが大きいと思います。日本人のアニメーターにいきなり英語を話させるのではなく、会社や業界のシステムとして、コミュニケーションを担う方がもっといるべきだと思います。言葉の壁があるなら、繋げる人材を置かないといけませんよね。
 
森下  スタジオの方たちが、全部自分たちでやっていくのは大変なので、未来は緩いコラボレーションの形になっていくのでは? と言う話は聞いたことがあります。そのあたりも含めてどういう形がいいと思われますか? 
 
岡本  日本のアニメーション業界全体を束ねたり動かしたりというのは大変だと思うので、サイエンスSARUのような成功事例を1つでも多く作っていくことでしょうか。従業員の多くない会社で、作品ごとにいろいろな才能を束ねていくというプロダクションが新しい展開を生んでいくのだと思います。
 
湯浅政明さんは、アートや商業も全く垣根のない作品を作りますよね。とんがった表現をする方たちをもっと勇気づけたいですね。押山さんがやろうとしていることも、そこだと思います。新しい短編を1人プロダクションで作っていくことにトライしているので。野心的な人を応援したいですね。
 
森下  ディズニーのような大企業にも伺ってみたいですね。彼らは彼らで悩みがあると思います。マスプロダクションに入ると個人名は表には出てこないですし。
 
岡本  ディズニーやピクサーは巨大産業ですから、中で誰が書いているかは見えにくいですよね。大人数で共同作業を行なっているので、どうしてもクオリティを均一化する方向に持って行ってしまいます。それに比べて、日本はやはり個人の裁量が任される環境があると思います。またこれは押山さんがおっしゃっていたのですが、たくさん仕事があるので、冒険しても(たとえ少しうまくいかなくても?笑)許される環境にあると。そのおかげで作品ごとに、ビジュアル的な革新が見られるのが日本の強みだと思います。
 

日本のアニメ業界に今足りないもの、これから期待されること
 
森下  先生から見て、今の日本のアニメ業界に足りないものは何でしょうか?
 
岡本  デジタル化を推進するためのハード面、システム面の充実と、世界中から優秀な人材を確保できるための仕組み作りです。そのための予算をどう確保すべきか、真剣に考えなくてはいけません。更には優秀なマネージャーやプロデューサーが足りていないと思います。かといってプロデューサー育成講座をしても、一朝一夕には育たないですしね。
 
森下  私たちもプロデューサー人材を少しずつでも支援したいと思っています。
 
来年のアヌシーでは、日本は“名誉国”ではないですが、続けて出て行ったほうがいいと思っています。日本のアニメーションのスタジオさんとかに、アヌシー活用のアドバイスやメッセージをいただけますか?
 
岡本  ぜひ、一緒に行きましょう。スタジオの経営者のみなさま、まずはアヌシーに若手を送ってください。
 
今回は、すべての面倒をみる余裕がありませんでしたが、横にいてずっと案内係をしたかったです。アヌシーを教育の場とする研修旅行を組み立てて、日本の産業アニメーターの方たちを連れて行きたいですね。アヌシーのツアコンをやりたいですね。(笑)
 
森下  それ、できそうですね。やりますか? 各社さんで送り込んでくれたら、国の助成が無くてもできそうですよね。
 
岡本  モチベーションは必ず上がると思います。アヌシーに行ったから、必ずしも上手くなったり、作品が売れることはないと思いますが、ただ「この業界で働きたい」というモチベーションと、「自分の仲間やライバルが世界中にいる!」という意識があると、将来、絶対にいい影響があると思います。
 
森下  日本もアニメ大国なのに、なぜアヌシーのような役割を日本ができなかったのか……とよく思います。
 
岡本  皆さん、努力は続けられていますが、日本の場合、公的助成金が単年度単位が多いので、何年度にもわたって、人員の稼働が必要なフェスティバルのようなものは、なかなか維持しづらいですね。
 
森下  アヌシーはアヌシー市でやっているのですよね。やろうと思えばやれそうですよね。
 
岡本  私も日本もやるべきだと思います。本当はそれが一番近道だと思いますね。でも、まずは、私はアヌシーのツアコンから(笑)
 
森下  そうですね(笑)。本日はありがとうございました。

 
 

岡本美津子 Mitsuko OKAMOTO
プロデューサー/東京藝術大学副学長、同大学院映像研究科教授/Annecy 2019 総合ディレクター

  • 数々のテレビ番組や映像、イベント等のプロデュースを行う。
    主なプロデュース番組に、『デジタル・スタジアム』(2000-2006)、Eテレ月~金放送中の『2355』『0655』(2010~)、Eテレ『テクネ~映像の教室』(2011~)。主なプロデュースイベントに「デジタルアートフェスティバル東京」(2003~2005)、「東京藝術大学ゲーム学科(仮)展」(2017)「東京藝術大学ゲーム学科(仮)0年次制作展」(2018)、「ART of 8K」展(2018)など。
    メディア芸術祭海外展アヌシー2018年に引き続き、2019年の総合ディレクターを務める。


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