VIPO

インタビュー

2018.10.22


日本人が知らない中国コンテンツ産業の新常識 (中国ビジネス攻略セミナー「ビジネス編」から一部を再構成)
分部 悠介氏
VIPOでは、中国コンテンツビジネスにおける模倣対策および知財保護の第一線で活躍中の分部悠介氏(弁護士・弁理士・IP FORWARDグループ総代表/CEO)を講師に招き、「コンテンツ業界が知っておきたい中国ビジネス攻略セミナー」を「ビジネス編」「法律編」のテーマに分けて2018年2月と4月に開催しました。今回は、『ビジネス編』(3時間)から導入部分「コンテンツ市場概況基本情報」と「中国展開時によくあるトラブル対処法」の一部を抜粋してご紹介いたします。

(以下、敬称略)

コンテンツ業界が知っておきたい中国ビジネス

「日中コンテンツ基礎知識講座 〜ビジネス編〜」アジェンダ
 
1. コンテンツ市場概況基本情報 (一部をご紹介)
2. 分野ごとの概況
 ・動画配信
 ・映画
 ・テレビ
 ・ゲーム
 ・アニメ
 ・キャラクター商品化
 ・マンガ(市場概況)
 ・音楽(市場規模)
 ・生中継
3. 中国コンテンツ市場分析ツール
4. 中国展開時によくあるトラブル対処法 (一部をご紹介)
5. 総括・今後の展望

 
 

コンテンツ市場概況基本情報
 
―― 中国コンテンツ市場規模は?
 
中国ではコンテンツビジネスのことを文化産業とも言うのですが、2017年9月国家統計局発表によると、2016年の文化関連産業の市場規模は3兆元、日本円で51兆円相当となっています。
これは昨年よりも10%増加しており、中国 GDP の4%にあたる産業に成長しています。
 
数字的に見てもコンテンツビジネスは右肩あがりの産業で、中国政府においても文化産業は発展させて行こうという方針です。
現に今の中国は明確に文化産業・コンテンツ産業を発展させていこうと舵を取り、それに向けて動いています。
 
 
―― コンテンツ市場の規模は?
 
中国がどんどん豊かになっていく中、1人当たりの平均収入の増加と消費習慣の変化によって、この10年ぐらいで15,000元から2万元ぐらい、日本円で言うと30万円から35万円ぐらいが中国の年間の日常消費となっています。
その中でも一人当たり年間3,000元、日本円で言うと5万円程度がコンテンツ関連消費で、ゲーム、映画、動画配信、教育(オンライン配信)の割合が多くなっています。
 
 
―― 地域別は?
 
広東省、江蘇省、浙江省、上海、北京のような大都市が多く、大都市の方が文化の水準が高くなっていると言えます。また、四川料理で有名な四川省はゲーム関連のコンテンツが多くなっています。
 
 
―― 消費者のプロフィールは?
 
性別で言うと男性の方が多いです。中国はゲームの市場が大きいため、男性が多くなっていると言えます。
年齢では、コンテンツ消費が一番大きいのは95年から99年生まれの95年世代、今20歳ぐらいの若者です。若者はそれほどお金を持っているわけではありませんが、中国では“マンガは若者の読むもの”というイメージがあるので、コンテンツ市場全体も若者が多いということになります。
また、若者が多いので、職業別では学生が一番多くなります。社会人は、80年世代以降の20代~30代で、ゲームコンテンツの利用者が多いです。
 
 
―― 現在のインターネット事情は?
 
中国は非常にインターネットが普及しています。またインターネットでやれることが日本よりも多いという状況です。
中国のネットユーザー数は約7億人です。国民13億人の半分以上がインターネットを使っていることになり、これは増加傾向にあります。
 
特に特徴的なのがモバイルです。田舎の方に行くとパソコンを持っていない人が多く、スマホ、携帯だけでインターネットを使っている人が非常に多いです。現在のモバイルユーザーはインターネットユーザー全体の95%という数字が出ていますが、これはどんどん右肩上がりになっています。
インターネットを使ってモバイルでコンテンツを消費する。このような人たちが非常に多いということですね。
 
 
―― 中国のインターネット事情に欠かせないことは?
 
中国ビジネスに関わったことのある方は何となく分かるとは思いますが、「微信(WeChat)」と「新浪微博(weibo)」というツールですね。
 
「WeChat」は中国版のLINEまたはメッセンジャーの機能とFacebook のように写真を投稿する機能の2つの機能があります。「weibo」は中国版の Twitter と言われています。
 
 
―― 「WeChat」の特長は?
 
日本人はWeChatのメッセージ機能は知っていても、モーメントという投稿を共有する機能について詳しく知らない人が多いと思います。このモーメントという機能はコンテンツ業界でも多く使われている機能です。『ONE PIECE』や『NARUTO -ナルト-』も企業アカウントを取って、製作状況や映画の情報をどんどん投稿しています。そこから消費者が映画のチケットを購入できる電子マネー機能を持っているところも見逃せませんね。
 
よく報道されていますが、中国にいると財布を持ち歩かなくてもいいぐらい電子マネーが流通しています。スマホで使えるWeChatの「WeChat Pay」とアリババの出している「Alipay」という二つの電子マネーがあればどんな人でもどんな場所でも全て決済することができます。
普段の買い物はもちろん、インターネット上での買い物やコンテンツの消費も、ほとんど画面の QR コードを読み込んで終わり。非常にお金のやり取りがスムーズです。
 
WeChatは決済のシステムを持っているのでワンストップでコンテンツの管理ができるのです。中国ではこのシステムを老若男女関係なく使っていて、大きなプラットフォームとなっています。
 
 
―― 「weibo」の特長は?
 
投稿して情報を発信するには weiboが多く使われています。WeChatも香港や台湾で使われていますが、中国の方との“連絡ツール”として使っている人が多いです。
 
 
―― 中国におけるコンテンツビジネスの展開変遷について
 
私が中国ビジネスの話をする際に、「盗る」「買う」「創る」というお話をよくしています。
昔は日本のコンテンツは盗られてばかり……いわゆる海賊版だらけという時代がだいたい5年から10年ぐらい前にありました。一方的に「盗る」という海賊版時代で日本のコンテンツ関係者には一銭もお金が入ってこないという時代が続きました。
 
それが2005年から2010年あたりから、きちんと「買う」という形が出てきました。7~8年前に北京で有名な動画サイトが日本の有名な動画サイトの配信権を購入したというのが最初だと思います。
 
中国のあらゆる動画配信サイトが日本のアニメの海賊版だらけだった時代に、当時大手だった有名な動画配信サイトが日本にライセンス料を払い始めたことをきっかけに、他の動画配信サイトに警告を打つようになりました。
 
当時から中国でも著作権上、日本のアニメの海賊版を放送してはいけないはずだったのですが、中国の動画配信サイトは「どうせ日本の企業は訴えてこないだろう」と思って海賊版を配信していました。しかし当時No.1だった中国の動画配信サイトがライセンスを買い、他の動画配信サイトに警告を打ったことで、急速に正規ライセンス化が進みました。
 
この流れができたことが「盗る」から「買う」になってきたという、時代の変遷となります。そしてここ1~2年は「創る」という流れになってきています。
 
日本の IP は面白いという認識は中国の方ももっていますが、とは言え日本人向けに作られているので中国人の好みとは、少しずれています。中国の方の好みに合わせ、日本のテイストを加えながら日本人と一緒に創っていきましょうという流れになってきているのです。
 
ただ、「盗る」「買う」ということも終わったわけではなく全てが並行しているということが、今の中国のコンテンツビジネスとなっています。
 
 
―― 中国コンテンツ市場発展の歴史【黎明期(2010年前)】
 
2000年の後半くらいからインターネットがどんどん普及し、PC ゲームが中心となって映像などのコンテンツ配信が始まりました。そして海賊版が流通したことにより日本のコンテンツが人気となり広まっていきました。
 
中国のコンテンツは国の検閲が非常に厳しいため、内容や表現をなかなか自由にすることができません。ところが海賊版では、事実上の検閲の壁を突破して、どんどんと広められていきました。
 
 
―― 歴史【模索期(2010年~2015年前後)】
 
この時代はスマホの急激な普及によりモバイルゲーム、アプリが急増しました。そしてこの時期に、アプリを作る際には IP をきちんと買いましょうという流れがゲームなどで出始めました。そしてこの時代に動画の配信サイトでもIPを「買う」と言う流れが出てきました。
 
音楽配信や電子漫画などのサービスも急増してきましたが、こちらについてはまだまだ海賊版が多かった頃です。映画市場では主にハリウッド映画を中心に市場が拡大し、映画館がどんどん増えていったのもこの時期となっています。
 
 
―― 歴史【成熟期(2016年以降)】
 
2016年以降は中国企業による「創る」という部分で二次製作が盛んになってきています。そしていろいろなメディアをミックスして出していくメディアミックスがトレンドとなってきました。日本のコンテンツビジネスの発展の歴史を、中国ではここ4~5年でギュッと濃縮している感じです。
 
消費者も、いよいよ課金を受け入れるようになってきました。相変わらずいろいろな分野で海賊版は並走していますが、どんどん海賊版が見られなくなったり聴けなくなったりしてきています。今までは考えられませんでしたが、消費者も課金をしなければ「見られない・聴けない」ということで、課金を受け入れるようになってきました。
 
これは、コンテンツビジネスがきちんと成り立つようになってきたことを表しています。
 
そして、中国向けのオリジナル IP も出てきました。まだまだ IP の質は低いですが、徐々に面白いものも出始めて、海外に輸出する成功事例も増え始めています。
 
 
―― 中国コンテンツビジネスの産業構造について
 
基本的には原作がアニメ・ドラマ化されて放送、さらにそれを二次創作していくという形になっています。
 
 
「原作」
 
一見すると日本と同じですが、原作になるマンガが最近出始めたばかりという点が日本と違うところです。マンガに関しては日本に比べるとまだまだレベルが低く、中国のイケてる漫画家さんはここ最近2~3年で出てきたという感じです。
 
小説は昔から多くあり、小説ベースの素晴らしい作品もたくさんあります。今はインターネットで小説を見るという流れがあり、インターネット上で勝手に小説をアップロードして中国人同士が著作権侵害訴訟をしている事例も非常に多くなっています。
 
 
「アニメ・ドラマ」
 
中国人はアニメよりもドラマの方が好きです。アニメは日本のアニメの影響を強く受けています。また、アニメは、3Dを好む傾向が強いのが特徴です。
 
 
「放送」
 
日本と大きく違うところはインターネットでの視聴です。特に若い世代ではテレビの視聴はほとんどせず、インターネットの動画サイトで動画を見ています。
日本ではまずテレビで放送した後にインターネットで配信。その後に DVD 化される流れがありますが、中国では日本の番組のほとんどがインターネットで放送されます。これはテレビが国の検閲によって自由に外国の放送を流せないという理由もあります。
若い世代が主にインターネットで動画を見ているということと、テレビや映画が簡単に番組を流せないという二重の理由で、日本の番組放送はインターネットが主流となっています。
最近では映画の放送も増加しています。日本の映画も増えているので、ビジネスとしても増加傾向にあります。
 
 
「二次創作」
 
二次創作の部分ではゲーム市場が一番大きいです。4~5年前から日本のビックIPをベースにゲームを作っていましたが、IP の値段が高騰してきた中で、広告塔として日本のIPを購入することが重要ではなく、面白いゲームを作ることが重要だという流れが出来てきました。現在は「日本のゲームの要素を取り入れて自分たちで作る」「日本のものを参考にして中国内で作る」という状況になってきています。
 
 
「マーチャンダイジング(キャラクター商品化)」
 
昔から偽物だらけで「勝手に使う」「勝手に作る」ということがまだまだ多い分野ではありますが、ここの分野も最近はビジネスとして成り立ってきています。
 
 
―― 最近の中国IPメディアミックス事例
 
『盗墓筆記』
最近のメディアミックスで有名な時代アクションものです。これは小説から始まって、ドラマ・映画・ゲームとメディアミックスした成功事例です。
 
『十万個冷笑話』
ギャグマンガから映画・アニメ・ゲームとなりました。無料のマンガサイトの作品がメディアミックスした成功事例です。
 
『勇者大冒険』
原作はなく、計画的にマンガ・アニメ・ゲームを同時に開発して仕掛けたメディアミックスの成功事例です。

 
 

中国展開時によくあるトラブル対処法
 
中国人は全体的におおざっぱな性格のため、事前にいろいろなことを決めておきたがる日本人に対して、進めながら決めていこうとする中国人も多く、このすれ違いがトラブルの原因になり取引が中断することも少なくありません。海外のビジネスをする際は、当然、相手の市場に合わせて、相互の事情を理解して物事を進めることが重要ですが、中国との向き合いについては、日本人は日本国内でやっているように事前にすべてを細かく決めるというやり方は避けて、重要な事項とそうでない事項をメリハリをつけて事前に決めるようにし、ある程度中国流に合せていくことが重要です。
 
また中国人は、オールorナッシングの考え方を持つ人が多く、ライセンスを受けたら、何でもできるものと勘違いして、本当はライセンスしていない領域までいつの間にか勝手にやってしまっている、ということも少なくないので、日本以上に、事前に、「やれること」「やれないこと」を明確に説明し、契約書等で明記しておくことが大切です。
 
最後にコンテンツビジネスの産業構造、収益の上げ方が異なるため、これを理解しないまま、本当は中国では収益のポイントとなる点を気付かないまま、本来、シェアされるべきライセンス収益を取得し損なったりすることもあるので、この点については、事前にしっかり研究、把握して効果的に交渉することが重要です。また、中国ではまだ日本的な製作委員会というスキームは成熟しておらず、同スキームの権利関係の複雑性を嫌がる傾向が強いので、権利関係をシンプルに整理しておくと、中国側への展開をスムーズに実現しやすくなります。
 

分部 悠介氏

分部 悠介 Yusuke WAKEBE
JC FORWARD 代表取締役社長・CEO
ANIMATION FORWARD 代表取締役社長・CEO
IP FORWARD法律特許事務所 代表弁護士・弁理士

  • 東京大学在学中1999年司法試験合格、2000年同大学経済学部卒業。
     
    同年株式会社電通入社、映画・音楽・キャラクタービジネス等のコンテンツ・ビジネス実務に関与。映画についてはハリウッド映画の買い付け、日本映画の各種製作委員会への投資・参加、中国含む外国への海外権利販売対応等。音楽については新人アーティスト楽曲原盤権への投資、アーティスト育成支援、コンサートへのスポンサード支援等。キャラクターについては欧米著名キャラクターのライセンス窓口、広告への活用サポート等。その他テレビ番組のフォーマット権の中国含む外国への販売、新規ITビジネスへのファンド投資等。
     
    2003年弁護士登録。同年、日本最大級の総合企業法務弁護士事務所の長島・大野・常松法律事務所に入所し、コンテンツビジネス業務、知財法務、中国投資法務に関与。
     
    2006年から2009年まで、経済産業省模倣品対策・通商室に出向し、初代模倣対策専門官弁護士として、中国、インド、東南アジア、中近東諸国の知的財産権法制度の調査・分析、関係各国政府との協議、権利者企業からの知的財産権侵害被害に係る相談対応などを担当。
     
    2009年に渡中後、日本企業の中国における知財保護・コンテンツ展開支援をワンストップでサポートするコンサルティング・グループ「IP FORWARD」グループを創設。
     
    2016年、「IP FORWARD」のコンテンツ・ビジネス支援部門を独立させる形で、日中コンテンツビジネスを主業務とする「JC FORWARD」を設立。同年、日本の大手アニメ制作会社「旭プロダクション」と合弁で、日中共同アニメ制作を主業務とする「ANIMATION FORWARD」を設立。同年、ジェトロ上海より、日本コンテンツ企業の中国進出支援をサポートする「コンテンツ・コーディネータ」を拝命。
     
    幅広いコンテンツ・ビジネス分野において、日中間のビジネス展開、法律・知的財産保護等を中心に、攻めの面から守りの面まで、幅広いプロジェクトを手がける。


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