日本コンテンツが、海外イベントへ効果的に出展するために必要なものとは
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国内外で数多くのポップカルチャーのイベントを開催している「リードPOP」のマーケット担当者と、世界中のオタクを繋ぐ国際オタクイベント「IOEA」の担当者に、海外イベントのトレンドやイベント出展で効果を上げる方法をインタビュー。さらには、海外イベントの来場者(ファン)が日本コンテンツに求めていることや、マーケットの将来性についてVIPO事務局長・市井三衛がインタビューしました。
- 佐藤一毅氏(国際オタクイベント協会(IOEA) 代表)[略歴]
- ジャスティン・フローレス氏(リードPOP USA グローバル・コンテンツ・ディベロップメント)[略歴]
- ロビン・ヨー氏(リードPOP Asia コンテンツ&ストラテジープロデューサー)[略歴]
(以下、敬称略)
国やイベントにより異なる特徴を知り、
出展の目的や戦略を展示会オーガナイザーに伝える
何を求めているイベントなのかを知ることが効果を生み出す鍵
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◆イベントを主催するIOEA、リードPOPについて
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市井)IOEAについて教えてください。
佐藤)IOEAは、International Otaku Expo Association(国際オタクイベント協会)の略です。世界中のオタクが集まる国連のような組織を作り、情報や人、コンテンツの交流を高め、オタク文化を世界中に広める活動をしています。2017年1月現在、IOEAの加盟イベント数は、合計88イベント(36の国・地域)で、今年の夏には100イベントを超えると思います。IOEAに加盟しているイベントの多くはBtoCで、アメリカやヨーロッパをはじめ、イスラエル、ヨルダン、キューバといった場所のイベントもあります。
IOEA公式サイト
市井)リードPOPの事業内容を教えてください。
ジャスティン)「リードPOP」は、世界41か国で44業種の展示会を年500以上主催する展示会オーガナイザー「リード・エグジビジョンズ(Reed Exhibitions)」の1セクションとしてポップカルチャー部門を担当しています。リードエキシビジョンズ自体は主にBtoBのイベントを扱っていますが、「リードPOP」が担当するイベントの多くはBtoCで、ファンに楽しんでいただき、エンゲージメントを高めることに力をいれています。
8カ国・20イベントをやっており、「ニューヨーク・コミコン(New York Comic Con)」、「スター・ウォーズ・セレブレーション(Star Wars Celebration)」、「パックス(PAX)」など世界で開催される30以上の大規模イベントを運営しています。
リードPOP公式サイト
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◆国や地域によって異なるトレンドと将来性
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市井)ジャスティンさんから北米、ロビンさんからアジアで開催されるイベントのトレンドをそれぞれ教えてください。
ジャスティン)北米は、ファンのエンゲージメントが高く、何を見たいか、何を探しているかがはっきりしているため、求められているコンテンツを提供することが重要です。
最近は日本のコンテンツに対する需要が高まっています。90年代は、DVDやVHSなど日本のコンテンツへのアクセスは限られていましたが、今はストリーミングなど様々なプラットフォームができアクセスしやすい環境が整ったため、ファンが日本のコンテンツをもっと見たいという状況になってきています。Crunchyroll、HuluやNetflixなどのストリーミング、チャンネルが多数あるものが多く、自分の見たいコンテンツを自分で選んで見ることができ、パーソナライズされてきていることが特徴と言えます。ファンの要望やクオリティも高くなっているので、よりエンゲージメントを与えるために、展示会でも深く掘り下げたコンテンツをブースで見られるようになってきています。
市井)アジアはどうでしょうか?
ロビン)アジアと言っても地域により異なります。各国のトレンドは、(1)インターネットの普及率、そして(2)その国の文化に左右されます。
例えば東南アジアでもネット環境が整っているシンガポールでは、配信されたものをネットで即日見ることができるので、トレンドとなっているコンテンツは日本と一緒です。一方、インドネシアなどネット環境が整っていない国は、マンガなど出版物を買って読む人が多いです。マレーシアやシンガポールなどは日本で流行っているアイドルも人気がありますが、インドネシアなどは90年代の日本のヒーローコンテンツが未だ憧れの対象です。
コンテンツ楽しみ方も国により違いがあります。シンガポールなどは、ライブコンサートなどが喜ばれますが、一緒に何かを創ったり新しいものを生み出したりすることは苦手です。インドネシアやマレーシアは、デザイン学校やスタジオが多くあるので、同人サークルやコミケのようなイベントが盛り上がります。シンガポールはコンシューマー的で、インドネシアやマレーシアはクリエイター的と言えると思います。
市井)オタク文化にも違いはありますか?
佐藤)アメリカのマーケットは収入も多く、人口も多いのでオタク文化の流入も多いです。そして今、それに次ぐ市場が中国です。人口が多いのと、収入が上がってきていることが理由です。アジア圏は、子供のころから「クレヨンしんちゃん」や、「ドラゴンボール」を見て育っていることもあり、彼らのマンガやアニメに対する親和性はアメリカ以上に高いと言えます。中国やシンガポール、オーストラリアのように近年収入が上がってきたところに日本のコンテンツが受け入れられていると思います。
先ほどもお話にありましたが、ネットが普及しているところは趣味が分散しますが、ネットがないところは、出版物とテレビがコンテンツの情報の供給源となるので、そこから配信されるコンテンツがメジャーな人気を集めています。
市井)このインタビューの読者には将来的にイベントに出展することを計画中の事業者もいると思いますが、規模が大きいイベント以外にもこれは出展した方がいいと思うイベントなどはありますか?
佐藤)ある国が豊かになるスピードは日本人の感覚でいうと非常に速いです。日本で失われた20年30年と言われる収入があまり変わらなかった時代に、オーストラリアだと収入が3倍以上になり、買えるものも変わってきています。前は偽物でもいいから欲しいと思っていたものでも、収入が高まってくると、オタクの仲間同士で自慢しあうためにも本物が欲しくなってきます。経済成長が著しい国では、このような状態の変化がほんの5年で変わり、その市場をどう開くかが問題となります。
ロビン)アメリカにはたくさんのイベントがありますが、アジアは1つの国にコンテンツイベントが1~2くらいしかありません。シンガポールのコミコンは今年で10年目を迎え、出展社の関心は高いのですが、インドネシアのジャカルタで行われているコミコンは今年で3回目の開催と言うこともあり、展示会の規模を心配されることがあります。
しかし、インドネシアはシンガポールよりも人口が何倍もあり世界4位です。ジャカルタだけでもシンガポールを超える人口がいるので、ネットの普及率は低いですが、アプローチ次第では大きな効果を出すことが出来ます。例えば「ウルトラマン」など戦隊モノに関しては、インドネシアは市場が大きく、子どもが多くいるのでグッズも売れています。一方シンガポールは少子化なので、その市場は小さく、コンテンツとしてDVDなどがよく売れます。このようにアジアといっても各イベントの特性が異なるので、イベント主催者としてクライアントのマーケティングパートナーとなりクライアントの目的に合致したイベント紹介をしています。
市井)国によって特性を踏まえたアプローチをすれば効果が高いということですね。
アメリカにはイベントはたくさんありますが、州によっても違いがあったりしますか?
ジャスティン)私たちはファンのニーズを敏感に汲み取っていかなければいけないと思っています。アメリカと言っても広く、例えば「ニューヨーク・コミコン」はアニメのファンがとても多いので、日本のアニメのコンテンツに出展してもらえるよう努力しています。また、シアトルで開催する「エメラルド・シティ・コミコン」は、コミックに興味のある人が多いです。特にアメコミが人気なので、コミックのクリエイターや作家を会場に招待するなどしています。「シカゴ・コミコン」は、コスプレが非常に派手なことが有名なので、コスプレに携わるメーカーの方などもお呼びするようにしています。
世界が日本に求めるコンテンツとは
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市井)ファンが日本のコンテンツに求めるものは何ですか?
佐藤)日本のコンテンツが海外で受け入れられた大きな理由の一つは、自分がその世界に入りたいと思わせたことだと思います。自分も登場人物になれるのではないかと思える世界観があるのが日本のコンテンツの特徴です。
ジャスティン)海外のファンは、日本のコンテンツのストーリーは、今まで自分たちが見てきたものとは全然違うと言いますね。アメリカのコミックで言うと、スーパーヒーローものは、正義の味方が出てきて悪いものをやっつけるというフォーマットだけですが、日本のコンテンツはひとつひとつにストーリーがあり、いろいろな視点から描かれているというところが、個人的にはクリエイティブでファンから支持されているのではないかと思います。
佐藤)見たことのないストーリーという点で、日本はガラパゴス化しているといえます。自己満足に陥ってはダメですが、自分が本当に面白いと思うものを追求して、世界の10%が気に入るものを作ることができれば、世界60億人の1割の人を惹きつけるコンテンツになります。
海外イベントに出展する目的を明確にし、展示会オーガナイザーに相談して
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市井)海外のイベントは費用も含めて出展する人への負荷が大きいと思いますがどんな結果が期待できますか?
佐藤)イベントに1回出展するだけでコンテンツを受け入れてもらうのは難しいと思います。継続して、その地域にアピールしていかなくてはなりません。イベントで何かを売るのか、プロモーションをするのかなど、目的や戦略がないとマネタイズができずに終わってしまいます。イベントを有効活用するためには、情報収集し、自分の目的に適したイベントを選ぶことが大切です。そこはIOEAでサポートできると思います。
ロビン)佐藤さんと同意です。最近では海外出展がトレンドになっていて、日本のクライアントから出展したいという問い合わせが沢山あります。しかし、これは世界中のイベントに言えることですが、日本だけではなく、現地の方もしっかりと準備しているので、自分の目的がはっきりしていないと売上につながりません。参加する前にイベントの情報をよく調べて、目的をしっかり持って出展することが重要です。
市井)目的に沿ってないイベントへの出展希望を相談された際、他のイベントを紹介することもありますか?
ロビン)どうしても出展したいという意向があれば力になれるよう努力しますが、「リード・エグジビジョンズ」としては世界でイベントがありますので、出展者であるクライアントの目的に合ったイベントを紹介することもあります。
ジャスティン)イベントへの出展により、売上をあげる、マーケットにおける存在感をあげる、多くのメディアに取り上げてもらう、ファンのデータを集めるなど、出展者の目的にそって費用対効果をあげるようにしています。
これから出展される方には、私たちと対話する場をもってほしいと思います。リードPOP内に「リードPOPアクティベート」というチームがあり、パッケージを提案して最後のレポートまですべてお出しするというサポートも行っています。目的やニーズを教えていただければ、どんなコンテンツを出展し、どのような見せ方をしたらいいのかなどのアイディアを提案することができます。対話の場をしっかりいただけると、時間はかかっても長いお付き合いをすることができ、効果を出して行けると思います。出展者にもファンにも楽しんでもらえるイベントをつくることが成功の近道だと考え、しっかりコンサルをしています。
海外イベント合同説明会で分かったと、伝えたかったこと
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市井)VIPOでは多くの海外イベントを一同に紹介する「海外イベント合同説明会」を3月9日(木)に行い、「IOEA」と「リードPOP」に登壇いただきました。また、IOEAは前回の「海外イベント合同説明会」も参加されましたね。
佐藤)前回はカナダやペルーなどを紹介し、今回はオーストラリアとスイスを紹介しました。海外イベントというとアメリカ、中国、アジア、ヨーロッパを考えることが多いと思いますが、他にも広いマーケットがあり突破口となるイベントがあることを紹介していきたいです。何も知らない状態から、ネットを使って情報を集めるのは難しいと思います。この説明会はJLOP補助金の事務局をしているVIPOが開いているという点でも、うまく活用できるのではないかと思います。
ロビン)私たちは初めての参加だったので、「リード・エグジビジョンズ」と「リードPOP」の関係から説明しました。「ニューヨーク・コミコン」という名前だけ独り歩きしていて、それを運営している「リードPOP」や日本の窓口である「リードISG(International Sales Group)」の知名度がなかったので、お伝えできたことが良かったです。
BtoCのイベントの方が引き合いが多いのかなと思いましたが、BtoBの関心も高かったです。地方のコンテンツホルダーが海外に行って、直接売りたいというニーズがあることが分かりました。
「ニューヨーク・コミコン」などは家族連れなども多く来るイベントなので、広く一般の方に使って頂けるようなイベントとなるようにこれから考えていかないといけないなと思いました。
市井)VIPOでは「海外イベント合同説明会」に限らず、マッチングイベントなども今後開催していく予定です。海外イベントの主催者が個別に情報発信する中で、VIPOが提供する場をうまく活用してもらいたいと思います。また、我々自身でももっと情報発信をしていきたいと考えています。
ジャスティン)展示会オーガナイザーとして、来場者であるファンに楽しんでもらうと共に、出展者のクライアントのニーズに耳を傾けて、どんなゴールを目指しているのかに敏感になりイベントを主催していきたいと思います。今後、さらに日本のコンテンツ事業者とコラボレーションできることを楽しみにしています。
■「リードPOP」に関するお問い合わせ
Reed ISG Japan株式会社 担当:平野
TEL:03-6261-2996
email:hiranos@reedexpo.co.jp
■「国際オタクイベント協会(IOEA)」に関するお問い合わせ
IOEA 事務局 担当:佐藤
TEL: 03-6803-2075
email: info@ioea.info
- 佐藤一毅 Kazutaka Sato
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国際オタクイベント協会(IOEA) 代表
- 1970年
東京生まれ 筑波大学基礎工学類卒
Circle.ms 代表として日本のマンガ・アニメイベントのネットインフラを支える
- 2006年
有限会社サークルドットエムエス設立 取締役社長就任
- 2015年
国際オタクイベント協会設立より同協会代表に就任。現職
世界各地のオタクイベントを繋いだリアルなネットワークで
オタク文化の振興・発展を目的として世界各国にて活動中。
- ジャスティン・フローレス Justin Flores
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リードPOP USA グローバル・コンテンツ・ディベロップメント
- ロビン・ヨー Robin Yeo
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リードPOP Asia コンテンツ&ストラテジープロデューサー
- 2009年
Sozo Pte Ltd、アシスタントプロデューサー
- 2010年
アニメ・フェスティバル・アジア(AFA)、アソシエイト・プロデューサー
- 2011年
Reed Exhibitions (Reed Elsevier Singapore Pte Ltd)、プロデューサー
- 2016年
Reed Exhibitions (RELX Singapore Pte Ltd)に所属、アジア地域の
コンテンツ&ストラテジーを担当
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