注目のロックオペラ『犬王』のプロデューサー竹内文恵氏に聞く! みんなが簡単に思い浮かばないイメージだからこそ、すごいものができる!
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無発声応援上映でも話題となった狂騒のミュージカル・アニメーション『犬王』。プロデューサーである竹内文恵さんは、テレビシリーズから長編までさまざまなアニメーション作品を手掛けています。今回は『犬王』の製作秘話を中心に、プロデューサーの役割、アニメーション業界の課題など、劇場公開直後のお忙しい中、お話を伺いました。竹内さんには、2019年の「ロッテルダムラボ」参加後にもインタビューしていますので、ぜひ合わせてご覧ください。(取材日:2022年6月2日)
劇場アニメーション『犬王』本予告(60秒)
才能を発揮しやすい環境を整えて、次の新しいものづくりに向かっていただく
プロデューサーにとって一番肝心なのは…
- ◆才能のある方たちの作品を広げていくことが楽しかった
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VIPO統括部長・グローバル事業推進部長 森下美香(以下、森下) 2019年の「ロッテルダムラボ」にご参加いただいてから、竹内さんにはずっと注目しています。『犬王』は初日に観たのですが、とても素晴らしかった。今も興奮覚めやらぬ感じです。今日は『犬王』を中心に、プロデューサーとしての竹内さんを深掘りさせていただきたいと思います。
アスミック・エース株式会社 竹内文恵(以下、竹内) 『犬王』、ご覧いただいたんですね。ありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします。
森下 まずは、これまでの歩みからお伺いします。竹内さんはカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に新入社員として入社されて、その後、アスミック・エースに転職。一旦、辞めてフリーで洋画の宣伝をされてから、もう一度アスミック・エースに入社されましたよね。現在、プロデューサーという肩書ですが、初めからプロデューサー志望だったのですか?
竹内 いいえ。最初は自分がものづくりに携われるとは思っていませんでした。宣伝の仕事から製作へと考えていたわけではなく、宣伝担当として才能のある方たちの作品を広げていくことが楽しかったんです。
深夜のアニメーション枠『ノイタミナ』に最初の6年間携わっていたのですが、最初のほうはフジテレビさんが製作幹事、アスミック・エースが宣伝幹事で、私も主に宣伝スタッフとして参加させていただいていました。
そんな中で、お客様に最終的に届けたいメッセージを企画の段階から考えていけたらどうだろう……宣伝としてどのような要素があったら広がりやすいだろう……、と思い始めました。
森下 その辺りがきっかけなのでしょうね。
今はアニメを担当されることが多いですよね。学生の頃からアニメにご興味があったのですか?
竹内 学生時代は、詳しい方のお勧めのアニメ作品を見る程度で、それよりも日本の古い映画や60~70年代のヨーロッパの映画、アメリカンニューシネマを多く観ていました。
アニメの仕事を始めたきっかけは、湯浅政明監督の劇場アニメ『マインド・ゲーム』と、今敏監督の『妄想代理人』というテレビシリーズです。お2人の作品や仕事への姿勢を拝見して、「アニメの仕事を長くやりたい!」という気持ちが一気に沸きました。
- ◆絶対にアヴちゃんしかいない!
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森下 プロデューサーの仕事って、定義があってないようなものだと思います。竹内さんの思うプロデューサーの定義はありますか?
竹内 プロデューサーは、それぞれの考え方がある職業だと思います。
私は絵を描いたりストーリーを書いたりできないので、そのような才能のある方たちが出会えるきっかけと集まる場を作ること、加えてその方たちが一番才能を一番発揮しやすい環境をひたすら整えて、次の新しいものづくりのフェーズに移っていただけるようにするのが、一番全うすべきことだと思っています。
森下 『犬王』のパンフレットも素晴らしかったですね。パンフレットの記事の中に竹内さんの名前がたくさん出てきました。森山さんとアヴちゃんのキャスティングは竹内さんアイデアですか?
竹内 キャスティングは、アニプレックスのプロデューサー淀明子さんと2人で提案しました。淀さんに相談したとき、彼女がちょうど女王蜂のライブを見に行った後で、悩んでいた時にふとお名前を出してくださって。アヴちゃんは過去に湯浅監督と『DEVILMAN Crybaby』挿入曲で一緒に仕事をしていますし、犬王の役は歌もあり、すごく難しいキャラクターだったので、「絶対にアヴちゃんしかいない!」と。
森山未來さんは、「琵琶の語りのような、歌のような微妙なニュアンスと激しいお芝居の両方できるのは森山さんしかいない!」と監督や皆さんに言った瞬間、すぐに納得してくれました。
ⓒ2021 “INU-OH” Film Partners
森下 その提案をするのがプロデューサーなのですね。
脚本の野木亜紀子さんと湯浅監督の意見が合わないときに、竹内さんが間に入って粘り強く意見を聞きながら落としどころを見つけて話を前に進めていったというエピソードがパンフレットにありましたが、それもプロデューサーの大切な役割ですよね。
竹内 アニメと実写では作っていく過程が違います。野木さんは初めてのアニメだったので、事前にある程度説明はしていたのですが、実際に制作を進めると「え?」と思う瞬間があったと思います。
今回は早い段階から脚本を作っていました。湯浅監督に限らずアニメの監督は絵コンテを書き始めるとイマジネーションがどんどん湧いてくるので、やりたいことが溢れて増えることが多いんです。いい脚本だからこそだと思いますが。
でも野木さんは心情的な設計を脚本の中でしっかりする方なので、一度無くなったセリフが違う形で出てきたりすると、「お客さんがついてこられなくなるかもしれない」と何度か監督に相談ました。
でも、絵コンテができたということは、たくさんのアニメーターさんたちが待ち構えていて、一気に各カットを描いてく段階、もはや後戻りできないことも多くあります。変更することで後にどのくらい負担がかかるか、湯浅監督は、現場が崩壊する前のギリギリのラインで、作品が最大良くなる効果的に調整できる場所を計算してくれました。
森下 おそらく線画の段階から監督の頭の中ででき上がっていますよね。 それをみんなと共通認識で進めていくのはとても大変なことだと思います。
竹内 確かに頭の中で考えていることを早めに取り出せれば、それを具現化して映像にしていく過程もスムーズになりますし、より良くなる可能性が高くなると思います。とはいえ、すぐできてしまうことにはワクワクしないかもしれませんよね。
みんなが簡単に思い浮かばないイメージだからこそ、すごいものができ上がるのでしょうし、分からないからこその楽しみがあるので、分からない部分も大事にしたいです。
森下 『犬王』は、それが伝わる作品でした。私が初日に観に行ったのは、いろいろな情報をシャットアウトしたかったからです。宣伝で見た“ミュージカル”ということさえも知らないほうが良かったと思いました。実際に観てみると、全部が裏切られていく感じであっという間に終わりました。すっかり引き込まれて、途中からアニメだということを忘れていました。
2020年の「アヌシー国際アニメーション映画祭」(オンライン開催)で湯浅監督が「ワーク・イン・プログレス」に出られたとき簡単なビジュアルしか公表されていませんでしたが、こんなことになった! 本当にすごいと思いました。構想から何年くらいかかったのですか?
竹内 監督に相談したのは2017年の後半くらいなので、かれこれ4年かかっています。
- ◆「ロッテルダムラボ」が初めてでした
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森下 4年の間に竹内さんは「ロッテルダムラボ」**にも参加されましたよね。今のお仕事の基本は国内のアニメのプロデューサーだと思いますが、ラボでは海外の方たちとネットワークを作り、いろいろな学びがあったと思います。ラボは役に立ちましたか?
**「Rotterdam Lab」:「ロッテルダム国際映画祭」が、1983年に世界で初めて立ち上げた映画企画マーケット「CineMart」により、2001年から運営されている新進プロデューサー対象のワークショップ。
竹内 海外の映画祭などで行われているプロデューサー講座のようなものに参加したことがなく、「ロッテルダムラボ」が初めてでした。
海外販売チームは熟知していることですが、<アニメも観る映画ファン>のマーケットを海外の配給会社がどのように作っていくのか、私はよく理解していませんでした。最終的に海外に受け入れられることを意識しながら作らないとまずいのではないか……と思っていたところを、1週間みっちり学ぶことができました。
ラボに参加した後は、海外販売チームがやろうとしていることに対する温度感や解像度が変わりました。配給会社に売り込むときのピッチの切り口や、次に何をやるべきかをすり合わせるのがスムーズになり、二人三脚で走りやすくなりました。
- ◆ぐっと寄ってみる瞬間も大事
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森下 それでは、プロデューサーに必要なスキルとは何でしょうか?
竹内 人それぞれのやり方があるので、私が心がけていることしか言えませんが、一般的にプロデューサーは事業全体を俯瞰しないといけないと思われていますが、中にぐっと入って寄ってみる瞬間も同じくらい作らないといけないと思っています。寄り引きの視点をバランスよく持っていたほうがいいと思っています。
森下 確かにそうですね。俯瞰でばかり見ているとお客さんになっちゃいますよね。プロデューサーとして一緒に進んでいくと言う感じでしょうね。
竹内 現場でもみんなで一緒に進んでいる感じが最終的に作品に必要な部分だと思います。
みんなで楽しめる方向に向かったり、やらなくていいことはとにかくやらない。「いつもやっている作業」をどれだけ減らせるかですね。その作業を減らして、考えることに時間を割く方法をみんなと相談しながらやっています。
あとはバランスよく足腰を強くして、みんなで走れることが大切なのかなと。
森下 「作業をしない」って重要ですよね。考えずに作業をしたほうが楽ですもんね。そのことを仲間や後輩にどのように伝えていますか?
竹内 「必要なのはここだったよね。だったらこれはいらなくない?」「ここだけがあればいいかもしれない」と、それぞれがゴールに向かって何が必要か考えて動けるように話をしていますね。
それと、若い世代になっていくにつれて、スキルを身に着けようとする真面目な人が多いのですが、「どういうものを作りたいのか?!」ここが一番肝心だと思います。
ⓒ2021 “INU-OH” Film Partners
アニメーションだからこその『犬王』――狂騒の世界
- ◆ありがたい偶然がたくさん起こった
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森下 今回の『犬王』とテレビシリーズの『平家物語』を同時期に担当されていますよね。「『平家物語』を見てから『犬王』を見たほうがいいのでは」と言っているジャーナリストの方もいましたが、両作品に竹内さんがプロデューサーとして携わっているのはどういうことなのでしょうか?
ⓒ The Heike Story Project竹内 『平家物語』にしても『犬王』にしても、宣伝費をたくさんかけて展開するのではなく、テーマも今のアニメ市場の王道から少し外れたところにある作品なので、多くの方たちに観ていただくためには何かしら関連がある作品にしたほうがいいと思いました。
ひとつは観た人がその作品全体をより深められるということ、もうひとつは相互作用で観る人が増える可能性があると思い、時期を同じにしました。
森下 NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も同じ時代のものですよね。
竹内 大河ドラマはたまたまですが、この2作品の歴史監修をしていただいた佐多芳彦先生は、『鎌倉殿の13人』の風俗考証をしている方なんです。中世のあの時代を一気にいろいろな視点で観るという楽しみ方もできると思います。
この2作品は、ありがたい偶然がたくさん起こったので、そのたびに佐多先生と「平家の皆様のご加護ですね」と話していました。(笑)
- ◆声と映像が一緒になったあの飛翔はずっと忘れられない
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森下 一番のご苦労はどこでしたか?
竹内 最初に社内のみんなに事業の可能性を感じてもらうときでしょうか……。
森下 「ここはうまくできた!」と思うところはありますか?
竹内 今回のように音楽と映像とお話しが混然一体となった、制作過程含め、あまりきっちり切り離せないような作品では、作っている人同士の連帯がどんどん深まっていくんです。それぞれで思うことが違っている場合でも、スタイルのある人同士だとそれぞれのやれることを高めていけるので、その過程を見られるのが本当に楽しかったです。
アニメーションの映像しかり、脚本しかり音楽しかり、今回集まった皆さんは、より良いアイデアをお互いに出し合っている感じがありました。音楽もアヴちゃんや森山さんがそれぞれ提案したことに対して、大友さんや湯浅監督がアンサーをしてチームプレーが成り立っていきました。
世代や立場が違う方々の間でコラボレーションが生まれていくのがすごくよかったと思います。
森下 『鯨』のステージの作り方はとても現代的で、そのままライブで使いたい方がたくさんいるだろうなと思える演出になっていました。すごくリアルでした。
竹内 声と映像が一緒になったあの飛翔はずっと忘れられないですね。
ⓒ2021 “INU-OH” Film Partners
森下 これこそアニメじゃないと無理でしたよね。実写だと全然違うと思いました。歌の力が圧倒的で劇中歌の『鯨』が頭から離れずに今でも頭の中でドンドンドンドン鳴っています。(笑)
竹内 印象的なリズムに、大友良英さんが民謡の要素などを入れてくださいました。。
森下 琵琶以外の楽器も入っていますもんね。
竹内 そうですね。韓国のケンガリという打楽器や琵琶のいとこのような存在のウードという弦楽器なども鳴らして、当時の熱狂をどのように作ろうか考えながら、ある程度みんなも知っていそうな感じとのバランスをとってくださいました。
森下 コロナ禍でフェスやライブに行けなくて、みんなストレスがたまっているじゃないですか。コロナ禍でなければ応援上映のようなこともしたいですよね。
竹内 『鯨』の合唱上映をしたいですね!
森下 一流のプレーヤーやクリエイターの方々が集まって作った作品だからこんなにすごい作品になったとも思いますし、その方々を調整していくのは本当に大変だったんだろうなぁ……と思いながら拝見していました。
劇場アニメーション『犬王』劇中歌「鯨」歌詞付き映像
- ◆ヨーロッパの映画祭の人たちはそういう風にとらえるんだ
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森下 『犬王』は、海外でどのような反応になると思いますか?
竹内 去年の9月、「ベネチア国際映画祭」で初めて海外の方に観ていただきました。そのときに「ロックオペラ」と紹介されました。自分たちからは生まれなかったワードを言われて「おー!そういうことなのか」と思ったと同時に、「ヨーロッパの映画祭の人たちはそういう風にとらえるんだ」と分かって面白かったです。
森下 海外の方々は日本の歴史が分からないと思いますが、字幕で補完などをしているのですか?
竹内 最初の「ベネチア国際映画祭」と「トロント国際映画祭」だけは、時代設定を簡潔に書いたエントランス(解説シート)2枚を用意しました。ただ、日本語の歌詞が聞き取れないところにも英語字幕はあるので、意外と理解していただけました。
湯浅監督には海外でいろいろな取材を受けていただいたのですが、そのときに結構理解してもらえていることが分かったので、一般のお客様にはエントランスも外していきました。
ⓒ2021 “INU-OH” FILM PARTNERS
5年先、10年先を見据えて
- ◆映画祭の経済サイクルを利用する
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森下 次は「シドニー映画祭」(会期:2022年6月8日~19日)ですよね。今後の予定を教えてください。
竹内 シドニーのあとは「アヌシー国際アニメーション映画祭」(会期:2022年6月13日~18日)です。
海外は、3月に開催された「アングレーム国際漫画祭」のフランスプレミア以来です。「ロッテルダムラボ」の講座で講師だった方が、前回の「ロッテルダム国際映画祭」のプログラマーの方で、『犬王』の上映と湯浅監督の過去作品をレトロスペクティブに選んでくださいました。
公式出品なのですが、オンラインになってしまったので、上映(リアル)自体は延期になっています。ぜひ、ロッテルダムでも上映ができるといいなと思っています。
森下 そうですね。あのライブ感をぜひ味わっていただきたいですよね。
竹内 海外マーケットを広げて各国の興行収入も上げたいので、いろんな映画祭で選ばれたいと思います。実際、「ベネチア国際映画祭」で選ばれたことがきっかけで売れた国もたくさんありました。まだまだ探り探りですが、各国の動きで相乗効果を生み出していきたいです。
森下 映画祭でできている経済サイクルってありますからね。プログラマーは、いろいろなところを見ながら探していくので、映画祭を利用していくと大きなヒットになったり評価が高くなったりすることはあると思います。
竹内 「ここが選んだ途端にいろんなところに作用していく」ようなサイクルが起きるのですごく不思議です。北米では8月12日から公開となります。
森下 具体的なプロモーションは?
竹内 8月の北米キャンペーンは一般のお客様へのプロモーションもありますが、湯浅監督がLAのスタジオで働いている方へもアピールしていく予定です。
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- ◆アニメーションの題材は無限にある
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森下 日々お忙しい竹内さんの息抜き方法を教えてください。
竹内 先のことや次の作品のことを考えるのが楽しいですね。本も読みますし、映画に限らず他の方が作ったいろいろな作品を観ています。
あとは新しいタイトルを作ろうと思ったときに、数年後にみんながどんな気持ちでいるかを考えていることが多いかもしれません。
森下 数年後を考えるのは難しいですよね。
竹内 今回、『犬王』と『平家物語』をやってみて、アニメーションの題材は無限にあるな、と改めて感じました。
過去の強度ある読み物やさまざまな創作物、実話など、アニメーションと相性の良いものはたくさんある。それを素晴らしい映像作家の方に面白がってもらうことで、日本から唯一無二の作品が発信できるのでは? と思います。
ハリウッドのメジャー作品も神話やおとぎ話がベースだったりして。振り返ると、100年以上語り継がれているものは、みんなが共感する強度があるからだと思います。
森下 確かに。『平家物語』は何百年も前から語り継がれていますものね。
竹内 海外の最近のメジャー作品でも、普遍性にローカルな独自の香りが混ざったものが作られていますよね。ピクサーの『リメンバーミー』や東南アジアが舞台の『クレイジーリッチ』など、その国独特の文化の中で語られているメッセージ性は、意外と普遍的なものだったりします。それをいろいろな国の方たちが楽しんでいると思ったので、『平家物語』もその線上で考えていたんです。ドメスティックなものというよりは、平家の人々のファミリー感や普遍的な人間ドラマになると思っていました。
森下 次の計画はありますか?
竹内 今回は国際共同製作で出資していただいた企業以外にも、早めにライセンスのプリセールスのお話をさせていただきました。制作中から各国の配給会社と一緒に話をしながら進めていました。
宣伝の展開、映画祭でどのように多くの方に知っていただき、より多くの国に売るかに関してまで、主に北米とヨーロッパの会社と一緒に考えながらやってきました。一通りそのようなことを経験して、自分たちができていないことを学べたので、また同じチームで、できることを増やしていきたいと思っています。
森下 いろいろな方たちを巻き込めたのは作品の力があったからですね。
竹内 湯浅監督の過去の作品が各国の市場でしっかり評価されていたのは大きいと思います。
森下 たくさんのファンの方が待っていらっしゃるからですね。
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- ◆アニメーション業界の課題
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森下 竹内さんには、VIPOが受託した経産省のマッチング事業や文化庁のメディア芸術海外展開事業にご参加いただきましたが、VIPOの事業や政府に対して今後期待することはありますか?
竹内 はい、あります! アニメーションは制作期間が長いので、今の国際共同製作の助成金制度の期間を、せめて2年間にしていただけると、活用できるスタジオが増えると思います。
今の制度は1年間なので、申請している多くがキャッシュフローがクリアできる製作委員会ですよね。助成金の期間が2年になれば、申請できるスタジオも増えて作品の多様性に繋がっていくと思います。
森下 韓国の助成金制度は、さまざまなフェーズが細かく分かれています。ひとつひとつのフェーズは1年間ですが、例えば、企画開発は初期の部分と次の段階とが分かれているので、企画開発全体で何年間にも亘ります。
今、韓国の勢いがすごいですよね。いろいろなクリエイターの育成もしているようで、そこからやらないとだめなんだろうと思います。
竹内 アニメでは「制作」と呼ばれる、クリエイターの方々の間で的確に伝達をして進行していく方たちが定着するような労働環境も必要です。
ある程度できるようになるまでにはどうしても年数が必要なので、熟練の技を持った方々とうまく組み合わさればいいサイクルになると思います。
予算がうまく回るためには「制作」の方たちの定着はとても大事なことで、監督やアニメーターの皆さんがこうしたいと思ったことを、翻訳して伝えたり、ときに先回りして動いたりしてチーム全体をその先に進める能力を持った方が増えれば増えるほど、良いものづくりができるのではないかと感じます。マニュアルやツールに変換しずらい、人と人との機微の間での調整ごとも多くノウハウを共有するのは難しいところですが、なるべく単純作業をしなくて良いようDXなり環境なり整えつつ、そこに人の“良い塩梅”を組合せていけるようなことができたらと。
VIPO広報 トムス・エンタテインメントの竹崎社長がVIPOアカデミーの経営者講演(「アニメSDGS 2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」で、デジタル化の重要性を説いてらっしゃいました。
竹内 いろいろなスタジオで開発していることも多いと思いますが、なかなか自動化しきれない工程もたくさんありますよね。色彩設計の仕事もアニメーションの“いろは”と物量が多すぎて、それを超えた人しか設計に行けず、多様なものが生まれにくいのかな、と。
森下 そうなんですか。長い道のりですね……。
竹内 色の感覚は、もしかしたら若い方たちのほうがいろいろな発想力があるので作品に良い影響を及ぼすかもしれないですよね。
塗りの作業の自動化やデジタル化ができれば、色の発想力が豊かな若い世代が色彩設計の仕事をやる機会もできたりするのかな、と。
森下 色彩設計の仕事に憧れている若い方も多いのではないですか? デジタル化にすることよって、もう少し早くから第一線で活躍できる場を提供できるといいですよね。
今はコンテンツ業界全体が若い人材を求めています。手遅れにならないように、今の私たちがいろいろな角度からさまざまなことに取り組んでいく必要がありますよね。VIPOもセミナーなどを通して微力ながらサポートしていきたいと思っています。
劇場アニメーション『犬王』本予告(60秒)
アヴちゃん(女王蜂) 森山未來
柄本佑 津田健次郎 松重豊
原作『平家物語 犬王の巻』古川日出男著(河出文庫刊)
監督:湯浅政明 脚本:野木亜紀子 キャラクター原案:松本大洋 音楽:大友良英 アニメーション制作:サイエンスSARU
- 竹内文恵 Fumie TAKEUCHI
- アスミック・エース ライツ事業本部 アニメ企画部長
- 1975年生まれ。福井県出身。神戸大学発達科学部卒業後、1998年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社。新規店舗立ち上げや店舗業務を経て、2000年アスミック・エース エンタテインメント株式会社(現アスミック・エース株式会社)入社。ゲーム・アニメ・邦画の宣伝に携わり、2004年フジテレビ深夜アニメ枠”ノイタミナ”の立ち上げに参加。TVアニメ『ハチミツとクローバー』(05、06/CX)、『東のエデン』(09/CX)はじめ同枠作品の宣伝プロデューサーおよびプロデューサーを6年間務める。2012年アスミック・エースを退社、有限会社ミラクル・ヴォイスで洋画宣伝に携わる。その後フリーランスでの活動を経て2014年にアスミック・エース映画製作部へ戻り、映画『3月のライオン 前編・後編』(17/東宝=AA配給)をプロデュース。他プロデューサーとして携わった作品にTVアニメ『四畳半神話大系』(10/CX)、「映画 すみっコぐらし」シリーズなど。
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