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大きなポテンシャルのある東南アジアにいかに挑むべきか? ――AFA*創設者ショーン・チン氏が語る、日本企業の強みと弱み、他国の戦略から学ぶこと
大きなポテンシャルのある東南アジアにいかに挑むべきか? ――AFA*創設者ショーン・チン氏が語る、日本企業の強みと弱み、他国の戦略から学ぶこと
AFA(Anime Festival Asia)や各種J-POPカルチャーイベント等を10年以上にわたり運営し、日本と東南アジアとの接点を作ってきたSOZO社の代表ショーン・チン氏。東南アジア(特にシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン)でのエンタメビジネス(アニメーション、音楽、ゲーム関連業界)の現状、そして、セミナー後には日本のコンテンツ業界の課題と可能性について語っていただきました。
ショーン・チン氏(SOZO Pte.Ltd. 創業者・代表取締役)[略歴]
(以下、敬称略)
〈前編〉東南アジア基本情報(セミナーからの抜粋)
東南アジアは中国大陸とオーストラリア大陸の間の11ヵ国のことを示し、人口は合計で約6.5億人、東ティモールを除く10ヵ国がASEAN加盟国。主要6ヵ国である、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムに東南アジアの経済の95%が集中している状況。GDPは2008年の150兆円から2018年には284兆円まで伸び、直近の10年間でほぼ倍増。特にインドネシアは非常に高い成長率を誇り、ここ10年間で約36%以上の伸び率で、約100兆円以上のGDPを産出。主要6ヵ国の経済規模は2020年までには世界で5番目になるということが予想されている。
1)シンガポール共和国
シンガポールは多民族国家で、主に中華系、マレー系、インド系の3民族で構成されている。公用語は英語で、その他母国語としてマレー語、中国語、タミル語等がある。学校では英語で教育され、各家庭では両親の母国語を話すため、生まれつきのバイリンガルという方たちが非常に多い。人口の約84%の方がインターネットを利用。インターネットの利用者のうちほぼ9割以上の方が何らかのSNSを利用。同じく約9割以上の方がモバイルフォンを利用。使用デバイスの普及状況は、スマートフォン、タブレット、PC、TV、アップルウォッチ等のウェアラブルのデバイス。SNSでは、Facebookが非常に強い。YouTube利用率も非常に高い。チャット系アプリでは、WhatsApp(ワッツアップ)がダントツに強い(日本ではLINEが強い)。昨年度の検索ワードのトップ10では、世界中で話題になったことを検索する傾向が非常に強い。例えばiPhoneX、スタン・リー、昨年話題になった『アベンジャーズ』など。
2)インドネシア共和国
公用語はインドネシア語、バハサ語といわれる現地の言葉を公用語として使用。人口は日本の約2倍の推定2億7000万人。インターネット普及率は人口比の約56%(前年比15%)。今後も、インターネット人口が伸びていくことが予想される。インターネット利用者のほぼ100%の方がSNSを利用。約95%の方がモバイルフォンでインターネットを使用している。Facebookの使用率が非常に高く、YouTubeの利用者も大変多い。Instagramも非常に人気がある。チャット系のアプリは、WhatsAppとFacebook Messengerが非常に高いシェアを持っている。各々の嗜好に合ったチャットアプリを利用していることが想定できる。検索ワードは、エド・シーラン、K-POPのBLACKPINK、その他の歌やテレビ番組等、エンターテインメントについての検索が多い。このことからインドネシア人がエンターテインメントに関して非常に高い関心を示していることがわかる。
3)タイ王国
公用語はタイ語。人口は約7000万人。インターネット普及率は、人口の約80%以上。SNSの利用状況も非常に高く、約9割が利用。モバイルフォンを利用したネット利用が95%以上おり、約97%の方が何らかのモバイルデバイスでインターネットにアクセスしている。シンガポール、インドネシア同様に、Facebookの利用が非常に多く、YouTubeの利用率も非常に高い。チャット系のアプリは、東南アジアでは唯一LINEの使用率が非常に高く、Facebook Messengerの利用率も、LINEに次いでいる。検索ワードは、タイでは国産のテレビドラマの検索が非常に多く、このことからタイの方は国産のエンターテインメントに関して非常に高い関心があることが見て取れる。
4)マレーシア
公用語はマレー語。人口は約3200万人。インターネットの普及率は80%以上で、そのうち97%の方がSNSも並行して利用している。マレーシアも他の国同様、モバイルフォンでのインターネットへのアクセスが非常に多い。SNSは、Facebookの利用率が非常に高く、チャット系のアプリは、WhatsAppの利用率が非常に高い。検索ワードは、昨年度マレーシアで実施された選挙の影響からか政治関連のものが非常に多く見て取れた。その他、ブラックパンサー、アメリカの映画等。
5)フィリピン共和国
公用語はタガログ語と英語。フィリピンは非常に英語の通じる国。人口は約1億700万人。インターネットの普及率は、人口の7割。来年度、もう少し伸びると予想。インターネット利用者はSNSもほぼ同様に利用。90%以上の方がモバイルフォンを利用したネットアクセスを行っている。Facebook、YouTubeが非常に高いシェアで利用されており、チャット系のアプリはFacebook Messengerが非常に高いシェア。検索ワードは、ゲームに関するものが非常に多く、ゲームに強い興味を持っていることがわかる。
6)ベトナム社会主義共和国
公用語はベトナム語。人口は約9700万人程度。インターネットの普及率は66%。今後の伸びが予想される。SNSは約9.5割の方が利用。多くの方がモバイルフォンを使っている。Facebook、YouTubeの使用が非常に高い。他国との違いは、ベトナムの電子企業が提供するチャット系アプリZaloというサービスが主に使われていること。検索ワードは、スポーツに関する検索が非常に多く、スポーツに対する関心の高さを示している。韓国ドラマの検索もトップ10に入っており、ベトナム国内で韓国ドラマの人気が高いということがわかる。
7)6カ国のまとめ
インターネット利用者は全6カ国で約3億7700万人(人口の約65%)。3億7700万人は、アメリカの全人口よりも多い。スマホ経由でのアクセスは95%以上で、たくさんの方がモバイルフォンを利用している。SNSはFacebookの利用者が非常に多く、広告等のプラットフォームとして東南アジアでは1番効果的と思われる。検索ワードの結果によって、各国ごとに趣味趣向の違いが少し見えてくる。
〈後編〉日本のコンテンツも市場に寄り添い現地のファンがアクセスしやすい環境を作るべき(対談)
◆ SOZOが提供できるサービス
市井 SOZOさんがやっているいろいろなイベントがありますが、それに参加するためには、まずは何をすればよいでしょうか?
ショーン 「これから海外で事業を展開したいが手法がわからない」という方々にお勧めしたい3つのステップがあります。
第1ステップ :まず東南アジアの国に行ってみて、そこの状況を自ら見て体験してください。シンガポールが1番のお勧めですが、その理由としては国として安全でビジネスの環境が整っているからです。
第2ステップ :次にセールスプロモーションや具体的な戦略に落とし込むことです。現地でのライセンス、ビザ、税金、売上の回収方法などさまざまな課題もクリアする必要があるので、第2ステップでは、課題点などを1つずつ解決していくということです。そして適切なパートナーを選ぶことも重要な事項であると考えています。
第3ステップ :最後に中長期的な少し長めのビジネスプランを立てること。日本製コンテンツはよく韓国製のコンテンツと比べられますが、私から見ると日本製コンテンツは国際的な競争の舞台において、まだ本気を出していない状態だと思います。日本のコンテンツがこれからさらにグローバル展開を加速させていけば、戦略次第では世界の舞台に立つことができると思います。
市井 フリーで視聴できるモデルと、料金を回収するようなモデルとでは、どちらのビジネスモデルの方が伸びていくと思いますか?
ショーン 課金の有無については、コンテンツの環境や戦略によって変わってくると思います。一概に無料化といっても先にお話しした、ユーザーがアクセスしやすい形でコンテンツを無料視聴化し、そこからマーチャンダイズ化を行い、グッズ、イベント等から回収するという方法の他、ユーザーからの直接課金ではなく現地のプロバイダーや通信会社との連携によるビジネスの構築の仕方もあると思います。
重要なことはマネタイズやビジネスの戦略またはブランディングの視点から、
コンテンツを市場でどのようにマネジメント(展開管理)していくかということだと思います。
何もしないのは、非常にもったいないことだと思います。
東南アジアでは海賊版の問題がまだあるので、正規版コンテンツを観れる戦略的な環境構築を通して、認知度を拡大することがビジネスチャンスを高めるひとつの方法として良いと思います。
市井 東南アジアでアイドルグループを売りたいと思った時に、まずどこの国に行くのが良いのでしょうか。普通に考えたらタイなのかもしれませんが、インドネシアの方が人口も多いですし、タイよりも経済成長していると思います。それでもタイの方が“オタク気質”があるとか、マインド的な理由で良いということでしょうか?
ショーン タイ、インドネシアというのは、東南アジアでもトップ2に入る、アイドル文化が根付いている国なので、そういう意味でこの2カ国を攻めた方が良いと思います。
市井 実写コンテンツ、ライブアクション型のコンテンツのマーケットの可能性はありますか? 可能性があるとすれば、地域ないしプロモーション、戦略においてどのような展開をすれば東南アジア諸国に浸透することができますか?
ショーン 韓国ドラマが市場を席巻している現在は、テレビ放送が主要プラットフォームでしたので、話数の問題がマーケット的には大きな問題だったかと思います。しかしデジタルフォーマットが主流になりつつある中、テレビの尺や話数などのハードルが低くなったことにより、クオリティや内容、プロモーションによる現地への訴求という部分が非常に重要になっています。現地にどうやって寄り添うのか? コラボレーションのかたちも大事になると考えています。
市井 日本は国際的な競争の舞台にそもそもまだ立っていないのですね。状況はよくわかりました。今回のお話を踏まえて我々VIPOも海外展開の支援により一層力を注いでいきたいと思います。本日はありがとうございました。
ショーン・チン Shawn CHIN
SOZO Pte.Ltd. 創業者・代表取締役
株式会社電通 シンガポール マーケティング部門在籍時に、日本のエンターテインメント業界と出会い、日本文化並びに日本のポップカルチャーへの情熱から、2009年にSOZO Pte. Ltd.を創業。AFA(Anime Festival ASIA、現C3AFA)を世界有数のジャパニーズポップカルチャーイベントに育てる。今日では東南アジアにおけるジャパニーズポップカルチャーのサポーターとして、多くの講演や取材実績がある。
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