内閣府に聞く、コンテンツ産業を支援する「知的財産推進計画2017」
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日本の産業の国際競争力の強化と成長戦略のキーとなる「知的財産推進計画」。2017年5月16日、「知的財産推進計画2017」の発表を受け、本計画の成り立ちやポイント、日本コンテンツ海外展開推進における課題や施策、映画産業振興策やデジタルアーカイブ構築への取り組み等、内閣府 知的財産戦略推進事務局 事務局長の井内氏(当時)にVIPO専務理事・事務局長の市井三衛と次長の槙田寿文がインタビューを行いました。
- 井内 摂男氏(前・内閣府 知的財産戦略推進事務局長)[略歴]
(以下、敬称略)
日本コンテンツの海外展開支援を強化する「知的財産推進計画2017」とは
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「知的財産推進計画2017」資料
「知的財産」を日本の成長のエンジンに
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◆「知的財産推進計画」の成り立ちとコンテンツの位置づけ
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知的財産推進計画の沿革
(参照元:首相官邸 知的財産戦略本部ページ)
▼2002年 2月 小泉純一郎首相(当時)が知的財産を国が戦略的に活用すると宣言
▼2002年 7月 知的財産戦略大綱を決定
▼2002年12月 知的財産基本法を制定
▼2003年 3月 知的財産基本法を施行
▼2003年 3月 知的財産戦略本部が発足
▼2004年 5月 議員立法として「コンテンツ振興法」が成立
市井 まずは「知的財産推進計画」の成り立ちを教えていただけますか?
井内 2000年頃、今後の日本は何を資源にしていくべきかという議論が始まりました。その中で、従来の日本はモノづくりを中心に製造業が成長してきましたが、これからは特許や著作物といった無体財産を知的財産として幅広くとらえ、成長のエンジンにしていこうという考え方が出てきました。
2002年に、当時の総理大臣が知財立国を目指すという宣言をし、同年に知的財産基本法が制定され、翌2003年に総理大臣を本部長とする知的財産戦略本部(以下、知財本部)が発足しました。同本部には、全閣僚が入るとともに、コンテンツ業界を含め各界を代表する10名の有識者が参加しており、その事務局が私たち内閣府知的財産戦略推進事務局になります。
市井 知財本部が2003年に発足してから、知的財産推進計画(以下、知財計画)は毎年作られているのでしょうか?
井内 2003年に制定された知的財産基本法では、国全体で知財計画を進め、毎年度見直していくことが定められていますので、毎年策定しています。
市井 内閣府知的財産戦略推進事務局は、どのような役割を果たしているのでしょうか?
井内 当初は、内閣官房に位置づけられておりましたが、2016年4月からは、政府部内で定着した業務となったとの認識から事務局を内閣府に移管し、各省庁の知財関係の政策の取りまとめや相互調整、必要に応じて新たな方向性を示していくなど、司令塔のような役割を担っています。知的財産戦略推進事務局から各省庁へリクエストをしたり、新しい検討課題への答えをもらうこともありますし、逆に各省庁から本部長(総理)の作る計画に施策を盛り込んでほしいと言われる場合もあります。国全体の中でのバランス、あるいは新しい方向や時代の流れを考えて取捨選択を行い、事前に関係省庁や有識者との意見交換をして、みなさんの意見が太く一つの方向に向くように調整をしています。
市井 知的財産基本法が制定されて10年以上たった今、その内容は幅広くカバーされていますよね。
井内 特許権や著作権、商標権など狭い意味だけでなく、事業に役立つ情報すべてが知的財産と定義され、製造業、サービス業、コンテンツ産業など幅広い業界が関係します。加えて、今まで捨てられていた情報が意味を持ち始め、第4次産業革命に象徴されるような新しい分野を取り込むなど、保護や活用を必要とする範囲はますます広がりつつあります。また知的財産基本法施行の翌年、「コンテンツ振興法」と呼ばれる「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」が、議員立法により成立しました。コンテンツはもともと知的財産に入っていますが、ここは特に大切だという認識があったためです。これは、知的財産権の中でもコンテンツの位置づけが非常に重いという証でもあります。
市井 VIPOは「コンテンツ振興法」と軌を一にして設立されています。
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◆「知的財産推進計画2017」の特徴
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市井 それでは、ここからは「知的財産推進計画2017」について、具体的にお伺いしていきたいと思います。
井内 今回は大きく3本柱となっています。
1つ目の柱は、第4次産業革命(Society5.0)の中で重要なビックデータや人工知能、IoTなどにおいて、さまざまなデータをどう集め活用していくのか? それらを使って新しいビジネス、モノやサービスにどのようにつなげていくのかなど、検討委員会を新たに立ち上げて、人工知能やネットビジネスの専門家の方々にも加わっていただき、新しい時代の知財システムのあり方を考えました。
さまざまな業種でデータの利活用を進めやすくなるように、貢献度に応じた利益の分配やデータ利用のあり方といった契約ガイドラインを作っていくべきだといった議論が交わされました。
2つ目の柱は、地方の中小企業、地方創生などに資する知財、また大学や地域企業の協業によって生まれる知財などの促進です。今回は特に農業の知財を採り上げています。
そして3つ目の柱が、コンテンツを含む文化創造です。特に、今次計画のプロセスでは「映画の振興施策に関する検討会議」を新しく設置し議論を行いました。皆様ご存じのとおり、昨今の日本映画はアニメを中心に勢いがあり、世界的にヒットするなど、大変注目されています。このような背景の下、本年は映画を採り上げ、改めてその振興策について集中的に議論を行いました。クリエイティブを支援し、日本のコンテンツを海外に発信していくために、製作支援のあり方やロケのための環境整備などの施策を大きく掲げています。もちろん映画以外のコンテンツの海外展開の支援策も採り上げています。
市井 映画産業を特別に採り上げた理由を、もう少し教えていただけますか?
井内 映画は映像、演劇、音楽、文学、絵画など、多くのコンテンツジャンルを統合して作り上げる総合芸術といわれています。またロケを行う場合など、地方経済にインパクトがあり波及効果も大きいものがあります。映画産業として昨年は興行が2300億円、2次・3次利用を含めると、直接的経済規模としては6000~7000億円もしくはそれ以上ではないかと試算されています。このように裾野が広く、日本において歴史あるコンテンツ産業でもあるので、上げ潮になり始めている今、政府のさまざまな支援リソースを使いやすくし後押しすることで、海外展開を一層促進できるのではないかと考えています。
2020年に向けて日本文化を海外に発信
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◆コンテンツを海外展開するための国の支援策
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井内 政府では、2020年のオリンピック・パラリンピックを契機に日本の文化を海外にどんどん発信していこうという方針です。
市井 質・量ともに深化した海外展開を実現するための、環境整備はいかがでしょうか?
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.66 (1)継続的なコンテンツ海外展開に向けた取組(海外展開のためのコンテンツの制作・発信・プロモーション)第1項]
井内 企画段階から海外展開を踏まえて制作を進めるために、どのような支援の形があるのかといったことや、コンテンツとコンテンツ以外の異分野連携についても検討しています。
JLOP事業は今年で5年目ですが、これまで続けてきた結果として、幅広い分野のコンテンツを海外展開することに貢献したと感じています。海外売上も増えています。海外市場の知見や蓄積してきたノウハウをベースに次の展開を考える際、企画や制作を政府としてどのようにサポートしていくかは、これからの検討課題です。
市井 JLOP事業以外にも、海外展開支援を考えられていますか?
井内 JLOP事業をより充実させるのか、形を変えていくのかはこれからの検討ですが、サポートの形はどうであれ、海外活動の支援は続けるべきだということに、異論はありません。知財戦略本部の下の検証・評価・企画委員会でもJLOP事業の実績は高く評価されています。
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◆海外調査や成果についての情報を共有
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市井 海外市場情報の共有などは、どのように行われているのでしょうか?
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.67 (1)継続的なコンテンツ海外展開に向けた取組(海外市場情報の共有)第1項]
井内 各省庁では政策や成果の共有などを行っています。総務省では「放送コンテンツ等海外展開支援事業」の事業成果報告会や、経済産業省JLOP事業での異業種マッチングセミナーやローカライズビジネスマッチング、外務省は海外展開の情報提供を行っています。
クールジャパン関係では、28年度補正予算のクールジャパン拠点連携実証調査で海外調査を行っています。ASEAN各国の現地の経済状況だけではなく、国民がどのメディアを使っているか、デバイスはスマホなのかタブレットなのか、流行っているものやコンテンツを調査し、それをクールジャパンに取り組む関係者に広く提供しました。
市井 私たちが受託しているJLOP事業でも、各事業者からいただく情報をどのように皆さんと共有していくかのバランスを重要視しています。公的資金を受けている事業なので、情報をより効果的に共有できるようにしていかないといけませんね。
井内 そうですね。企業が持つビジネス情報ですから難しい点は多々あると思いますが、公的な支援を受けたということで、あるレベルまでは情報を公開・共有していきたいと考えています。もちろん我々政府側もさまざまな情報を持っていますので、それをお知らせしていきます。
市井 各省庁が所有する海外情報を、網羅的に把握できる資料はあるのでしょうか?
井内 各省庁が予算を使って調査をしていることは基本的にすべて公開されているはずです。それらを集大成するものがなかなかないのが現状ですが、内閣府として知財関係、クールジャパン関係で各省庁がどのように予算を持ち、実施しているかは把握しています。「知的財産推進計画」の冊子版の最後には、コンテンツに関する市場調査の一覧を網羅的に記載しています。毎年更新していますから、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
市井 こういう資料はきちんと読むと、ビジネスの役に立ちますね。民間の事業者を集めて報告会を実施してもいいかもしれません。
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◆コンテンツ業界と異分野をクロスオーバーさせる取り組み
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市井 異分野と連携した海外展開の強化という部分では、コンテンツとコンテンツ以外の他分野における連携強化があると思います。取り組みについて教えてください。
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.68 (2)コンテンツと非コンテンツの連携強化(異分野と連携しての海外展開強化)第2項]
井内 「クールジャパン官民連携プラットフォーム」を2015年12月に立ち上げて、昨年秋から異業種マッチングなどを行ってきました。各役所で行うものは、その分野の業種で集まることが多いので、なるべくクロスオーバーできるような枠組みを意識しています。具体的には、コンテンツをさまざまなビジネスに活用していただくため、商談会「マッチングメッセ」を開催し、また、コンテンツを活用したビジネスに賞を差し上げる取り組みである「クールジャパン・マッチングアワード」を今年2月から始めました。
市井 コンテンツと他分野の連携は難しい面もあります。異業種なので当然ですが、お互いの言葉が通じず、どうしていいかわからないという状況が悩みです。VIPOは会員にコンテンツ以外の他分野の方もいらっしゃるので、異業種コラボレーションを常にテーマとして考えています。
井内 また異分野連携と並行して、文化産業を含めた新たなクールジャパン関連産業を創出する観点で、各地においてクールジャパン拠点の構築を目指す後押しをするとともに、拠点間のネットワーク化にも取り組んでいます。
例えば、アニメツーリズムのためブロガー等のインフルエンサーを各地に呼んで、名所を周ってもらい、彼らの反応をノウハウとして展開しています。また海外インフルエンサーを日本に招いて、どういったことに関心が高いのか、どんなシチュエーションなら発信しやすいのかなどのヒヤリングを行い、効果的な協働方法についてとりまとめました。このような事例を起点にして、普段はバラバラに活動している地方の人たちが、まとまって各地の拠点からの情報を束ねて発信する動きが始まりつつあります。私たちはその呼び水的な役割を担い、ノウハウを整理して今後も横展開をしていくつもりです。
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◆コンテンツ産業やクールジャパンに求められる有能な人材の育成
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市井 クリエイターの創造環境の整備とコンテンツ産業の基盤人材育成に関しては、どのようなことをお考えですか?
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.68 (3)クリエイターの創造環境整備(コンテンツ創出とビジネス展開を担う人材の育成 とそのための製作機会の提供、適正な利益還元促進等)(コンテンツ産業の基盤人材の育成)第1項]
井内 コンテンツを含むクールジャパンの取り組みでは継続的に人材育成が重要になりますが、特に少子高齢化の中では一人ひとりの能力をどのように高めていくかが大切になります。今年の2月には、「クールジャパン人材育成検討会議」をクールジャパン戦略担当大臣の下で立ち上げ、有識者の方にも参加していただき、さまざまな業界の方にインタビューを行いました。
具体的取り組みとしては、
1)プロデュース人材、2)高度経営人材、3)高度デザイン人材、4)専門人材、5)外国人材、6)地域プロデュース人材という6つの人材類型を作り、それぞれについて、キャリア支援や育成を行う予定です。専門職大学も2019年4月に開校が可能となります。具体的な制度設計はこれからであり、通常の大学とは違うルールが必要になると思いますので、産業界の意見も組み込んでいこうというところです。
また、留学生の在留資格問題などを検討課題として、フォローアップしていく予定です。特にコンテンツ分野に興味のある海外留学生は多くいるのですが、日本で就職しにくい現状があるので、日本に滞在し活躍できる道を開きたいと思っています。
槙田 実際、留学生の方の7割弱は、日本での就職を希望しています。その中で35%くらいは日本で就職できていますが、32%くらいはあきらめて自国に帰っています。つまり、コンテンツ業界に限らず、日本の産業界は32%の海外人材をとりこぼしていると考えられますね。クールジャパンとしてどのように有能な人材を日本に取り込んで育てていくかがポイントになってきそうです。
井内 海外人材を、外国人視点も活かしながら日本のクールジャパンやコンテンツ産業を担う人材としてしっかりととらえていこうと思っています。海外から優秀な人材に来てもらうということは制度的に難しいと最初から諦めているケースも考えられるので、需要を増やすためにも、まずはその道を開くことだと思います。
市井 外国人採用は各企業トライ&エラーを繰り返しながらも、個社ごとに進めているようです。しかし国としてアシストしてもらえると、ますます加速するのではないでしょうか。働き方改革ともリンクしていきそうですね。
井内 リカレント教育(生涯学習)もあります。専門知識を持っている人にビジネス感覚も持って欲しいという部分もあり、世の中の流れを作っていく点で国は背中を押していきたいですね。
日本の映画産業を世界に展開する後押しを
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◆柔軟性が求められる支援制度や、ロケ誘致の問題点とは
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市井 映画産業の基盤強化のために取り組まれていることについて、お教えください。
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.75 (1)映画産業の基盤強化のための取組(既存の助成制度等の拡充・強化)第1項]
井内 製作支援では、「もっと企画段階から支援してほしい」、「小さな作品でも支援してほしい」、「大規模でも支援が欲しい」など、幅広いニーズにこたえられるよう弾力性が求められています。また、企画から上映まではたいてい1年以上かかる中、年度予算で管理する国の仕組みと合致しないといったところも課題としてあります。こうした現状を踏まえ、より柔軟に支援できるよう、文化庁で検討をしてもらうこととしています。申請書類ももう少し簡素化できればいいですね。あとはロケーション支援の強化も検討する予定です。
槙田 ロケーション誘致は昨今、注目されていますよね。しかしここには問題点もあると聞きます。1)インセンティブ、2)許認可の取りづらさ、3)日本の制作サイド(プロダクション)による予算管理の仕組みの問題、などです。
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.78 (3)ロケーション支援の強化に向けた取組(海外作品の誘致の強化)第1項]
井内 そうですね。まずはインセンティブについてですが、カナダやニュージーランドではロケーション支援のインセンティブや補助金が億単位で出ているという話を聞いています。日本には同様の制度がないため、ハリウッドの制作サイドがどんなに日本で撮りたくても考えてしまうと、ご指摘を受けることがあります。しかしまず海外のような制度を導入する前に、それによる効果や、どのような産業状況の中で支援制度を行っているのかなど背景や経済効果をしっかりと検証する必要があります。海外の事例がそのまま日本にあてはまるとは限らないからです。本年は、こういった検証作業を行う予定です。
市井 経済効果が高ければ、国主導ではなく、地方自治体が主となって取り組み、全国に波及することができますね。
井内 諸外国では地方自治体で実施している場合もあるようです。日本でも沖縄など一部自治体には独自の制度があります。いずれにせよ、現状は海外に比べてインセンティブの桁が一つ二つ小さいということですので、しっかり調査していかなければならないと思っています。
槙田 撮影場所に関する許認可の取りづらさについても、よく指摘を受けます。
日本には魅力的な場所がたくさんあるのですが、問い合わせると門前払いをされた、などですね。許可の取得には海外も相当時間がかかるようなので、時間がかかっても構わないので、まずは検討する姿勢がほしいとのことです。
最後に、これは大きなハードルかと思いますが、日本のプロダクションが世界基準のハリウッド方式ではなく、独自の製作管理を行っていること、主に予算管理の点です。
ハリウッド方式では、毎週6種類ほど、月末には9種類ほど予算レポートを提出し、会計が極めてクリアです。一方日本のシステムではそこまで頻繁に細かく処理をしないので、ハリウッド方式に慣れている海外のスポンサーは怖くなってしまいます。ハリウッド方式は、アメリカだけでなくアジアを含む多くの国で採用されているので、世界で当たり前のことが日本ではできない、とみなされてしまうのは大変残念です。
井内 仰るように、日本独自の映画製作システムが確立されていることが、海外製作者にとっては参入にあたっての壁になっている面もあるのかもしれません。実はロケーション誘致を積極的に行うことで、こういった製作システムや、新しい映画技術が入ってくるため、映画製作のノウハウ蓄積や人材育成につながる可能性があります。
ニュージーランドではノウハウと技術を持った人を育てたいという観点で、ロケーション支援を行っているようです。日本も刺激されると思います。
ロケがしにくいのは、コミュニケーションの問題でもあるので、業界関係者の方々や関係省庁も交えて許認可の考え方を情報提供したり、成功事例を共有する努力をしていきたいと思っています。
日本のコンテンツ情報が一目でわかる統合ポータルサイトを構築
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◆2020年に向けて国として文化価値を保存・活用
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市井 デジタルアーカイブの取り組みについて教えていただけますか?
[参照元:「知的財産推進計画2017」 p.78-79 3. デジタルアーカイブの構築(1)現状と課題、p.82(2)分野ごとの取組の促進(分野ごとのつなぎ役による取組と支援)]
井内 日本の知識を集約するために、まずはメタデータ(目録情報)を統合するシステムを作るとともに、個々の機関のデジタルアーカイブ化を進めるための工程表や予算を検討することにしました。
デジタルアーカイブは、これまで個々の図書館や美術館、民間などで管理されていました。国としても国立国会図書館などで粛々と進めてはいましたが、それぞれの機関のアーカイブをまとめる分野横断のポータルサイト、たとえばヨーロッパの「ヨーロピアーナ(Europeana)」*のようなデジタルアーカイブの世界を作る必要があります。
*ヨーロピアーナ…絵画、書籍、映画、写真、地図、文献などのデジタル化された文化遺産を統合的に検索することができる電子図書館ポータルサイト。欧州委員会が運営。
そこで現在、日本でも国立国会図書館と連携しながら、政府として、
1)国全体の分野横断統合ポータルの構築、
2)集約したメタデータの利活用、
3)コンテンツの拡充・利活用の促進
を掲げ、国の統合ポータルサイト「ジャパンサーチ(仮称)」の構築を進めています。
海外発信を考慮して、メタデータは英語でも構築し、新規ビジネスやインバウンド向けビジネスに活用してもらうことを期待しています。せっかくの日本の優れた知識やコンテンツがその所在も世の中に知らされず、ただ保存されているだけではもったいないですよね。
市井 私たちもJACC®(Japan Contents Catalogue)**というデータベースを立ち上げたばかりですが、”各ジャンルのコンテンツ同士をつなげる検索機能”を今後どのように発展させていくか、常に考えているところです。アップデートやコミュニケーションの必要性は感じていて、更新していかなければ利用者は減ってしまいますし、効果が出ないと思っています。
**JACC®(Japan Contents Catalogue)…映画、テレビ番組、アニメ、キャラクター、音楽、ゲームなど(一部コミック等を含む)の各コンテンツのジャンルで構築したデータベースを一括検索システムでつなげ、コンテンツの基本情報、権利窓口情報といった著作権関連情報を横断的に検索するデータベースシステム。
井内 そうですね。さまざまなジャンルを包括しつなぐ”つなぎ役”は必ず必要であり、そこに対する国の支援も大きな意味を持つと考えます。また国の力だけでなく、民間サイドとも連携し、叡智を集結して取り組んでいくことが大切です。
市井 ”つなぎ役”を果たすためには、専門性に加えて、事業やプロジェクト全体を推進しながら新しい価値を創造できるような組織や人材であることが求められると思います。「ヨーロピアーナ」等の統合ポータルにおけるアグリゲーターの役割ですね。
井内 2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、日本コンテンツを海外発信するための追い風になります。ビジネスチャンスも増えるでしょうし、国も政策を強化することになるでしょう。関係者の方々には、この風をうまく使っていただきたいと思います。また2020年以降もコンテンツ業界が伸び続けるために、先ほど出ていた”つなぎ役”など組織の人材育成にどう取り組んでいくかも重要かと思います。
市井 内閣府および各省庁、民間と力を合わせてそれぞれの課題を解決し、オールジャパンで知財を保存・活用できる仕組みづくりができればいいですね。民間は民間ができることに取り組み、全面的にご協力させていただきたいと思っています。
※登録商標”JACC”は,当機構が株式会社ITSCから許諾を得て使用しています。
- 井内 摂男 Setsuo Iuchi
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内閣府 知的財産戦略推進事務局長
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