VIPO

インタビュー

2019.11.25


内閣府に聞く――価値デザイン社会におけるクールジャパン戦略が目指す姿 ~世界が共感する日本のコンテンツブランドとは?~
 2010年から始まったクールジャパン戦略。この取り組みの質を高め、長期的に発展させ続けるために、国としてどのような取り組みを行っていくのか、さらに深化させるべく新しい戦略はどのようなことなのか。など、2019年9月に決定された「クールジャパン戦略」について伺うとともに、コンテンツ分野の現状と課題、施策の方向性を、昨年に続き、内閣府 知的財産戦略推進事務局 三又裕生事務局長にお話ししていただきました。

(以下、敬称略)

 
 

クールジャパン戦略でコンテンツ業界は何を強化していくか

知的財産戦略ビジョンは、「価値デザイン社会」がキーワード

「価値デザイン社会」でコンテンツ産業に求められる変化・期待
 
VIPO専務理事・事務局長 市井 三衛(以下、市井)   2017年から、内閣府の「知的財産推進計画」について、お話を伺ってきた中で、昨年は「知的財産戦略ビジョン」について、お話いただきました。今年度はさらにその計画を発展、深化させていくと思われますが、今日は「知的財産推進計画2019」の位置づけについて、お聞きしたいと思います。 まずは、「価値デザイン社会」と、「コンテンツ業界に求められていること」について、お話いただけますか。
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.1~5 知的財産立国を基盤とした価値デザイン社会の実現]
 
 
内閣府 知的財産戦略推進事務局長 三又 裕生(以下、三又)  2018年の6月に「知的財産戦略ビジョン」と言うものを出しました。そこでのキーワードは「価値デザイン社会」で、2030年くらいを念頭に日本の社会がどう変わっていくべきか、目指すべき社会像を議論して得られた結論です。
 

「価値デザイン社会」の定義
経済的価値にとどまらない多様な価値が包摂され、そこで多様な個性が多面的能力をフルに発揮しながら、「日本の特徴」をもうまく活用し、様々な新しい価値を作って発信し「世界の共感」を得る社会

 
「価値デザイン社会」の定義にいくつか重要な要素が含まれているのですが、要するに平均的ではない「尖った」個性や能力がたくさん出てきて、それが融合して新しいアイデアになり、その中で共感を得たものが具体的な価値になる。このようなプロセスが次々と自立的に生まれるような社会に日本はなっていくべきだという考え方です。
 
その中には大きな3つの要素1「脱平均」、2「融合」、3「共感」があります。これを目指していくためには、官民の民がメインプレイヤーになる必要があります。知的財産推進計画においても政府のアクションプランがあり、3つのポイントをそれぞれ要約しますと、
 
1. 「脱平均」
もともとコンテンツ産業の分野は尖った人材や型にはまらない才能を従来から多く受け入れてきた産業分野だと思っています。したがってコンテンツ産業には今まで以上にその方向で伸びていただきたく、今まで受け止めきれていなかったような尖った人材もどんどん受け止めていただけたらと思います。
 
2. 「融合」
先ほど申し上げた尖った個性やアイデアが融合されて、最もいい形になり、絶えず生み出されていくようなあり方です。コンテンツ産業を支えているバリューチェーンの様々なプレイヤーへの対価の仕組みがあり、そこには著作権法など以外にも民民での契約によるルールもあると思います。ルール面と技術面でコンテンツを生み出すバリューチェーンの仕組みを進化させていくことが大事だと思います。
 
市井  分かりやすく言うと、今目指している「ブロックチェーン」のようなことですか?新たな技術を用いて権利処理の円滑化やクリエイターへの適切な利益配分を実現する「クリエイション・エコシステム」と呼ばれる仕組みのことですよね?
 
三又  はい。
3.「共感」
3つ目は「共感」と言う部分でクールジャパンにつながります。
日本国内の、コンテンツへの共感はもう得られていると思います。コンテンツ産業や作品そのものの社会的認知は広く得られていますし、それが強みだということも多くの日本人は認識していると思います。ここからは海外へ目を向けるときにきていると思います。
 
もちろん、すでに海外へ目を向けている方も多く、政策もだいぶ前から“海外”だとは言っています。しかしJ-POP音楽など、いまだにメジャーではないですね。

日本を好きな外国人へ向けたクールジャパン戦略をさらに強化
 
三又  私がタイのバンコクにいた経験から申し上げます。バンコクは今日本人の長期滞在者数が世界一多い都市です。2012年には4位でしたが、この5、6年で世界一になりました。
バンコクには日本のものがあふれています。タイ人は日本食も大好きで、日本食レストランは約3000店あります。アニメの『君の名は。』などはみんなが観ています。主だった映画は若干のタイムラグはありますが、バンコクの映画館で観ることができます。
 
コスプレも大好きで、「JAPAN EXPO」のようなイベントが年に何度があり、毎回大盛況です。若者たちがコスプレして、パリ以上の観客動員数になっていると思います。
 
年配の方は日本のドラマも知っています。しかし、『おしん』や『ドラえもん』までは知っていますが、そこから後の情報がないんです。ポップミュージックとテレビドラマはタイのもの以外では韓国コンテンツが人気ですね。他の外国作品も観られますが、K-POPと韓流ドラマがメジャーです。
 
市井  マーケットはあるということですね。
 
三又  非常にポテンシャルはあるのに、J-POPにしても日本のテレビのエンターテインメントにしても、タイ人にはほとんど知られていません。日本のエンターテインメントや音楽に触れる機会がほとんどないからです。

日本のコンテンツを「本気で」海外へ向けて発信する
 
三又  日本のみなさんからすると、わざわざコストやリスクを払って海外に行く必然性が無いという状況がしばらく続いたんだと思います。国内マーケットを相手にしているだけで十分なわけで。しかし新しいステージに行くべき段階に来ていると思います。
 
市井  BNK48なんかはいかがですか?
 
三又  BNK48は、すごく人気です。BNKができるという情報が流れたときは、AKBをもちろん知っていたので、タイの方たちもついにご当地名がついたグループができたと思いました。
 
日本人向けの現地フリーペーパーの中で「BNKのメンバーがタイのビジネスを学ぶ」をテーマに私の部下がQ&A方式でBNKメンバーにレクチャーする連載をやっていました。この企画はBNK側からの売り込みでしたが、それからしばらくしてBNK48をイベントに呼ぼうとしても、とても忙しくて呼べないほど人気者になっていました。
 
とにかくタイの人は日本が大好きです。タイ以外のベトナムなども同じだと思います。
 
市井  そうなんですね。そこにもマーケットはありますね。
 
三又  タイをはじめ東南アジアで消費社会が発展しています。B to Cビジネスも日本国内だけではやっていけない時期に入り始めたと、東南アジアにいて感じていました。

クールジャパン戦略における4つのポイント
 
市井  海外からの需要も大きい日本のコンテンツですが、「世界からの共感」を軸としたクールジャパン戦略について、聞かせていただけますか。
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.31 「世界からの共感」を軸としてクールジャパン戦略を再構築する]
[参考資料:「クールジャパン戦略について」]
 

 
三又  これまでいろいろやってきたクールジャパン戦略には、成功事例もあります。実際インバウンドが増えて、日本の農産物、食品の輸出、コンテンツの海外市場の売り上げも増えている中、政府として国を挙げてやる目的を共有しましょうということになりました。
それは、
 
1. 日本のソフトパワーを強化する
世界の共感を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人を増やすこと。
 
2. 世界の目線を起点としたマーケットイン
今までクールジャパン戦略はプロダクトアウト先行だったのをマーケットインを中心にするということです。また外国人はお客様やオーディエンスとしてだけではなくて、協働するパートナーだということです。日本人以上に日本のことを理解したり愛情を持っている外国人も増えていますので、そういう方たちを巻き込んで、彼らから好きなものや欲しいものをどんどん発信していただくということです。
 
3. 日本の魅力の幅の広さ、奥の深さを追求する
これは特に地方のことです。地方の魅力はまだまだたくさんあるので、そこにマーケットインの視点も入れながら、地方を中心とした未発掘の魅力を発掘していきたいと考えています。
 
4. 関係者のネットワーク化による連携強化
それぞれの地域や分野でいろいろな方が取り組んでいることを全部繋げるような緩やかなプラットフォーム、ネットワークを作ることが求められていると思います。政府が前に出すぎても始まらないので、民間主導でそういうものができていくことが大切だと思っています。それを政府がお手伝いをしていきたいと思います。
 
以上が今回のクールジャパン戦略の目指すところです。

懐深く、いろいろな分野の要になるのがコンテンツ産業
 
三又  コンテンツはいろいろな分野とのつながりを考えたときに、ある意味“要”になるものだと思います。

クールジャパンは日本人でも外国人でもイメージするものは100人100様あります。マスという意味で外国人の最も多くの方の心をつかむのはコンテンツだと思います。
 

 
今の段階ではアニメとゲームが主なフックだと思いますが、これを最大限活用していろいろな異分野をつなぐ「コンテンツ×インバウンド」の活用を期待しています。地域や食、ファッション、いろいろなものに日本の文化が満ち溢れていますから。
 
市井  聖地巡礼など様々な分野とコンテンツが、テーマや素材で繋がっていますよね。
 
三又  このような活動をしていると、日本に長く住み、日本語も流暢な外国の方々に会う機会が多くあります。このような外国の方が日本に関心を持ったきっかけは、アニメやゲームだと言う人が大変多くて、アニメをきっかけに聖地巡礼する方もいますね。
 
コンテンツは単にコンテンツそのものの経済効果だけではなく、そこに盛り込まれている素材や中身が多様なクールジャパンと繋がっているところがあるのではないかと思います。クールジャパン戦略を推進していく中で、コンテンツは要中の要です
 
コンテンツ産業そのものに対する私からのお願いは、さらにもっと海外へ目を向けてもう一段ギアアップしていってほしいということです。このタイミングでコンテンツの海外展開戦略を1度ガチっと構築するタイミングだと思っています。クールジャパン戦略全体については、民間組織と内閣府が緊密に連携して全体の方向性のかじ取りをしていきたいと思っています。当然、私たちから民間組織に対して一定の支援をすることをクールジャパン施策では掲げています。
 

クールジャパン施策の方向性として幅広い連携強化を図るための枠組み作り
多くの関係者を包含する緩やかなネットワークを構築、そのネットワークを有効に機能させるため、中核的な機能を担う組織が民間に必要

 
民間組織について、これから新しく組織を作ることを念頭に置いてはいますが、既存でクールジャパンの取り組みをしていただいている営利・非営利・官に近い組織、そして企業のコンソーシアムなどいろいろなモノの連合体を作って行くイメージです。
 
市井  私たちは「ジャパンアンバサダー」という事業を行っています。

日本のコンテンツ好きの外国の方々がアンバサダーとしてVIPOに登録し、常に我々とコミュニケーションをとり、さまざまなサービスを提案する事業です。企業や団体側から「外国人の意見や視点を取り入れたい」「インフルエンサーとして、発信してほしい」など様々なリクエストにこたえる形で登録アンバサダーを派遣しています。またコンテンツの各協会団体とはマッチングなども行い、常にそういう方たちと話をしているので、こういうことはとても賛成です。でも、一方で難しいのは、具体的なプロジェクトや予算がないと、集まっても好き勝手なことを言って終わってしまうことです。
 
三又  関係者に認知されるような影響力をどのように持てるかということだと思います。その設計は相当工夫がいると思いますが、よく考えて行っていきたいです。
 
市井  民間のすでにネットワークがある方たちのところで自然発生的に、サポートするのが一番、効果的だと思います。新しい組織を作るとなるとそれだけで大変なので。それはまた、別途お話をさせていただきたいですね。


 

デジタルアーカイブ社会とは

コンテンツの創作活動にどのように活かしていくのか
 
市井  まずはデジタルアーカイブ社会の実現という部分でお話しください。
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.27 ④デジタルアーカイブ社会の実現]
 
三又  これは、「デジタルアーカイブ社会」と「社会」がついているところがミソです。デジタルアーカイブそのものはいろいろなところですでに作られていますが、オープンなものを国民が日常的に幅広く活用できて、それが次の創作活動に活かされる……ある意味、社会全体がエコシステムのようになっていくということをデジタルアーカイブ社会と言っています。
 
もちろん文化保存や継承、観光や教育、防災、ビジネス利用など幅広い活用方法が考えられて、新たな価値の創出やイノベーションにつながることを目指して政府全体で取り組んでいます。
 
槙田  政府が音頭を取ってやられているのが「ジャパンサーチ」だと思います。私たちVIPOが運営しているJACC®というコンテンツ一括検索エンジンと文化庁でやっているメディア芸術データベースがジャパンサーチの中においてコンテンツ業界の“つなぎ役”として、2つ並んでいます。2年くらい前から、ジャパンサーチにぶら下がっているデータベースを集めるつなぎ役をどう支援していくのかということに対して、具体的な施策と支援と予算が見えてないのですが、どのようにお考えですか?
 

※登録商標”JACC”は、当機構が株式会社ITSCから承諾を得て使用しています。
 
 
三又  “つなぎ役”の支援はずっと課題になっていると認識はしています。9月にデジタルアーカイブジャパン推進委員会を開いて、デジタルアーカイブ社会の実現に向けて中核施策である『ジャパンサーチ正式版』を来年公開するためのプロジェクトの進捗管理を行いました。と同時に今は残された課題をさらにつきつめて方向性をだしていくフェーズです。今月から始まった今年度の実務者検討委員会のほうで、より具体的な課題を検討していきます。

つなぎ役の役割分担の明確化と多言語化
 
三又  具体的な課題とは、『つなぎ役の役割分担』を明確にすることのほかにも、オープンなデジタルコンテンツが日常的に活用されるために、実際の活用事例を積み上げてベストな『利活用モデルを確立する』ことやデジタルアーカイブが長期的安定的に保存され、誰もが長期にわたり利活用できるように、デジタルコンテンツの『長期保存・長期利用保証のあり方』が 重要なこととして挙げられていて、海外発信や海外利活用の視点では、データの多言語化、まずはジャパンサーチに集約されているメタデータの多言語化も当然重要なテーマと考えています。これらは実務者検討委員会の中で合わせて検討していくことになると思います。
 
現在、ジャパンサーチには14機関の1800万件のメタデータが連携されている状態ですが、さらに連携機関を拡げる方向でもありますし、連携機関が広がれば分野の切り方の整理や各分野の“つなぎ役”として、どういう機関が適切なのかなど十分に詰めながら、具体的な支援策に取り組んでいきたいです。
 
槙田   課題の一つは多言語化だと思います。今はほとんど海外に開かれていない状態です。私たちのJACC®のように、海外の方も使えるように日英に対応しているデータベースは非常に少ないです。これからも多言語化を目的に、今は中国語化を進めています。
 
私たちのJACC®は、コンテンツとクリエイターを海外へ紹介することなので、問い合わせ先を掲載しているのですが、そういったことを含め、海外からの目線で「どうすれば便利になるのか」「たくさん使ってもらえるのか」など、海外をきちんと意識した施策が必要だと思います。またそれと並行して、「Japan Creator Bank」という日本のクリエイターと国内外のコンテンツ関連企業とのマッチングを目的とした検索サイトもオープンします。もちろん国内でもどんどん使ってもらわなければなりませんが、参加者としてはそのように思っています。
 
三又  その通りだと思います。今まで以上に海外がオーディエンスでありお客さんでありパートナーでもあるので、海外をもっと強く意識するべきだと思います。このデジタルアーカイブもその通りだと思います。具体的にどうしていくかはしっかり考えていきたいと思います。


 

「共感」を通じて作る新知財システムで、価値デザイン社会を実現させる
 
市井  新しい知財システムとはどのようにお考えですか?
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.30 ③「共感」を意識した新しい知財システムを作る]
 

 
三又  最初に申し上げた「価値デザイン社会」を目指すときに、経済的価値だけではなく非経済的活動も大切になります。所有から共有へなどの変化に伴い、今までの知財システム(ブルーの部分)も引き続き必要ですが、これからは今までなかった仕掛け(ピンクの部分)が必要になってくると考えています。
 
例えばブロックチェーンなどの表示の仕組みです。そしてもう一つがコミュニティ。人の集まりが知的財産制度とは思いませんが、知的財産の創造につながると思います。現在の知財システムは所有権のような権利を付与することによって新しいものをクリエイトするインセンティブや投資を引き出していましたが、それだけではないということが新知財システムです。
 
市井  コンテンツの分野ではどのようなイメージがありますか?
 
三又  コンテンツの「クリエイション・エコシステム」と言っているものが一つのイメージです。著作権的な要素もありますが、もっと別の要素を組み込むことで、さらに価値デザイン社会的なものにフィットするコンテンツのエコシステムができてくると思います。仮説はブロックチェーンなどを使って表示をする権利処理、情報を共有できるようになることをイメージしています。

コンテンツ市場を拡大させるクリエイション・エコシステムとは

海外展開とクリエイター育成のために
 
市井  クリエイション・エコシステムの構築について教えてください。
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.33~35 ②クリエイション・エコシステムの構築]
 
三又  まず、世界のコンテンツ市場が非常に拡大していますが、アジア太平洋地域には特に注目しています。
 
これは2016年におこした2022年の予測データですが、全世界での、コンテンツ産業の市場規模は7500億米ドル(約80兆円)としていて、その中でアジア太平洋地域は約2000億米ドルを超えてくるとなっています。
シェアで言うと、全体の4分の1を超えてきて、伸び率で言うと、全世界は3割弱に対して、アジア太平洋地域は6割弱とほぼ倍以上の伸び率になるという予測が経産省の資料に出ています。
 

[参照元:「平成29年度 知的財産権ワーキング・ グループ等侵害対策 強化事業におけるコンテンツ分野の海外市場規模調査 経済産業省」 P8より ] (画像
 
市井  そうなんですね。
 
三又  私の感覚でいえば、その先はもっと行くと思います。アジア太平洋地域の中で、これから東南アジア諸国が本格的な消費社会に入り、その先にはインドが期待されます。そこに照準を絞ってクールジャパン戦略をしていくことが特に重要だと思っています。
 
英語のメタデータ整備に関しては、特に音楽について、今回、J-LODの対象になったと伺っています。非常に重要な取り組みだと思います。
 
コンテンツの中で音楽は非常に重要ですし、海外へ拡げていく機会を逃していたという意味では大きい分野だと思います。他のコンテンツについても今後必要があれば、メタデータの整備など突破口にして最終的にはコンテンツそのものが多言語化していく流れにしたいです。
 
市井  どこからヒットが生まれるか分からないので、なるべくコンテンツに触れる入口は増やしたほうがいいと思います。
 
三又  ここで、政策課題的な面から説明します。
1. クリエイターへの対価の還元
これは各方面で必ず出てくる課題です。人材育成も合わせて必要ですが、クリエイションに携わる方たちがもっと適切な対価が得られるように引き続き考えていく必要があります。その一つが、ブロックチェーンを活用したクリエイション・エコシステムの取り組みであり、コンテンツの利用実績に応じて権利者に対価が還元されるよう、権利処理の円滑化や利益配分の仕組みの構築に向けた取組が進みつつあるところです。
 
2. 海賊版対策
これは政府が本格的に取り組まなければいけない課題です。まずは正規版の流通促進や普及啓発、取り締まりの強化をやりながら、合わせて著作権法改正や強化にも取り組んでいくことを総合的な海賊版対策メニューとして政府として取り組んでいきます。
 
先ほどのエコシステムの話が究極かもしれませんが、海外からのエンドユーザーにとっても、正規版の流通が使い勝手やクオリティ面でもコンテンツの届け方として正しい形ですし、海賊版では決して得られない体験も手にすることができると思います。
 
市井  そこが強みになりますね。
 
三又  そのため、海賊版を撲滅することも必要で大切なことですが、同時に正規版の価値や使い勝手、触れてもらう機会をもっと増やすことが大事だと思います。VIPOさんが取り組んでいるJ-LODなどはローカイラズ化という意味でも貢献していると思いますが、もっとそちらに力を入れていくべきかと思います。
 
海外展開戦略が必要とはいえ、政府が補助金を出すだけではない、もっと幅広い政府の取り組みや民間が主体となった取り組みがうまく合わさって、正規版がより海外にも流れやすくしていくことが非常に重要だと思っています。
 
市井  ブロックチェーンは私たちもJ-LODにおいてサポートしており、採択された案件は、発表会で披露することによって、業界全体でもこんなこともできるんだという認知を広めて共有できるようにフォローしています。

あたらしい技術がコンテンツ業界にもたらすチャンスとは
 
市井  コンテンツ業界における先進技術利用への支援の方向性についても教えてください。
 
三又  先進技術については、5Gなど通信環境がさらに発展してコンテンツの利活用がますます増えていくと思います。
 
これは大きなチャンスだと思います。
 
売り方もそれに合わせて変わっていくと思います。デジタルで言うと、ビックデータやAIの話ですが、非常に緻密に利用者データの分析が多角的にできるようになると思うので、様々なローカライズ戦略やマーケティング戦略ができると思います。これは非常に意味のある新しい価値だと思います。まったくゼロから新しいものを作るのではなくて、分析とそれを踏まえた組み合わせの戦略の立て方だと思います。
 
しかし、一方でプラットフォーマーの問題があります。プラットフォーマーにより大衆にウケるようなコンテンツや、メタデータの整理も含めて一つの塊としてやっていく必要があると思います。
 
残念ながら大手のプラットフォーマーとして世界的にメジャーなものは日本発ではないものばかりです。これは私の個人的な希望のようなものですが、日本発のプラットフォーマーが出てきてほしいと思います。もともとコンテンツそのものは日本は非常に強い分野なのに、プラットフォーマーのレイヤーになると外国発のものとなってしまうので、後発でもプラットフォームを担うような日本勢が出てきてほしいです。
 
日本のコンテンツに携わっている方たちが集まってプラットフォームを作るのも一つのやり方だと思っていますし、どこか大きな既存のプレイヤーが中心となってやるのも一つだと思います。
 
市井  なかなかうまくいってはいませんよね。今年8月にクールジャパンファンドが買収したセンタイホールディングス*というアニメーション配給会社がありますね。小さいですが、そういうこともやるべきだということですね。
*米国で日本アニメの配給と流通を手掛ける会社

撮影環境を整えてロケ誘致を促進する
 
市井  最後はロケ誘致のお話をお願いします。これは今年、私たちが事務局をやらせていただいておりまして、今後も続けていきたいと思っています。
[参照元:「知的財産推進計画2019」P.36 ③国内外の撮影環境改善等を通じた映像作品支援]
 

 
三又  そうですね。今の補正予算で2件採択が決まりました。実証調査なので効果を見極める部分がありますが、引き続き、継続的に支援ができる枠組み作りも追求していきたいと思っています。
 
具体的な答えがこの時点で出ているわけではありませんが、補正予算が2020年の3月で切れてもフォローアップ調査はやりたいと思っています。そのための予算は8月31日に概算要求を出した中に入れていますので、引き続きロケ誘致、それにかかわる支援の枠組みは関係省庁と検討しながら、取り組んでいきたいです。
 
市井  タイムラインで見ると、あくまでも実証実験なので、その結果はズレてくると思います。それを持って次のステップへ行くと1年間空いてしまう感じになりますよね。
 
三又  何らかの手は打っていきたいと思っています。私たちが政府の中心になって、関係省庁を巻き込んでやっていきたいと思っています。
 
市井  どこの省庁が受け皿となるかですよね。難しいところだとは思います。
 
槙田  VIPOを通じて、ロケ誘致を2件サポートしましたが、見えてきたのはフィルムコミッション(以下、FC)自身が1つ受けると手一杯になって、他の日本国内の映画やテレビの案件を受け入れられないというキャパオーバーの現状でした。人や規模的なリソースが足りないんです。
 
三又  特定の自治体でやる気があっても、手足がついていかないということですね。これは、幅広いサポート組織がいるかもしれませんね。
 
槙田  対応できるFCも増やさないといけませんし、1つひとつのFCの受け入れ体制も強化しないといけません。せっかく日本でロケしたいという方がたくさんいても対応しきれないと思いました。
 
市井  実証実験のレポートにそういうことも入ってくるということですよね。
 
三又  切実な話だと思います。たとえばインフラ輸出ありますよね。日本の鉄道システムや電力などの海外展開なども、非常に需要が高くて、決まっているプロジェクトもいくつかあるのですが、いかんせん、今まで国内を主体としてやっていた分野なので、海外への担い手が足りないといったケースがあります。物理的な人手や組織が十分でないという問題は、いろいろな分野で起こっています。
 
槙田  FCに関しては経験が人を育てるしかないので、多少大変でも引き受けて、事例と経験値を増やしていくしかないです。ハリウッド規模のようなものを製作して、大変でも乗り越えて人を育てていくしかないと思います。
 
市井  いい意味の生みの苦しみですね。
 
三又  チャンスは顕在化もしていますし、打つ手もはっきりしていますね。
 
槙田  落とすお金も単位が全くちがいます。
 
三又  人や経験が不足しているなら海外から実務者を短期的にでも連れてくるという手もあるかもしれませんね。
 
槙田  語学の問題もありますが、色々解決していきたいですね。
 
市井  本日は短い時間の中でいろいろ質問にお答えいただきありがとうございました。
VIPOの読者の方々にも共有したいと思います。

 
 

三又 裕生 Hiroki MITSUMATA
内閣府知的財産戦略推進事務局長

  • 1964年生まれ。87年東京大学法学部卒業
    1987年 4月 通産省入省
    1990年 7月 機械情報産業局電子機器課
    1991年10月 資源エネルギー庁長官官房省エネルギー対策室
    1993年 7月 米国留学(ワシントン大学、ハーバード大学)
    1995年 6月 機械情報産業局情報処理振興課
    1997年 7月 産業政策局産業技術課
    1999年 4月 中小企業庁計画部金融課
    2002年 5月 経済産業省経済産業政策局経済産業政策課
    2003年 5月 経済産業省大臣官房会計課
    2004年 6月 経済産業省経済産業政策局政策企画官
    2006年 5月 JETROニューヨーク・センター産業調査員
    2009年 7月 経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課長
    2011年 7月 経済産業省商務情報政策局情報政策課長
    2013年7月 中小企業庁 長官官房 参事官
    2014年7月 経済産業省産業技術環境局大臣官房審議官(環境問題担当) 
    COP20、COP21に参加
    2016年7月 日本貿易振興機構バンコク事務所長
    2019年7月 経済産業省大臣官房付 より 内閣府知的財産戦略推進事務局長


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