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「コンテンツコラボ」の今を斬る!日本のコンテンツは世界と戦う武器になれるのか?!――ライセンサーとライセンシーをつなぐエージェンシーに聞く
「コンテンツコラボ」の今を斬る!日本のコンテンツは世界と戦う武器になれるのか?!――ライセンサーとライセンシーをつなぐエージェンシーに聞く
「Entertainment Makes Opportunity」(エンタメは人生の「きっかけ」を作る)をコンセプトにかかげるトキオ・ゲッツは、「コンテンツの世界観」を守りながら、ライセンサーとライセンシー両者をつなぐエージェンシーとして様々なコラボレーションを生み出しています。今回は、ファウンダー兼顧問の原 浩平氏に、コンテンツコラボの最前線で起きていること、コンテンツビジネスの海外展開における課題や今後の展望などについてお伺いしました。
(以下、敬称略)
コラボ最大の留意点は「コンテンツの世界観」を崩さないこと
トキオ・ゲッツの歩み
◆ 「きっかけ」づくりのビジネスを考えて
VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井) 本日は、コンテンツビジネスのエージェンシーである株式会社トキオ・ゲッツの原さんに、コンテンツコラボの現在と今後の展望などをお伺いしたいと思います。まずは自己紹介からお願いできますか?
トキオ・ゲッツ ファウンダー兼顧問 原 浩平(以下、原) はい、本日はよろしくお願いいたします。
私は26歳のときに起業して、今期で26期目になります。もともとエンタテイメントとビジネスの世界で何かやれないかなと思っていて、どこかに属さず自分でやる道を考えていました。
市井 学生の時から起業を考えていたのですか?
原 そうですね。学生の時から真似ごとというか、個人事業主として人材関連のビジネスをしていました。
市井 当初からコンテンツ業界を考えていたのですか?
原 それはなかったですね。学生時代は、パイオニア的な、何か「きっかけ」づくりのビジネスを漠然と考えていました。その頃はアメリカかぶれしていて、ハリウッド映画が大好きでバックパッカーをしたりしていました。
マーケティングを専門としたベンチャー企業に入社し、営業でギャガ・コミュニケーションズ(現:ギャガ株式会社)さんの仕事を最初に取らせていただいたことがあったんです。ハリウッド映画にかぶれていたので、そこでビジネスとしての映画を学ばせていただいたことは大きな転機となりました。『マスク』や『セブン』などの映画で仕事をさせていただき、そのとき同時に“企業タイアップ”というものを学びました。
日本にはまだ“企業タイアップ”は多くはありませんでした。マーケティングリサーチの仕事をしていたこともあり、調べていく中でアメリカでのコラボレーションやタイアップを行うエージェント業務を知りました。「こういう仕事があるんだ!」と。
当時は『スター・ウォーズ』とペプシとか、マクドナルドとディズニー映画などがグローバルでも始まったときで、「めちゃくちゃおもしろいな」と思っていました。起業するときに、マーケティング関係でビジネスをしたいと思っていたので、このようなコラボレーションを使ったライセンシングもので、ハリウッド映画と何かできないかなと。
◆ ハリウッド映画全盛期にコラボを始める
市井 映画のタイアップから始めて苦労したことはありますか?
原 とにかくいろいろな配給会社にドアノックしました。当時ウェブサイトもなかったので、代表電話を探すことが大変で、取り次ぎもしてもらえないことは普通に多かったです。
いろいろな所を訪ねていく中で、20世紀FOX(現:20世紀スタジオ)さんで「面白いことやっているね」とお話を聞いていただき、ようやく折れかけた心が浮上したようなことはありましたね。
市井 最近はだいぶ変わってきたと思うのですが、どうしても日本人は企業を見るじゃないですか。小さい会社だと信頼されるまでにすごく時間がかかると思いますが、どうでしたか?
原 当時は、「A社(大手メーカー)を持ってきているトキオ・ゲッツです」と、A社名を前面に出したんです。「今回の話はA社の話です」と言うと、話を聞いていただけて。そしてA社側には「(例えば)『タイタニック』の件なのですが」と言ってお互いのビックネーム同士をうまく使いました。僕らのバックにあるものが大きかったのでなんとか話が進められたところではありますね。
市井 片方をきちんと捕まえるのが大変ですよね。
原 それは今でも同じですね。「どちらが先なの?」という話です。ライセンサー(版元)からくる話が早いのか、ライセンシーからくる話が早いのか。一緒にポンとなればいいんですけど。そうはならないので、ここがスタートアップしていく中の一番苦労したポイントですね。
でも当時はハリウッド映画の全盛期だったので、名前を出すと反応は良かったですね。
市井 コンテンツに魅力があるからですね。
原 そうなんです。「コピー機どうですか」と言っても「いやいや間にあってる」と言われるところを、「ブラット・ピットと何かやりませんか?」と言うと「え? どういうこと?」と。「そこまでお金ないんです」と言われると「実はタイアップという手法があるんです」という感じで「日本ではまだ、こうこうこうで……、よかったらお話を聞いてみませんか?」と。アポイント率は相当高かったと記憶しています。
◆ 『踊る大捜査線』から国内に目を向けて
市井 26期目ということで、これまでにエポックメイキングな出来事はありましたか?
原 我々が国内コンテンツに初めて目を向けたのが、映画の『踊る大捜査線』なんです。
日本の国産映画産業が盛り上がる瞬間が『踊る大捜査線』とか『海猿』のあたりで。それまではハリウッド映画が8割で2割が邦画、そういう時代でした。
僕らもたくさんコラボさせていただきました。その時に初めて、米メジャーとやるのとはこんなに違うんだと感じました。
市井 例えばどんなところですか?
原 当時は、日本はコラボレーションに対しての実績がまだ少なかったのです。「企業コラボするって何なんだ?」という時代です。
ライセンサー(版元)さんもよく分かっていない。「これを企業とやるってどういうことなの?」「織田裕二さんと広告契約をするんですか?」みたいな感じです。
ただタイアップなので、お互いお金を払わずにこんなことをしたいと言うと、「お金を払わずに何がうちにはもらえるんだ」と言うので「広告としてのバリューでこんなことが手に入ります」という話をするんですよ。
当時の映画界では、企業タイアップはまだとんちんかんな話だったんですね。ですが、僕の中では「これは未開の地なんだ!」ということが分かっていたので、我々がルールを示していきました。
以前は「(広告費総額の)ロイヤリティーとして何%」と言われていたものに対して、フラットフィー(定額)として定額のものをビジネスとして出していったのはたぶん我々じゃないかと思います。
市井 ミニマム・ギャランティではなくて完全なフラットフィーで?
原 そうです。商品化の場合はミニマム・ギャランティがあって、上代に対して何%となりますが、プロモーションのライセンスはフラットで決めていきます。例えば1,000万円で指定の期間定額です、というものなんです。
市井 ただ、使いたいだけ使ってくださいと言いながら、使い方に関しては、当然ライセンサーはいろいろ制限がありそうですよね? そこがすごく大変そうですけど。
原 そうですね。ただ映画の場合は、使えるビジュアルが3つくらいしかないんですよ。宣伝自体がキービジュアルをどのように出していくのかなので、「それを切り抜いたらアウトですよ」とか、「口のそばには吹き出しを置かないでくださいね」とかそういう細かいルールを定めながらやってきた感じです。
市井 その頃に国内の映画に入り込んだと。
原 そうです。その頃から日本の大手映画会社さんとビジネスをすることになりました。
市井 ハリウッド映画だと日本のライセンシーには敷居が高いので「トキオ・ゲッツさんお願いします」となるけれど、国内だと自分たちでできないこともないので、2回目以降は自分たちで直接やろうということにはならないのでしょうか?
原 ハリウッド映画も国内に支社がありましたので同じです。そしてどちらかと言うと逆で、最初は自分たちでやってみて、大事故になって、2回目からお願いされるケースが多いです。未だにそうですね。
ライセンシー側に専門にできる方がいれば直接やったほうがいいんですよ。契約書のノウハウとか事故になるリスクヘッジや何かがあったときの代替え作品の用意がすぐにできるのであれば、「うちを使う必要はないですよ」と話しています。
◆ 『名探偵コナン』で本格的にアニメへ
市井 アニメに参入したのは何からですか?
原 『名探偵コナン』や『クレヨンしんちゃん』ですね。その当時、結構アニメ映画がありまして。
市井 映画会社からオファーがあったのですか?
原 そうです。その時はまだライセンスフィーをかけていないんですよ。コナン君もしんちゃんも。ほぼライセンスフィーなしでタイアップをやっていた時代なんです。映画の宣伝をTVCFや店頭POPとかで、プロモーションとしてやっていました。
そこからアニメをもっと勉強させていただき、時を同じくしてハリウッド映画の人気が少し陰ってきたあたりから僕らとしては国内アニメに大きくシフトしていきました。
市井 自社でやれる可能性が高いのにトキオ・ゲッツさんにお願いする一番のポイントは何でしょうか?
原 専門性だと思いますね。先程もお話しましたが、この仕事は専門家が必要です。
ライセンサー(版元)が企業プロモーションのことを深く理解して、都度「ここ危ないですよ」「これだけ時間がかかりますよ」と助言していただければ、ライセンシー側も安心できると思います。
しかし、ライセンサー側はあくまでも作品のプロであって、企業プロモーションを全てわかっているというわけではないので、ライセンシー側がずっと企画してきたものでも作品の価値や世界観を守るために「そういうのは今回はできませんよ。プレスリリースを契約期間前に出すのは契約外ですよ」といった話になってしまうことがあるんです。それを分かってきちんとやっていける人(専門家)を雇うぐらいだったら、テンポラリーで依頼したほうがいいですよね。
ですから、リピートが多いですね。
市井 それは信頼されているということで、非常にいいことですよね。
原 はい。ありがたいですね。同時にしっかりやらねばと思いますね。
コラボする際の最大の留意点は「コンテンツの世界観」を崩さないことです。僕たちが世界観を理解し、ライセンシー側が希望することをどう抑止するか、お金儲けとブランドをどう大切にすることのバランスを重視して、両者の調整をしています。
2次ライセンスでどれだけ売るか?
◆ ライセンシーへの啓蒙が大事
市井 ライセンシー側には、どのようにアプローチしていますか?
原 ライセンサー(版元)側は、みなさん素晴らしい作品を持っているのですが、「どのように企業にアプローチしていますか?」「営業マンはいますか?」と聞くと、「案件が来るのを待っています」とおっしゃいます。
確かに『鬼滅の刃』だったら営業マンはいらないですよね(笑)。でも、ミドルクラスのコンテンツになるとライセンシー側はわからないので、そこの接点をつくるのがエージェンシーの役目だと思っています。一般の企業担当者さんが知らなくても多くのファンがついている作品は本当に多くありますので。
我々エージェンシーはきちんと企画にして、ミドルクラスも売れるものに仕上げます。セミナーやプレゼンなどのプッシュ型でいろいろな所に提案をしていくので、そこは母数が違うと思います。
市井 ミドルクラスだと、ライセンシー側が持ってくるパターンが多いのですか? それとも自分たちでひとつの案を作ってライセンサーにアプローチするのですか?
原 私たちの会社では7:3くらいでパターンがありまして、まず7で一番多いのがライセンシーへの当社からのアプローチになります。まずは“啓蒙”なんです。ライセンシー側がコラボレーションを知って興味を持ってもらわないと結局何も始まらないんですよ。
「コラボで何ができるのか」「こんなことをしたら御社のターゲットに刺さります」「新しくターゲットを開拓したいと思っているときにこのコラボは響きますよ」「今まで女性向けに売っていたものを男性向けに売る、今までシニアに売っていたものを主婦に売る、この時にこのコラボで成果がでるんですよ。」とひたすら啓蒙を続けます。
残りの3割は、旬な作品とライセンシーが持っている商品のコンセプトとの合致です。例えば架空の話で『セーラームーン』と月型のお菓子とかがあれば、「『セーラームーン』と御社のお菓子がぴったりなので、いかがですか?」とコンテンツを固めて営業をかけていきます。
ですから、我々としてはコラボに興味がある企業をどんどん増やして“啓発・啓蒙”していくことが一番の主な仕事です。それに反応してきた企業に対して、しっかりといいコンテンツをご紹介させていただきます。
◆ 『鬼滅の刃』とスパ施設
市井 両社にプラスになったという事例はありますか?
原 そういった事例がほとんどだと思います。コラボ業界で有名な事例としては『鬼滅の刃』と極楽湯さんというスパ施設があります。他のエージェンシーもやっていますが、僕たちが最初に極楽湯とのコラボを仕掛けたんです。
極楽湯さんがコロナで来場者激減で困っているときにご提案したのが『鬼滅の刃』とのグッズコラボです。「お風呂に入りに来たら、そこでグッズが買えますよ」というプロモーションをしたのです。彼らとしては全く考えてもいないアイデアだったと思います。『鬼滅の刃』側もまさかお風呂屋さんに出すとは思っていなかったでしょう。
『鬼滅の刃』の映画の前で、ちょうど盛り上がってきているときでしたから、極楽湯さんも様々な面でメリットが大きかったようです。
市井 そのグッズが買いたいがために「お父さんお風呂に連れてって」のような。
原 そうです。お風呂に興味もないのに行ってみたら、お風呂を楽しんじゃったと。
市井 それは彼らの力ですよね。
原 そうなんです。
僕らのスローガンで「Entertainment makes Opportunity」というのがあります。エンタテイメントが何かを爆発させるとか、何かを売らせるということではなくて、「“きっかけ”を作ります」と言うことなんです。
◆ コンテンツホルダーに必要なこと
市井 ライセンシーには、そのようなアピールでいいと思いますが、ライセンサー(版元)には何をアドバイスしたらよいですか?
原 まずはこのようなライセンシーが、大手の名の売れた企業以外にたくさんいることを知ることと、どういうビジネスが2次ライセンスで役に立つのか、どのような企業が何を欲しがっているのかを知っていただくことでしょうか……。
市井 それは難しいですよね。
原 難しいですよね。だから僕たちがいるのです。それをやるのがエージェンシーです。当然『鬼滅の刃』『呪術廻戦』はすごい人気です。すごいんですけど、まだまだマーケットには素敵なコラボが作れるポテンシャルがあります。ファンもそれを期待しています。
製作委員会を組成する際に、2次ライセンスでいくら売ろうか決めていると思うんです。近年ここが、とてつもなく大きな部分になっていますよね。
ハリウッドビジネスをみても、2次ライセンスのビジネスの規模がとてつもなく大きいのです。きっとアニメの製作委員会の収支計画書には、2次ライセンスでどれだけ売るかを書いてあるんじゃないですかね?
市井 2次ライセンスに明確な数字があるのに、まだマインドの変化が必要なんですね。でも今までの流れの中でだいぶ変わってきたと思いたいですが、いかがでしょうか?
原 いい方向に向かっていると思いますね。
市井 でも、まだまだですか?
原 そうですね、例えば、大手のライセンシー側がアニメコラボをやらないと決断をするときがあるんです。
その理由のほとんどがスケジュールの不確定さとかスピードの遅さです。
当たり前ですが、スタジオさんの優先事項は2次ライセンスよりも「作品」ですので、プライオリティが上がってこないんです。必要とは決まっているけど、そこに対するプライオリティが上がらないので、監修や描き下ろしなどに時間がかかる。そうするとライセンシー側のビジネススピードとあってこないのでビジネスに影響がでると考えてコラボはやらないと決断されることがあります。プライオリティが上がってないから遅い、そしてスケジュールが不確実になってしまう。
大人気のコンテンツなら、みんなやりたいから待つんですよね。「みんな、なんとかしろ」と言って。ただ、そのときはやり切るのですが、2回目は? というとやらないです。
海外で潜在的な利益を失っている
◆ 日本が海外で勝てない要因
市井 海外展開での成功事例はありますか?
原 インドネシア支社とタイ支社はコロナで撤退してしまいましたが、今はマレーシアと台湾でやっています。
当時、ドラえもんとキティちゃんをとことん売りましたが、今振り返ると、認知度を上げられていない日本では優秀なコンテンツが多かった印象です。
現地の一般の方は、ある一定の時期から日本アニメのことを知らないんです。
市井 ドラえもんやキティちゃんのように、昔からのアニメやキャラクターだけなんですね。
原 アニメオタク以外の一般の方は『ドラゴンボール』『ONE PIECE』くらいまでは知っていますが、そこから知らないですよね。もちろん『鬼滅の刃』は知っていると思います。
なぜ知らないのかというと、10年くらい前の話で言うと、日本アニメの現地でのテレビ放映がなかったからです。1本あたり、2万円、3万円の放映権がかかる日本と、一方「無料でいいからかけてくれ」という韓流番組。みんな韓流を取っていくので、韓流だらけの番組構成ができ上がっていく。そうこうしているうちに、各エリアのローカルの方たちが番組制作の力をつけてきて日本の番組に頼らなくなったんです。
昔は日本の番組をそのまま放映したりリメイクするのが一番多かったんですけどね。韓国がそれをやっているにも関わらず、まだ日本の放映権はずっと高いままだったんです。「これを低めに設定してください」とお願いしても、窓口は「うちもそうしたいんですよ。でも製作委員会が…」となってしまうことは多かったです。
その一般への認知の低さが2次ライセンスにもどんどん影響して、結局グッズもどんどん売れなくなる。
僕は製作委員会制のことは大好きで、いい仕組みだと思っているのですが、ときに不具合もありますよね。そのときの対策までのケーススタディができていくといいんですかね。いったん決めたら、「もう決まりなので」と交渉する余地がなくなってしまう。日本が国際的に海外で勝てない要因の1つかなと思っています。
あと、現地のマスターライセンサー(※)との連携も難しい1つだと思います。
(※その国において版権許諾を委託された会社)
市井 そうですか。マスターライセンスをそれぞれの国に売ってしまって、あとは自由にやってくださいと。
原 自由にできるならまだいいと思いますが、そういう契約を結んでいるにも関わらず、結構細かい部分まで製作委員会が吟味したりするんです。時間もかかりますし、それが通らないことも当然あります……。
海外では日本国内のようにコンテンツを丁寧に扱えないことから自由にさせることを敬遠されるライセンサー(版元)さんもいらっしゃると思うのですが、ここは拡大のために割り切りが必要で、「世界感を崩さない」ことを前提に、現地へ全権お任せしてみるのも良いと思いますね。
◆ 本気になれていない
原 みなさん現地へ行かないで、誰かに聞いた話だけで判断しようとする傾向がありますね。韓国との違いはそこでしょうか……。韓国はとにかく現地へ行って、家族も連れて20年くらいそこにいるつもりで行きますから。日本は駐在して3年たったら帰ってくるので、「3年間は頑張ろう!」みたいな。3年間しかいない日本人に現地の人は本音を言わないですよね。
市井 そうですね。3年後に急に変わっちゃうと、「この3年間は何だったんだ!」となりますもんね。
原 そして、長期で活動するには資金も必要なので、小さい会社にとってはリスクで、僕たちみたいな弱小企業は出ていけなくなりますね。
一言で言うと「未来が明るい場所にはあるものの、まだ本気になれていない」と言う感じですかね。
僕は、「日本食」と「アニメ」は唯一世界では勝てると思っているんですけどね。
市井 どういう風にしたらいいかなぁ……。
原 営業するのは難しいと思うので、例えば、現地の大手広告代理店とかとしっかり組んで、無料でも進出日系企業に使ってもらうことからまずやることですかね。
日本全体のIPをコントロールできる合同拠点などの設立などを考えてみても良いかもしれません。日本企業が世界で戦うためには、日本文化が世界に広がるよう「オールジャパン」で取り組むことだと思います。
市井 総論はみんな賛成するのですが、各論になると難しいですね。
概念的には理解できるのですが、企業の集まりとなると無理だなぁ、と感じます。個社が変わらないとダメだなと思います。魅力あるコンテンツでないと使えないし、「これを使っていいよと」言われたときにスッと使えるようにしておかなければならないし、そこに何ケ月もかかったら止まってしまいますしね。
原 日本のライセンサー(版元)は、まずはお金を儲けようと思わないことですよね。
市井 思わないこと?
原 はい。まずは広げること、仕組みを作り上げることです。
市井 まさに10年位前のK-POPと一緒ですね。
私が音楽業界にいた時(約10年前)がそうでした。
日本は、CDが売れない国やコピーされやすい国(マネタイズが見込めない国)には音楽もアーティストも出さないですが、K-POPはどんどん出して、広がった後にマネタイズする方法を考えれば良いという考えでしたね。
またK-POPは、全世界に音楽を出してみて、反応がある国に対して、攻めていくというスタイル。つまり、自分たちがマーケットを選ぶのではなく、マーケットの反応があったところをフォローしていくという戦略でした。
今は日本もかなり変わってきていると思いますが、先程の原さんの言われたことはその当時の状況と重なる感じですね。
◆ 現地で求められていることを知る
原 今はコロナの影響でやれないのですが、僕たちは「ハローキティRUN」というマラソン大会を開催していました。中国で3都市、タイ、ベトナムからインドネシア、フィリピンなどで1回1万人以上が集まりました。J-LOD補助金にもお世話になったのですが、あれは最高のパフォーマンスです。街中をキティちゃんが走りまくっているのが、いろいろなメディアで報道されますから。
あれは、人件費くらいしか利益が出てないので、そういったものを我々のような小さな企業が頑張らなきゃいけないのではなくて、もう少し大きな所帯の方が3,000万円くらいの未来の投資の感覚でやってほしいですね。収支に損をだすのではなくて、ゼロでいいならもっとできるんです。国や団体にやっていただけるといいですね。
「ハローキティRUN」のような「アニメ」×「RUN」は、ハワイやフランス、キャラバンすれば、どこかで著名人も参加してきますよ。
市井 キティで言うと、KISSとのありえないようなコラボがありましたよね。「ちょっと違うんじゃない?」と思うくらいのものをOKしたじゃないですか。
その背景を伺ったことがあるのですが、日本にいるデザイナーは現地のニーズが分からないから「NO」になってしまうので、デザイナーをアメリカに連れて行って、みんなが求めていることを理解してもらったら「GO!」になったとうことでした。
原 あのコラボは最高ですよね。
市井 あの感覚をみんなが持つ必要があって、そのためには現地に行って、現地でどのようなものが求められているかを知ること。非常にシンプルな話しなんですけど、そういうところからやって行く必要があるのでしょうね。
◆ いかに成功事例を作るか
原 韓国という僕たちには身近な兄弟が成功事例を持っているわけです。うらやむだけではなくて「LGやサムスンはあの時ときに何をしたのか?」、表面だけを学んで「すごいよね」ではなく、きちんと学ぶことが必要だと思います。
市井 おっしゃる通りです。
原 国としてはできないかもしれませんが、どこかの会社のミドルのコンテンツを徹底的にブーミングさせる。モールとかでガンガンプロモーションにかけて、子どもたちの教材にも入れられるくらいの事例を1つ作って、みんなが「これだ」というものをやることだと思うんですよね。それは1つではなく、3つくらいパラレルでやっていくことじゃないですかね?
市井 1つのコンテンツを国のお金でやるのは難しいとは思います。でも、おっしゃっていることはよく分かるので、どうやって成功事例を作るかなんですよね。
少子化なので、海外に行かなければならないというマインドと、ひとつのIPを広げなければいけないというマインドもみんな持っていると思います。
さあ、じゃあ次は何をすれば変わっていくか? どうしたらいいと思いますか?
原 僕が持っている知見は薄いと思いますが、僕のような少し経験をした人間が集まって、長期期間でリサーチをしないと「これをするべきだ!」というものはなかなか出ないと思います。
市井 確かに長期的なアプローチが必要ですね。
原 ライセンサー(版元)にもっと僕たちに頼っていただきたいというのはありますね。僕たちは、来たコンテンツを僕たちなりのファン目線で調整して販売させていただいているので、いわゆる加工業なんです。決して右から左に流すブローカーではありません。
特にうちは本当にオタクメンバーがそろっていて、どちらかと言うとファン目線ばかりで考えているような最大のコンテンツファン集団なんです。
「あの試合のシーンの裏でこういった横断幕が掲げられていて、それをうまく持ってきたら、ファンにウケますよ」というようなことを提案していくのです。
僕たちにもっと頼っていただいて、うまく使っていただくと国内でもビジネスが広がりますし、それが海外にも波及していく可能性もあるのかなと思いますね。
市井 何かあったら相談してみようと。それだけでもだいぶ違いますよね。今日はありがとうございました。
原 浩平 Kohey HARA
株式会社トキオ・ゲッツ ファウンダー兼顧問
1970年生まれ、岡山県出身。 日本大学文理学部数学科卒業。 映画のマーケティングリサーチ、そして、企業PRとイベントの仕事を経験したのち、1998年に日本で初めて映画タイインをプロデュースする会社「株式会社トキオ・ゲッツ」を設立。24年間で1000以上を超える実績を創り上げ、現在は中華圏、東南アジアを加えたアジア全体において、日本のエンタテイメントを活用した新しいビジネスモデルを創り上げることがミッションと位置付けている。
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