VIPO

インタビュー

2018.01.17


ロケ支援だけじゃない! プロモーション、ファン作りにも使える地方創生時代のフィルムコミッションの舞台裏

映画やテレビドラマ、CM、アニメーションなど映像作品のロケーション・ハンティングや撮影が円滑に行われるように情報提供や撮影支援を行い、地域活性化の一端を担うフィルムコミッション。今回は特定非営利活動法人 ジャパン・フィルムコミッションの理事長 田中まこ氏と事務局長 関根留理子氏をお迎えし、フィルムコミッションの最新事情とともに、1月24日(水)に開催する「JFC全国ロケ地フェア2018」についてお伺いしました。

(以下、敬称略)

制作・プロモーション支援で映像コンテンツの発展と地域創生に寄与

映像作品を通して、地元の魅力を再発見する

日本におけるフィルムコミッションとジャパン・フィルムコミッションの成り立ち
 

1998年 田中氏がアメリカでフィルムコミッショナー研修を受講
1999年 フィルムコミッション立ち上げに関する話が始まる。
2000年 フィルムコミッション設立研究会が発足。日本で初めてのフィルムコミッションが大阪、神戸、北九州、横浜に設立される
2001年 全国フィルムコミッション連絡協議会が発足。
2009年 全国フィルムコミッション連絡協議会が特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッション(以下、JFC)に移行。

・日本でフィルムコミッションとして活動している組織・団体は約300。
・ジャパン・フィルムコミッションの正会員は121団体、そのうち研修を受講してJFC認定を受けたのが90団体。
・日本の年間映画撮影数はFC発足から20年で、約200本から600本近くに増加。

 
VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  最初にフィルムコミッション(以下、FC)について教えていただけますか?
 
JFC理事長 田中 まこ(以下、田中)  FCは何十年も前にアメリカで誕生した映画・映像作品の誘致および制作支援を行う組織です。ロケーション場所を探して、撮影に必要な許認可を取得するなどの支援を行っています。主に映画やテレビドラマ、旅番組、情報番組、コマーシャル、ミュージックビデオのほか、カタログや写真集といった大掛かりなスチール撮影に、最近はアニメーションもあります。制作者しか取れない許認可に関しては間に入り、手続きを簡便化した上で撮影に立ち会うケースが多いです。また、宿泊施設や大きな車両を停める駐車場、重機のレンタルやセットを建てるための工務店、ロケ弁に対応してくれるお弁当屋さんなど、撮影時に必要な周辺サービスをその地元でご紹介します。屋外撮影では警備会社をご紹介することも多いですね。

市井  日本でFCが設立されたのは、どういった経緯からでしょうか?

田中  以前は日本でFCを設置しようとする自治体はなかなかありませんでした。1998年に私がフィルムコミッショナーの研修を受けにアメリカへ行って、帰国後に、ジャパン・フィルムコミッション(以下、JFC)の前身の連絡協議会の立ち上げに関わる方たちにお話をしました。すると、いくつかの自治体が興味を持ってくれて、日本でもFCができないかという話が始まったのが1999年です。そこで連絡協議会を作り、2000年に日本で初めてのFCが大阪、神戸、北九州、横浜の4か所に設立されました。それを皮切りにあっという間に広がり、今では全都道府県にFCがあります。

市井  田中さんがアメリカへ研修に行こうとしたきっかけは何ですか?

田中  2つあります。ひとつは私がロサンゼルス育ちで映画好きだったことです。ハリウッド映画を観ていると、エンドロールのクレジットに「◯◯フィルムコミッション」というのが必ず出てきて、昔から「このフィルムコミッションって何だろう。どの映画にも必ず出てくるな」と思っていたんです。自分が制作者やコーディネーターとして働くようになって、CM制作で海外ロケに行っている方から「海外に行くとFCがすごく便利。そこに頼めばスムーズに許認可も取れるし、いいロケ地も見つかるし。どうして日本にはFCがないのだろう?」という話を聞き、FCがどんな組織か知りました。ただ当時は、日本の役所がそういうことをやるはずがない、FCの設立は困難と思っていました。

阪神淡路大震災から3年後の1998年に、神戸市産業振興局の方から「震災後の経済を復興させるのはなかなか難しい。あまり税金をかけずに地域を元気にするような事業はないだろうか?」と相談を受けました。そこで「実は前からFCというのが気になっていたのですが、私も詳しいことをお教えできません、なぜなら研修を受けたことがないからです。研修を受けさせてもらえませんか?」とお願いをしたのです。

 

ジャパン・フィルムコミッションの活動と役割とは?


市井  それでアメリカで研修を受けたのですね。それでは、現在のJFCの主な活動内容を教えていただけますか?

田中  主な事業は、(1)フィルムコミッション業務、(2)プロモーション活動、(3)ブロック化推進、(4)JFC認定研修です。

市井  (1)のフィルムコミッション業務では、海外からの問い合せ窓口も行っているんですか?

田中  はい。インターネットでFCを検索するとかなりヒットしますが、自分たちが求めているようなロケ地は日本のどこなのかという情報が英語ではなかなかわかりづらい。ホームページやデータベースを持っているFCはたくさんありますが、英語のデータベースは本当に少ないのです。
 
JFC事務局長 関根 留理子(以下、関根)  海外からの問い合わせは、具体的な話というよりも、「日本で撮影をするのはどうしたらいいの?」「どういう許可が必要なんですか?」というような、入り口のところが本当に多いです。

田中  「日本でインセンティブがあれば知りたい」「ビザを取得したい、身元引受人になってくれる業者を教えて欲しい」。ハリウッドからは「英語ができるスタッフがいるプロダクションサービスカンパニーはどこだ」とか。行くか行かないかもまだ決まらない段階での相談に対応するということが非常に多いです。

関根  海外だけではなく国内の作品でも、日本全国でロケーションを探していて場所が特定されていない場合は、まずはJFCで受けて、各会員さんとのマッチングをさせていただくこともあります。

田中  先ほどの(2)プロモーション活動の中では、海外のフィルムマーケットや映画祭に私たちが出向いて「日本にぜひ撮影にお越しください」とプロモーション活動も行っています。やはり海外に行けばそこで私たちのネットワークが広がっていきますし、日本のFCへの理解をより深めていただけます。

(3)ブロック化推進では、100以上の会員が集まって同時に何かをするというのは難しいので、撮影に非常に近いところにいらっしゃる、例えば地元の電鉄会社を含めた地域ごとのブロックで、日頃から情報共有を行っています。私たち事務局が日本中をまわってお話をするというのは難しいので、ネットワーク化してみなさんの意見を吸い上げています。

(4)JFC認定研修というのは2日間の研修で、FCの歴史やFCのサービス内容、警察の撮影許認可や国や自治体の助成金やプログラムについて学んでいただき、国際弁護士の方にコンプライアンスについても教えていただいたりもします。

市井  いま、JFCさんの事務局としては何名ぐらいいらっしゃるんですか?

関根  アルバイトを入れて2.5人くらいです。

市井  それでさばくのは大変ですね。

田中  本当に大変です(苦笑)。
 

 

撮影支援で重要な“地域における合意形成”


市井  日本で撮影するテレビや映画、コマーシャル、ミュージックビデオなどのうち、FCのサポートを受けているのはどのぐらいの割合なのでしょうか。

関根  今年度の映画トップ50では邦画の実写が32作品ありましたが、そのうちFCのクレジットが入っていなかったのは、ひとつだけでした。[参考資料「2016年 邦画興行収入TOP37(43作品)協力FC及び自治体一覧」はこちら

田中  撮影所だけで撮る作品もありますので、実写版であっても100%にはならないです。

市井  ロケーション撮影の映画を対象にした場合、100%に近いということは、FCの存在はかなり認知されているということですよね。

田中  撮影を仕事にしている方はFCをご存知です。先日、ある大学の映画コースの1回生160名にお話をしました。「FCという言葉を聞いたことはありますか? FCを知らない方は手を挙げてください」と聞きましたら、手を挙げたのはたった2人でした。とうとうここまで来たかとうれしく思いました。

VIPO事務局次長(以下、槙田)  フィルムコミッション自体は知っていても、正しく知っているかどうかが問題ですよね?

田中  おっしゃる通りです。

市井  では多くの方が、なんとなく知っているだろうというところからスタートしましょう。FCの役割として撮影中の支援がありますが、特に重要なことは何ですか?

田中  撮影する方がいちばん難しいと考えているのは“地域における合意形成”です。日本で撮影される映画がまだ200本ぐらいだった頃は制作期間が長かったので、何か月も現地入りをして合意形成を図っていました。今は600本近くの作品が撮影されていて、1本あたりに充てる時間や手間も減っています。そのため、情報入手や、“地元における合意形成”を図る前のアポ取りなどにFCが間に入って、お手伝いをしています。

槙田  神戸など、先進的なところはうまくいっていると思うのですが、合意形成が難しい地域はありますか?

関根  難しいのは東京などの大都市ですね。東京の中でもFCが成立しているのは、台東区など昔ながらの下町です。商店街や昔からの住民の方が住んでいるところは、地域のためになるならと合意が取りやすいですが、大都市の不特定多数を相手には難しいです。

田中  制作者の方は「昼間も銀座で撮らせてよ」と言いますが、それはなかなか難しいと思います。夜中の2時から5時なら場所によって可能性はありますが、かなりの労力と時間を要します。神戸のような地方都市であっても、交差点をひとつ閉めるためには「交差点に面しているビルのテナント全部の事前承諾を取って来ないとダメ」と、警察に言われることがありますから。
 

 

撮影後のプロモーションや地域振興も担うFC


市井  撮影の支援以外にはどんなことを行いますか?
田中  いくつかありますが、まずは、宣伝やプロモーションの支援です。完成した作品をひとりでも多くの方に観てもらうことが私たちにとっても重要ですので、宣伝やプロモーションをお手伝いします。それぞれのFCが持つSNSなどのメディアを駆使して、コマーシャルやミュージックビデオにしても、公開日などの情報をコンスタントに出しています。サポーターやボランティアを登録・管理している場合、そこに登録している何千人、何万人の市民に対して「今週の土曜日から映画◯◯が公開です」というような情報発信も、私どもがやっています。

市井  撮影中の支援については理解していましたが、プロモーションまでやっていることは全く知らなかったです。撮影現場の方はプロモーションのことまでご存知なんですか?

田中  私たちと接点があるのは制作部の方ですし、部署によってもFCの認知度が異なります。テレビであれば制作会社の方たちとお話をしますし、配給・宣伝、テレビ局の広報の方はFCがこの作品にどれだけ関わったのかあまりご存知ないと思います。数字的に言えば、3割以下まで減ってしまうと思います。

市井  3割以下ですか。それではFCを正しく理解している方は少ないということになりますね。

田中  プロデューサーが配給・宣伝との深い繋がりを持っていたり、後々のプロモーション活動のためにロケ中どんな準備をするかといったお話ができると、作品の宣伝がスムーズです。ですが、映画の制作は何々組というケースが多く、クランクアップすると次の作品に移動します。テレビ局の場合は、下請けの制作会社がプロモーションにはタッチしないので、広報と繋いで下さることはまずないですね。

槙田  FCを有効に使ってもらって、地域のためにもなるような宣伝をしてくれるといいですよね。

田中  例えば、映画公開に合わせて衣装を集めて展示をしたり、印刷物を作ったりすると、それだけで数百万かかってしまいます。それを出せる地方自治体はないので、これを期待されてしまうと困りますが、私はお金をかけなくてもできるやり方があると思っています。

関根  宣伝の部分で地域からの要望は、配給側に協力して欲しいということです。「地元でこういうことをやりたい」と思っても、制作と宣伝は分かれているので、小さい町で上映会や役者さんを呼んでの舞台挨拶は難しいようです。

槙田  映画の場合は、撮影中に配給会社が決まっていないこともありますから難しいところかもしれませんね。

市井  撮影中以外の活動は他にありますか?

田中  啓蒙活動ですね。ひとりでも多くの方に観てもらって映像を好きになってもらえれば、スムーズな撮影支援にも繋がります。大学の講義で紹介したり、いざというときにご協力いただけるよう、商店街の集まりに顔を出したり、地元行政の関連部署の方たちとお会いしたり、映画好きなアクティブシニアの方々が集まる場でお話ししています。

市井  地道な活動ですね。

田中  私たちにとっていちばん重要なのは地域の活性化です。今は国も地方創生事業に力を入れていますが、私たちが撮影会社やコーディネーター、民間企業とは異なり、無償でサービスを提供しているのは、最終的にはそれが地域のためになるという重要な目的があるからです。映像作品を通して地元の魅力を再発見し、地元を元気にしたい。そして、たくさんのいい作品が世に出て、それをご覧になる方が増えれば、日本にとっても大きなメリットになっていくと考えています。
 

 

お金と時間のロスを抑え、効果的に宣伝できる仕組み

FCを活用する制作側のメリットと課題

市井  映画・テレビ・アニメーションなどの制作側、つまりJFCを利用する方々に対するご要望などはありますか?

田中  よろず相談所のように、いろいろな方からお電話をいただくのはいいのですが、地域と一緒に作品を作り上げていく意識を持つ方が、まだまだ少ないように感じます。
 
20年前、日本でFCをやってみたいと提案したのは、うまくやればWin-Winの関係で、お互いにムダなお金を使わず、時間のロスを最小限に抑え、効果的に宣伝できる仕組みだと思ったからです。お互いに良い思いをするということは、苦労の部分もシェアをするということなのですが、そこをご理解いただくのがなかなか難しいです。

毎日の撮影に追われる中、上司に「とにかくあそこのFCに電話して聞いてみろ」と言われて、「すいませーん、廃校を探してるんですがありますか? ないですか? ありがとうございます」ガチャン、と終わってしまう電話があまりにも多いです。もしかしたら他にもご協力できることがあったかもしれないのに。

市井  それは残念ですね。次につながらないですね。

田中  成功した経験を持っているFCと制作者は、次のときはより丁寧に情報共有をしますが、現場というのはトラブルが付き物。1回でもトラブルがあると、FCは「またこの制作者はむちゃを言うんじゃないか」と思い、制作者側は「協力するって言っておきながら、観光に繋がらないならダメとか、日曜日の撮影はダメだとか言うんだろ」と慎重になってしまいます。最初からそういう思いでお互いが話を始めると、大抵はうまくいきません。条件がきちんと揃えば、とても理想的な仕組みではありますが、思うようにはいかないですね。

槙田  [映画][テレビドラマ][バラエティ][情報番組]などのカテゴリー別では何か課題などはありますか?

田中  [バラエティ][情報番組]は撮影までの期間が非常に短く、当日ということもあります。トラブルが起きると、次にその場所を撮影で使わせてもらえなくなる可能性もありますので、私たちとしては時間をかけて準備をして、しっかりと許可を取った上で撮っていただきたいと思っています。地域の合意形成ができていればいいのですが、「そういう話は聞いていない。」というようなトラブルが多くあります。無理なことを要求されるわりには、地元としてのメリットがなかったり。現場に番組としての判断ができるようなチーフプロデューサーが来ることはないので、大きな判断ができないのもトラブルの要因としてあると思いますね。

関根  [情報番組]は観光PRとしてのメリットが大きいので、一生懸命に支援する地域が多いです。[バラエティ]の場合は、「こういうおもしろい人いませんか」という相談ですね。派遣法があってなかなか対応できないのですが、地域によっては「年に2~3回しか来ないのでそれでも撮影に来て欲しい」と、知り合いの親戚を紹介したりすることもあります。

田中  芸能人がぶらっと訪れる系の[旅番組]は、文化も含めてその地域を1時間たっぷりと紹介してくれるめったにないチャンスですから、皆さん来てほしいと思っていますね。1番来て欲しいと思っているのは[連ドラ]だと思いますが、人気の役者さんは毎週、地方まで通うのが難しいので、思うようにはいかないですね。

関根  実は[テレビドラマ]がいちばん、トラブルが多いんです。例えば「ロケ地爆破、道路封鎖ができるところ。事前にもうやっているから来月にぜひやりたい」などと言ってこられます。テレビドラマって旬の俳優さんを使っているので「この人が来るんだからメリットあるでしょ」と、むちゃをおっしゃることはありますね。

市井  それは困りますね。

田中  タイトな時間の中で売れっ子の役者さんを誘致するのも大変だし、来てくれても短時間しかいられない。支援をするまでの準備期間も少ないというのが[ドラマ]の課題かなと思います。[映画]はドラマと比べて時間的な余裕はありますが、その分、要求度が高いこともありますし、予算が10億円の映画と5000万円の映画とでは課題も異なります。また、撮影はしてもその地域として登場しないケースも多いので、地域のPRの部分で協力してくれる制作者にぜひ来ていただきたいと思っているところは多いです。
 

 

各地域のFCによって異なる環境


市井  逆にFC側での課題はどういうことがありますか?

田中  制作者がネットでFCを検索して連絡をしたけど「思ったようにやってくれない」と言われることもあります。

自治体でも単に撮影支援をしている部署と、良いコンテンツを作ってもらいたいという視点で積極的に誘致し、例え自分たちの町が舞台じゃなくても支援しているところもあります。

作品の先行上映会をやって、監督と役者さんが来て「撮影のときにお世話になりました」と言ってもらえたら、それはそれで地域振興に繋がるので、その町が舞台じゃなくてもいいんです。そういうことも含めて、制作者側も歩み寄ってくださるのであれば支援できますが、「あれとこれは協力して。FCだからタダでやってくれるよね」みたいな感じだと、「えっ?」となってしまうところもあります。

市井   FCの中でも「積極的に誘致して支援をする」というところと、「税金を使うのだから、地元のためになるなら協力をする」というところがあるわけですね。

関根  そうです。地域によってまったく環境が違うんです。地方であれば撮影時に宿泊を伴うので、地元にもお金が落ちますが、東京近郊だと難しい。「エキストラとして参加できる作品は地域の方々がよろこぶので、どんな作品でも支援します」というところもあります。

田中  物理的に難しいケースもあります。「道路で自由に撮影してください」と言いたいところですが、東京や横浜などの人口密集地では簡単にはいきません。また、電車が1時間に1本の駅であれば撮影もしやすいけれど、電車が2分おきに通る駅で撮影するのは困難です。あと、市の許可だけで済む物は多少の融通が利きますが、市の中にあっても県や国の施設はそれぞれに許可が必要です。やる気や思いがあり、スタッフが足りていても、何でもOKとはいかない状況もあります。
 

 

発信力を磨き、多くの人に知ってもらうことが重要

海外と日本におけるFCとの違い


槙田  今、JFCは10ブロックに分かれていますよね。アメリカの場合、AFCI(国際フィルムコミッショナーズ協会)に加盟しているのがFCであるという前提で言うと、どれくらいの数があるんですか?

田中  アメリカ国内だけだと100ぐらいだと思います。

槙田  そのぐらいの数で州の全部をカバーできるということですか?

田中  アメリカは州単位で税金が異なります。タックスインセンティブが誘致のメーンになっているので州ごとにFCがあります。あとは大都市で、知事や市長室の直接管轄でやっていることが多いです。

槙田  アメリカの小さな市や都市は「うちでもFCを作りたい」とは言わないんですか? 日本はそうやって300もFCがあるわけですよね?

田中  彼らのターゲットがハリウッド映画で、ハリウッド映画はタックスインセンティブが大きいことを求めています。市や都市ではタックスインセンティブを提供できませんから、言わないんでしょうね。

関根  日本の場合、お土産ひとつ取っても各地域でそれぞれ作りますよね。それと同じで、地域の特色を表したいから、日本中にFCができたのだと思います。アメリカはうちの州、うちの市はこういう特徴があります、というような売り方はあまりしていないですよね。

槙田  韓国も少なかったですよね?

田中  韓国は道(日本でいう県)ごとなので、少ないですね。

槙田  僕から見ると日本だけ特異に見えるのですが、いかがですか?

田中  観光施設がない地域では、新たな観光資源を出していかない限り、交流人口は増えません。日本は人口が減っていますし、インバウンドが地域存続の大きな要素になっています。例えば、誰かが「しまなみ海道はサイクリングをするには理想的だ」と言ったとたん、サイクリングをする人たちが大勢来るようになりましたよね。各地域が新しい観光資源として何かを発掘しようとしたときに、映画やドラマは町おこしとして理解しやすかったので、たくさんのFCができたんだと思います。
 

 

仕組みづくりの難しさと経済効果の見える化


市井  FCができた20年前と比べて、利用する人は増えていますか。

田中  もちろんです。ただ、「いろいろとルールができたせいで、昔、無理やり撮っていたようなことができなくなってきた」と、こぼす方もいらっしゃいます。

槙田  制作者側は昔と違って、いろいろとやりづらいと感じているんですか。

関根  成功例はあまりシェアされなくて、どちらかというと悪い例ばかりが共有されてしまうので、結果的に「やってくれない」「やりづらい」という印象になっていると感じています。

田中  今、国でもロケの撮影環境を改善したいと検討していますが、同じ組織であっても、担当者それぞれの解釈に違いがあり、許可がすぐに下りたり下りなかったりします。そういった地域差、あるいは担当者の差を埋めるため、細かくルール化してしまうと、今度は融通が利かなくなるということもあり、どこまでルール化するかも含めて、難しいなと感じております。

例えばドローン撮影も「この条件ならいいよ」と言ってしまうと、その中の細かい条件によって無理だった場合、どうするのかを新たに決めておく必要があります。ジャンルや規模、場所それぞれに、みんなが使えるルールを作るのはとても難しいです。20年経っても「FCはこうだ」という物ができていないのはそこが理由だと思っています。

槙田  撮影の際、行政などにさまざまな許可を取る必要がありますが、FCへの理解が深まり、そういった許可が取りやすくなってきたという実感はありますか?

田中  はい。明らかにそこはスムーズになっています。ただし、管轄が区・県・市とまたがっているケースに関しては、許可を得るのが楽になったとはまだ言い切れません。市レベルであれば、撮影支援の経験を積んでいけば、部署同士の内部調整にも慣れてきます。とはいえ、うまくいくようになっても、人事異動で別の方が来ると、1から説明をし直すこともあります。まだまだ人次第、行政の状態次第というところもあるので、解決したとは言い切れないですね。

槙田  地方のFCの方とお話していると、活動予算が厳しいようなのですが、その理由として経済効果の検証と広報活動がかなり足りないような気もするのですが。

関根  支援件数は実績を報告する必要があるので、どのFCさんも出しています。それから、JFCでは、設立時に経済産業省の支援をいただいて経済効果の指標を作り、会員のみなさんにお渡ししています。ですから、宿泊を伴う地域であれば、この作品で何日撮影したら経済効果がどれだけあるのか、数字で出るようにはなっています。

田中  観光施設が舞台になった作品であれば、そこへの入場者数が10倍になったなど分かりやすいですが、町全体で観光客が増えている場合、その何%が映画をきっかけに来たのかが分からないですよね。撮影関係者の宿泊代や飲食代を記録しているところは多いですが、間接経済効果は基準が明記できません。ただ、直接経済効果のことばかりを言ってしまうと、日帰りで撮影できるような地域は直接経済効果がゼロ、施設使用料だけとなってしまいます。直接経済効果がゼロなら、これ以上は県の予算を使うことはできないとなりかねないので、どこまでオープンにするのか悩ましいところではあります。
 

 

地域と制作者を繋ぐ「JFC 全国ロケ地フェア」



市井  課題はいっぱいあるけれど、少しずつ進歩しているという感じですね。今後、FCとしてどのように進むべきか、何かありましたらお聞かせください。

田中  FCとしての発信力を磨きながら、繰り返して続けるしかないと思います。この業界に繋がりを持っている方に、ひとりでも多く知ってもらう努力を続けていくしかないのかなと。

槙田  今、日本に100以上のDMO(Destination Management Organization)*ができようとしていますが、FCをご存知ない方も多いんです。でも、DMOの意義からいうと、その中にしっかりとFCのポジションがなくてはおかしいですよね。私たちもFCをもっと知ってもらえるようにサポートをしていきたいと思います。
*日本盤DMO(出典:観光庁):『地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人』

市井  私たちのサポートの一つとして、1月24日(水)にVIPOを会場にして「JFC 全国ロケ地フェア2018」を行いますね。これはどのようなイベントですか?

田中  各地のFCと制作者の方とのマッチングです。制作者に各地域の特色や景色などをと知っていただくには、会ってお話をするのがいちばんです。FCが直接、制作者と知り合う機会はほとんどないので、マッチングの場所として毎年ロケ地フェアを開催しています。

一度、FCとじっくり取り組んだことがある制作者は、自分の仕事が楽になることをご存知なので、ロケ地フェアも積極的に参加してくれます。ロケ地フェアに行けばガイドブックや写真集も揃っていますし、会員のFCがすべて集まっているので、自分から連絡しなくて済みます。ただ、日本の作品件数の増加に比例して制作者は増えてはいないので、みなさんがそういう時間を割けないのも事実です。

もし今抱えている案件がないなら、ぜひ「JFC 全国ロケ地フェア」に足を運んでいただいて、今のうちにいろいろなFCの方と名刺交換していただきたいです。それでいざ案件がスタートした時に、気軽に相談できる人間関係を構築していただきたいですね。電話やメールのやり取りだけでなく、年に1回、顔を合わせることで良い関係ができれば、誤解も解けていくと思うんです。

「FCがいてくれて助かったよ」と思っていただきたいですし、私たちも「やってよかった」と思えるような作品を支援していきたい。地域のためにプラスになれば、支援した甲斐があったなと思います。いい作品を撮るために必要な支援が全国で受けられるような仕組みづくりを、無理せずに続けていくにはどうしたらいいかと考えています。

市井  今までの来場者は映画業界の方が多かったですか?

関根  やはり映画、テレビが多いです。

槙田  例えば、アニメーションやマンガ、ゲーム、いろいろなジャンルの方が来ていただくのはいかがですか?

田中  もちろん大歓迎です。アニメーションはだいぶ増えました。

市井  VIPOでも、昨年11月に「映画『この世界の片隅に』におけるフィルムコミッション活動報告セミナー」をやりましたからね。今後、アニメーションでのFCの利用は増えるでしょうね。私たちは、映画、放送、音楽、アニメ、ゲーム、出版、キャラクター等、コンテンツ業界のオールジャンルの方々を支援させていただいていますから、今後、いろいろな方に呼びかけていきましょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
 

田中まこ Mako TANAKA
特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッション 理事長

  • 大阪府生まれ。少女時代をアメリカで過ごし、大学卒業後は番組制作、通訳、撮影のコーディネート、ラジオのDJなどを手がける。
    2000年より神戸フィルムオフィス代表に就任、2016年3月末で同代表を退任。
    2016年4月より同顧問に就任、現在に至る。
    ひょうごロケ支援Net会長、ジャパン・フィルムコミッション(JFC)の理事長としても活動中。
    2003年には、国土交通省の「観光カリスマ」に選定され、2010年には観光庁の「YOKOSO!JAPAN大使」(現「VISIT JAPAN大使」)に選定される。2006年神戸市文化奨励賞受賞、2009年兵庫県文化功労者、2010年関西財界セミナー「輝く女性賞」受賞。2016年神戸市産業功労者賞受賞。

関根 留理子 Ruriko SEKINE
特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッション 事務局長/フィルムコミッショナー

  • 長崎市生まれ。高校卒業後渡米、大学でジャーナリズムを専攻し、旅行会社勤務の傍ら邦人向けフリーペーパーを発行するなど9年間をアメリカで過ごす。帰国後、長崎市の親善大使や地元タウン誌編集記者を経て、2004年から長崎県フィルムコミッションで約5年間FC事業に従事する。2008年JFC設立準備事務局の立ち上げのため上京。2009年4月のJFC設立から事務局次長として事業全般を担当。2017年10月より現職。


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