日本を代表するコンテンツとして世界で高く評価されている日本のアニメが昨年100周年を迎えました。これをきっかけに生まれた『アニメNEXT_100』のプロジェクトは、日本のアニメの「チカラ」をさらに発展させて世界・未来に繋げていくためのものです。今回は一般社団法人日本動画協会理事長でこのプロジェクトの代表である石川和子氏と本プロジェクトの統括プロデューサーで株式会社サンライズ 代表取締役社長の宮河恭夫氏をお迎えして日本のアニメのこれからについてお伺いしました。
そこで、『ア二メNEXT_100』全体を統括する会議体を設置し、その全体の統括プロデューサーを宮河社長に担っていただいています。また、プロジェクト全体のアドバイザーとして、各分野の専門家でいらっしゃいます5名の皆様にご参加いただくことができました。
そして、3つのテーマごとにプロジェクト推進チームを組成し今に至ります。
市井 3つのテーマをもう少し掘り下げて、どんなものを目指されているのかを教えていただけますか?
1. 日本のアニメ大全
石川 「日本のアニメ大全」は、日本のア二メを歴史的かつ網羅的に体系立て、日本のア二メ100年の歴史を皆さんに知っていただき、未来へ繋げるという想いで立ち上げました。「動画協会」として作品情報とアーカイブ情報を兼ね備えた網羅的データベースを構築することを目指して推進しております。それらは、制作に携わられた関係者の皆様のご協力によって今日に至っています。
この「日本のアニメ大全」が基礎になり、日本のアニメーションの歴史を皆さんに知ってもらえるようにと現在進行中です。作品を知っていただくために一番大切な問い合わせ先についても、国内だけではなく海外へ向けた発信を意識しています。
市井 日本のアニメの原点を探求する「調査研究」と「作品情報」の2つの切り口に関してはいかがでしょうか?
石川 「調査研究」はそれぞれ学術的な視点や研究テーマを持たれている方たちに、メンバーとして参加いただき共同調査・研究を行い、随時成果発表をさせていただいています。
「作品情報」という観点からはIPへの対応も含めてですが、各社で著作権を含む作品情報を継承していくことの大切さをふまえて、ア二メ産業界のナレッジが継承されていくようにメタ項目を検討し、サブタイトル数などまで1作1作突き詰めています。VIPOが運営しているJACC®*(Japan Content catalog)は海外からのビジネスユーザー向けにアクセスもしやすく、情報もセグメントされていらっしゃると思います。
「動画協会」ではエンドユーザーが必要とする作品情報まで掲載できるよう努めており、制作会社にとって利便性が高い性格を持つように心がけております。
市井 作品数はどのくらいありますか?
石川 現在私どもでデータベースに入力しているタイトルだけで約1万2,000作品あります。エピソード数では16万話以上はあります。それらのカテゴリーとなる、初出(初放送・初上映・初配信など)劇場、テレビ、WEB、配信など、どのように展開されてきたかも分かるようになっております。
「アニメ大全」による著作権情報については、初めて公開・放送された時点の初出情報を採用しています。
市井 とても大変なプロジェクトですよね。英語の情報は入っているのですか?
石川 英語の情報は作品によって情報量の差が大きく異なりますので、どのように網羅していけるのか、するのかが課題となっています。これらについては、基準作りなど含めてVIPOにも相談に乗っていただけたらと思っています。
市井 JACC®*(Japan Content catalog)とのリンクもあるといいですね。
石川 2019年から2020年には公開したいと思っています。一方で、アニメに関するデータベースが複数できるのではなく、一括管理を行うことが産業界としても望ましく、事業化して運営していくことも課題だと思っています。
市井 「動画協会」に加盟している皆さんは、「日本のアニメ大全」をつくっていく強い気持ちをお持ちなのでしょうか?
石川 やらなければならないと思っている、と思います。
もう少し、産業界全体として皆さんにご協力をお願いしたいと思っています。古い作品を知っている方も含めて、どこまで追いかけるのかという問題もあります。それが歴史ですし、あらためて事業に結びつくこともあると思うので、地道に進めながらも、できるだけ早く公開できるようにしたいですね。
市井 データベースに関しては私たちも行っていますが、常にアップデートが必要ですよね。「でき上がって終わり」ではないので大変だと思います。
『アニメNEXT_100』の3つのテーマの2つ目、人材育成についてもお願いします。
*登録商標”JACC”は,当機構が株式会社ITSCから許諾を得て使用しています。
2. アニメーション教育・人材発掘・育成
石川 人材育成というと、アニメに実際に関わっている人の育成だと思う方もいると思います。実際にそれも大切なことなのですが、このプロジェクトは未来を担う子どもたちの創造力や発想力、生きる力を引き出すために、アニメーションのチカラを使って教育していこうというものです。
私は教育のツールとしてアニメーションを使っていくことを啓蒙していきたいと思っています。子どもたちが、創造力や生きる力を自分たちで培っていかなければならない中で、楽しみながらそれを引き出せるようにしたいです。アニメーションはそのためのツールとしてもふさわしいと思いますし、多くの方にアニメーションを使って楽しく教育していただきたいと願っています。
市井 具体的には「アニメイク・キッズサマージャンボリー」などがそれにあたりますか?
石川 はい。「アニメイク・キッズサマージャンボリー」は2017年8月に4日間、秋葉原で行いました。アニメーターの方に実際に先生をつとめていただき、子どもたちにはアニメーションを創ることを体験をしてもらいました。
そこで子どもたちが私たちの想像を超えるようなすごい力を持っていることを改めて感じましたし、子どもが自由にものを考えたり描いたりすると、プロのアニメーターも想像できなかったものができるということを、参加されたアニメーターも、アニメーターとして貴重な学びの場になったと話されていました。
市井 アニメの作り方のHow-toを学ぶことによって、「アニメってこんな風に作られているんだ」ということを分かってもらう趣旨も入っているということですね。
石川さんが最初に言われていた「通常の教育プログラムの中にアニメーションを用いる」という部分に関してはいかがでしょうか?
石川 「アニメイク・キッズサマージャンボリー」は4つのプログラムを同時並行で実施いたしました。
教育者向けには、アニメーション教育カンファレンスとして、「アニメーション教育」「アニメーションメソッドを用いた教育」の2つのテーマを取り上げ、ア二メを活用した教育法について実践的にアプローチできる機会を設けました。
アニメの未来を考えた時、小学生のころからアプローチしたほうがいいと考え始めたきっかけは、学習指導要領の中で採用されているアクティブラーニングの進め方やアニメーションのワークショップを学校で行いたいというお問い合わせが「動画協会」に寄せられていたこと、また、「動画協会」の人材育成委員会で、「子どものうちに、身に着けておいた方が良いことがたくさんある」という産業界の現場から声があったことです。
市井 ニーズにきちんと応えられたんですね。
石川 アニメが好きになって、アニメに関わるような仕事をしてほしいと願うと同時に、全てのことを観察する大切さも教えたいです。自然に身につく観察力や想像力はアニメーションの仕事以外でも大切なことで、そこを意識したプログラムにしています。
市井 今のお話は、大学生や専門学校生になったときに、小さい頃からの教育がもう少しあればクリエイターとして一人前になれるのにという話ですか? それとも、アニメーションを学校の教育を学びやすくするために使った方が良いというお話ですか?
石川 両方です。クリエイターになるためには、理解力やオリジナリティ、想像力を育むことが大切です。描きたい絵だけを描くのではなく、今はストーリー展開、オリジナリティ、動きの創造力、企画力を強化する必要があると言われることが多くなっています。
そこで、子どものころに体験を通じて観察や洞察、想像力を養うことが大切。各国のアニメーションを用いた教育に携わる方々と、アニメーター育成の現状、そして今回の取り組みで共通とされたテーマは、子どものときに基本的な観察力や動きを理解してきた経験がとても重要だということ、更にそこから生まれる発想力はアニメだけではなく、あらゆる業界で必要とされる力へとつながり、別の意味でも活きていくということでした。
市井 確かに「発想力」は今後ますます重要になってきますね。
石川 アニメ―ションを用いた教育でアニメーターやクリエイターを育てていくということ、またその教育によって子どもたちの可能性がアニメ業界だけでなく幅広い領域で育ってくれることを目指しています。その結果、アニメ産業界の未来を担う人材が育ってきてくれるのではないかと思っています。
今回は、大人にとっては懐かしい、子どもにとっては新鮮な見たことのない映像作品を見ていただく場も設けました。子どもたちは興味を持って見ていました。これらのことは継続することに意味があると思っているので、昨年の反省を踏まえつつ今年も開催していきたいと思っています。
市井 昨年は東京で開催され、4日間で600人程の規模でした。今後大きくしていきたいと思っていますか?
石川 そうですね。ただ、さまざまな条件もあるので、継続する中でみなさんに関わっていただきながら少しでも広がりを持たせていけたらいいと思っています。
市井 今は動画で配信もできるので、地方などで来られない人にも体験してもらう形づくりなどいろいろな方法がありますね。
石川 最終的には学校のカリキュラムの中に、アニメーションの何かが組み込まれていくといいなと思っています。
市井 3番目のアニメの未来についてはいかがですか?
3. アニメの未来
『アニメNEXT_100』統括プロデューサー 宮河恭夫(以下、宮河) 周年事業などの企画には、過去を振り返るものが多いと思います。
しかし『アニメNEXT_100』では振り返るよりも次の100年をどうするかという思考に切り替えて、100年後のアニメはどのように発展していくのかを業界みんなで考えています。コンテンツ市場はヒット作があれば市場全体が広がっていきます。そんな中で、年に2回アニメ業界に関わる方々が集まって考えていくイベントが必要、その1つが、春の『AnimeJapan』になっています。
そこで、『アニメNEXT_100』では、ア二メを徹底的に楽しめる秋のフェスティバルとして『アニメフィルムフェスティバル東京』を立ち上げました。
市井 『AnimeJapan』と『アニメフィルムフェスティバル東京』の違いはどのようなものですか?
宮河 春の『AnimeJapan』は、ビデオメーカーなどが中心になりアニメファンの方々にたくさん来ていただくイベントです。『AnimeJapan』は映像を見せるというよりは作品紹介の場。秋の『アニメフィルムフェスティバル東京』は映像重視として、テレビも映画も上映できるように組み立てています。そのモデルとして、もともと当社サンライズがフィルムに重きを置いたイベントを夏から秋にかけて、『サンライズフェス』として行っていました。
過去4年間、私たち単独の催しとして、夏に新宿で過去のテレビアニメのオールナイト上映をしています。子どものころテレビで見ていたアニメを20年後に再び映画館で鑑賞するという場です。そこにクリエイターを招いて、クリエイターとも交流できる場を設けました。これが評判だったのでそのモデルをア二メ業界で共有し新しいフェスを目指しました。さらに広げるために昨年は新宿観光振興協会による「新宿まちフェス」とジョイントして『アニメフィルムフェスティバル東京』と名付けたイベントに仕上げたわけです。映画館が全て徒歩圏内にある新宿で、10月13日から15日まで開催しました。
市井 反響はいかがでしたか?
宮河 第1回は悪天候も影響し、内容的にも課題を残すところがありましたが、スタートしたことに意義があると思っています。毎年やりながら「国際映画祭」にも近づけていく方法を探して続けていきたいです。
次の100年を考えるというと大げさに聞こえるかもしれませんが、みんなで映像を見ながら楽しんで、次にどのような作品をつくるのかを考えることは作り手にとっても見る人にとっても、とても重要だと思います。
市井 やりがいがありますね。次へのアイディアなどはありますか?
宮河 過去作品のオールナイト上映を通してとても重要だと思ったことは、クリエイターとファンをどうコミュニケーションさせるかということです。
過去作品の監督のトークショー込みの上映では、昔に見た映画に対して「こんなことを考えて作っていたんだ」とお客さんとクリエイターとのコミュニケーションが生まれていました。
アニメを見て終わりではなく、そこにクリエイターが居合わせてファンと話していくことの重要さが分かってきたので、これは続けていきたいと思っています。年に1回はクリエイターが居合わせる機会を作りたいですね。クリエイターとファンを近づけたり、かつてのテレビアニメをみんなで見てその商品を買ったりできるというお祭りができればいいなと思っています。
市井 「アニメの日」も制定されましたよね?
宮河 『アニメNEXT_100』で制定しました10月22日の「アニメの日」は東映動画の「白蛇伝」(1958年10月22日に公開された日本初のカラー長編アニメーション 製作:東映動画、配給:東映)を公開した日です。なかなかそういうものを見る機会はないので、フィルムで上映しました。また、テレビアニメ黎明期のシリーズ第1話だけを4本上映するなどのプログラムも作りました。見てみると、自分が思っているものと実際の内容が違ったりして、新しい発見もあり面白かったです。
秋は昔から芸術の秋、文化の秋と言いますが、そんな秋にフィルムを見る機会をこれからも作っていきたいです。各テレビ局や映画会社は権利関係が複雑なので、その1週間は全て解放するような勢いで広げていきたいと私個人は思っています。
石川 合言葉は「おしみなく」ですよね。
市井 みなさんは協力的でしたか?
宮河 そうですね。みなさん協力的でした。例えば、映画にちなんだグッズを出そうという話では『おそ松さん』が6人で映画をみている描き起こしのオリジナルグッズを作ってもらいました。これが広まっていくともっと面白くなると思います。
石川 そこでしかありえないコラボレーションができたらいいですね。
市井 アニメの国際プロモートの仕組みはいかがですか?
石川 アニメのチカラをもっと海外にアピールしていく中で、パッケージを作ってこの『アニメNEXT_100』というプロジェクトを海外に出していこうとしています。
宮河 海外の大きなアニメのイベントにも『アニメNEXT_100』のブースを出展して、版権の壁を越えて歴史的なアニメ作品を紹介していくことが必要だと思っています。日本のアニメは海外でもとても売れているので、それをオフィシャル化して出していくことが大切です。個社でやるのはビジネスとしても重要ですが、このようにアニメ業界全体としてやっていくことも時には重要だと思っています。
石川 昨年、「アヌシー国際アニメーション映画祭」でも日本アニメが100年ということで、アヌシー国際アニメーション映画祭、国立映画アーカイブ(旧:東京国立近代美術館フィルムセンター)の共催で特別上映プログラム「Annecy Classics: 100 Years of Japanese Animation」(日本のアニメ100周年)を実施しました。これはアヌシーでも初の取り組みでした。
さらに「MIFA」**でプレゼンしたりもしました。日本のアニメが100周年ということもあり『アニメNEXT_100』の今後の展開にとても興味を持ってもらえました。
**アヌシー国際アニメーション映画祭に併催する世界最大規模のアニメーション見本市
アニメの権利関係は確かに複雑ですが、『アニメNEXT_100』だからみんなで集合しようと声をかけて成し遂げることができたので、とてもよかったと思います。
宮河 去年100周年を記念して公式テーマソングを制作し、同時に122作品のアニメ(動画)をつないだPVも発表しました。前代未聞だと思います。YouTubeに「『アニメNEXT_100』スペシャルムービー」でアップされていますが、現在33万アクセスがあります。海外の方からの反響も大きかったです。鳥肌モノの14分で、見応えがあると思います。
石川 ムービーに使用されている『アニメNEXT_100』公式ソング「翼を持つ者 ~Not an angel Just a dreamer~」は、「ONE PIECE/ウィーアー!」など多数のヒットソングを手掛けた作曲家・田中公平さんが制作指揮をとり、楽曲誕生に際してもレーベルの壁を超えて、豪華アニソン・声優アーティスト23組が関わってくださいました。