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プロデューサー養成ラボ「RotterdamLab」――私たちが5日間で学んだこと、これからに向けて!
プロデューサー養成ラボ「RotterdamLab」――私たちが5日間で学んだこと、これからに向けて!
VIPOは世界の映画業界で活躍できるプロデューサーの育成と、国際映画マーケットにおけるネットワークの構築をめざし、「ロッテルダム国際映画祭」の企画マーケット「CineMart」が運営する「Rotterdam Lab(ロッテルダムラボ)」に、実績のある新進プロデューサーを2017年度から毎年派遣しています。9月24日(木)には、2019年度参加者の3名を迎え、「Rotterdam Lab」参加報告会&紹介オンラインセミナーを開催いたしました。今回はセミナーの内容を再構成してお届けいたします。
◆登壇者(2019年度「Rotterdam Lab」参加者)
・青山エイミーさん(AORA Pictures プロデューサー)[略歴]
・汐田海平さん(シェイクトーキョー株式会社 代表取締役 プロデューサー)[略歴]
・宮瀬佐知子さん(ARRDEP プロデューサー)[略歴]
◆「Rotterdam Lab(ロッテルダムラボ)」(https://iffr.com/en/rotterdam-lab )
・会 期:2020年1月25日(土)~1月29日(水)
-「ロッテルダム国際映画祭 」(会期:2020年1月22日〜2020年2月2日)
-「CineMart 」
◆VIPO映画プロデューサー育成事業
https://www.vipo.or.jp/project/rotterdam/
「Rotterdam Lab(ロッテルダムラボ)」とは
2019年度は世界31カ国から69名のプロデューサーが参加した「Rotterdam Lab」(プロデューサー養成ラボ)。次回2021年1月はオンラインでの開催が予定されている。
「Rotterdam Lab」は、「ロッテルダム国際映画祭(IFFR)」が、1983年に世界で初めて立ち上げた映画企画マーケット「CineMart」により、2001年から運営されている新進プロデューサー対象のワークショップ。5日間でピッチング、脚本開発、プロデュース、マーケティング、マネジメント、共同製作、セールス、ポストプロダクション等や、業界のエクスパートとのセッションなどが実施される。近年は多くのプロデューサーが、「CineMart」や「ロッテルダム映画祭」に作品とともに戻ってきており、国際共同製作にもつながっている。
3人の意識を変えた凝縮されたプログラム
◆ 2019年度の参加プロデューサー3名
AORA Pictures プロデューサー 青山エイミー(以下、青山) 2019年に『つつんで、ひらいて 』というドキュメンタリー映画をプロデュースして「釜山国際映画祭 」などに行き、そのご縁でVIPOさんのことを知り、今回の参加に至りました。今後、国際共同製作につなげたいと日々奮闘しています。[略歴]
シェイクトーキョー株式会社 代表取締役 プロデューサー 汐田海平(以下、汐田) シェイクトーキョー株式会社の代表と、モーションギャラリーという国内最大級のクラウドファンディングプラットフォームの映像レーベルであるMOTIONGALLERY STUDIOのプロデューサーをしています。国際共同製作は企画中のものがありますが、今後、より必要性を感じています。[略歴]
ARRDEP プロデューサー 宮瀬佐知子(以下、宮瀬) 現在はフリーでプロデューサー業と脚本の仕事をしています。自身の国際共同製作企画が前に進めないもどかしさを抱えていたときに「Rotterdam Lab」の説明会と、過去の参加者の方の話を聞いてこのプログラムに参加しました。[略歴]
(以下、敬称略)
◆ 2019年度のプログラム内容について(ラボ開催期間:2020年1月25日〜29日/5日間)
青山 プログラムは、朝から深夜まで続くこともありました。限られた時間を最大限に活かして、会いたいプロデューサーやディストリビューター、セールスの方たちにアプローチをして自分の映画のプロジェクトのお話を聞いていただきました。
宮瀬 朝と昼は、何百人も一緒に朝食やランチ。午前・午後はレクチャー、19:30~22:00の間は自由時間。22:00~夜中1:00、最終日は2:00まで、パーティやネットワーキングの時間でした。自由時間は映画を観たり、ミーティングを入れたり、みんなフルで動いていました。
汐田 「Rotterdam Lab」は「CineMart」と共同開催のため、モーニングやランチの時間は「CineMart」参加者との交流もできるので、目的意識をもって動けば、自由度はかなりあると思います。
宮瀬 レクチャーは、全員参加の大きな講堂で聞かれるセッション、5~6人のグループで行うテーブルセッションなど、形態もさまざまでした。
◆ Day1:1月25日(土)「Speed dating」ほか
青山 初日は、スピード・デーティングをやりました。外側と内側のサークルで向かい合って、3分ごとにズレながら、ひとりずつ自己紹介と自分のプロジェクトのピッチをするんです。最初はすごく緊張しました。
汐田 3分経つとベルが鳴る。お見合いパーティのような感じですよね。
青山 私は最初、名前や出身、自分と相手のプロジェクト、全てを話して聞こうとしていたのですが、ある参加者に「こういうのやめようよ。私単純にはあなたのことを知りたいのよ」と言われたんです。確かにお互いに興味を持てなければ、何を話しても聞けないと思って、私の場合は友だち作りの場にシフトしました。
汐田 事前に1~3分と聞いていたので、1分くらいの自己紹介を準備していたんです。用意しておいて良かったと思いました。最初に1分話して、次に相手のことを1分聞いて、残り時間で自由に話すことを繰り返しました。
宮瀬 私も最初に自己紹介をしました。英語に自信がなかったので、全部準備して形式的に話していたら、途中で「あなたが今やっているプロジェクトは何?」「あなたはプロデューサーとして何をやりたいの?」と、「あなたは」がキーワードになりました。短い間に「自分は今何をしたくてここに来たんだろう」と必死に考えながら、あっという間に終わった気がします。
汐田 ここで趣味が合いそうな方や話が盛り上がった方とディナーやドリンクのときにもう一度話しました。
宮瀬 私たち3人は日本人同士で群れるのが好きではなかったので、ディナーやパーティでも一緒にいることはほとんどありませんでした。「ここは新しい人と出会う場だ!」と、それぞれが散って各国のプロデューサーと情報交換をしました。その後、3人で情報交換をしました。各自が自立していたので、ひとりで乗り込むよりはネットワークも情報も広がった と思います。
青山 今思うと、行く前に3人で食事に行ったことがとても良かったと思います。あのときに「日本人だけで群れたらだめだよね」という共通認識ができたからこそ、情報を交換しながら自分たちが独立したひとりの大人として行動できたと思います。
宮瀬 最初はとても緊張しましたが、スピード・デーティングが始まってからは「とにかく多くの人と話そう」、「自分のプロジェクトを少しでも伝えよう」という気持ちが強くなりました。
青山 スピード・デーティングには、名刺を持ってきた方と持ってこなかった方がいました。このタイミングでは不要だったかもしれませんが、名刺は後からとても大切になりました。私はOne-pager(プロジェクトや企画等を1ページにわかりやすくまとめた資料)を作っていたのにプリントアウトをしていなかったんです。宮瀬さんと汐田さんは何十枚か準備されていて、慌てて地元のプリントショップで印刷をしました。
宮瀬 私は、パッと渡したときに相手が興味を持ってくれそうな過去と現在進行中の作品を並べて、これからやりたいことも加えたOne-pagerを作っていましたが、汐田さんはきちんとした企画書でしたよね。
汐田 進行中の国際共同製作の企画を冊子にして持っていきました。初対面の方に自分が何者なのかを1分で伝えるは非常に難しいので、名刺や、企画などを伝えられる資料があるといいと思います。
青山 日本人の知恵だと思いました。というのは、持ってきているプロデューサーは少なかったのですが、渡したらそれだけで対応が変わった方もいました。
「Rotterdam Lab」、「CineMart」を含めて交流したプロデューサーは本当にコミュニケーション能力が高い方たちが多かったです。エンターテイナーとしてプロデュースができる方が多かったので、その方たちに負けないためには下準備が大事だと思いました。
◆ Day2:1月26日(日)「Pitching」ほか
汐田 全体を通して、ピッチングをきちんと考えるきかっけになりました。日本でのピッチングでは、原作者や出演者、マーケットの規模などを説明ですることが多いのですが、そうではなく、「自分が何者か」「コンセプトや作品にどのようなメッセージを込めるか」など、当たり前のことを当たり前に相手に伝えることが大切だということを改めて学びました。
技術論としても、カクテルピッチは飲みながらでも話せるショートピッチング、テーブルピッチは商談でのピッチング、フォーラムピッチはイベントなど人前で話すときのピッチングだと学びました。それぞれ技術が異なり、それぞれのテクニックを使い分ける必要があるということも、目からウロコでした。
青山 講師のIdo Abram先生はプロデュース以外にもいろいろとやられている方です。話し下手な方からピッチの説明を受けても納得いかないかもしれませんが、とてもお話が上手な方で魅了されてしまってあっという間の2時間でした。
汐田 How to pitchのピッチングをしているような講義でしたね。
青山 最初の自己紹介で、全員に共通して欠けていることがあると言われたのを覚えていますか? 全員、言い忘れているものがある、「ラストネーム」だと。自分のファーストネームとラストネームを言ってこそフォーマルな自己紹介だと学びました。それ以来、私はメールを書くときもフルネームで書くようになりました。
この授業で、黒板に名前を書いた順に全員の前でピッチをするチャンスを与えられたのですが、私はためらってしまい最後に名前を書いたんです。そうしたら私の一人前で終わってしまいました。あのとき、もう少し早く決断すれば良かったと今でも後悔しています。ですから、次回の参加者でピッチにチャレンジしたい方は早く決断して欲しいです。
宮瀬 午後は5〜6人のテーブルに分かれて、みんなの前でピッチングをしました。「Rotterdam Lab」ではピッチのレビューをいただく機会はたくさんあります。私はどのようなピッチが良いのかがわからないまま、自分の企画の良さばかりを伝えようと考えていました。パーフェクトが100だとしたら、0.1くらいしかわかっていませんでした。午前中の講義で骨組みを理解して、その日のうちに自分の企画ピッチングをして先生にフィードバックをいただきました。課題は、伝えたい内容ではなく、具体的な質問に対する英語での対処法や自分のピッチングの弱さをカバーすることが全くできなかったことでした。
汐田 結構込み入った質問もきますよね。
宮瀬 「そんな角度から球を投げてくる?」というのもあり、しどろもどろになったときのプレッシャーがありました。みなさん、「どうして?」と聞いてくれるのですが、必死で返事をしようとしている間にもプレッシャーをかけられるのは初めての経験だったので、とにかく打ちのめされました。その日は帰ってからピッチングのリライトをしました。
汐田 テーブルごとに先生からフィードバックをもらうのですが、同じテーブルの参加者たちからのいろいろな角度からの質問もありました。ピッチングはフィードバックを受ければ受けるほど研ぎ澄まされて、やっていくうちに質問のパターンも見えてくるので、たくさんの方たちに聞いてもらうのは大切だと思いました。
青山 私は最後にピッチングをしたのですが、その頃にはチームのメンバーは疲れていて……。ピッチはなるべくフレッシュな状態、最初にやりたいと思いました。そのほうがみんな集中して聞いてくれると思います。
◆ Day3:1月27日(月)「Round tables」ほか
宮瀬 ラウンドテーブルでは、プロデューサーや批評家、セールスなど海外の映画業界のいろいろな専門家がそれぞれのテーブルで話をしてくれました。
汐田 ラウンドテーブルはそれぞれの課題を専門家に直接質問できる場所で、すごく丁寧に親身になって答えてくれるので具体的な質問や課題がある方にはとても良いプログラムだと思います。
青山 やっておけば良かったことは、それぞれの専門家たちのバックグラウンドを調べておくことです。セールスやディストリビューター、批評家など普段会えない方たちなので、もっと込み入った質問をすれば良かったというのが反省点です。
汐田 事前にその方たちのプロフィールをいただけるので、ターゲットを絞って調べておいてもいいかもしれません。
青山 私は「Torino Film Lab 」にとても興味がありました。この後のラウンドテーブルに「Torino Film Lab」の登壇者がいて、ディナーテーブルではその方に積極的に声をかけました。それが実ったのかはわかりませんが、先日「Torino Film Lab」のオンラインバージョンに参加させていただけたので、やっておいて良かったと思いました。
宮瀬 Co-production relationshipsの授業では、国際共同製作の監督やプロデューサーをゲストに呼んでモデルケースの話を聞きました。Financingでは、どのようにバジェットブレイクダウンをするかなど、具体的な表を使ってマネーフローの承認タイミングなどを講義してくれました。後でその表のデータを共有してくれたので、とても親身になってくれていると感じました。
◆ Day4:1月28日(火)「The Story Rainbow」ほか
宮瀬 とても印象に残っているのは、もともとプロダクションマネージャーから映画業界に入ってプロデューサーや講師としても現場経験のあるRoshanak先生の授業(Masterclass)でした。現場で問題が起きたときにプロデューサーはどうするか? どこの国でも映画を作るとなれば、必ず起こるハプニングやアクシデントにどのようなスタンスでいたらいいのかを受講者と意見交換をしました。一番記憶に残っているのは、どこの国でも現場は大変だということと、「何か起きたときに時間をコントロールしろ」と先生が言っていたことです。例えば、現場で撮影が止まったときどうするか? 時間がない中で焦って決めてしまうと問題は大きくなるだけだから、とにかく時間をとって冷静な判断をする。意見を聞いて、それをきちんと伝える時間を確保しなさい、と。確かに言っていることは正しいのですが、なかなかできないことです。でも異なる人種や言語の方たちとの国際共同製作では、そういうときこそ、タイムスケジュールは現場任せではなく、プロデューサーがきちんとやるべき、ということを聞いて改めて納得しました。
汐田 現場やストーリーの話など、この5日間を通して具体的に実用可能なTipsが相当得られましたよね。
青山 The Story RainbowのSamm Haillay先生は、「Rotterdam Lab」の卒業生なんですが、ストーリーを4分割して物語のピークをどこにもってくるか? など、ストーリー分析の話をグラフに書いて説明してくれました。
汐田 プロデューサーが監督や脚本家とクリエイティブの話をするときに、こういう知識があると対等に話せますよね。
青山 今、監督や脚本家と話し合いをする中で、教えていただいた知識が実際にとても役に立っていると思える実りのある授業でした。
忘れてはいけないのが Conversations about storiesのDavid Pope先生ですね。この方は「Rotterdam Lab」のドンというか、Stowe Story Labs というスクリプトラボをイギリスでやっています。
宮瀬 David自身も脚本を書きますよね。
青山 Davidのことは後からすごく気になってたので、調べて直接話をしました。すごくいろいろなことを考えているとてもおもしろい方で、Davidの人柄を知れたことが良かったと思いました。
◆ Day5:最終日1月29日(土)「Marketing Strategies」ほか
青山 マーケティング・ストラテジーのMathias Noschis先生は、ストーリーを3枚の写真とシノプシスだけでマーケティングしてしまうんですよね。3枚の写真を見て、シノプシスを読んで映画祭とか行くんです。
宮瀬 授業の時に、その場でやっていましたね。この日もラウンドテーブルがあって、そしてクロージング・キーノートで授業5日目は終了。
青山 早かったですね。APostLAB の先生のPost-production in a Co-productionも興味深かったです。私はヨーロッパでポスプロをやることにすごく憧れがあるんです。ストーリーから合作にして両国を行き来するのは大変ですが、ある程度日本で作ったものをグレーディングやポスプロでやるのは、もう少しやりやすいのかなと勝手な思い込みがどこかでありました。ポスプロの世界が知れたのは良かったです。
汐田 日本の国際共同製作でもポスプロだけフランスというのも多いですよね。作業として切り離せますし、そこだけ海外でやれば、フランスなどでは助成金を受けられるので国際共同製作の1本目としてはやりやすいんでしょうね。
青山 APostLABの方たちだけではなく、オランダや他の国のポストプロダクション方たちもたくさん映画祭に来ていたんです。ランチタイムで自分から「こんな映画の企画を持っている」とアプローチしました。「おもしろい企画やラフカットができたら送って」と言ってもらうなど、ネットワークを築けたのでとても実りがありました。
宮瀬 授業は多岐にわたり、その合間の食事やパーティで参加者69名以外のプロデューサーやいろいろな方たちと話す機会が想像以上にありました。名刺交換をすることも大切ですが、実際に有益な情報をいただき、日本で撮影をするときに必要なものと比べながら共同製作の実態を知るチャンスがたくさん転がっていたラボでした。
もし国際共同製作の企画を持っていたり、これからやりたいと思っている方は絶対に行ったほうがいいと思います。参加して、自分からどんどんコネクションを作って欲しいです。
私は英語があまり得意ではないのでピッチングの原稿や自己紹介など全部準備をして、あとはコミュニケーションをとろう! という気持ちで行きました。語学力が全く関係ないことはないですが、語学力に自信がないことで行くのをためらう必要は全くないと思います。参加して、とにかく自分の企画やパッションでどんどんコミュニケーションしていけば想像以上の収穫があると思います。
汐田 「国際共同製作プロジェクトがない」と、ためらっている方も参加したほうがいいです。国際共同製作を将来的に考えている方には絶対に有用だと思います。実際に共同製作をするとなったら、こういう方たちとやるというイメージを持つことができること、自分の将来の目的地にはこういう過程を経て行くんだ、というのが見える感じがしました。
宮瀬 オンライン開催にデメリットはないと思います。意欲があれば、オンラインだからこそ気軽にできることが多くあると思います。面と向かって話すより準備を万全にできますし。試行錯誤しなければならないときだからこそ、このプログラムをどれだけうまく利用できるかが重要になると思います。
青山 Torino Film Lab Next やカンヌでオンラインワークショップに参加しましたが、時差もないですし、自分の好きなタイミングで調整できることが多いのがメリットでした。
オンラインワークショップでは、英語が得意な方、不得意な方でも、パソコン画面に向かっているので、ぱっとメモを残すことが可能です。話しに集中してメモが取れなかったり、メモを取るのは恥ずかしいということにはなりません。
汐田 今年度はオンラインですが、私たち3人のように同期は横でつながっていたほうがいいと思います。ワークショップ中の動きだけではなく、その都度、情報共有をして、どんな方たちがいたのか、残りの日にどう動くかの作戦を立てることができます。帰国後も定期的に会って情報交換をしながら今起こっていることやこれからやりたいことを同じ目線で話せます。同期ができる頼もしさや心強さも「Rotterdam Lab」に参加するメリットだと思います。
青山 日本人3人の同期ができた上に、69人の世界各国に散らばった同期もできます。その中のスイス人とは今一緒に国際共同製作のプロジェクトを進めようとしています。このように同期ならではの話もあります。
宮瀬 ここで知り合ったメンバーとは今もやり取りをしています。この自粛期間中、ここで出会ったバングラデシュ人のプロデューサーに誘われて短編を撮りました。国際共同製作の長編を1本撮ることだけではなくて、そこから派生して「日本で撮るならこのプロデューサーがいるよ」と紹介するなど、一緒に学んだメンバーと情報交換を続けられるのは強いと思います。海外の映画祭で一度挨拶しただけの方たちとは違います。
汐田 日本映画界の良い点は、1億人映画人口がいてドメスティックな環境で勝負できるマーケットがあることだと考えていますが、一方でそれがシュリンクした場合にどうするのか? という課題もあります。そういうときは国際共同製作のオプションがあるといいと思っていました。
今回参加して、このような先が見えないときこそ、実際にこういう方たちとの国際共同製作の可能性の道筋が見えた ことに勇気づけられました。
宮瀬 私はこのラボに参加して、「国際共同製作をやりましょう」という方たちに出会ったことで、帰国後に思うことがありました。大それたことかもしれませんが、日本映画の仕組みや働き方、ジェンダーギャップや作品のクオリティ、面白い企画をきちんと考え直さないと5年後10年後どうなるんだろうという危機感です。
日本映画界でのヒット作はありますし、多くの作品を作れている方もいらっしゃいます。でも、世界市場で勝負したり、世界に通用する日本映画を作っていくには、海外に出て学びを持って帰ってきた者たちが日本の映画業界に変化を与えるような努力をしないといけないんだと……。プロデューサー同士のネットワークをもっと広げていくことや、今起きている問題をプロデューサー主導で仕組みを変えていけるようになったらいいな と思います。それが今、私の中の大きな課題です。
Q&Aセッション
Q1 日本映画の強みは何だと思いましたか? 国際競争力のあるポイントは何だと思いますか?
宮瀬 黒澤明監督などクラシックな日本映画のことをすごく好きな方はいますが、今、日本国内でヒットしている映画は海外では強くはないと感じました。
「日本映画は廃れた」と言われることもありますが、私自身がこれから生かしていきたい強みは、現場の力です。現場には、非常に優秀なスタッフや技師の方たちがいて、チームワークが良く、予算管理をきちんとやっています。現場の質はとても高いと思います。ただし、それをマネタイズするときに「その予算ではできないから」と言われて現場のクオリティが下がってしまうことがあると思います。
日本の映画業界は優秀な方たちばかりだと思うので、そういう方たちが海外チームと撮ったり、海外に出ることができたらいいなと思います。
汐田 宮瀬さんがおっしゃった通り、日本映画のイメージは黒澤監督や小津監督、数十年も前の話になることが多いです。アニメ好きの方たちも多いですが、実写の日本映画というとあまりピンとこない印象がありました。
勢いのある韓国や良い映画がたくさんある東南アジアや中東とどう戦っていくか? 相対的にも絶対的にも日本が語れるストーリーとは何なのか? ということに向き合っていくと、国際的な競争力が出てくると思いました。
海外諸国は自分たちにしか語れないストーリーを語っています。私たちもそれをやらないといけないという思いはありました。
青山 私は日本映画の強みは無いと思っています。映画の強みは、人の心を動かす、カタルシスがあるなどいろいろなことがあると思うので、国は関係ないと思います。どこの国だから見るということもないですし、好きな映画がたまたま日本映画だったり、韓国映画だったり、イラン映画だったり…。どこの国の映画だからと考えるはあまり好きではありません。もしかしたら反骨精神というかまだ反抗期なのかもしれません。
宮瀬 国際競争力の点で言うと、脚本の強みがあると思います。書き方に違いがあるのかもしれませんが、日本人が書く脚本は、日本人にしかできない表現があるのではないか? ということです。小説のように言葉を飾るのではなく、削ぎ落としていったときこそ、“隠しながら思いを伝える日本人特有の言動”は映像にするとおもしろい。国際共同製作のときにも、企画開発で脚本のディティールをどうしていくのか、きちんと一緒に脚本という屋台骨を作れれば国際共同製作映画としても素晴らしいものができるのではないかと思いました。
Q2 現在進行中の国際共同製作プロジェクトはどのように始まりましたか? きっかけやプロジェクト参加を決めた理由、企画を選ぶ際の注意事項など教えていただけますか?
汐田 台湾、フランス、日本の国際共同製作を進めています。今秋に撮影予定だったのですが、延期しています。今回の伏線になった『十年 Ten Years Japan 』というオムニバス映画で、木下雄介監督の作品に関わり、木下監督の次回作を国際共同製作でやりたいと動き始めました。木下監督もプロデューサーの筒井龍平さんも、海外の映画祭で「Rotterdam Lab」のようなワークショップや交流会のような場所に行く方たちだったので、その中で出会った方たちに声をかけて始めました。撮影は台湾、ポスプロはフランスでやるつもりでプロジェクトを固めています。撮影は台湾でと思っていましたが、当初からポスプロは絶対にフランスで、と思っていたわけではなく、たまたまフランス人のプロデューサーとの良い出会いがあったので、フランスでやることにしました。モノと人を組み合わせていいバランスを整えていく作業だと思います。
宮瀬 最初はフィリピン人の監督からメールをいただきました。会社からは難しい企画だと言われたのですが、その企画書がおもしろく、連絡を取り始めました。個人的にフィリピンでドキュメンタリーを作ったり、フィリピンが舞台の映画脚本を自分でも書いていたので、その監督と交流を広げれば自分の企画もうまくいくのではないかと思いました。その企画の舞台は日本。日本のシナハンをアテンドしてそのときに監督といろいろな話をしました。監督と良い関係ができて、脚本の向かっている先が一緒だと思ったので国際共同製作の企画を正式に始めました。今は中断していますが、状況によっては来年中に撮影できるように、現在調整をしています。
青山 いろいろある中のひとつに、日本に住んでいるポーランド人監督との国際共同製作プロジェクトがあります。監督は、もともとはポーランドにいるプロデューサーと進めていたのですが、海女さんの物語なので全編日本で撮影したい、田舎に行きたいなどいろいろな希望がありました。絵的なセンスはヨーロピアンテイスト、日本文化の要素を含めたストーリー、掘り下げていった先に普遍性がありとても気に入った企画でした。監督が知人だったこともあり、私がプロデュースをすることになり、今年の「Far East Film Festival 」のオンラインに一緒に参加しました。今、フランスを巻き込もうとアプローチをかけている真っ最中で、1000万円弱の資金を確保している段階です。
Q3 カンヌや釜山で名刺交換した方たちと、一度目のメールの交換まではするのですが、その後のやり取りをうまく続けることができません。どのようにコンタクトを取り続けられていますか?
青山 これは本当に難しいと思います。私も公式パーティで名刺交換をした方にしばらくしてから「How are you?」とメールを送って返事がないことがありました。100名にメールを書いて誰からも返事がなく落ち込んだこともありました。「Rotterdam Lab」の良いところはキャリアも年齢もバラバラですが、みんな同じところでやっているのでFacebookでつながれることです。メールだけで連絡をとっていると返事を1回忘れただけでやり取りが絶たれてしまうし、いつまでも返事を待つのもつらいので、LINEやFacebook、WhatsApp、Instagramを活用するようにしています。その方が最終的には続くと思います。
汐田 私もあまりうまくいった試しがないのですが、うまくいった方たちを見ていると、カンヌや釜山クラスの映画祭が年に10件あるとしたら、国際共同製作を目指すプロデューサーは5~6件、少なくとも2~3件は行っていると思います。結局そこがミーティングポイント。映画祭が集合場所なっているので、映画祭のたびに会わないとだめなんですよね。「前回、釜山で名刺交換をした〇〇だけど、ベルリンにきてる?」とか「ベルリンにいるんだけど誰か会えない?」という感じで実際に会っていかないと、keep in touchは難しい……青山さんと同じで、メールだけでは難しいので、SNSや映画祭のたびに「情報交換しよう」とコンタクトするのが一番良いと思います。
宮瀬 SNSをうまく使うことと、映画祭に行けないときはオンラインミーティングをお願いしたり、本当に自分がコンタクトをとりたい方に自らアプローチをしてシンプルに連絡を取り続けることだと思います。「私は、なぜ今、あなたに会いたいか?」「ミーティングをしたいか?」をうまく伝えられれば、オンラインでもSNSでもkeep in touchできると思います。
汐田 日常の仕事もそうだと思いますが、「自分が何の情報を得たいのか?」「自分が相手に何の情報を与えたいのか?」の折り合いがつかなければアポは取れないと思うので、それをきちんと表現することも必要ですよね。連絡の取り方よりは、「自分がその人に何を与えられるか?」を用意するということが、手前の頑張りどころだと思います。
青山 連絡する方によってアプローチの強弱をつけるのは重要だと思います。フォーマルに「自分のプロジェクトを見てください」とお願いすることもあれば、「ちょっと相談したいことがあるんだけど…」という感じで聞く場合もあります。まずは、友だちになれると思う人と交友関係を続けて、そこから発展するものに期待をしていくことだと思います。手の届かない遠い人だと思いながらメールを投げ続けても、相手にもそういう距離感はわかってしまうと思います。だんだん距離を縮めていくときもあれば、一気に縮まることもあるので、人柄なども合わせて判断していければいいですよね。
Q4 アニメの企画制作を中心にしています。参加者、講師の方を含めてアニメ制作をしている方はほぼ皆無でしょうか。
宮瀬 2人は確実にアニメをやっていました。1人はオランダの老舗のアニメーションプロダクションの若手のプロデューサーの女性でした。アニメーションもストップモーションもやっていて、プロダクションに所属してアニメをやっているという方もいました。日本でアニメをやっているってすごく強いと思います。そのアニメがどのようなもので、これからどうしていきたいか? を海外の方たちにピッチングできれば、強い印象を与えられると思います。
青山 イギリス人女性は、ストップモーションアニメーションをやっていました。私は帰国後、クラウドファンディングで応援しました。そういう方とのつながりもあったので、視野が広がっておもしろかったですね。
汐田 「CineMart」には確実にもっといますよね。
青山 アニメーションは映画祭でも上映していました。
Q5 国際映画祭では、国同士というより個人のコラボレーションに興味があるクリエイターが多いと想像するのですが、「日本映画」というように、”国のキャラクター”にこだわって/意識して、売り込んでいた他の国のプロデューサーはいらっしゃいましたか? 個人同士で意気投合して国際的なコラボレーションに発展することが多いのかと感じていますが、いかがでしょうか?
青山 国のキャラクターかどうかはわかりませんが、先程お話した国際共同製作の海女さんの映画は完全に海女さんのカルチャーをプッシュして売り込んでいます。
汐田 個人のコラボレーションに興味がある方たちのほうが少数派だと感じます。国際共同製作においてプロデューサーに必要なのは、その国の助成金や補助金がどのくらいあるか、どのような種類で、どれくらい使えるかなど、制度を知っていること だと思います。それは国に属してしまうので、個人というよりは日本のプロデューサーとしてやらざるを得ないことです。その上で、クリエイティブの部分で日本のカルチャーが魅力になる局面というのはあると思います。
宮瀬 おっしゃる通りだと思います。日本のプロデューサーとして海外に行くと「日本の助成金事情や日本で撮影をしたいときにあなたは何をしてくれるのですか?」ということをわりとシビアに聞かれます。それに答えられないと意味がない! と思われるのもわかりました。ヨーロッパのプロデューサーを見ていても自国の助成金や制度をうまく利用するつもりでネットワークを広げていると感じました。
汐田 今日はプロデューサーの方たちも多いと思うので、出資だけでお金を集めてしまうとなかなかリクープできないことは痛い程感じている方も多いはずです。出資を募ったうえで助成金や補助金をどう活用していくかは、日本だけではなくて世界的にどの国のプロデューサーも言うことです。その話が最初にくるパターンは多かったです。
青山 フランスやオランダの国際共同製作が多い理由は政府の助成金システムや映画祭の助成金のシステムが充実しているという、漠然とした認識をもっていると思います。そのような感じで、「マルタは、キャッシュリベート、タックスリベートがすごく良いらしい」などの情報交換をいろいろな国の方たちとしています。情報共有してその国をターゲットにしてアプローチしていくこともあると思います。
汐田 国際共同製作となると、“日本映画”を見つめきらずに考えてしまいがちかもしれませんが、自国の制度を魅力的にプレゼンテーションしたり、文化的なものも魅力的に伝えられないと良いパートナーは見つからないと思います。
Q6 「Rotterdam Lab」に参加する前に、国際共同製作について、本やセミナーなどで勉強しましたか? お勧めのものがあれば教えていただけますか?
宮瀬 国際共同製作について事前に勉強したことはなかったですが、そういうことを学べる場があるということをVIPOの「Rotterdam Lab」の説明会で知りました。
汐田 私も特に勉強はしなかったのですが、ひとつやったことは、私たちの前年に参加した方を紹介していただいてOB訪問のように話を聞きに行ったことです。どのようなモノを準備したらいいのか、どのような動きになるのかのイメトレのためにです。国際共同製作についてというよりも、ラボに参加するために最低限用意しておくべきものを把握するためにヒアリングをしました。
青山 私は全くやっていなかったので、これからです。宮瀬さんと汐田さんに「勉強会しませんか?」とお誘いしました。
宮瀬 帰国してから思ったのは、プロデューサーが海外で学んでも、実際、国際共同製作をやろうと思ったときに、ぶち当たるものはすごく細かいことだということです。予算表の書き方、スタッフィングの交渉の仕方など、具体的な小さいハードルがあまりにも多すぎるので、それを自分たちできちんと勉強していこうと3人で話し合いました。
今回の参加によって、「私たちが実際に動いて変えていかなければ!」という思いが出てきました。今後、国際共同製作を目指すプロデューサーのための勉強会やネットワークづくりをやっていこうと思っています。そういう場に参加していただいて、お互いのスキルをシェアしながら実際に共同製作に進む一歩になったら良いと思っています。勉強会にはぜひ参加してください。
VIPO VIPOがお手伝いをさせていただきます。ぜひ勉強会を開いていただいて、その知識を広く広めて欲しいですし、VIPOとしても一緒に勉強させていただきたいと思います。
青山 そういう場を提供していただくだけでも感謝です。
宮瀬 お互いシェアしつつ学び合いつつ、例えば国際共同製作の実務経験に長けている方をゲストに迎えてに話を聞くようなことをやっていきたいと思いました。計画書1枚、英語での表現の仕方、具体的にどのような手段でお金のやり取りをしていくかなど……。ラボで学んだとしても、具体的な行動に移すときにひとりで悩んでいても仕方ないですよね。今私たちがやるべきことは、勉強をしあって教えを乞うて、きちんとひとつずつやって行くというプロセスを踏むことだと思います。今日参加していただいた方たちも含めて、私たちが学ばせていただきたいこともたくさんありますし、一緒にできたらいいなと思います。
VIPO 最後に素敵なご提案をありがとうございました。
青山エイミー Amy AOYAMA
AORA Pictures プロデューサー
大阪生まれ、バンクーバー育ちの大阪系カナディアン。
早稲田大学在学中に是枝裕和に師事。卒業後、分福で下積みを経験したのち、河瀬直美の日仏合作映画『Vision』でJuliette Binocheの通訳兼演出助手として電波の繋がらない奈良の山奥で約2ヶ月間の撮影をこなす。現在はフリーランスコンテンツプロデューサーとして映画やCMに携わる。2019年冬、アソシエイトプロデューサーとして携わった『つつんで、ひらいて』が釜山国際映画祭にてワールドプレミア、TOKYO FILMeXにてスペシャルメンションを受賞。趣味はダンスと撮影現場を引っ張ること。
汐田海平 Kaihei SHIOTA
シェイクトーキョー株式会社 代表取締役 プロデューサー
横浜国立大学卒業後、フリーランスとして映画、CM、PR映像の企画・制作・プロデュース行ったのちに、エイゾーラボ株式会社を共同経営者として設立。2020年、シェイクトーキョー株式会社を設立。
2016,2017年はぴあフィルムフェスティバルのセレクションメンバーを務める。プロデュース作『蜃気楼の舟』(竹馬靖具監督)はカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のコンペティションに正式出品、『西北西』(中村拓朗監督)は釜山国際映画祭ニューカレンツ部門、ミュンヘン国際映画祭に正式出品。最新プロデュース作『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)は第33回東京国際映画祭にて「TOKYOプレミア2020」に招待され、11月27日より全国公開される。
宮瀬佐知子 Sachiko MIYASE
ARRDEP プロデューサー
大学在学中からフィリピンでドキュメンタリー映画の自主制作を始める。卒業後、ドキュメンタリーの撮影や制作に携わり、東日本大震災直後の被災地での取材を機に脚本を書き始める。その後、演出部、宣伝部、アシスタントプロデューサーなどとして様々な映画やドラマの現場に参加。2019年、フィリピンと日本を舞台にしたオリジナル脚本『OLONGAPO』がフィルメックス・シナリオ賞の準グランプリを受賞。最新のプロデュース作品は7月31日公開の『君が世界のはじまり』(監督:ふくだももこ)。
関連インタビュー
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