◆インタビュイー
◆モデレーター
モデレーター 田端花子(以下、田端) 本日のモデレーターを務めさせていただきます田端花子と申します。私は今までに音楽の制作、宣伝、レーベル経営などをやってまいりまして、邦楽のアーティストの海外アウトバウンドにも携わった際に、担当したアーティストの楽曲を海外の映像作品に使われる、いわゆるシンク・プレイスメントをやった時に、非常にビジネスになるなという実感を持ちました。今はサブスクなどで制作される映像作品も増えたことから、グローバルで見られる時代になり、チャンスも広がっているということで、このようなセミナーを企画いたしました。今日は、音楽プロデューサーであり、日本人で初めてアメリカの作家エージェントとなられた備耕庸さんに、ハリウッド映画や全米のテレビなどで、実際、どのように音楽がシンクされているのか、日本とは異なるシステムについてお話を伺っていきたいと思います。備さん、よろしくお願いします。
海外の映画やドラマの音楽制作には、複数の役職と音楽があります。メインの4つの役職は、コンポーザー(劇伴作家)、ソングライター、ミュージックスーパーバイザー(以下、MS)、ミュージックエディターです。コンポーザーはインストルメンタルの楽曲を作曲、ソングライターはボーカル曲を作曲します。MSは海外の映像制作では一般的且つ重要な役職で、既存曲を選曲して使用に必要な権利のクリアランスをしたり、ソングライターと制作するボーカル曲のプランニングをします。ミュージック・エディターは日本の選曲や音響効果のイメージに近いですが、効果音は担当せず、コンポーザーやソングライターが作った楽曲やミュージック・スーパーバイザーが選曲した曲を、コンポーザーや監督の指示に沿ってエディットして映像に合わせます。
備 劇伴のことを、英語でOriginal Scoreと呼びます。音楽の性質や役割は日本の劇伴と同じで、歌詞がないインストルメンタルな音楽が中心です。日本との違いは、音楽のジャンル性が非常に濃いことだと思います。日本では、一人の劇伴作家が多岐に渡るジャンルやスタイルの楽曲を作る事が多いと思いますが、海外の場合、作品色が濃く反映された個性的な劇伴が求められる事が多いです。背景として、劇伴とは別に、MSが選曲・ライセンスした既存曲でも音楽演出をすることがあります。そのため、個性的な劇伴になっても、既存曲で音楽演出のバリエーションを補うことが可能で、ユニークな個性のコンポーザーを起用しやすい環境があります。
海外ドラマの劇伴制作方式の特徴の一つは、全話、映像に合わせて作曲することです。日本の場合、音楽メニュー表を元に劇伴を作って、選曲・音響効果の方が映像に合わせてエディットするのが一般的ですが、これは日本独特の習慣です。海外の場合、1シーズン24話あれば、24話分の映像に合わせて作曲を行います。なので、ドラマのコンポーザーは、長距離走的なスタミナと短距離走的な制作スピードの両方が重要なポイントになってきます。そして、監督、プロデューサーと、作曲家が全て直接やりとりを行います。コミュニケーションにマネジメントが入ることは決してないので、コミュニケーション力や人間関係力が重要になります。そのため、コンポーザーとして活躍するためには、高い音楽制作力の他にも、個性的な作風、映像に合わせて作曲する音楽演出力、制作陣とのコミュニケーション能力が大切です。ハリウッドで活躍するコンポーザーは高いコミュニケーション能力やカリスマ性を持っている方が多く、個性豊かな監督やプロデューサーとやりとりをする能力が非常に重要だと感じております。
備 ライセンス曲は、既存曲になります。ミュージック・スーパーバイザーが選曲をして、シンク権と原盤権のクリアランスを行います。日本のテレビとの大きな違いとして、楽曲を使用する度に権利のクリアランスをする必要があるため、クリアランスに要する時間やライセンス費用を考えた上で選曲する必要があります。楽曲ライセンスの金額は、曲、尺、使用地域、使用期間、使用用途(劇中に使われるのか、メインテーマとして使われるのか等)、放送・配信プラットフォーム(Netflix、テレビ、Snapchat等)などによって金額が大きく変動します。
楽曲のクリアランスは、シンク権は出版社、原盤権は原盤権を保持するレコード会社やアーティストと行います。そして、シンク権、原盤権の金額は同じになります。これはMFN(Most Favored Nation)と呼ばれる習慣で、例えばシンク権が100万円、原盤権が50万円の場合、自動的に高い金額とマッチングされて原盤権も100万円になります。
一般的な映画やドラマで使用される曲数は、本当にざっくりですが、映画で数曲から20曲ぐらい、ドラマだと1曲から10曲ぐらい使われるイメージです。この中には、運転中のシーンでラジオから流れている楽曲、バーのシーンでジュークボックスから流れている楽曲、映像演出として使用される楽曲も入ります。クリアランス期間は、映画かドラマによって、大きく異なります。海外の場合、ドラマの音楽制作進行は早いので、数日でシンクロと原盤のクリアランスが完了、契約締結が必要なケースも結構あります。そのため、MSの視点だと「この楽曲はクリアランスが時間内にできるのか」というのも選曲基準になる場合があります。
備 オリジナル曲は、その作品のために制作された楽曲です。例えば『グレイテスト・ショーマン』のようにミュージカル映画用に、ミュージカル系の作家を起用する場合もあれば、『007』のビリー・アイリッシュの曲「No Time to Die」のように著名アーティストを起用してメインテーマ曲を作る場合もあります。また、コンポーザーやソングライターを起用して劇中歌や挿入歌を作る場合もあります。その場合、MS、監督、プロデューサーなどが起案し、コンポーザーやソングライターを起用して制作します。新曲ではなくカバーというパターンもあります。カバーを作る場合、既存曲なので、シンク権をクリアランスする必要がありますが、新原盤を制作するため、原盤権のクリアランスの必要はありません。ただし、原盤権のクリアランス費用を避ける目的で、原盤に似せた音源を作ると「サウンドライク」として問題になる場合があります。このように、オリジナル曲の使用用途は、劇中歌、挿入歌、オープニング、エンディングクレジット曲などです。
備 次に、一般的な音楽制作フローをご紹介します。(上図を参照)
まずは音楽チームと音楽予算の決定です。ハリウッドで制作される映画は、低予算映画でも何十億という予算があります。総制作予算を考慮して音楽予算が決定されます。ドラマの場合も一緒です。
主要の音楽チームのメンバーは、MS、コンポーザー、ソングライター、ミュージックエディターで、ミュージック・エディターはコンポーザーが指名する場合が多く、制作フロー的には、まずMSが最初に動き出す場合が多いです。これは、撮影時に必要な楽曲があったり、シーン内で演奏される曲などを選定する必要があるからです。撮影に必要な曲がある場合、選曲してクリアランスをしたり、コンポーザーやソングライターに作ってもらうことになります。撮影後、映像編集中に音楽の仮付けを行い、映像編集が進行します。映像編集後、スポッティングセッションと呼ばれる音楽の打ち合わせが行われます。監督、プロデューサー、MS、コンポーザー、ソングライター、ミュージック・エディターが参加して、音楽演出や使用箇所や尺などを決定します。コンポーザーに対して「10分34秒から11分25秒まで音楽を付けてください」とかMSとコンポーザーが「ライセンス曲がその後入ってきますよ」という会話を経て、映像のどこにどの音楽が使われるかを決定します。非常に重要な打ち合わせで、ミュージック・エディターがメモを取り、チームに共有します。
海外の劇伴制作は、ドラマでも映像に合わせて作曲する「フィルムスコアリング方式」が一般的なので、コンポーザーの作業開始はスポッティング・セッション後になります。劇伴制作期間は、映画だと4週間から6カ月、ドラマだと1話につき1~3週間と短く、場合によっては1週間で30分ぐらいの曲を書いて、収録、ミックス、提出という場合もあります。劇伴制作と並行して、ソングライターがオリジナルの曲を制作したり、MSが既存曲を選曲してクリアランスして進行していきます。そして、コンポーザーが作った劇伴、ソングライターが作ったオリジナル曲、MSがクリアランスしたライセンス曲を、ミュージックエディターが映像に合わせてエディットしてまとめます。スポッティング後に、映像編集が生じた際にはミュージックエディターが劇伴を映像に合わせてエディットして尺を合わせることもあります。
最終的に、ミュージック・エディターはそれらの音楽をダビングステージに持参して、効果音やセリフと混ぜるダビング作業が行われます。音楽制作における最終決定権は、映画の場合は監督、ドラマの場合はエグゼクティブ・プロデューサーが持つことが多いです。
備 このセミナーで「シンク」というのは、ライセンス曲(既成曲)を選曲してクリアランスすることで、次はどのようにMSが選曲を行いクリアランスするかについてご紹介いたしますが、その前にMSについてご説明します。
MS(ミュージック・スーパーバイザー)は、各映画、ドラマに大体1名起用し、先ほどのワークフローであったように、撮影の前から音楽全般に関わることが多いです。音楽予算に関するプランニングや、コンポーザーの起用に関してアドバイスすることもあります。
予算や監督の演出ビジョンをもとに、選曲と楽曲のクリアランスを行っていきます。複雑なクリアランスになる場合は、別途、ミュージック・クリアランスというスペシャリストを起用する場合もあります。例えばヒップホップのように、クリアランスをしようにもサンプル曲がたくさんあり過ぎてどこから手付けていいか分からないという場合は、ヒップホップのクリアランスに強いスペシャリストにお願いしたり、ミュージコロジスト(音楽学士)を起用して、音楽学的観点からクリアランスの糸口を探る場合もあります。
ミュージック・スーパーバイザーを日本語で訳す際に、「音楽監督」という訳を時々見掛けることがあります。明確にしておきたいのが、MSは、コンポーザーの推薦や契約上のアドバイスを行うことはありますが、劇伴の制作に関しては、コンポーザーと監督・プロデューサーと直接行うので、MSが関わることはありません。
MSに求められる能力として、音楽的知識が非常に重要です。ミュージック・スーパーバイザーに求められる能力は、ラジオディレクターのような広く深い音楽知識に加え、歌詞を知っていることが重要です。なぜならば、映像に演出するに当たって、歌詞と映像が合うかは極めて重要で、「あの曲の2番だったらこのシーンに合う」ということを考えないといけないからです。「この曲はテンポ感がいいのだけど、歌詞がNG」ということを頭の中で考えながら選曲をしていくので、知識と経験がすごく求められるため、ただ単に音楽が好きとか、詳しいだけでは難しいです。そして傾聴力、統率力も重要です。ドラマの場合、プロデューサー、エグゼクティブ・プロデューサーがたくさんいますが、皆、音楽的な意見がバラバラです。その中で、皆の個人的な音楽の嗜好も傾聴しながら、音楽的な意見をまとめて、音楽予算内に収めるためのコミュニケーション能力がすごく大切です。そして、交渉力もすごく大切です。レーベルや音楽出版社と金額交渉をする際、すぐに返事が返ってくるか、クリアランス難易度が高い曲がクリアランスできるかは人間関係力が大事です。「このMSだからクリアランスができた」ということも結構あります。ですので、クリエイティブだけじゃなくてビジネス的な知識や、音楽の法務的なところへの理解、そしてコミュニケーション能力も必要というのが、MSの特徴かと思います。
備 そして、ライセンス曲(既成曲)のクリアランスについて説明します。台本や映像、そして音楽クリアランス予算をもとに、楽曲を検討していきます。その中で候補曲を選んで、MSからチームに提案をして、シンク権を出版社とクリアランス、原盤権をレーベルやアーティストとクリアランスしていきます。NGの場合、再度、どの曲にするかをチームと話し合うこともします。
その中で交渉ポイントが成立した時には契約書を締結します。最初に、Quote Requestを締結し、概要が固まり、映像使用が確定します。MSとしては、このQuote Requestまで締結が重要で、迅速に可能か、英語で可能かは選曲時のポイントでもあります。
備 (既存曲を映像作品で使用するための)楽曲クリアランスのプロセスについてご説明します。シンク権は出版社、原盤権は原盤オーナーとクリアランスを行う必要があります。クリアランスの交渉ポイントは、楽曲が使用されるシーン、尺、地域、期間、使用メディアなどです。地域は、映画館配給され作品がNetflixで公開されたり、国内放送されたドラマが違う地域で放送されることも多いので「全世界」というのが基本になっています。期間は「永久」、使用メディアは「全て(DVD、配信含む)」が基本になっています。
大事なポイントとして、シンク権の交渉金額には、ビデオグラムも含まれるのが一般的になっています。クリアランスの期間は、数日から数週間程度と短いので、最初の問合せから、24時間以内の返答が重要となります。返答がない場合は、他の楽曲を検討する事もあります。なので、最初の問合せが来た時に、迅速にレスポンスをするというのは、レコード会社、出版社にとって、そしてアーティストにとってスタンダードになっています。
(映像使用から発生する音楽権利の)収入的に大きいのは、演奏権(放送)です。ビデオグラムを超える収益性になる可能性があり、非常に大きな金額になることもあります。
備 クリアランスの難易度は楽曲によって異なります。例えば、The Beatles等、著名アーティスト曲は交渉がすごく難しい曲です。そしてテレビドラマにはライセンスを行わないなどの各アーティストや作家の方針があるため、数週間以上に渡って楽曲を使用することに対しての熱意を伝えてクリアランスを行う場合もあります。なので、監督から超有名曲を使いたいと要望が出た場合、MSは、現実的にクリアランスが可能か、予算がどれぐらい必要か考えなければなりません。ビルボードに入ってくるような流行中の有名曲は、金額的な条件が合えばクリアランスできることは比較的に多いです。
知名度が低いインデペンデントアーティストの曲は、その楽曲が持つメッセージ性や、アーティストのサウンドのこだわりを映像と融合させることでの映像演出性から使用されることがあります。他にも、既存曲を使って効果的に雰囲気を演出する場合もあります。例えば、インドのシーンであればインド人アーティストの曲、クラブのシーンであればクラブ系の曲、ジャズのシーンであればジャズの曲など、劇伴作曲家に制作を求めず、雰囲気を演出するために既存曲を選ぶ場合もあります。MSの大切な役目は、このように様々なシーン、音楽演用用途、予算配分を考えながら、クリエイティブとビジネスの両方のバランスを取って進めていくことです。
備 次に海外シンクロのメリットについてご紹介します。まずプロモーション効果です。世界中でその楽曲を聴いて頂くことで、そのアーティストのファン層でない新しい層へリーチすることができます。日本のCMで洋楽が流れて、国外アーティストを知るきっかけがあるように、音楽ライトユーザーが映画やドラマを通じて、今まで知らなかった楽曲やアーティストを知って好きになるということはあるので、プロモーションのメリットはとても大きいと思います。
そしてビジネス的なメリットも非常に大きいです。世界規模の放送印税、Public Performance Royaltiesを期待することができます。インターネットで配信されているNetflixや海外のテレビ局に世界規模に展開されると、それに応じた金額が入ってきます。放送印税は、地域やテレビ局によってもだいぶ違うのですが、1つのテレビドラマが世界何百局にシンジケーションされて再放送された場合、莫大な金額となり、かなり長期的に入ってくるので、ビデオグラムとは異なるメリットがあります。その印税を回収するためには、ビジネス的座組みを整えること、例えばキューシートが出ているかをチェックする体制なども大切です。
このように、プロモーション面とビジネス面の2つのメリットがあるため、世界の国々の中には、文化産業として高く意識している国もあります。特にイギリス、カナダ、オーストラリアは意識が高いと感じております。
備 イギリス、カナダ、オーストラリアは、2000年代前半から文化産業の輸出として積極的に取り組んでおり、各国の音楽業界団体、国際貿易省、そしてアメリカの領事館など、組織的にプロジェクトを発足しています。また、ハリウッドの映像音楽関係者、MSや音楽のエグゼクティブ、エージェントを巻き込んで、イベントやワークショップを積極的に行っています。イギリスの領事館やカナダの領事館では、定期的に各国のアーティストがショーケースを行なったり、ネットワーキング目的の立食のパーティーが開催されています。
また、イギリスは、アーティストや音楽関係者を選抜し、LAに派遣して4日間のイベントも企画しています。私もエージェントとしてパネルに出席し、イギリスの作曲家がアメリカの映画に起用されるためのアドバイスをしたこともあります。また、アメリカにはASCAP、BMI、SESACという著作権団体とイギリスのPRSやカナダのSOCANが共同でイベントを行い、印税の取りこぼしを避けるための啓蒙活動なども行なっています。このように組織的に取り組むことによって、クリエイティブとビジネスのトレンドが、更新されていくのは非常に強いです。イギリス、カナダ、オーストラリアは英語圏なので、言語的に有利かもしれませんが、それ以上に、重要な産業として認識が高く、様々な組織が積極的に関わっています。
備 次に中国でのシンクロチャンスについてご紹介します。中国は今、日本のアニメを通じて日本のアーティストを認知している監督、プロデューサー、映画やゲーム会社が多く、日本のアーティスト・楽曲に対しての興味が非常に強いです。ポイントは、アニメ作品を通じて楽曲を認知しているため、日本のヒット度=中国の人気度ではないということです。契約時のポイントとしては、様々な制作会社、契約会社が存在している状況ですが、その会社の実態や信用度は確認された方が良いと思います。稀に、どこに所属しているか分からない不思議なエージェントという方がいますが、契約締結したものの話が止まってしまったこともあるようなので、過去の制作実績や、どのような形その作品がリリースされるのかは確認した方が良いと思います。
契約は、日本語もしくは英語で行う事が多いと思います。日本と違うところがあるので、権利面、クリエイティブ面、消費税など、かなり細かく契約の内容を確認することが、非常に重要だと思います。そして、タイアップはトラブルになったケースもあるようです。中国に限らず海外では、タイアップの習慣が異なります。制作会社によっては、タイアップ=アーティストに自分が作りたいスタイルで曲を作ってもらう認識の場合もあるので、お互い理解しておくことが大切なことだと思います。トラブルになることがあるので、ご紹介させて頂きました。
参考サイト:【雛形集公開】中国企業とビジネスする際に必要な契約書雛形集が入手可能
田端 「シンクロ」というのは和製英語なんですよね。
備 そうですね。「シンク」という方が一般的ですね。
田端 実際に日本の楽曲が海外の映像作品に採用されたケースからどんなことが見えてきますか。
備 日本の楽曲をどのように認識しているかというところもありますし、全て映像に対して演出するのに、ある楽曲が必要なので、結果的に日本の楽曲が必要になったというところがポイントかと思います。
田端 アーティストありきで楽曲制作を依頼するよりも、作品ありきで、それに合わせる音楽ってことですよね。
備 具体例を挙げますと『John Wick』という作品は非常にワイルドで近未来的な演出もあり、エッジが効いた作品なのですが、ネオンのシーンがあり、ブレードランナーのようなイメージに対して、シンセサイザーが使われている曲がいい。
そして、すし職人が出てくるので、日本の曲がいいところがあったと思います。そこで女性ボーカルがコントラストの効いたような演出なので、きゃりーぱみゅぱみゅの楽曲が選ばれたという流れではないかと思います。
はっぴいえんどに関しては、海外から日本の楽曲はどう認知されているのかというと、今だとJ-POPはダンス的な曲として認知がありますが、実は長年、シティポップっていうのは日本独特の楽曲として認知されていて、はっぴいえんどは海外でも認知されてるアーティストですけれども、『Lost in Translation』の、ちょっと甘酸っぱいところや切ない気持ちを表現する時に、すごくはまったのかなと思います。
備 プロダクトアウトというのは、まずはクリエイティブのものをつくるという「アートファースト」、この言葉はあるレコード会社の社長が提案している言葉の一つで、良いものをつくることにフォーカスし、良いものを届けるということを考えていきましょうということです。そして、今はデジタルの時代なので、どこで反応しているかというのを見て、そこに対してアタックしていくことが大事なのではないか。良いものを作り、その作品をもとに発信をしていくことが最も大事なので、プロダクトアウトという言葉を使っています。
田端 今、シンクロチャンスっていうのは増えていますよね。
備 Netflixをはじめとして、映像作品はものすごく増えていますし、プラットフォームに関しても、SNSなどいろんなところで映像コンテンツが生まれている。なので、シンクロのチャンスは今までとは桁違いに増えていると感じていますし、これが減ることは、もうないと思います。
田端 サウンドクオリティーっていうところでは、どうでしょうか。マスタリングのラウドネスの違いやサウンド面で意識することはありますか。
備 ラウドネスに関しては大抵基準があり、例えばSpotifyはマイナス14LUFSが基本ですが、海外の場合だとストリーミングのプラットフォームでどうなるかということを前提とした上でマスタリングをすることが多いです。単に昔と違って大きければいいというわけでもないです。そしてカーム(Calm)条約があり放送局の中でも、ある一定のラウドネス以上出すことを禁止されていますので、ラウドネスを意識しながら曲をつくる、もしくはミックスをして、マスタリングで調整をするというのは大切なことなのかなと思います。
田端 宣伝プランニングやプロダクトアウト戦略中で、自分の楽曲を、SNSやPRを使って戦略的に出していく方法をもう少し詳しく教えてください。
備 まずは作ることが最も大事で、そして、それを届けることが大事です。誰に届けるかということはすごく大切なことですので、自分の楽曲を誰に届けたいかを考えた上で、どうやって発信していこうか考えていく。それを丁寧に行っていくことが大事だと思います。今の時代TwitterやInstagramなど、様々なプラットフォームがありますので、誰でも発信できるような状態です。その上で、海外に向けてであれば、英語でもその情報が収集できる状態になっているというのが大切なことです。そして自分自身が発信することに加えて、楽曲がバズったり、何かに使われたことに関して、自分以外の誰かが楽曲について語っていたり、そのことについて特集をしているというような状況があると、その2つの軸で自分の楽曲が見えてくるので、自分で発信すること、第三者にその情報がアーカイブされているという状況だと、良いと感じます。
2020年のSpotifyでは、やはり日本の楽曲のトップ10曲中8曲がアニメで使用された楽曲です。これはアニメが海外で人気ということだけでなく、楽曲が、映像作品を通じて認知されることが多いということが証明されている状況かと思います。人気になるポイントは、映像で使われたからというきっかけは非常に多いですね。
田端 まず大切なのは、よりシンクが可能になる状況を作っていくことだと思うのですが、アーティスト、作家が、今日からできることを詳しく説明お願いします。まずはMSがどのように楽曲に遭遇できるか。
備 MSは曲を探しているという前提があります。そして、一番うれしいのは、その曲がすぐ見つかること。それが見つからないから一生懸命、探さないといけない。いかにその遭遇のチャンスをつくるかが、アーティスト側ができることの一つです。その第一歩として、まずはMSは日本語が使えないという前提があるので、楽曲のタイトルが英語でない場合や英語の副題がないと、その時点で検索のしようがなく、非常に大変です。会話の中でも、その楽曲を呼ぶことができないからすごく使いづらいです。英語の楽曲名、もしくは副題がある。そして、それが著作権団体に登録されていて、キューシートにも書くことができるというのは大事だと思います。
配信に関しては、MSはアメリカにいることが多く、Spotifyを使う方が多いので、Spotify、Apple Musicで楽曲と出会えるか出会えないか?は本当にポイントになってきます。特にApple Music、Spotifyで流通している曲というのは、権利がクリアになっている確率が高いので、Spotifyで使われているということは大丈夫だろうなという安心感があります。ですので、海外のストリーミングで配信されているというのは重要なポイントです。
田端 アーティスト名とか英語表記というのもすごく重要ですよね。
備 例えば僕の名前を漢字で出していたら、MSからすると、もうどこから手付けていいか分からないと思いますので、英語名で検索できるというのは大事なことだと思いますね。
田端 Apple Musicは日本語と英語で、2つで表記できるのですが、Spotifyは1言語なのですか?
備 今のところ、Spotifyは1言語だけですね。Apple Musicだけでも英語で配信しておけば、Spotifyは駄目だけどApple Musicだったら大丈夫かなとトライするミュージック・スーパーバイザーは多いと思います。全部、日本語でしたら全滅ですけども、英語の副題がある、もしくは、Spotifyではそれができないけども、YouTubeに上げているものには英語題がちゃんとあるということは検索できるので、せめて何かしらの形で、英語名で出ているというのは大事だと思います。
田端 あとは歌詞というのもすごく重要ですよね。
備 シンクは、歌詞を映像に合わせるというところにある、融合芸術、融合演出的なところがありますので、歌詞の内容が映像と合っているか否かが大事です。それと同時に外国語曲の場合だと、2つありまして、1つはクリエイティブの面で、例えば渋谷のシーンの場合楽曲の中に「Shibuya」という言葉が使われていたらいいなという時に検索します。『渋谷_歌詞_ジャパニーズソング』って検索して出てくるか出てこないかだけで、その楽曲がピックされるか、されないかというのが、変わってくるはずですので、やはり歌詞の内容が、英語で検索した際に何かしらヒットするというのは大事なことの一つだと思います。
田端 アーティストの立場では自分のつくった日本語の楽曲を一つ一つ英語にするのも大変でしょうし、意訳出来るかも知れませんが、何か良いアドバイスはありますか。
備 芸術的に翻訳するのは大変な作業ですし、プロフェッショナルな方がいないと難しいことかなと思います。ただ、MSが特に外国曲に求めていることは2つあって、1つはクリエイティブのキーワードに合うか否かというところ、もう1つはNGワード(宗教的なことや、ドラッグ、たばこなどのトピック)がないかなというところ。この情報が知りたいので、必ずしも完璧な翻訳でなくても大丈夫なので、できる範囲で(例えばGoogle翻訳)、情報として持っていく。歌詞の概要を聞かれた時には、英語の書面で出せるぐらいには、していたほうがいいと思います。
田端 あとはメタデータが揃って準備できていることや、楽曲名の検索可能性も大切ですよね。名前やタイトルを検索した時に同じものがたくさん出てきたり、全然ヒットしなかったりすると困りますよね。レーベル、出版社、アーティストからすると、MSたちとの動線づくりっていうのは、具体的にはどういうことが必要でしょうか
備 まずはレーベル、MSが英語で連絡先までたどり着けるということがすごく大事なんじゃないかなと思います。連絡先までたどり着いて、英語で問い合わせして、それが返ってくるという状況だと、MSは、この楽曲すごくいいし頑張ってクリアランスしようとなると思います。
備 出版社やレーベル、マネジメントが今日から出来る事について説明します。まずは、英語の副題があるということです。楽曲の英語タイトルがあることによって、検索ができる、サーチアビリティが存在するということが一つ。そして、その楽曲が副題としてJASRACに登録されているということ。これが大事な理由というのは、キューシートには日本語で書いて載せることがそもそもできないので、英語の副題がなくキューシートに載せられない場合、純粋な取りこぼしになりかねない。放送権印税が消えていってしまうような悲しい状況になりかねないので、まずは英語の副題があって、それがJASRACに登録されているということは大切です。
次が重要なポイントになるのですがMSが楽曲のクリアランスを行う時に、最初に何をするかということです。ASCAP、BMI、この2つの団体にはSongviewとかACEといった検索システムがあり、出版情報や連絡先が全部出てきます。まずはここで検索することが多いので、できるのであれば、楽曲がJASRACに登録されていて、その情報がアメリカや英国のサーチャーシステムに登録されていること。楽曲登録がされていることで、連絡先が分かるので、MSが興味を持った時に連絡を取る動線が、もうできているというとても理想的な状況ですので、特に北米にサブパブリッシャー(以下SP)があるのであれば、検討する価値があるのかなと思います。
田端 海外SPがない場合でも、連絡先が英語で書いてあるということが重要です。実際、シンクを決めているアーティストのホームページを見ると、もう英語、日本語、多国語で対応していて、もう準備万端みたいなページになっていたので、そういうのもすごく重要かと思いました。実際、備さんから見て、せっかく話が来たのに残念という話は今までありましたか。
備 かなりあります。MSから、この楽曲をクリアランスしたいのだけど連絡が来ないからもう諦めるだけど他の楽曲ないかなとか、どうやったら連絡取れるのかという相談が結構あります。
田端 シンクを断るという発想は、海外ではないんですよね、基本的に。
備 そうですね。シンクのリクエストはものすごいビジネスチャンスです。流れ星が飛んできたみたいなところから始まるので、クリエイティブの相違でパスするケースはありますが、基本的にはチャンス思うことが多いですね。アーティストや出版社、レーベル、マネジメントがこのような問い合わせが来た場合にはどうするかということが事前に考えとしてあるか。そうすれば問い合わせが来て最初の連絡をする際に「多分大丈夫」であるってことを前提に会話を進められるので。それが何も方針がない状態にいると、ちょっと待ってくださいというところから始めて、話をしている間に、大抵、船は行ってしまいます。
備 長期的な取り組み、組織的な取り組みについて話します。これまでチャンスがどんどん去っていくのを見ることが多かった。その理由が、仕組みが理解できてないとか、どれぐらいの期間でクリアランスがされているかだとか、どういうふうな契約項目が契約内容になっているとかということが事前に分からないから、来た時に考えて、考えているうちに去ってしまうことがある。その状況を改善できる方法としては、クリアランスの状況や、契約の内容、どういうことを話し合っていかないといけないのか、動線がないからつくっていこうとか、音楽出版社とかレーベルはないけど自分はこういうことができるということ考えて取り組む。組織的な取り組みでこういった啓蒙活動するというのは一つ、業界全体で取り組んでいけることなのだと思います。
田端 今後の取り組みに関して、どのようなアイデアがありますか。
備 まず一つ、今までクリアランスができなかったという経験がMSの中にあるので、日本の楽曲はクリアランス大変なのだろうなという、イメージも付いています。なので、組織的な啓蒙活動をすることによって、その状況が改善されていく。その結果、北米のMSも、日本の楽曲に対して積極的にクリアランスをしようという気が高まると思います。選曲としては使いたいのだけども、クリアランスが大変だからやめているという、そういう業界のイメージを改善することが、結果として日本の楽曲を使用する促進につながると感じております。
その中での、啓蒙活動は時間がかかることなのですけども、少しスピードアップする方法としては、VIPOの企画の中で、MSなどハリウッドの映像音楽業界の人たちを招いた形でイベントを行うことで日本の音楽業界は海外、特に北米のハリウッドの作品に対して、積極的に使ってもらいたいというラブコールを出すことができると思います。そういうことができると、じゃあどんな楽曲があるの?と、わくわくした話になってきます。そうするとお互い交流もできるので、情報交換やアップデートができる、イギリスがやっているようなことをできると、すごく素敵なんじゃないかなと思います。
田端 先日ハリウッドにある、MSのギルドの方を2人お招きして、どんな売り込み方法が効果的なのかの話をして頂きました。その2人がパネリストとして登壇しただけでも、広がるんですよね。だから例えばハリウッドの音楽関係の方が参加してくれるコライティングセッションとか、監督さんが参加してくれるものとか、そういうのを今後いろいろできるといいですよね。
田端 最後に何かございますか、備さん。
備 こういう機会をいただき本当にありがとうございました。皆さまの、今後ますますのご活躍を心よりお祈りしております。