「価値デザイン社会」の定義にいくつか重要な要素が含まれているのですが、要するに平均的ではない「尖った」個性や能力がたくさん出てきて、それが融合して新しいアイデアになり、その中で共感を得たものが具体的な価値になる。このようなプロセスが次々と自立的に生まれるような社会に日本はなっていくべきだという考え方です。
その中には大きな3つの要素1「脱平均」、2「融合」、3「共感」があります。これを目指していくためには、官民の民がメインプレイヤーになる必要があります。知的財産推進計画においても政府のアクションプランがあり、3つのポイントをそれぞれ要約しますと、
1. 「脱平均」
もともとコンテンツ産業の分野は尖った人材や型にはまらない才能を従来から多く受け入れてきた産業分野だと思っています。したがってコンテンツ産業には今まで以上にその方向で伸びていただきたく、今まで受け止めきれていなかったような尖った人材もどんどん受け止めていただけたらと思います。
2. 「融合」
先ほど申し上げた尖った個性やアイデアが融合されて、最もいい形になり、絶えず生み出されていくようなあり方です。コンテンツ産業を支えているバリューチェーンの様々なプレイヤーへの対価の仕組みがあり、そこには著作権法など以外にも民民での契約によるルールもあると思います。ルール面と技術面でコンテンツを生み出すバリューチェーンの仕組みを進化させていくことが大事だと思います。
市井 分かりやすく言うと、今目指している「ブロックチェーン」のようなことですか?新たな技術を用いて権利処理の円滑化やクリエイターへの適切な利益配分を実現する「クリエイション・エコシステム」と呼ばれる仕組みのことですよね?
三又 はい。
3.「共感」
3つ目は「共感」と言う部分でクールジャパンにつながります。
日本国内の、コンテンツへの共感はもう得られていると思います。コンテンツ産業や作品そのものの社会的認知は広く得られていますし、それが強みだということも多くの日本人は認識していると思います。ここからは海外へ目を向けるときにきていると思います。
もちろん、すでに海外へ目を向けている方も多く、政策もだいぶ前から“海外”だとは言っています。しかしJ-POP音楽など、いまだにメジャーではないですね。
三又 これまでいろいろやってきたクールジャパン戦略には、成功事例もあります。実際インバウンドが増えて、日本の農産物、食品の輸出、コンテンツの海外市場の売り上げも増えている中、政府として国を挙げてやる目的を共有しましょうということになりました。
それは、
1. 日本のソフトパワーを強化する
世界の共感を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人を増やすこと。
2. 世界の目線を起点としたマーケットイン
今までクールジャパン戦略はプロダクトアウト先行だったのをマーケットインを中心にするということです。また外国人はお客様やオーディエンスとしてだけではなくて、協働するパートナーだということです。日本人以上に日本のことを理解したり愛情を持っている外国人も増えていますので、そういう方たちを巻き込んで、彼らから好きなものや欲しいものをどんどん発信していただくということです。
3. 日本の魅力の幅の広さ、奥の深さを追求する
これは特に地方のことです。地方の魅力はまだまだたくさんあるので、そこにマーケットインの視点も入れながら、地方を中心とした未発掘の魅力を発掘していきたいと考えています。
4. 関係者のネットワーク化による連携強化
それぞれの地域や分野でいろいろな方が取り組んでいることを全部繋げるような緩やかなプラットフォーム、ネットワークを作ることが求められていると思います。政府が前に出すぎても始まらないので、民間主導でそういうものができていくことが大切だと思っています。それを政府がお手伝いをしていきたいと思います。
以上が今回のクールジャパン戦略の目指すところです。
クールジャパンは日本人でも外国人でもイメージするものは100人100様あります。マスという意味で外国人の最も多くの方の心をつかむのはコンテンツだと思います。
今の段階ではアニメとゲームが主なフックだと思いますが、これを最大限活用していろいろな異分野をつなぐ「コンテンツ×インバウンド」の活用を期待しています。地域や食、ファッション、いろいろなものに日本の文化が満ち溢れていますから。
市井 聖地巡礼など様々な分野とコンテンツが、テーマや素材で繋がっていますよね。
三又 このような活動をしていると、日本に長く住み、日本語も流暢な外国の方々に会う機会が多くあります。このような外国の方が日本に関心を持ったきっかけは、アニメやゲームだと言う人が大変多くて、アニメをきっかけに聖地巡礼する方もいますね。
コンテンツは単にコンテンツそのものの経済効果だけではなく、そこに盛り込まれている素材や中身が多様なクールジャパンと繋がっているところがあるのではないかと思います。クールジャパン戦略を推進していく中で、コンテンツは要中の要です。
コンテンツ産業そのものに対する私からのお願いは、さらにもっと海外へ目を向けてもう一段ギアアップしていってほしいということです。このタイミングでコンテンツの海外展開戦略を1度ガチっと構築するタイミングだと思っています。クールジャパン戦略全体については、民間組織と内閣府が緊密に連携して全体の方向性のかじ取りをしていきたいと思っています。当然、私たちから民間組織に対して一定の支援をすることをクールジャパン施策では掲げています。
民間組織について、これから新しく組織を作ることを念頭に置いてはいますが、既存でクールジャパンの取り組みをしていただいている営利・非営利・官に近い組織、そして企業のコンソーシアムなどいろいろなモノの連合体を作って行くイメージです。
市井 私たちは「ジャパンアンバサダー」という事業を行っています。
日本のコンテンツ好きの外国の方々がアンバサダーとしてVIPOに登録し、常に我々とコミュニケーションをとり、さまざまなサービスを提案する事業です。企業や団体側から「外国人の意見や視点を取り入れたい」「インフルエンサーとして、発信してほしい」など様々なリクエストにこたえる形で登録アンバサダーを派遣しています。またコンテンツの各協会団体とはマッチングなども行い、常にそういう方たちと話をしているので、こういうことはとても賛成です。でも、一方で難しいのは、具体的なプロジェクトや予算がないと、集まっても好き勝手なことを言って終わってしまうことです。
三又 関係者に認知されるような影響力をどのように持てるかということだと思います。その設計は相当工夫がいると思いますが、よく考えて行っていきたいです。
市井 民間のすでにネットワークがある方たちのところで自然発生的に、サポートするのが一番、効果的だと思います。新しい組織を作るとなるとそれだけで大変なので。それはまた、別途お話をさせていただきたいですね。
※登録商標”JACC”は、当機構が株式会社ITSCから承諾を得て使用しています。
三又 “つなぎ役”の支援はずっと課題になっていると認識はしています。9月にデジタルアーカイブジャパン推進委員会を開いて、デジタルアーカイブ社会の実現に向けて中核施策である『ジャパンサーチ正式版』を来年公開するためのプロジェクトの進捗管理を行いました。と同時に今は残された課題をさらにつきつめて方向性をだしていくフェーズです。今月から始まった今年度の実務者検討委員会のほうで、より具体的な課題を検討していきます。
三又 最初に申し上げた「価値デザイン社会」を目指すときに、経済的価値だけではなく非経済的活動も大切になります。所有から共有へなどの変化に伴い、今までの知財システム(ブルーの部分)も引き続き必要ですが、これからは今までなかった仕掛け(ピンクの部分)が必要になってくると考えています。
例えばブロックチェーンなどの表示の仕組みです。そしてもう一つがコミュニティ。人の集まりが知的財産制度とは思いませんが、知的財産の創造につながると思います。現在の知財システムは所有権のような権利を付与することによって新しいものをクリエイトするインセンティブや投資を引き出していましたが、それだけではないということが新知財システムです。
市井 コンテンツの分野ではどのようなイメージがありますか?
三又 コンテンツの「クリエイション・エコシステム」と言っているものが一つのイメージです。著作権的な要素もありますが、もっと別の要素を組み込むことで、さらに価値デザイン社会的なものにフィットするコンテンツのエコシステムができてくると思います。仮説はブロックチェーンなどを使って表示をする権利処理、情報を共有できるようになることをイメージしています。
[参照元:「平成29年度 知的財産権ワーキング・ グループ等侵害対策 強化事業におけるコンテンツ分野の海外市場規模調査 経済産業省」 P8より ] (画像)
市井 そうなんですね。
三又 私の感覚でいえば、その先はもっと行くと思います。アジア太平洋地域の中で、これから東南アジア諸国が本格的な消費社会に入り、その先にはインドが期待されます。そこに照準を絞ってクールジャパン戦略をしていくことが特に重要だと思っています。
英語のメタデータ整備に関しては、特に音楽について、今回、J-LODの対象になったと伺っています。非常に重要な取り組みだと思います。
コンテンツの中で音楽は非常に重要ですし、海外へ拡げていく機会を逃していたという意味では大きい分野だと思います。他のコンテンツについても今後必要があれば、メタデータの整備など突破口にして最終的にはコンテンツそのものが多言語化していく流れにしたいです。
市井 どこからヒットが生まれるか分からないので、なるべくコンテンツに触れる入口は増やしたほうがいいと思います。
三又 ここで、政策課題的な面から説明します。
1. クリエイターへの対価の還元
これは各方面で必ず出てくる課題です。人材育成も合わせて必要ですが、クリエイションに携わる方たちがもっと適切な対価が得られるように引き続き考えていく必要があります。その一つが、ブロックチェーンを活用したクリエイション・エコシステムの取り組みであり、コンテンツの利用実績に応じて権利者に対価が還元されるよう、権利処理の円滑化や利益配分の仕組みの構築に向けた取組が進みつつあるところです。
2. 海賊版対策
これは政府が本格的に取り組まなければいけない課題です。まずは正規版の流通促進や普及啓発、取り締まりの強化をやりながら、合わせて著作権法改正や強化にも取り組んでいくことを総合的な海賊版対策メニューとして政府として取り組んでいきます。
先ほどのエコシステムの話が究極かもしれませんが、海外からのエンドユーザーにとっても、正規版の流通が使い勝手やクオリティ面でもコンテンツの届け方として正しい形ですし、海賊版では決して得られない体験も手にすることができると思います。
市井 そこが強みになりますね。
三又 そのため、海賊版を撲滅することも必要で大切なことですが、同時に正規版の価値や使い勝手、触れてもらう機会をもっと増やすことが大事だと思います。VIPOさんが取り組んでいるJ-LODなどはローカイラズ化という意味でも貢献していると思いますが、もっとそちらに力を入れていくべきかと思います。
海外展開戦略が必要とはいえ、政府が補助金を出すだけではない、もっと幅広い政府の取り組みや民間が主体となった取り組みがうまく合わさって、正規版がより海外にも流れやすくしていくことが非常に重要だと思っています。
市井 ブロックチェーンは私たちもJ-LODにおいてサポートしており、採択された案件は、発表会で披露することによって、業界全体でもこんなこともできるんだという認知を広めて共有できるようにフォローしています。
三又 そうですね。今の補正予算で2件採択が決まりました。実証調査なので効果を見極める部分がありますが、引き続き、継続的に支援ができる枠組み作りも追求していきたいと思っています。
具体的な答えがこの時点で出ているわけではありませんが、補正予算が2020年の3月で切れてもフォローアップ調査はやりたいと思っています。そのための予算は8月31日に概算要求を出した中に入れていますので、引き続きロケ誘致、それにかかわる支援の枠組みは関係省庁と検討しながら、取り組んでいきたいです。
市井 タイムラインで見ると、あくまでも実証実験なので、その結果はズレてくると思います。それを持って次のステップへ行くと1年間空いてしまう感じになりますよね。
三又 何らかの手は打っていきたいと思っています。私たちが政府の中心になって、関係省庁を巻き込んでやっていきたいと思っています。
市井 どこの省庁が受け皿となるかですよね。難しいところだとは思います。
槙田 VIPOを通じて、ロケ誘致を2件サポートしましたが、見えてきたのはフィルムコミッション(以下、FC)自身が1つ受けると手一杯になって、他の日本国内の映画やテレビの案件を受け入れられないというキャパオーバーの現状でした。人や規模的なリソースが足りないんです。
三又 特定の自治体でやる気があっても、手足がついていかないということですね。これは、幅広いサポート組織がいるかもしれませんね。
槙田 対応できるFCも増やさないといけませんし、1つひとつのFCの受け入れ体制も強化しないといけません。せっかく日本でロケしたいという方がたくさんいても対応しきれないと思いました。
市井 実証実験のレポートにそういうことも入ってくるということですよね。
三又 切実な話だと思います。たとえばインフラ輸出ありますよね。日本の鉄道システムや電力などの海外展開なども、非常に需要が高くて、決まっているプロジェクトもいくつかあるのですが、いかんせん、今まで国内を主体としてやっていた分野なので、海外への担い手が足りないといったケースがあります。物理的な人手や組織が十分でないという問題は、いろいろな分野で起こっています。
槙田 FCに関しては経験が人を育てるしかないので、多少大変でも引き受けて、事例と経験値を増やしていくしかないです。ハリウッド規模のようなものを製作して、大変でも乗り越えて人を育てていくしかないと思います。
市井 いい意味の生みの苦しみですね。
三又 チャンスは顕在化もしていますし、打つ手もはっきりしていますね。
槙田 落とすお金も単位が全くちがいます。
三又 人や経験が不足しているなら海外から実務者を短期的にでも連れてくるという手もあるかもしれませんね。
槙田 語学の問題もありますが、色々解決していきたいですね。
市井 本日は短い時間の中でいろいろ質問にお答えいただきありがとうございました。
VIPOの読者の方々にも共有したいと思います。