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国際共同製作における企画発案から完成まで――J-LOD補助金(2)を活用した最新作を監督・共同プロデューサー陣と完成までの道のりを語る!(セミナーを一部抜粋・再構成)
国際共同製作における企画発案から完成まで――J-LOD補助金(2)を活用した最新作を監督・共同プロデューサー陣と完成までの道のりを語る!(セミナーを一部抜粋・再構成)
国際共同製作のプロデューサー育成を目指すVIPOは、育成プログラムの立ち上げ、海外映画祭のラボやワークショップへのプロデューサー派遣、補助金など、様々な角度からプロデューサー/プロデューサー志望者の支援を行なっています。今回は、経済産業省 令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(コンテンツ関連ビジネスマッチング事業)による支援によって昨年度のベルリン国際映画祭併設マーケットの「ビジターズプログラム」に参加し、J-LOD補助金(2)の活用によって、最新作『海辺の彼女たち』をベトナムとの共同製作で完成させたプロデューサー陣と監督のトークセッションを一部抜粋・再構成してお届けいたします。
◆トークセッション登壇者
・渡邉一孝氏(プロデューサー)[略歴]
・藤元明緒氏(映画監督)[略歴]
・ジョシュ・レヴィ氏(プロデューサー/ベトナム)[略歴]
・ヌエン・ル・ハン氏(プロデューサー/ベトナム)[略歴]
〈モデレーター〉
・エリック・ニアリ氏(プロデューサー/アメリカ)[略歴]
信頼が鍵を握る国際共同製作
◆ プロデューサー同士の出会い
エリック・ニアリ(以下、エリック) 本日のモデレータを務めますエリック・ニアリと申します。今日は最新作『海辺の彼女たち』 や前作『僕の帰る場所』 のプロデューサー渡邉さんと監督の藤元さん、『海辺の彼女たち』のベトナム側のプロデューサーであるジョシュさん、ハンさんに、「国際共同製作における企画発案から完成まで」と題してお話ししていただきます。みなさん、よろしくお願いいたします。
それでは渡邉さん、早速ですが最新作『海辺の彼女たち』の立ち上げからこれまでの流れをお話しいただけますか?
渡邉一孝(以下、渡邉) はい。今日はよろしくお願いいたします。
『海辺の彼女たち』の企画は2019年春に立ち上がりました。ベトナムの俳優のキャスティングを考えていたときに、前作『僕の帰る場所』を通じて知り合った、ジョシュさん、ハンさんに相談しました。
それで、J-LOD補助金(2)(海外向けコンテンツ製作に資する資金調達・人材育成を行う事業) を活用して、海外向け制作企画の営業資料の準備のために、2019年6月にベトナムでキャスティングオーディション、7月に日本で試作映像(パイロット版)の撮影、2019年9月からロケハン・撮影準備、2020年2月に撮影、その後、編集を終えました。
完成後、2020年9月に「サン・セバスチャン国際映画祭」 新人監督部門でワールドプレミア、11月に「東京国際映画祭」 ワールド・フォーカス部門でジャパンプレミアを行いました。
エリック ジョシュさんはいかがでしょうか? どのように出会って、実現したのでしょうか?
ジョシュ・レヴィ(以下、ジョシュ) 渡邉さんに初めてお会いしたのは、私が初めて参加した映画祭のイベントでした。私自身はプロデューサーとして参加していました。我々のバックグラウンドは全く異なっていました。私自身は、もともとディズニーで渡邉さんとは全く違うタイプの映画を撮っていましたし、渡邉さんはご自身で資金を調達して最初の長編映画のプロデュースをされたということで、お互いの異なる経験についてたくさん語り合いました。
後日、『僕の帰る場所』を見せていただいて、渡邉さんの経験、藤元監督のアプローチ、彼らの映画製作は非常にユニークだと思いましたし、もっと知りたいと思いました。そういったことがあって、ずっと連絡を取り続けていました。そして次のプロジェクトのお話を聞いたときに、ぜひ参加したいと思いました。
私が映画をプロデュースする際には、自分が何かを与えたい、また何かを学びたいという思いがあります。私の経験とは違う、藤元監督、渡邉プロデューサーの映画の作り方を経験したいと思ったのが参加の一番の理由です。渡邉さんと藤元さんは、このストーリーを描くために海外のパートナー求めていましたし、我々エバーローリングフィルムズ社としても、アジアの映画に貢献したいという思いもあり、プロジェクトが始まる前からこれは絶対にうまくいくと確信して臨みました。
エリック 渡邉さん、今回は藤元さんと一緒に企画したのですか?
渡邉 『僕の帰る場所』と『白骨街道』もですが、今回も一緒に企画しています。
作家が自分の人生の中で語らなければならないテーマ、語るべきことがあったときに、それが社会性を持っていく。それが私自身も大事にできるものであり、第三者も大事にできるようなものだと強く共鳴できれば、共同で企画できるものだと思っています。今回の作品も、そういう映画になると思っていました。
藤元明緒(以下、藤元) 監督が企画書と脚本を書いて、プロデューサーを探すようなやり方ではないですね。渡邉さんと僕、それとカメラマンの岸建太朗さんの3人で、企画書を書く前からこういったことが映画として考えられるんじゃないかということを話しながら、このチームでやるという意思表示の上で企画を練っていきました。そこはかなりスムーズに進みました。
『海辺の彼女たち』
◆ 共同製作の必然性
エリック 渡邉さん、最初からベトナムを想定していたのですか? ジョシュさんと話し合う過程で決まったのでしょうか?
渡邉 『海辺の彼女たち』は、日本にいる技能実習生の失踪後の話です。逃げた先のコミュニティや、逃げた方々の人数や割合などを考えたときに、ベトナムの設定は、事実に即していて必然性があると思いました。一方、技能実習生には他の国の方々もいらっしゃるので、他の国の設定の可能性も監督とは話していました。監督はミャンマーの繋がりがありますし、僕もフィリピンに知り合いのプロデューサーがいました。
エリック そういった選択肢がある中でベトナムを選んだのは、やはりジョシュさん、ハンさん、お2人を信頼しての決断だったのですか?
渡邉 ストーリーの中での必然と、そのときにチームになれる人との組み合わせが合ったんだと思います。
ジョシュ 確か、渡邉さんがもともとフィリピンのプロデューサーと話をされている中で、私たちを紹介していただいたんです。渡邉さんたちが描こうとしている外国人技能実習生は、フィリピン人の技能実習生の働き方とは違うので、もしかしたらベトナムの方が良いのではないか? ということで。
ヌエン・ル・ハン(以下、ハン) ジョシュが言ったことに加えて、日本における社会実情ということも重要だと思います。私たちも調べたのですが、日本にはベトナムからの外国人技能実習生が非常に多いという実態があります。いろいろな映画で、西欧で働くベトナム人の実情というのは描かれていますが、ベトナム国民は日本で働くベトナム人の実情をあまり知りません。私はそれを伝えたくて、ぜひこのプロジェクトに参加したいと思いました。
ジョシュ 実はこのフィリピンのプロデューサーと出会ったのも、渡邉さんと出会った映画祭でした。私が初めて参加した映画祭で出会ったいろいろな方とのネットワークが繋がっているというのは非常に興味深いと思います。特にアジアの映画祭は、人と出会う場です。いろいろなキャリアのステージにある方たちとネットワークを築いてきたことが様々な機会に繋がっていると思います。
渡邉 少し加えますと、2018年にカンボジア国際映画祭で『僕の帰る場所』を上映したときに、ジョシュさんと、さきほどのフィリピン人プロデューサーのアレンや彼が連れてきた監督はじめ、様々なアジアの国々の同じようなステージの方たちに会いました。彼らはそれぞれとても個性的で、エネルギッシュで、今も活躍している方が多いです。ですから、僕たちが何かアジアのことでやろうと思ったときには、必ず彼らに相談すると思います。今回も、アレンに声をかけたときには、「ジョシュはどうなんだ?」となって、みんなで盛り上がりましたね。
日本での撮影の様子
◆ お互いの目線を合わせる
エリック 渡邉さんに質問ですが、例えばベトナム、新しい国とこのような製作を始めるにあたって、プロジェクトに関してどのように目線を合わせていくのでしょうか? おそらく最初の段階では映画のストラクチャーやクリエイティブに、いろいろと違う点があると思うのですが。
渡邉 今回は補助金を得たことで、キャスティングオーディションで監督、カメラマンの岸さんと3人でベトナム行くことができました。事前に企画は渡していましたが、そのときに、ジョシュさん、ハンさんとゆっくり話すことができました。その後、オーディションで選んだ俳優さんに来日していただき、他のスタッフとともに撮影をしました。これは、クリエイティブのミニマムな実行なわけです。そのときに準備、撮影から仕上がりまで一通り話しができたことが、目線合わせになったのだと思います。
エリック 同じ質問をジョシュさんにもしたいと思います。実際プロジェクトを始めるにあたって、渡邉さんの考え方とかプロジェクトのストラクチャーとか目標設定などに関して、考えは違いましたか? それとも似ていましたか?
ジョシュ まず私たちには、2年ほど前から、東南アジアの共同製作の伝統ルートという形で、ラボを経由して始めたプロジェクトがあります。こういった経験を通じて、共同製作とは何かということを学んできました。
渡邉さんの前作『僕の帰る場所』は、資金調達も独自の方法ですし、共同製作やラボとか、多額の助成金を得て作った作品ではないということで、私は渡邉さんの手法に非常に興味がありました。どのように資金調達を考えているのか? 私たちは何ができるのか? 何を求めているのか? そういうことをたくさんの話し合い、曖昧なままにせずに、たくさんの質問を通じて理解を深めていきました。
アジアのどの国であっても、共同製作は信頼関係がないと不可能だと思います。最終的には信頼が鍵を握っています。例えば明日突然事情が変わって、これは正しくない、フェアではないということが起ったとしても、しっかり話し合って解決できるということを信じられるかです。私たちはバックグラウンドも考え方も異なっていますが、常に率直に話し合ってきましたし、元々考えていた方向でなくても話し合って解決できると確信して進めてきました。
渡邉 彼らへの信頼について補足します。共同製作をするにあたっては、両国の事情を押さえた上で、利益を見込むことが大切なポイントになってくると思うんです。僕は企画上、ベトナムでの興行とか、配給の実現を考えたときにですね……ベトナムでは検閲が不透明でなかなか厳しいと聞いていたんですが、そのような中でも「最後まで企画をやってみたい、この企画がどうなっていくのか見てみたい」と言われたことは大きかったです。いくつも作品を重ねたプロデューサーであればそういうことは気にかけないかもしれませんが、僕たちのようにまだ経歴が浅いプロデューサーが組み合う中に野望や野心の中での信頼があったと思います。
日本での撮影風景
J-LOD補助金(2)の活用
◆ 「海外向けコンテンツ製作に資する資金調達・人材育成を行う事業」への申請
エリック 渡邉さん、藤元さん、日本では資金集めが大変だと思いますが、今回、どのように J-LOD補助金(2)を利用して実現できたのですか?
渡邉 J-LOD補助金(2) *は、海外向けコンテンツの製作を対象にした補助金です。資金調達のための試作映像の企画・開発費用などに補助していただけるんです。
僕たちは、資金に関して強いバックグラウンド持っているわけではありませんから、開発はとにかく大変です。例えば、ベトナムでオーディションしたいと思っても、通常はなかなかできません。ですがこの補助金は、企画書を作りたい、オーディションに行きたい、俳優を選んでパイロット版を制作して営業資料を備えたい、スクリプトも作りたい、それを多言語で用意したい、そういう基本的なプレゼン資料の作成に対して活用できるということを知りました。この補助金制度に合わせた趣旨を書き、アイテムを準備して、どういったことができるかを勉強して申請しました。
エリック 今回、総予算はどのくらいでしたか?
渡邉 2000万円くらいです。
エリック 最初、日本側とベトナム側からの資本は、どのように考えていて、結果、どのようになりましたか?
渡邉 最初はオープンにして他の国の資本を入れることも考えていましたが、なかなかうまくいくものではないですね。ですが企画を進めていく上で、ジョシュさん、ハンさんたちのever rolling films社 がパートナーとして入ってくれることになり、その資本を入れた上で本製作に臨むことになりました。僕たちの企画であれば 50/50ではなく、僕たちがマジョリティを持った上で進めるというふうに落ち着いていきましたね。
*J-LOD(2)「海外向けコンテンツ製作に資する資金調達・人材育成を行う事業」
海外展開を目指すコンテンツの本格的な制作に必要な資金調達のための試作映像等 の企画・開発を行う事業に係る費用について、その費用負担を軽減するため、当該事業を主体となって実施する企業・団体に必要経費の一部を補助します。
◆ 試作映像(パイロット版)制作の効果
エリック 藤元さん、J-LOD補助金(2) について何かお考えはありますか?
藤元 1000万、2000万あたりの低予算の映画製作では、試作映像ってなかなか制作する余裕がないと思うんです。一方で試作映像は、営業資料になるという最大の目的以外に、試作映像を作る行為を通して僕らの欠点を考えたり、両国間のチームワークやチームビルドに大きく役立っていると思います。日本人だけであれば映画の作り方は大体共有されていますが、ベトナ側とは映画の作り方とか、映画言語とか思想とかが違うことがあると思います。そこを擦り合わせるという行為も含めて、試作版映像をプリプロダクションの段階で作れるというのは、ディレクターとしては非常にありがたいことですね。
エリック そうですね。日本の映画業界では、開発費はあまりないと思いますので、非常に役立つと思います。
今回の準備にあたって、特にクリエイティブサイドで非常にユニークなコラボレーションを行なったという話をジョシュさんから伺いました。それについてもう少し教えていただけますか?
ジョシュ また信頼の話に戻ると思います。別の共同製作で、もう何年も脚本を書いていてまだ進んでいないものがあるのですが、それと今回のプロジェクトは全く異なりました。
ここでいう信頼というのは、もちろん渡邉さんもですが、特に藤元監督に対しての信頼です。前作の『僕の帰る場所』と今回の『海辺の彼女たち』のスタイルが異なっていたので、お互いに合わせていくというプロセスが必要になりました。私はアメリカ生まれ、アメリカ育ちです。人格形成やストーリーテリングのストラクチャーが、アメリカで生まれて育つ中で、あるものが染み付いています。ストーリーを語るとき、登場人物がどのように成長して人格形成をしていくかといったところの流れを求めるんです。
一方で藤元監督が主眼を置いているのはリアリティです。ですから、アプローチという意味では藤元監督も渡邉さんも、今回は大きく変えているところがあると思います。『海辺の彼女たち』は、よりしっかりとしたストラクチャーがあるストーリーとなっています。『僕の帰る場所』は、より登場人物と一緒に存在する、彼ら自身の在り方に寄り添う、それに合わせて一緒に生活していきながら撮っていくようなスタイルでした。
今回はプリプロダクションの段階から、その俳優に寄り添うところと、実際の外国人のリアルな生活、日本社会の実情、それからストーリー、それを全て組み合わせて作るというプロセスだったと思います。よりドキュメンタリー的な語り口になっていく中で、私としても難しいことがありましたが、渡邉さんも藤元さんも、最初から「こういうふうに作りたい」と明確にされていました。『僕の帰る場所』を見ていましたから、どういうプロジェクトになるかもわかった状態で臨んでいましたが、それでもお互い予想していなかった展開もあったと思います。最終的には信頼して、話し合って進めていきました。
エリック 渡邉さん、ジョシュさんのお話を受けて何かありますか?
渡邉 そうですね。ジョシュさんがおっしゃった国の違いもあるかもしれないですが、作家によって作り方が違うということもあると思います。もっと言えば、違う企画だから、企画に合わせるということもあると思います。信頼ということをもう少しブレイクダウンするならば、映画の企画自体が達成しなければならないポイントがある、それに対してどう思うかということをよく話していたような気がします。
藤元 プリプロの一番の課題としては、俳優さんが来日するまでテンションをどう保っていくか、撮影までにどうピークを持っていくかということがありました。そこに関しては、ジョシュさん、ハンさん、現地のプロダクションがかなりサポートをしてくれました。具体的には、撮影が始まるまでの数ヶ月間、俳優さんたちには日本語スクールに通ってもらえるように手配してくれました。台詞の練習ではなく、技能時実習生の方は来日前に実際にスクールに通ったりするので、役作りとしてです。役者さんも撮影に向かってキャラクターを深める作業というのをすごくやってくれました。ジョシュさん、ハンさんとも、登場人物を一緒に作っていけたのでとても有意義な時間でした。
国際マーケットへのアクセス
◆ セールスエージェントを決める
エリック それではハンさんに、セールスエージェントとのやりとりについて伺いたいと思います。
ハン 私たちのセールスエージェントは、私がベトナムのワークショップで出会ったAsian Shadows という会社です。そこでメンターで指導者であったイザベルさんという方を通じて、今回のエージェンシーを決めました。
その段階では、まだ私たちは『海辺の彼女たち』の共同プロデューサーではなかったのですが、その後サン・セバスチャン映画祭に招待されるということが決まり、Asian Shadowsのアクイジションのヘッドの方から連絡がありました。お話をしているとワークショップで出会ったイザベルさんがAsian Shadowsの方だということが判明しました。イザベルさんの人となりもよくわかっていたので、渡邉さん、ジョシュさんに紹介しました。
エリック Asian Shadowsは非常に素晴らしいセールスエージェントで、特に今回のプロジェクトとはマッチしていると思います。やはりトップの映画祭にフィーチャーされたことがきっかけでこのようなエージェンシーとの交渉ができるようになるのでしょうか? それとも、そういったことがなかったとしてもいろいろオファーがあるものでしょうか?
ハン 今回は映画祭の後にセールスエージェントから連絡をいただきました。私の経験上、このような映画ですと、まず映画祭などで名前が知られて、その後にセールスエージェントという方がスムーズかと思います。
サン・セバスチャン国際映画祭(スペイン/2020年 9月)
◆ ラボを活用する
エリック ここからは共同製作マーケット全体について伺っていきたいと思います。まず渡邉さん、昨年、「ベルリン国際映画祭」併設マーケットBerlinale Co-Production Market (以下、BCPM)の「ビジターズプログラム」に参加されましたが、経験を共有いただけますか?
渡邉 僕は、ジョシュさん、ハンさんのように、国際的なプログラムやラボとかに参加したことがなかったんです。そろそろそういった機会への参加を増やしていこうと思いまして、それで昨年、BCPMの「ビジターズプログラム」に応募して参加することになりました。「ビジターズプログラム」は、Co-Production Marketが主催しているコミュニケーション、ネットワークを作っていく前段の場というか、参加者たちが育っていけばプロダクションマーケットに応募していく、そういう人たちを増やすような場でした。
ここでは、参加者みんなが短時間で自分の企画をプレゼンする光景をたくさん目にすることができました。僕は初めてで全てオンラインということもあって、5 分ぐらいのピッチで本当に信頼できるパートナーかどうか、雰囲気をつかむのは大変だと感じました。ジョシュさん、ハンさんには、実際にお会いしていろいろと話し合うことができましたけどね。
エリック ジョシュさんいかがでしょうか。ベトナムをベースとして、どういったプラットフォームやラボを使ってCo-Production Marketとかにアクセスされているんでしょうか。
ジョシュ ラボについては後ほどハンから補足するとして、まず一般的なアドバイスをしたいと思います。映画祭に関しては、なるべく大きな映画祭でプレミアをすれば他の映画祭からも招待されると考えています。しかし、ラボに関して逆ではないかと思っています。ローカルであればあるほど良い。特に、レジュメがあまりない、作品がたくさんない、受賞歴があまりない場合、大きなラボになればなるほど、対面ではない場で関心を引くこと、レピュテーションを築くことは非常に難しいと思います。従って、私たちもローカルから始めました。まずはベトナムのラボ、それから東南アジアのSEAFIC など。さらに国際共同製作という形でProduire au Sud (ナント三大陸映画祭)にも拡大しています。ラボの参加はキュレーションのようなものです。小さなコミュニティですのでラボのキュレーターはほかのラボについても知っています。例えばこの企画だったらこのラボに行けるだろう、以前ここのラボで学んだのであれば内容が保証されているなど、参加するラボによって企画にスポットライトが当たるのです。そのようにしてどんどん大きなラボに参加することを目指しています。
エリック ハンさんからもご経験を共有いただけますか?
ハン 私は現在、韓国のBusan Asian Film Schoo の 12週間のコースを受けています。今まさにキャリアを築こうとしているアジアの若手プロデューサー向けです。映画業界の方が講師となって、ストーリーテリング、資金調達、マーケティング、配給といった様々な授業を受けることができます。講義に加えて、他の映画業界の方と話し合う場もあります。例えば、映画祭のプログラマーの方に、どのようにプログラムを決めているのか、業界としてどのように動いているのかとか。より重要な点としては、このスクールを通じて他のアジアのプロデューサーの方とたくさん知り合い、話し合う場があることです。ここで生まれたネットワークが今後のアジアでの共同製作に活きてくることを願っています。
東京国際映画祭(2020年10-11月)
Q&A セッション
Q1 渡邉さんへの質問です。「『J-LOD補助金(2) 』を使用してパイロット版(試作映像)を作られたということでしたが、短編作品として完結する作品を制作されたのでしょうか? また、パイロット版について各国での考え方の違いはありますか?」。
渡邉 J-LOD補助金(2)としてはパイロット版を営業用資料として作るということになっていると思うので、短編作品として完結するものではないと思います。プレゼン資料なので、映画がどのようなテイストを目標にしているかということをきちんと伝えれば、そういったものになりますし、趣旨を説明すれば、そういったものになります。説明の仕方によると思います。
藤元 僕がパイロット版をディレクションしたのですが、物語の面白さよりは、物語の登場人物の魅力を伝えるようなものにフォーカスして作りました。言語的な営業というよりは、ひと目で「この女優さんすごく良いかもしれない」とポテンシャルを引き出すようなものになっていたと思います。
Q2 「国際共同製作がうまく行かないパターン、途中で頓挫してしまうのはどのようなときでしょうか?」
エリック 私はプロジェクトを通じて、お互いが何を期待しているのかを確認して目線合わせをし続けるということが大事だと思っています。というのも、特に国際共同製作の場合、お互い期待しているものが異なることが多いからです。また、すべての参加者が必ず問題が発生するということを最初から受け入れる必要があると思います。国際共同製作では必ず様々な問題が発生します。資金面やビジネス面で信用を悪用されないようなプロトコルというのも必要にはなりますが、同時に自分のパートナーが全く異なるプロセスなどを持っているといったことも理解をしなくてはなりません。
日本は、他国と比べてあまり契約を多用しないということがあります。契約の細かいところにばかりに時間を割き過ぎることも問題ですが、一方で契約をネゴする過程で、役割分担、利害、それぞれの責任などがいろいろと明確になるので、国際共同製作では、契約書がより重要になると思います。頓挫となると、特に多額の資金をすでに投入している場合には大きな問題となるので、初期の段階で「この共同プロデューサーとは何かうまく行かないな」と思ったら、早い段階でストップをかけた方が良いと思います。
ジョシュ 私からも、新しいパートナーと契約する場合についてコメントさせてください。ラボのメリットのひとつとして、色々な監督やメンターと知り合えることがあります。彼らからは「新しい海外のパートナーと契約を結ぶ前に、アドバイスができるから私たちに確認して欲しい」と言われていました。渡邉さんとは、すでに人間関係ができていましたので必要なかったですが、Asian Shadowsは、メンターの方に確認を取りました。契約書の作成も重要ですし、知らないパートナーの場合には、信頼できる方に事前に確認をすることも安全に映画製作を行うには必要だと思います。
渡邉 僕からも一つ。僕らがベトナムと組んだのは、ベトナム側にはじめから資金が用意されていたからではありませんでした。というのも、共同製作のマーケットの中で話をして聞いていると、先に枠があって、部品のように人を当てはめてチームを作りがちな気がしています。それは形としてはわかるけど「どうやって実現するんだろう」と感じる場面が結構ありました。ですから、企画の中の必然性でパートナーや共同国が交わっていくのが一番理想的だと思います。
Q3 次はジョシュさんへの質問です。「国際映画祭では日本の社会問題の何について関心をもたれていますか? 海外から見た日本についての関心事、トピックについて知りたいです」。
ジョシュ 非常に難しい質問です。映画祭自体のカルチャーというのもありますし、国際映画祭、国内映画祭、それぞれで関心を持たれているトピックは頻繁に変わります。プロデューサーとしては、社会的な時事問題といった観点もありますが、自分自身の心の琴線に触れるものを選びたいと思っていますし、映画祭のキュレーターの方もそうあって欲しいと思っています。
Q4 最後に渡邉さんへの質問です。「助成金を獲得する方法、獲得するのに苦労した点、獲得するためのアドバイスなどをお願いします」。
渡邉 『僕の帰る場所』では助成金は全く取れなかったです。そもそも申請できるような体制を取れていなかったこともあります。自転車の漕ぎ始めというか、自分たちが誰なのかということを説明できるようになってから、申請しやすくなったような気がしています。助成金だけではなく、BCPMにしても、『海辺の彼女たち』でロケ地の支援を得るのも似たような感じでした。「私たちはこういう人間なので、だからこういうことをやりたいんです」ということが説明できるようになるまでは、支援や助成金を獲得するのに苦労しましたね。ですから、短編でも良いので、自分たちの正体を明かすような何かを作ることが必要だと思います。
※セミナーの動画はこちら からご覧いただけます。
VIDEO
渡邉一孝 Kazutaka WATANABE
プロデューサー
福井県出身。配給会社、俳優事務所、映画祭のスタッフを経て、日英翻訳のコーディネートや映像字幕制作、自主映画の制作を行う。2014年に映画の企画から配給/セールスおよび翻訳字幕制作を行う株式会社E.x.N(エクスン)を設立。製作/プロデュース作として『黒い暴動♥』(16/監督:宇賀那健一)、藤元明緒監督作『僕の帰る場所』(17/日本=ミャンマー)、短編『白骨街道』(20/日本=ミャンマー)。山形国際ドキュメンタリー映画祭ラフカット!部門のプログラムコーディネーター。映像を観て対話する「見たことないモノを観てみる会」を主宰。
株式会社E.x.N公式サイト: http://exnkk.com/
藤元明緒 Akio FUJIMOTO
脚本/監督/編集
大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映像制作を学ぶ。日本に住むあるミャンマー人家族の物語を描いた長編初監督作『僕の帰る場所』(18/日本=ミャンマー)が、第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門2冠など受賞を重ね、33の国際映画祭で上映される。長編二本目となる『海辺の彼女たち』(20/日本=ベトナム)が、国際的な登竜門として知られる第68回サン・セバスチャン国際映画祭の新人監督部門に選出された。現在、アジアを中心に劇映画やドキュメンタリーなどの制作活動を行っている。
ジョシュ・レヴィ Josh LEVY
プロデューサー
1985年生、カリフォルニア出身。ディズニーやフォックスにて制作現場での経験を得る。ベトナムに移住後、2016年に、現地の映画監督たちと共に映画会社・エヴァーローリングフィルムズをハノイで立ち上げる。短編映画『Roommate』(18、監督:Nguyen Le Hoang VIET)がハノイ国際映画祭にて新人監督賞を受賞。Produire Au Sud(ナント国際映画祭)、SEAFIC、SGIFF Southeast Asian Film Lab, Full Circle Lab、Online Consultancy(ロカルノ映画祭)などのプログラムに参加。
現在『Till the Cave Fills』、『Fix Anything』など国際共同製作長編企画を企画開発中。
ヌエン・ル・ハン Nguyen Le HANG
プロデューサー
ベトナム人映画プロデューサー兼ハノイ(ベトナム)を拠点とする制作会社 ever rolling films の共同創設者。これまで、ハノイ国際映画祭2018で最優秀監督賞を受賞した『Roommate』やMax Ophüls Prize Film Festivalにて観客賞を受賞した『Trading Happiness』など、数々の短編映画をプロデュース。2019年には『Fix Anything』でベトナムの5つの短編映画に与えられる助成金企画コンテストに選出された。2020年には日本・ベトナム共同製作映画『海辺の彼女たち』をプロデュース。最近では企画開発中の長編映画『Till The Cave Fills』にてAutumn Meeting Arthouse Pitch、SGIFF Southeast Asian Film Lab、SEAFIC、Produire au Sud 2019などのラボに参加。
エリック・ニアリ Eric NYARI
プロデューサー
米シネリック社の代表取締役、およびシネリック・クリエイティブ社長。新作劇映画、ドキュメンタリー、4K修復プロジェクトを多数企画・プロデュース。近年の主なプロデュース作品は、アミール・ナデリ監督作『Monte(山)』(2016)、『Ryuichi Sakamoto: CODA』(2017)、福永壮志監督作『アイヌモシリ』(2020)等
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